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番外編:Who is Demon King? その日、外は雨が降っていた。 「お前等・・・。」 カチャリと扉を開くと、そこには五人がいた。この城の持ち主である三人とその兄弟の二人。喧嘩しつつも、仲がいいらしく、結局一緒に何かやってる。 それに自分が巻き込まれなければ勝手にやっておいてくれればいいのだが、それに巻き込まれるからグレンディスは五人が揃うのを見ると眉間に皺がよる。これは日々の苦労からの条件反射のようなものだ。 何より、この五人は現魔王の最強の女、ドルフィーヌの子どもで、誰も魔王子息に歯向かうなんて愚かなことはしない。つまり、この五人がグレンディスの敵なのだが、ある意味味方であるという複雑な状況である。 部下は彼等に歯向かわないから、この五人が自分に何かやるという企みがある場合、味方は誰一人としていないといって断言できる。 だから、今回もこんなところで何を企んでいるんだと思った。しかし、少し様子が違うようであった。 「ディー様っ!」 と、いつものように飛びついてくるフェンを受け止め、よしよしといつものように頭を撫でる。そして、他の四人を見る。何か、イルドゥカ以外背後にどす黒い何かを背負っているように見え、今すぐ部屋から回れ右をして立ち去りたくなった。 だが、ふと目に入った机の上のカードの束。五人がそれぞれ一枚そのカードを持っていた。 「何をやってるんだ?」 気になってしまったら、そんな考えはすぐに飛んでいってしまった。そうやって、危機感が飛んでしまい、最後には巻き込まれてひどい目にあうのだが、少々彼も学習能力がないのかもしれない。 「母様が教えてくれたの。人数多いほうがいいからと思って、兄さん達呼んだの。えっと、魔王ゲームっていう名前なの。」 魔王ゲームって。名前はまんまじゃないか。しかも魔王って何するんだよと疑問がいくらもわいたが、黙って聞くグレンディス。 「このカード、人数分用意して、全員で一斉に裏返して何が書いてあるかわからないままにしてひくの。で、魔王のカードをひいた人が、そのほかのカードを引いた人に命令して、命令された人はそれを実行するゲームなの。」 すでに、イルドゥカとエルディーが魔王様のご命令でこき使われたあとらしい。 「結構、綺麗な絵札だな。」 と、グレンディスは束になっているカードを一枚めくって絵柄を見て感心していた。魔界自体、想像していたものよりいたって普通だと思ったところが多かったが、こういったカードもまた、エグイものじゃないんだなと思って少しほっとした。 「ディー様もやりましょ。」 座って座ってと、アルシファとエルディーが座っている長いソファの席を勧める。 しかし、ぐいっとアルシファに腕をつかまれ、バランスを崩して倒れ込み、しっかりと膝の上に座る形でしっかりと腕の中に捕獲された。 「っ?!てめっ、危ないだろ!」 しかし、にやっと笑みを見せて、彼は魔王のカードをひらひらとグレンディスに見せるだけだった。それがいったい何だと言うのだと思うと、納得のいかない命令が下されたのだった。 「魔王命令。『天秤』は私の膝の上。」 「俺はまだやってないだろう。」 「でも、カードは持ってるでしょ?」 「うっ・・・。」 確かにそうだ。しかもやろうと誘われたところだが、実際今自分は問題のカードを持っているし、アルシファは命令できる魔王だ。 手札は見られているし納得いかないが、はやく次やるよとフェンが進めてしまったため、大人しくせざるえなくなった。 「大人しくしてればいいんだろっ!さっさとやるぞ。」 もう、なるようになれ。こいつらに付き合っていたら、考えるだけ自分の頭がおかしくなると気にしないことにし、用意されたカードを全員がひいた。 「魔王様はだーれ?」 楽しそうにフェンが言う。 「あ、俺だ。」 楽しそうに、魔王のカードを全員に見えるようにした。 「エル兄―。命令は何にするの?」 「うーんそうだなぁ・・・。じゃあ、簡単な奴で。『月』が『死神』にキスで。」 「わぁー、エル兄いっちゃったね。」 さて、月と死神のカードは誰?と見渡すフェン。 今日、すごくエルディーに殺意を覚えた気がした。あとで覚えてろよときっと睨みつけるグレンディス。その視線ににまにまと笑みを浮かべ、カードをとり上げるエルディー。 「ディーが月なんだ。」 「ディー様が月―。イル兄が死神だよ。」 フェンはイルからカードを奪って見せた。 ああ、何でこうなるんだ。フェンやこの変な暴走三人よりイルドゥカだったのがまだ救いなのだろうか。 「ディー様。思い切っていっちゃって下さい。」 この日ばかりは可愛い無邪気な笑みも、悪魔の笑みにしか見えなかった。実際彼女は悪魔なのだが、もう彼の中では悪魔と認識されていないのかもしれないけれど。 しょうがないと、立ち上がろうとしたグレンディス。しかし、がっちりと腰にまきついている腕が離れない。 「アルシファ・・・離せ。」 名前を呼ばれ、うっと少しうれしさと突然のことで戸惑いながらも、離す気配のないアルシファ。 「アルだけ名前呼ばれてずるいっ!」 「うっさい。黙ってろバカその2」 「何で俺は呼び名がバカのままなんだよっ!」 「お前がバカな命令するからだろうがっ!それぐらいわかれっ!」 ぺしっと伸ばしてきた手を振り払い、アルシファに視線を向き直す。 「隣になら戻ってやる。どのみち、そこしか空いてないからな。」 「・・・。」 フェンにはやくと急かされたこともあり、腕を離してくれたアルシファ。何か言いたげな顔のまま、じっと黙ってグレンディスの顔を見つめたまま。 そんなアルシファにため息をこぼしながら、考える。口にとは言われなかったのだから、頬でもいいだろうと考えながら、ぐいっとイルドゥカの顎をつかみ、頬にキスをした。 「これでいいだろっ!」 顔を少し赤くしながら叫び、ふいっとすぐにそっぽ向くグレンディス。しかし、ボンッと空気が抜けたゴム風船のような音がし、イルドゥカがいた場所には黒い兎がいた。 「イル・・・。」 彼等は人の姿以外に動物の姿になることもできる。イルドゥカは黒い兎に姿を変えられる。もちろん、2メートルもあるような大きな兎ともいえないようなものにもなれる。 ここにいるのはいたって普通サイズの兎。少し大きいかもしれないが。 いったい何がどうしてこうなったんだとさすがに少しうろたえるグレンディス。 その時、彼の隣に座っていたシーラスカがケタケタ笑った。 「さすが引き篭もり。刺激が強すぎたってか?」 「うるさい。黙っておれ!」 うぅー!と牙のように尖った白い歯をむき出しにし、毛を逆立てて警戒するイルドゥカである兎。 まだちょっかいをかけようとするシーラスカに見かねて、ひょいっとグレンディスはイルドゥカを抱き上げた。 イルドゥカは突然の浮遊感に驚きながらも、事態を悟り、暴れず大人しくする。 「別にいいじゃねぇか。俺は兎好きだからな。木の上から落ちてくる蛇よりは断然ましだ。」 先日の騒動のことも含めて言われ、少々ショックを受けるシーラスカ。 グレンディスは気にせず、兎を抱いたままアルシファの隣に座った。もちろん、兎はそのままグレンディスの膝の上である。 「ディー・・・。」 「何だよ。文句なら命令した『魔王様』に言え。」 「・・・。」 向ける怒りの矛先がなく、じっとエルディーを見る。さすがにエルディーも苦笑していた。 こうなるとは思わなかったからだ。 「じゃあ、どんどんいっちゃおー。」 と、フェンだけやたら張り切って次のゲームが始まるのだった。 「次の魔王様はだーれーって聞こうと思ったけど、私なんだな、これが。」 何にしよーと、楽しそうなフェン。 「じゃあ、『星』に命令しまーす。ソーダ水を人数分厨房から持ってきて配って下さい。」 喉がか沸いたからと言うフェンに、またパシリかと思うアルシファとエルディー。哀れにも、これにあたったのはシーラスカだった。 「まぁ、いいさ。フェン、君のためなら何だってするからね。」 周囲に無駄に花というかオーラを撒き散らして部屋を去っていったシーラスカ。相変わらずだなとグレンディスは思いながら、膝の上の兎を撫でたり、指で絡ませたりして構う。 それを見て、気に入らないアルシファとエルディー。すでに心地よく寝そうなイルドゥカをぎっと睨むが、効果はない。 「はい、女王様。」 戻ってきたシーラスカは、すっとフェンにグラスを渡す。 「ありがと。」 「いえいえ。ご命令とあらば、何でもするのが私の役目。」 これこそ、最高の幸せだとか何とかひとしきり暴走した後、残りの四人分のソーダ水もテーブルに並べた。 全員、それを飲む。しかし、グレンディスはソーダ水を飲んだことがなく、不思議な味がするなと思いながらそれをちびちび飲んでいた。 「じゃあ、次やるわよー。」 混ぜたカードを全員が引く。 「私ですね。」 今度の魔王はアルシファだった。 「では、『太陽』と私がキス・・・これだけでは面白くないですし、『好き』といってもらいましょうか。」 太陽が誰なのか、何となく予想がついている。 「・・・お前、絶対、わかってるだろ?」 「そんなことはありませんよ?何となくそんな気がしただけです。」 誰から仕掛けるとは命令していない。つい、グレンディスの唇を塞ぐ。イルドゥカのように頬で終わらせたら面白くないからだ。 逃げようとするグレンディスの頭をしっかりと押さえ、開いた口に無理やり侵入し、舌をからめとる。 「んっ・・・あ・・・っ。」 数分、深くむさぼり、少し満足したアルシファはグレンディスを開放する。 「ディー。あと私に言う言葉は?」 言わないと、ペナルティーで何か増やしますよーといえば、下を向いたまま、小さな声でその言葉は紡がれた。 「聞こえませんよ?」 「・・・っ・・・バカっ!好き!」 うぅーっと唸りながら、はっきりと言い切り、ぎゅっと兎を抱きしめる。背中のふさふさした毛に顔をうずくめて、赤くなる顔を隠す。 「アル兄・・・やりすぎっ!」 もうっと怒るフェン。シーラスカも混ぜろと言うし、エルディーは俺だけあまり良い事起こってないと文句を言うし、イルドゥカはいい加減にしろよと言う。 「何とでもいいなさい。ディーは私のものです。」 がばっと抱きついてくる腕。それがアルシファのものだと気付いた時には、大分意識がふわふわしていた。 「ディーは俺のでもあるんだぞ。」 「ディー様は私の大切な人だからダメ!」 「俺だってそいつのこと気に入ってるんだから独り占めするなよ。」 「貴方はフェンが好きなのでしょう?」 「フェンとはまた別だ。」 そんなやり取りをどこかぼんやりと聞いていた。 さっきの好きという言葉を言ってから、だんだんと顔が火照り、意識がふわふわし、何故だろうとグレンディスは考えていた。だから、途中からかなり物騒な発言が飛び交っていたが聞いていなかった。 しかし、雑音のように、耳に音は届く。 「・・・・・・。」 「ん?どうかしました?」 言い合いをしていても、グレンディスの声には目ざとく反応するアルシファ達。 「うるさい。お前等どっか行け。」 かなり目が据わっていて、さすがに何がどうなっているのかわからず、あたふたする。 「お前等がどっかいかねぇなら、俺がでてくっ!」 ばっと立ち上がり、兎を抱きかかえたまま、部屋を出ようと歩き出す。理由はわからないが怒らせたのだと思い、あわてて機嫌をとろうと追いかける4人。その時、グレンディスの様子がおかしいのに気付くのだった。 「あの、ディー?どうかしましたか?」 ぎゅっと兎を抱きしめて見たことがないほど可愛く笑う。グレンディスもこんな風に笑えるのだと思うと同時に、何故急に?!という疑問が沸き起こる。 「何だよ、お前等?」 むぅっとむくれるグレンディス。明らかにさっきまで様子が違う。本当に何があったんだとあたふたする4人。 「今日は〜イルと一緒に寝る〜。」 なっと、ぎゅっと抱きしめた兎を連れてなにやら鼻歌を歌いながら、部屋に戻っていくグレンディス。完全に変だと認識したと同時に、イルドゥカと一緒に寝るとはどういうことだとアルシファとエルディーはすぐさま止めに入る。 「何だよ。俺はもう寝るのー。邪魔するなー。」 兎を放さず抵抗するグレンディスを捕獲する二人。 「イルと一緒に寝るのは許しませんよ。」 「何でだよ。俺が誰と一緒に寝ようが関係ないだろー。」 バカーと言われ、暴れるグレンディスを取り押さえながら、自分達も一緒に寝たいから二人だけはダメですと言えば、しばらく考えて出した答えに驚く二人。 「何だよ、お前等も一緒がいいのか?じゃあ、一緒に寝る。アルとエルも行くぞー。」 ルンルンと何か楽しそうなグレンディス。まさか、一緒に寝るというお許しが出るなんて思わなかったため、あれはいったい誰だとなにやらショックを受ける二人。 何度言っても聞いてもらえなかった要望が急に通った。本当に何故なんだ。 「ちょっと、兄様達!そんなところで固まってないでよ。」 ディー様がもう部屋にいっちゃったわよといわれ、慌てて追いかける二人。もちろん、面白そうなのでフェンとシーラスカも追いかける。 「ディー?」 「はやくこいよ。」 ベッドの上に座っているグレンディスはにっこり笑みを浮かべて誘う。まるで夢をみているようだなと思いながら二人は近づく。すると、ぐいっとつかまれた腕。バランスを崩して膝をつく。 「・・・お前等でかい。小さくなれ。」 「小さく、ですか?」 ちらりとイルドゥカを見て、少し考えた二人はお互いの顔を見てすっと姿を変えた。 「お前等はどうするんだ?」 フェンとシーラスカもお互いを見て、グレンディスに近づいた。 「お前は小さい蛇な。大きいのはいらん。」 「姫のわがままに付き合いましょうかね。」 黒い蛇はくるなと威嚇する黒い鳥を無視してグレンディスに近づく。 「おいで。」 両手を伸ばして誘う。フェンは蝶になれとは言われなかったので、そのまま飛びついた。 その日、男と女と鳥と獣と兎と蛇は仲良く一つの布団で一夜を明かす。右手はフェン、左手はアルシファとエルディー、おなかの上には兎と蛇。 カードもソーダ水を入れたままのグラスも片付けていない。だけど、自分達が大切にしている『お姫様』のご命令とお許しが出たのなら、それに従う方が優先される。 とりあえず、それぞれ楽しい夢を見ながら朝を迎えるのだった。 次の日。目を覚ましたグレンディスは顔が真っ青だった。 いったい何がどうなってこういった状況におちいっているのか、まったくわからなかったからだ。 とりあえず、獣が4匹。そしてフェン。しかもここは自分にと用意された、最近すっかり慣れてしまった部屋。 「何があったんだ・・・。」 たぶん、鳥とか獣とか蛇とか兎とか。こいつらがこんなんだから襲われたことはないだろう。たぶん。自分は服を着ているし、フェンも服を着ている。 なら、いったいこれは何なんだ?!とあたふたいろいろ考えるグレンディスに目を覚ましたイルドゥカがおはようと声をかけてきて、びくっと反応する。 「どうした?」 「俺、昨日何かやらかしたのか?」 「・・・覚えておらんのか?」 「バカその3が命令でソーダ水とりにいって、戻ってきたあたりまでは覚えてる。」 「・・・何があったんだ?」 「それは俺が知りたい。」 確か、ソーダ水を飲んでから少し意識がふわふわするなと思ったといえば、ふむと少し考える兎。 「・・・お酒には弱いか?」 「弱いとか強いとか以前に、飲むことを禁止されてるから飲んだことない。」 「・・・。ソーダ水は?」 「あれもない。飲めなくない。ただ、ほわほわするなとは思った。」 「・・・アルコールがないのに酔っ払ったということか。」 そういわれ、ぴしっと固まるグレンディス。 「え、そんな馬鹿な?!えぇー!」 グレンディスの叫び声を聞いて、全員が起床するのだった。
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