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この先から、もう未知の世界が続いている。覚悟を決めなければいけない。 そんな思いから一歩を踏み出す青年より先に、あっさりと進む青年にぎょっとしながらすぐに慌てて追いかける。 そんな二人の青年の後を、恐る恐るでありながらも、女も追いかける。 「ここから何が起こるかわからない場所なんだぞ!もっと慎重に・・・な、化け物っ!」 青年は、どんどん機嫌よく鼻歌を謡いながら進む青年の肩を掴んで怒鳴るように言おうとしたが、最後まで言う前に視界に入ってきた大きな獣に驚いて青年から手を離して飛びのいた。 「口ではうるさいくせに、これぐらい自分でどーにかしろよ。だから雑魚なんだ。」 青年は獣に怯む様子もなく、獣の首を掴み、持ち上げて遠くへ投げ捨てた。 ゴキッという鈍い音がしていたから、首の骨に異常をきたしているであろうその獣はあっけなく彼等三人の視界から消えてなくなった。 「まだこの辺は雑魚ばっかってことか。おもんねぇ。」 怯えるように青年を見る女と獣以上にその置き楽な青年に対して恐怖を覚える青年は、何も言わず彼の後に続いた。 何度も、あれが神の定めた『勇者』でなければ、同行を教会に命じられても絶対に来なかったのに、と思いながら。 「うーん。だんだん、神の気が近くなってきた。ってことは、そろそろ会えるってわけか?お前等も会いたいんだろ?大事な『神父さん』って奴に。」 どんな奴か楽しみだと楽しそうにする青年に、ただ二人は黙ってついていくのだった。 悪魔に好かれた神父7 部屋に入り、全体の明りを消し、ベッドサイドの小さなランプだけの明りだけにし、布団の上に座った。 「お前も座れば?」 「・・・。」 静かに黙ったまま、アルシファがグレンディスの側に腰掛けた。 「それで、話、とは?」 「さっきの続き。それともう一つの名前の件だ。」 「・・・。」 「カルタルトは天界人でも、神に近い者が名乗る名だ。そして、ベルティックとは魔界でも魔王に近い者が名乗る名だ。つまり、神の子と神の兄弟がカルタルトで魔王の子と魔王の兄弟がベルディックだ。それはお前もわかってるだろ?そして、ヴィフェアレーテは失われた言葉だ。それも、天界でのかつての神語だ。今じゃ知る者はほとんどいない。それを知っているということで、大体わかるとは思うが。」 「身近に、いたんですか?」 「今はもういない。けど、名前ぐらい知っているだろう?『ウィルミア・リュセファン・カルタルト』という名の神の娘のこと。」 「・・・フルネームは知りませんでしたけどね。」 当たり前だ。神も敵である魔界の者に名前を知られてはいけないのだから。つまり、カルタルトは神を指す名前であり、それ以外を知ることは不可能に近いのだ。 だからこそ、神の娘と呼ぶか、第二子であることを示す言葉をつけ、カルタルト・セートと天界でも魔界でも呼ばれていたのだから。 それは、魔王にも言えることで、ベルディックという名で後継者のアルシファ達も統一されるのだ。番号である言葉を続けて。 「俺にはウィルミア・カルタルトと名乗っていた。」 「もしかして、名づけ親という奴ですか?」 「まぁ、そういうところだな。これで、納得したか?カルタルトを名乗ることともう一つ名前があること。」 「・・・まだ納得できないこともありますが。」 「何が納得できない?」 「魔界でも、神の娘のことは知られていた。突如姿を消したことも、亡くなったという事実も情報としてあった。けれど、魔界の者にとって、空白の期間があります。どこで何をしていたのか、誰も知らない。天界の者なら知っているのかもしれませんが。ディーはその間に彼女と会った人間だということですか?」 「お前が俺と神の娘との繋がりを知らないのなら、そういうことになるな。」 「そう、ですか。では、血の繋がりはないんですか?」 「それについては何も言えない。けれど、天界が俺を放っておくつもりがないのなら、何らかの接触をしてくるだろう。そうしたら、嫌でも知る事になる。だが、俺からはあまり言いたくはない。」 「話したくないのなら今は聞きません。」 「そうしてくれるとありがたい。俺も、まだはっきりと本当のことか、これは違うのか、わかっていないところもあるから。」 そう、まだわからないのだ。自覚がないだけなのかもしれないが。わからないことが多すぎるのだ。 何も知らないまま、人間としてグレンディスは生きてきたのだから。 父の祖先がかつての魔王後継者の一人で、母親が神の娘と呼ばれ天界で愛されてきた者である事実を知っても、もう一つの名前を覚えていても、人として育ってきたグレンディスは人以外の何者でもない。そう思っていた。 それが突然違うと知っても、整理ができないのだ。 自分でも整理できていないことを、他者に説明はできない。余計な誤解を招く事態になりかねないからだ。 けれど、ぎりぎりまで話したくないことが一つある。 人でありたいと思うからこそ、話せない。母が神の娘であるのだから、濃く流れる天界人の血が、グレンディスの体に大きな影響を与えていること。つまり、天界人としての証がグレンディスの背にもある。 だが、それは母によって封じられている。 人として暮らせるように、封じられているのだ。 その封印をグレンディスは解けない。できるのは神に近い天界の者だけ。つまり、天界でのその身を共に相手に捧げるような相棒となる相手が紡ぐ神の言葉だけ。 だから、もしその証が開放された時、アルシファ達にダメージを与えかねないという危険をかかえている。だからこそ、名づけ親とごまかし、産みの母親であることを言わなかった。 「神の娘のこと。さっきも言ったが、神が放っておくつもりがないのなら、向こうから何らかの接触を持ってくるだろう。その時になれば、お前も知ることになる。その時、どうしたいかはお前の自由だ、アル。」 「どういうことですか?」 「俺を生かすか殺すか。それとも、他にどうするか。」 「それは・・・。」 「だが、俺と言う存在は魔王後継者として一番近い位置にいるお前には危険な存在だ。反対に、その地位を確固たるものにする為に利用できることもあるかもしれない。それを選ぶのはお前だ。」 この契約は人であるグレンディスにとっては、アルシファの方が有利なものなのだから。 今この場で名前を支配している側なのだから。 「俺はお前のこと、それ程嫌ってない。まぁ、救いようのない『馬鹿』だがな。」 「・・・。」 「俺は一人だった。そんな俺にとって、お前等は大切なものの一つになりかけている。不本意だがな。思い切り、不本意な話だけどな!」 これ以上言わせるなと言わんばかりに、そっぽ向いて寝る支度を始めるグレンディス。 「お前等と一緒にいる時間は退屈しないし楽しいから結構好きだ。・・・話は終わりだ。お前も今日は自分の部屋に行け。」 「・・・嫌です。」 「あいつ等だって大人しくしてるのにわがまま言ってんじゃねーよ。」 「彼等が一緒ならいいんですか。」 「そういうことを言ってるわけじゃない。」 「なら、何だというんですか。」 「・・・ったく、お前だけ特別扱いだって、最近馬鹿その2がうるさいんだよ。」 「たまにエルのことも名前で呼ぶようになったじゃないですか。」 「だが、これ以上お前を特別扱いするつもりはない。」 「いいじゃないですか。フェンに対する扱いも特別ですし。」 「フェンは別だ。何故男に優しくしなきゃなんねーんだ。女性には優しくとは育て親に言われたがな。」 シーラスカはエルディー以上にまだ扱いが酷いが、アルシファは一切ふれなかった。 「何もしませんから、いいでしょう?」 「・・・。」 「本当、手は出しませんから・・・駄目、ですか?」 「・・・馬鹿。」 「・・・。」 「馬鹿だろう、お前。間違いなく馬鹿だ。」 「・・・ディー、あまり言うと容赦しませんよ。」 「手を出したらその時点で部屋から追い出してやる。それか、助けを呼んでフェンに退室するように頼む。」 「・・・。」 「・・・ふぅ、ったく、馬鹿には付き合いきれんが、今日だけだからな。俺は眠いんだからな。邪魔するなよ。あと、その姿は邪魔だ。」 一拍考え、鳥の姿となり側にすりよるアルシファ。 「俺としては、さわり心地のいいイルかエルの方がいいんだがな。」 「・・・私ももこもこだったらいいんですか。」 鳥の姿では、あまり表情がわからないが、きっと不満そうな顔をしていることだろう。 「つるつるより俺はもこもこの方が好きだからな。」 「・・・。」 「だが、たまにはいい。それに、少しばかりふわふわしてるからな。・・・あと、じっとしてろよ。」 今日はいろいろあって、まだ全て話していないが、一部自分のことを話して、何だか疲れた。 アルシファも大人しくしている為、グレンディスはすぐに眠りの世界へと旅立つのだった。 朝目が覚めれば、まだ眠っているアルシファの姿が視界に入った。 「戻ってやがる。」 手は出してこなかったからいいが、姿は元に戻っていた。 「気を抜きすぎだ。」 敵になるつもりはない。害をなさない限り。だが、決して味方であることはできないのだから、もっと警戒心を持つべきだと思うのだ。 本当、厄介な連中に捕まってしまったものだ。 母のことを考えると、天界の者達にも自分の事を知られるわけにもいかない。かといって、魔界にいるわけにもいかない。 人として、人の住む中で生きて死ぬのが一番良かったが、そうも言っていられないかもしれない。 グレンディスは布団から出て、カーテンを開けた。日の光が部屋の中を明るくしても、ベッドの付近にはあまり光が差さないからか、アルシファが目を覚ます気配はなかった。 「このまま何も起こらなければいいが・・・。」 けれど、母の死を神は知っている。それが悪魔によるものだということもだ。そして、教会には古くから神のお告げにより導かれ、現れる勇者が存在すると言われている。 何を馬鹿なことをと笑ってしまいがちだが、嘘ではない。実際、神の代行として人でありながら天界人と同じような力を持ち、魔を払う者として人の世で君臨する救世主だ。 予言ではその現れるという月は過ぎている。つまり、この世のどこかに神が人々への希望として送り出した勇者がいるはずなのだ。 勇者が生まれると言われた予言の日からもうすぐで20年が経つ。つまり、20歳になっているということだ。そろそろ勇者が動き出しても可笑しくない月日が経っている。 その中で、グレンディスが魔界にいるという事実。 神はグレンディスの存在を魔界に置いたままにするつもりはないだろう。 あまりにも、強い力を宿して生まれ、神の娘と呼ばれた母の子なのだから。 天界に行く気はないし、もう人の世でも居場所はない。魔界でも居場所があるか怪しいところだが、行き場がないのならなるようにここにいた方がましだと思っている。 だからこそ、ふと勇者の存在が頭に警告するように過ぎるのだ。あの者だけは、魔界であっても気に当てられず、実力以上の力を発揮できるように神によって『つくられたもの』だから。 そして、勇者はグレンディスと対となる相棒以外でこの身の封印を解くことが可能な者だ。 そうなると、いろいろ面倒なことになりかねない。 「近いうちに、ここを離れる必要があるかもしれないな・・・。」 「何故、離れる必要があるんです?」 いつの間にか目を覚ましていたらしいアルシファが、窓の外を見ていたグレンディスのすぐ背後に立ち、怒ったような気を隠しもせずにいた。 「いつから。」 「今さきほど。」 「そうか。」 「それで、何故離れるんですか。」 厄介なところを聞かれたものだ。そして、気付かない自分も馬鹿だ。 「ただの独り言だ。」 「・・・いなくなるつもりですか?」 「さぁな。」 肩をつかまれ、アルシファの方を向けさせられる。かなり怒っている様子から、逃げられそうにないなと悟り、どうしたものかと考える。 「勝手にいなくなることは、許しませんから。」 「あのなぁ・・・許す許さないの問題じゃないだろ、それは。人権の無視か?」 「なら、何故今更そんなことをいうんです?」 昨日の話で、もう一つ名前があるという時点で、いつでも出て行けたはずなのに、ここにいるのはいてもいいと思っていたのではないのか。 一目見た時から手に入れると決めていた。簡単ではないことぐらい、相手の力量を思えばわかっている。 けれど、その上で契約という不利な状況のままでいたのではないのか。少しは近くなれた気がしていたのに。 「痛い。離せ。」 「嫌です。」 「たく、俺は以前のようにまた無駄な怪我をしたくはない。」 「・・・。」 「・・・お前等が嫌いになって出て行くわけじゃない。ただ、戻ってきてもいいというのなら戻ってくるということ前提で、『やらないといけないこと』の為にしばらくここから離れるべきだと思っているだけだ。」 離せと振り払えば、今度はアルシファは手を離した。 「やらなくてはいけないこととは、何なんです?」 「別に何でもいいだろ。」 「よくありません。」 「・・・。」 本当に仕方のない奴だ。 「お前なら、勇者という存在のこと、知ってるよな?」 「ええ。・・・その勇者が何か?」 「勇者は神がつかわした人間にとっての救世主。魔王に立ちはだかる唯一の存在。」 「それは知ってますが、それとディーに何の関係があるというんです?」 「あるだろ。昨日も話した。・・・カルタルトの名を俺が持つ以上、殺しはしないだろう。たとえ魔族との契約があろうとも。だが、無傷ではないだろう。噂で、今回の勇者は『まともじゃない』らしいからな。」 そう言えばとアルシファを記憶の中から探す。以前報告できいたことを。 「確か、町を壊滅状態に陥らせた原因とか。」 「ああ。まだ、教会は勇者の存在を把握してはいない。俺がいた時、だがな。しかし、勇者がこの世に生まれると予言されてもう20年。そろそろ勇者も動くだろう。そうなると、俺は天界に連れ戻される可能性もある。カルタルトの名前を名乗ってるからな。」 グレンディスとしては天界に興味はないし行きたいとも思わないので、どちらかというとそっとしておいて欲しいが、それは神が許さないだろう。 神は、一つでも魔王に対抗する為の術を欲している。 カルタルトの名がなかったとしても、どっちみち神具を所持している時点で接触はしてくるだろうが。 「俺は、お前等の足手まといになるつもりはないからな。邪魔したくない。これでも、夜に手を出されるということを覗いては、お前等のことを結構気に入っているからな。」 簡単に決着はつかないということはわかっている。アルシファだって、見た目とは違い、人とは違う長い年月を生きてきているのだから、そう簡単に死にはしないことはわかっている。何より、簡単に決着がつくようであれば、これだけ長い間、天界と魔界が争いあうようなことはないのだから。 「とにかく、この話はこれで終わりだ。これ以上話すことはない。まずは朝食だ。」 「しかし・・・。」 「今はあとだ。お呼び出しをしに来たみたいだからな。」 その言葉の直後に扉をノックする音が部屋に響いた。 「少し、気を抜きすぎじゃないか?」 扉が開き、入ってきたフェン。もちろん、アルシファが部屋にいたことに少しばかりご立腹だが、すぐに朝食だから来てねと出て行った。 朝食後は、皆用事があるようで、バラバラに出かけていった。一応、やるべき仕事はやっていたんだなと思うグレンディス。 イルドゥカは一度家に戻り、魔王に提出する依頼されていた調査の報告書をとりにいき、シーラスカは人の世に紛れ込んだ魔界の宝石を回収する為に出かけ、エルディーは魔王に歯向かう反抗勢力の調査とできるのなら壊滅の仕事をしに行った。 フェンは魔族の子どもの子守に呼ばれ、出かけていった。 そして、グレンディスは強制的にアルシファに連れ出され、小さな古びた建物の前まで来ていた。 どこだと聞けば、フェンの用事と似たようなものだという返事と共に、中から様子を見ていたいくつもの気配が外へ出てきた。 「ディーのいたところでも、教会で親のない子どもを預かったりしてたでしょう?そんな感じのとこですよ、ここ。魔界でもまた、親のいない子どもや力が弱い為に生きていくのが困難な者達がいるんですよ。そういった者達が、ここやフェンが向かった場所へ集まるんです。」 簡単に説明し、アルシファは子どもを適当に構いながら前に進み、ここの管理をしているのであろう、魔族の女の前で足を止めた。 「こんにちは。珍しいですね、セート様。ご兄弟以外の誰かを連れて来られるなんて。」 セート。それは第二子を指す名だ。ベルディックを名乗らない者達はほぼ全員そう呼ぶ。彼等はあの城の外で誰かに名前を呼ばれることはないのだ。それが、ベルディックを名乗る者の背負うもの。 何より、忘れていたが、魔王後継に一番近いとされているが、あくまでアルシファは第二子なのだ。だから、母と同じセートと呼ばれる。 「彼のことはディルクと呼んで下さい。いろいろややこしい問題をかかえてますので。」 「ディルク、ですか?」 「はい。今はそれ以外に呼び名が思いつきませんので。」 「何勝手なこといってやがる!」 勝手に進められる会話に口を挟む。ディルクとは第六子のことだ。確かに名前を明かすわけにはいかないが、アルシファ達より年下とは言え、弟になった覚えはない。 「あの城に住んでますし、魔王に好かれてるんですから問題ありませんよ。」 「だからって・・・。」 そんな二人のやり取りに、驚きながらも笑みを浮かべる女。普通、アルシファにこれだけ反抗的な態度を取る部外者はいないだろう。そんなことをしたら、即刻処刑される。それだけ、アルシファの力はここでは強いのだ。 あまりにも普段が普段なので忘れてしまいがちだが、次の魔王後継に一番近い、つまり次の魔王と言っても過言ではない相手なのだ。 「仲がよろしいんですね。少し、安心しました。」 女の言葉に、はっと思い出す。忘れてはいけないのだがここには他にも人がいるのだ。 「いつもつまらなそうにしておられたので・・・これからもセート様のことをお願いしますね、ディルク様。セート様には本当にいつもお世話になっているのに、私たちは何もしてさしあげることができないので・・・。」 少し、寂しそうに女は言った。 一緒に生活をしてきて、確かに滅茶苦茶なところはあるが、悪い奴ではないことはすでにわかっている。しかも、この場所の者達にとっては、強大な力を持つアルシファの存在は絶対であると同時に、助けてくれる頼もしい存在なのだろう。 何だかんだといって、フェンやエルディーに対しての行動を見ていると一応お兄ちゃんをやってるみたいだから。 だからこそ、『力』は持たずとも、何かしてあげたいと思うのだろう。 「様という敬称はつけなくて構いません。なれないので。それに、私のことはディルクではなくレンディーとお呼び下さい。」 決して、魔王の第六子ではないのだから。 「わかりました、レンディー。私はリリアータと申します。今日はお会いできてうれしいですわ。」 「こちらこそ。」 向けられる笑顔に笑顔で答えた。その横で、少しばかり蚊帳の外のような状態で不満を持ってる男がいるが、無視することにする。 「ディー・・・。」 「昔の呼び名だ。ある意味俺の名前の愛称みたいなものかもしれんし、問題ないだろ。」 そう言って、これ以上言わさない。 まだ不満そうだが、本名ではないので諦めたのだろう。何も言ってこなかった。 リリアータの後に続き、建物の中に入ったアルシファとグレンディス。 「で、結局お前はここへ何しに来たんだ?」 はっきり言って、アルシファには似合わない場所だ。そもそも、ここへ何の用があって来たというのか。まったく謎でしかない。 魔界の乱れを抑えるために活動することは必要だが、アルシファが子どもの面倒を見ると言うのが、あまりにも想像できないのだ。確かに、度の越えたシスコンではあるが。 間違いなく、他人には無関心というか、興味を持たないような気がするのだ。面倒見はよさそうだとしても、彼等にとっては助けでもアルシファにとっては何てことないことの一つのように思えるのだ。 「毎月、状況報告を聞くために来てるんですよ。こういった場所は、反抗勢力の犠牲になりやすいですから。」 「成る程。で、お前自ら来るってわけか。」 「彼女が城へ来ては、その間はここを見守る者がいなくなりますから。それで、先月はどうでしたか?」 「ええ。変わりはありません。一人、ワーデルカ様のお屋敷に引き取られ、二人程新しくここへ仲間入りしましたわ。それ以外はいつもと変わらない毎日を過ごさせていただいてます。」 「そうですか。」 引き取られた子どもと新たにここへ来た子どものデータに目を通し、持っていた鞄の中にそれをしまった。 ただ、それだけのはずだった。 「・・・っ、まさか。」 はっと、気付いた気配。グレンディスは勢いよく椅子から立ち上がり、窓の外を睨むように見た。 外では元気に遊ぶ魔族の子ども達がいて、それ以外に変化はないように思えた。 「ディー?どうかしましたか。」 「おい、外にいる奴等全員中に入れて、しばらく外に出るな。」 「ディー?」 扉を開け、外にいる奴等に聞こえるように大きな声で今すぐ中に入れと叫ぶ。どうしたのかとこちらを見ているだけで動こうとしない子どもに、苛立ちながらリリアータにも言う。 「死にたくなければ、中で大人しくしていろ。あと、お前等の場合、あの女を困らせたり泣かせたりしたくなかったら、大人しく中で静かにしてろ。」 さすがに、リリアータも弱い魔族ではないし、アルシファも気付いた。 「何故・・・セート様っ!」 「リリアータは子ども達をはやく中へ。」 「あ、はい。皆、急いで中に入って。危険な人が近くまで来ているようなの。」 慌てだす二人の姿に、子ども達も現状が理解できていないが動き出した。 「ここでそいつらの子守でもしてろ、アル。」 「ディーはどこへ?」 「どうせ、奴等の目的は俺だ。俺がここにいたら迷惑でしかないだろ。」 そう言って、アルシファの返事を待たずに走り出した。 「すいません。彼は放っておくと無茶しかねないので、追います。絶対に、ここから出ないで下さい。問題がなくなり次第、連絡しますので。」 軽く頭を下げ、アルシファもグレンディスの後を追いかけた。 「いってらっしゃいませ。・・・さて、皆は静かに部屋の中にいましょうね。退屈かもしれないけれど。」 「はーい。」 元気な返事を聞き、リリアータは子どもの人数を数え、建物の扉を閉じた。 ピタっと、急に足を止めた。 「どうしたんだ?」 「どうやら、向こうからきてくれたみたいだぜ?」 首だけで後ろを向き、不気味な笑みを浮かべながら、男は答えた。 「何が・・・。」 「凡人じゃわかんないわけか。別にいいけどな。探してる神父さんって奴がこっちへ来てるみたいだって話だ。わかる?」 「なっ、どういうことだ?!」 「そりゃ、気付いたからこっちへ来たんでしょ?馬鹿?」 相手の実力を考えれば、気付かない方がおかしいのかもしれない。だが、この男に言われるのはなんだか癪である。 「ほら、いた。」 楽しそうに男は前方に立っている人影を見て言った。 「はじめまして、かな。神父さん。」 「出来れば会いたくありませんでしたよ、ゲーテミルモール。」 「俺さ、その呼び方嫌いなんだ。」 「それは知らなくてすいませんでした。けれど、その名以外で貴方を指す名前を知りませんから。」 人の世にいた時と同じ、偽った笑みで言葉を返すグレンディス。そして、少しだけ視線を後ろの二人に向け、内心では厄介なことになりそうだと思っていた。 「とりあえず、『カミサマ』からのお願いをそのまま言うけどさ、天界に戻ってくんない?」 「お断りします。」 「それって、魔界が気に入ったわけ?」 「違います。天界のやり方が気に入らないだけです。」 「ありゃま。神父さんの割にはカミサマの言うこと聞かないなんて、変な神父さんだね。」 「何とでもどうぞ。では、用件がお済みでしたら、お帰りいただけますか?」 はやくしないと、アルシファもこちらへ来ているし、この男も厄介だ。 「それはできねー話ってやつだ、神父さん。」 笑みが崩れ、一歩、また一歩とグレンディスの方へと足を進めてくる。 「では、強制的にお帰りいただくことにします。後ろにいるレイラさんとヴィエラさんには、これ以上ここにいると身体に異常をきたしかねませんから。」 どれだけ、魔界に彼等がいたのかはわからない。けれど、人の身である彼等二人には、魔界の空気は身体に毒でしかない。はやくしないと、気付かない間に魔に堕ちるかもしれない。 グレンディスは神具を取り出し、構えた。 だが、それよりもはやく、近づいてきた相手が肩を掴み、耳元で囁いた。 「『その身を縛り、心を縛る鎖を解き放て。』逃がすつもりはないからさ、観念してよ。」 じゃらっと鎖が擦れ動く音と共に、身体に巻きつき、動きを封じられる。そして、身体に走る痛みに声をあげそうになるのを必死に堪えた。 「へぇ。結構我慢強いんだね。」 そう言って、男はグレンディスの足元を引っ掛け、バランスを崩させた。そのせいで膝をつき、見下ろされるという体制になった。 「最悪だ、な。」 ちょうど、アルシファがこの場にやってきた。 そして、グレンディスの背中に、大きく開いた白い花のように、純白の翼があらわれた。 「聞いてた以上に綺麗なのもってるじゃん。」 神経通ってる?へし折ったら痛い?と、そんなことをわざとらしく聞いてくる。 「ディー、それは・・・。」 「んー、何か邪魔なのも来たし、お前等、片付けてよ。」 「無理です、あれは・・・あれはベルティックの名を持つ魔族なんですよ!」 「ん?ベルティック?」 二人は知っていた。グレンディスをさらったのが何者であるのか。知っている街の者に問いただしたのだ。 つまり、彼と共にいるということは、ここに現れた魔族こそ、ベルティックの名を持つ魔族。 それに、自分達でもわかるぐらい大きな魔力に、格の差を思い知らされる。適うはずがないのだ。 「しょうがないな。雑魚相手も飽きてきたとこだし、アンタでいいや。殺してやるよ、悪魔。」 「えらく口が悪い・・・よくそれでゲーテミルモールの名を得られたものです。」 「俺が選んだ名前じゃねーからな。俺に言われてもどうしようもねーしな。文句あるんならカミサマにでも言ってきたら?」 悪魔殺して神父さん取り返して、仕事はしばらくお休みになれそうだし。そんな言葉が続き、さすがのアルシファも殺意が芽生える。 甘くみられたものだ、と。 「おい、こんなとこで騒ぎ起こすんじゃねーよ、馬鹿野郎。」 「ディー・・・。」 「『我は、名を解除する。』家族を奪い、家族を利用したお前等のお願いなんか、聞けないね。」 鎖がバラバラに砕け散り、拘束から開放される。 あくまでも、この拘束は『グレンディス・カルタルト』に対しておこなわれたものだから、名前が変われば力を失う。 同時に、腕輪のアルシファ達との契約にもヒビが入り、かすれてしまったが。 「『帰れ、人は人の世に。開け、時空の扉』二度と来るな。」 パチンと指を鳴らせば、開いた扉に三人の姿は吸い込まれていった。 グレンディスは扉が閉じるのを確認した後、その場に崩れ落ちるように倒れた。 「ディー?!大丈夫ですか。」 すぐに側にかけより、周囲に彼等の気配が消えたのを確認し、グレンディスの様子を見た。 息が荒く、気の流れも乱れている。 背中の翼のせいで、魔界の気にあてられているのだろう。 アルシファは魔力を持つ己が着ていた上着をかけ、抱き上げて急いで城へと飛び立った。 もし、今のグレンディスが天界人と同じであるのなら、魔界の気は身体に毒でしかない。何より、自分達の契約が少しばかりヒビが入ったとしても、これが負担にもなっているに違いない。 聖を持つ者にとって、魔は相反するものなのだから。 城に戻れば、エルディーとイルドゥカが出迎えた。彼等もまた、遠くにいても契約に異変が起これば気付くのだから、何かあったと思うのは当たり前だ。 「とにかく、部屋に連れて行って結界を張ります。エル、手伝って下さい。」 「後で説明はしろよ?」 「知っていることを隠すのはなしですから。」 二人が続き、部屋に結界を張る。 その間に同じように異変を感じたフェンも戻ってきた。 「それ、神と同じ翼よね?」 フェンの疑問は他の三人とも同じだった。ただの天界人が持つ翼とは異なるそれ。 「それに関してはわかりませんが、ディーがまだ言っていないことに関係しているんだと思いますよ。それで、こちらが問題なのですが、どうやらゲーテミルモールが魔界に来てました。」 ゲーテミルモールという名前に三人はそれぞれ反応を示す。彼等が知らないわけがない。 ベルティックを名乗る者にとっての敵の一人、神に力を授けられ、魔王を倒す為に人の世に落ちた勇者を指す名前なのだから。 「やっぱり、魔界でも元気なわけ?」 フェンは嫌そうに言えばそれに肯定しておいた。 「あまりいい噂聞かないよね、今度のゲーテミルモール。」 「そうですね。どちらかというと、破滅という名の『デルトラント』の方が似合ってるかもしれません。」 「でさ、ディーがこんな状態になった原因もそいつ?」 「ええ。」 どちらにせよ、眼が覚めた後で話を聞くしかない。そして、たとえ勇者が魔界に乗り込んできたとしても、それは何度も繰りかえされてきたことであり、今更でしかない。 向こうがくるのなら、こちらは迎え討てばいい。ただ、それだけのことだ。 「・・・っ・・・おい、アル。」 「気がつきましたか?」 「ここ、城だな。」 「はい。」 身体を起こし、部屋に集まる者達を確信し、どうしたものかと考える。この翼の説明はしないと、納得しないだろうからだ。 何より、契約に支障をきたしているのだから、それについてもどうにかしなければいけない。 昨日話をしてそれで終わらせたというのに。何故こんなにはやく来たものか。余計に事態をややこしくしてくれた三人組に毒づく。 「おい、エル。」 「ん?何?」 急に名前で呼ばれたことに驚き、少しばかりどうしてと戸惑いながら返事を返した。けれど、グレンディスは何も言わず、ただ手招きをするだけで、少し間をおいてから近づいた。 すると、ぐいっと力任せに腕をつかまれ、グレンディスから口付けされるという状況になった。 さすがにそんなことなかったので、驚いて混乱するしかないエルディー。 「ディーっ!」 「ディー様・・・エル兄ずるいっ!」 外野はそれぞれ反応をみせながらも、一番戸惑っているのはエルディー本人だったりする。 「殺気だつな、馬鹿。俺は女の子にキスをいきなりするほど非常識ではないし、お前では条件が合わないんだよ。」 その言葉の意味を理解する前に、グレンディスの変化を四人は感じ取った。 純白の翼がみるみる漆黒の翼に塗り替えられていったのだ。 堕天した天界人の濁った黒い翼ではなく、魔王と同じ、艶やかな漆黒の翼に変わったのだ。 「これでしばらくは魔界の影響なさそうだな。」 「ちょっと、ディー、これどういうこと?!」 さすがに驚きを通り越してどうなっているのかわからなくなっていた。 「昨日言っただろ。俺はカルタルトの名を持つ。だから、その証があった。だが、俺はベルティックの名もまた、知っている。そして、魔界でも影響を受けない状況にある。」 「え、それって・・・。」 「先祖返り、というやつですか。」 「たぶんそうなんだろうな。父さんはただの人間で、魔の影響を受けにくいってのを利用して狩り人やってたから。」 人間らしい人間だった。魔の影響を受けにくいというのも、ただの体質でしかないと思っていた。だから、すごいと純粋に思っていたのだ。 けれど、真実としては、魔族の血が薄いながらも流れ、そのために魔による耐性を持っていたにすぎなかったのだ。 そして、自身は父親以上に強い体制と力を得て生まれてしまった。先祖の力がこの世に蘇ったかのように。 「それで、ディーはエルに何をしたかったんですか?」 「ああ、それ?封印されていたのを開放されたのだから、こうなったら仕方ないからな。魔の方も開放し、あとは契約の優劣逆転。」 「え?あ、何これ?!」 驚きの連発で気付かなかったが、エルディーは契約の違和感を実感した。感じるはずのグレンディスの気配が消えていたのだ。 消えるとは少し言い方があれだが、支配側はどこにいてもわかるのだが、支配される側は示さなければわからないのだ。今は近くにいるからわかっているだけで、自分からどこにいるのか感じることができなくなっていたのだ。 「フェンとイルは友人だ。お前は誘拐魔。」 ビシッと今更ながらスッパリ斬るように関係を言われ、さすがにへこむエルディー。 「でも、それじゃあアル兄だって・・・。」 「こいつは俺の『名前』を知っているから無理だ。」 「ディーの名前なら俺も知ってるよ。」 扱いが酷い!と講義するも、相手にしてもらえない。 「いい加減黙れ。話が進まん!」 「何がさ・・・。俺だけ扱い酷いよ、ディー・・・。」 思い切りへこんで鬱陶しい存在に成り果てたエルディー。しかも、いつの間にか人型を保っていない。 「何じめったいことしてるんだ。最後まで話しを聴け。優劣を逆転させなきゃ、相手の魔の気を奪い取ることができないだろうが。」 それでなくても魔界にいるのに、無理矢理封印されていたものを開放されて聖と魔の感覚のバランスが崩れていたのだ。安定させる為に魔の気を得なければいけない。 けれど、ここにいるのは全員支配する側で、支配される側にいる限りそれはできないのだ。だから、逆転させて魔の気を奪い取った。 これでやっと翼が漆黒になったし、何より身体の内に渦巻く力のバランスはとれた。あとは、必要のない時はしまっておけばいい。 「お前と違って、アルは俺の名前を本当の意味で知っている。だから、できなかった。ここに馬鹿その三がいたらそれでもいいかと思ったが、アイツにキスするのは俺としても不本意だ。フェンとイルには対等でありたいから却下。その結果、お前になっただけだ。馬鹿その三以下になりたかったのか?」 それに、一時的に魔の気を得る為にしたことで、元々名前の解除によって契約も不安定になっているのだから、望むのならもう一度契約しなおそうと思っていたのだ。 「お前にやる気がないのなら別にいいけどな。」 「え、あるある!あります!」 急に顔をあげて必死に訴えてくるエルディー。 「なら、名前を言えばいい。神に支配されていない名前を。ただし、一度しか言わない。そして、今後その名で呼ぶことは許さない。いいか?」 「ディー・・・。」 「仕方ないだろう。向こうはカルタルトの名は知ってるんだ。毎回名前で向こうにやられてたら前に進まん。」 「ですが、危険なのでは?」 「お前等害しかないのか?」 「それは・・・。」 「多少害があるとしても、命の危険になるような害はないと俺が判断した。だから、これで何かあれば俺自身の責任だ。お前等には関係ない。」 遠まわしに信用していると言われているようだが、どこまで信用してくれているのか謎な答えだ。けれど、彼等にはそれでも良かった。 「『ヴィフェアレーテ・カルタクト・ベルティエ』だ。」 神のカルタルトと魔王のベルティックの名を一字変え、神族にも魔族にも知られないように母がつけた名であり、関係者であることを匂わせる名だ。カルタルトとベルティックはあまりにも双方には知られすぎている名なのだ。そのままつけるには危険だと思ったのだろう。 口には出さないながらも、忘れないようにして、全員が名を呼んだ。それに答えれば、契約。 契約完了を示すかのように、腕にピリッと走る電気のような痛みと共に、視覚でも捕らえることができる腕輪がついた。これで、契約が完了したことを示している。 「契約しなおすのはいいが・・・何故、いつの間にかいるお前が何もなかったかのように契約をしているのか知りたいが・・・どっから沸いてきやがった!」 この四人だけだと思っていたのだが、面倒な奴がいつの間にか混じっていた。 「嫌だな。契約のバランスがおかしいから、心配になったから急いで戻ってきたんじゃないか。これはもしや、何かあったのではないか、とね。そしたら何だか面白いことになっているからさ。」 はははと、わいて出てきた奴こと、シーラスカはちゃっかり契約していた。 というより、この口が軽そうな男に知られたのはまずいかもしれない。 「まぁいい。魔王との契約はこれで解除だしな。」 先程の契約で黒い腕輪が砕け、新たに五つの細い輪が腕にはまり、それを一つ一つ確認する。幅としては前の黒い腕輪と同じくらいだから何らかわりはない。ただ、ばらついているだけ。そして、それぞれに彼等が持つ印を刻んだ石と同じ色の石がついていることぐらいか、前との大きな違いは。 「さて、問題も片付いたし、今日はもう寝る。お前等出てけ。」 しっしと追い出そうとするが、誰一人外へでることはなかった。 「お前等な・・・。」 「簡単に状況はわかりましたが、まだ聞いてないことがあるんです。」 「何だよ。」 「ディーの体調はもう、本当に大丈夫なんですか?」 ここへ運んできたのはアルシファだ。現場にもいたのだから、状態が悪いのは知っている。 「ああ。もう問題ない。あれは、急に開放されたことによる力の暴走みたいなもんだからな。あと、バランスの崩れだ。それは馬鹿その二でどうにかしたから問題ない。」 だが、いろいろありすぎて身体に負担がないこともない。だから、さっさと休みたいのだ。 「出て行く気がないのなら、強制排除するぞ。とくに馬鹿共。」 それに含まれるのは三人。 「フェンとイルはいてもいいって言うんですか?!」 馬鹿と言われ、馬鹿と呼ばれたことがないイルドゥカが除外されることに瞬時に気付いたアルシファが講義をする。 「お前等三人は俺にとっての睡眠妨害だ。」 「それはないでしょう。」 「そうだよ、ひどい。」 「お姫様はご機嫌斜めみたいだねー。」 「そもそも、原因の一つは貴方でしょうシーラスカ。」 「そうだよー。最後にいいとこだけもってってさ!」 「言い合いなら外でやれ。」 グレンディスは出て行く気配のまったくない三人に対し、神具を向けてもう一度出て行けと言った。 「えっと・・・。」 「あの、ディー・・・。」 けれど、三人が外へ出る様子はまったくなく、追い出そうと呪文を唱えだした時だった。 「えらく楽しそうじゃないか。」 突如表れた魔王の存在に、呪文が途切れた。 「契約に異変を感じたら、わかるに決まってるだろ?なぁ、ヴィフェアレーテ・カルタクト・ベルティエ。一度契約した奴を逃がす程愚かじゃない。」 その言葉の意味を理解する時に、契約はすでにされていた。 結局、元に戻ったのだ。それも、以前より強固な力によって契約の印を刻まれてしまったのだった。 最後を締めくくるのは、やはりシーラスカではなく、この世界の王であり、こいつらの親でもある魔王だったのだ。もう、逃げる気も失せているが、どこいってもついてくるであろうこいつらに、少しばかり名前を教えたことを後悔していた。 |