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パンプキンパイとクッキーを作って、紅茶を飲みながらあの日過ごした時間。 久しぶりに食べたパンプキンパイに我ながら満足していたグレンディス。 しかし、味をしめた三匹の悪魔が彼の幸せのひと時を壊すのだった。 また、何か作ってと。 さすがに、珍しいのだろうと最初は思った。しかし、毎日毎日、夕食まで作れと言われた時に、とうとうきれた。 「俺はお前等の使用人じゃねー!!」 ということで、部屋に引き篭もること三日。 食事は扉の前に届けられるし、これ以上怒らせてはいけないと悟ったのか、部屋の中に入ろうとはしなかった。 しかし、それも三日だけ。 とうとう、アルシファとエルディーの方もきれた。 異変に気付いたものの、もう遅い。それから二日間グレンディスはベッドの住人にされるのだった。 悪魔に好かれた神父3 どんなことがあっても、明日はやってくる。 それこそ、世界が滅びたりしない限り、望まなくても明日はやってくる。 「起きる気配ないね。」 「明け方まで無理させましたからね。」 自分達の身も整え、ベッドの上でぐったりと眠るグレンディスにも衣服を着せ、眠る姿をのんびり観察する。それが、最近グレンディスを城へつれてきてから増えた日常だった。 それに、普段なら見るなと殴りかかってくるが、今は起きる気配もまったくないし、どんなにじろじろ見ても怒鳴られることはない。だから、二人はこの時間が結構好きだった。 しかし、今日はそんなのんびりしたことはしていられなかった。 「さて、行きますか。」 「起きない今のうちにだな。」 離れたくないが、しょうがない。二人はしぶしぶといった感じで部屋をあとにする。もちろん、外から許可したもの以外この部屋に立ち入れないように結界をはって。 「鍵しっかりかけとけよ。」 「それは大丈夫ですよ。」 鍵をポケットにしまい、城から飛び立つ。 その数時間後、グレンディスは目を覚ますのだった。 「あのバカ2匹め・・・。」 喉がかわき、水を飲もうとベッドから抜け出す。あまり慣れたくないが、痛んで全身かなりだるい身体を無理やり動かし、立つ。 いつもなら目を覚ましたら不快にもあの二人の顔が見られるのだが、今日はそれがない。起きれば、見てくるなと怒鳴り、水を要求し、まとわり着くなとベッドから蹴り落とす。それが今日はない。 服を着ているのだから、後始末はしたのだろうが、時間を見ても、たぶん眠ってそんなに時間はたっていないはずだ。 「気配まったくなしか。」 部屋の中にも、城の中にも、あの二人の目立つ魔力の気配はまったくなかった。 どれだけ消そうとしても、あの二人は目立ちすぎるため、すぐに気付ける。まぁ、気付かれてもいいと思っているので、隠してないのかもしれないけれど。 この部屋に閉じ込められている気配はない。扉に鍵がかかっているが、内側からだと簡単に開けられるのだから、あの二人は閉じ込めるつもりはないのだろう。 「絶対、一回蹴り飛ばす・・・。」 帰ってくるまでに体調を整えないといけない。 その為には、やはり食事をちゃんととらなければいけない。どうせ、水を飲むためにキッチンへと向かうつもりだ。 すっとドアノブにグレンディスが触れた時だった。 ゾクッと冷たい何かを感じた。寒気のような、後で思えば警告のようなもの。 だが、いつまでもこの部屋で閉じこもっているわけにもいかない。 きっと、気のせいだと言い聞かせ、ドアノブをまわした。 カチャっと、少し開く扉。すると、影が滑り込んできて、扉が一気に開け放たれる。 「なっ?!」 影が風を起こし、吸い込みはじめる。さすがに体調が万全ではないブレンディスはバランスを崩し、闇の中へと堕ちていった。 影が消えると、キィーッとゆっくり扉は閉じられた。 「ディー様?!」 侵入者の気配に、慌ててフェンはグレンディスの元へとやってきた。しかし、すでにそこは誰もおらず、フェンは舌打ちをする。 留守番を頼まれ、侵入者に対応するつもりであったのに、簡単に連れて行かれてしまった。 「ディー様・・・どうかご無事で。」 願いながら、フェンは城を飛び出した。 ポケットに入れている小さな笛を取り出し、ピィーっと吹けば、飛んでくる一頭の竜。 「チャルカ。アル兄のところへ飛びなさい。」 ヒューイと、声をあげて、フェンをのせて飛び立った。 すぐさま見えてきた屋敷に向かって急降下し、屋敷の窓ガラスを割って飛び込んだ。 「フェン?」 下級悪魔を蹴り飛ばしたアルシファが突然の現れた相手に、驚きながらも、顔が険しくなる。フェンが慌ててここにきたということは、彼に何かがあったということだからだ。 「何があったんですかっ?」 「ごめん、兄様。ディー様が連れて行かれちゃった!」 「お前等最悪―。」 エルディーは持っていた剣で二体の悪魔を切り倒した。 「・・・この屋敷内なのは確かです。急いで探しましょう。」 「その必要はないぞ、第二魔王後継者、アルシファ。」 現れたのはこの屋敷の主。 「よほど、あの人間のことが大事だとお見受けする。確かに綺麗なのは事実だが、人間を飼いならすような悪魔を魔王などにするわけにはいかぬ。」 「悪いですが、彼のよさがわからない人の忠告なんか聞きませんし、次の魔王を選ぶの母様です。お前には権利はない。」 「そうそう。お前ごときに命令されたくないね。バーカ。」 背後から最後の一撃と、剣を振りかざした悪魔を切りつけ、跡形もなく燃やした。 「それに、彼のよさがわかってもさしあげませんけどね。・・・なので、返していただきます。」 ピリピリと彼の怒りを感じながら、不気味な笑みを浮かべる老人は恐れるどころか楽しそうにしていた。 「彼を餌にしてお前達をおびき出すつもりだったが・・・まぁ、順番は狂ったがよい。大人しくしていないと、あの人間の命はないぞ?」 それでも、私を殺すか?と問われ、ギッと睨みつける三人。 室内に入ってきた蝙蝠に目を向け、一層皺を寄せて笑みを深くする老人。 「お前等に最後に人間の声をきかせてやろう。離れ離れのまま死ぬのは可愛そうじゃからな。」 そう言って、蝙蝠に話しかける老人。しかし、聞こえてきたのは、雑音と、悲鳴。 「どういうことだっ!おい、返事をしろ。」 「竜がっ・・・水がっ!」 「竜がどうしたっ!」 くそっと舌打ちをしながら、部下を呼び集めて三人に襲い掛からせる。しかし、三人はそれを一瞬で撃退した。 「状況はわかりませんが・・・ディーにもしものことがあれば、罰を受けるだけではすまないことを念頭においておいて下さいね。」 「・・・っく・・・黙れっ!魔族の恥さらしめ!」 「恥さらし?それは貴方のことでしょう?数々の違反行為、私が知らないとでもお思いですか?」 見下ろすその瞳はひどく冷たい。冷酷なる魔王の瞳。 「くそっ・・・お前等っ!いったいそっちで何をやっているんだ!人間を殺せっ!」 やけくそにそう命令する老人に、かっと頭に血が上るアルシファ。 背後から首をがっとつかむ。それは人のものではなく長く伸びた鋭い爪と大きな手。力を込められた手は老人の喉に食い込む。 「行き過ぎはいけませんね。年をお考え下さい。」 「ぐぁ・・・っ!」 本気で殺す勢いだった。その時だった。 「・・・さまっ・・・無理です。あの人間・・・強すぎる。竜を召還する人間・・・我らでは対処できません。」 何?!と老人もアルシファ達もその言葉に驚いて蝙蝠を見る。 「ジルバド様もフェール様も天界強制搬送。結界、崩壊します。」 その報告と同時に屋敷が大きく揺れた。そして、蝙蝠もそれ以上言葉を話すことはなかった。 アルシファは老人を放り投げ、すぐに崩れた結界の場所へと走る。それにエルディーも追いかける。 「・・・兄様達に任せたらディー様は大丈夫だとして・・・。おじさん。あの世で神に懺悔してくれば?」 グサッと、突き刺さる短剣。悪魔の血を喰らい、吸収する魔の剣。 勢いよく抜けば、そこからドバッと赤い血が溢れ出して噴水のように一面に赤が飛び散る。あまり綺麗ではないなと面白くないように見ながら、フェンは短剣についた血をハンカチで拭き取る。 「貴様・・・っ。」 「おじさん。言葉には気をつけてよね。 「何をいうか、小娘っ!」 「はぁ・・・馬鹿もここまでくると泣けてくるわね。魔王後継者候補に向かって小娘だなんて。」 やれやれと馬鹿にしたように言えば、傷口を押さえながら、老人が怒りに震える。 「ディー様は私と兄様の『獲物』。他所の手出しは無用だという魔界のルールぐらい、わかってるよね?」 「何っ?」 所有者の名があるものを勝手に持ち出して傷つけるなんてもっての他。マナー違反もいいところだ。 「ディー様は確かに人間。だから、私達は気に入った彼をあんた達馬鹿に手出しされないように印をつけた。それなのに、横から手出しするなんて、そんなに死にたかったの?」 ついちゃったと、手についた赤い血を舐めるフェン。その血にまずいと文句を言いながら、老人を見下ろす。 「悪魔が施す印はその悪魔のものだという所有の証であると同時に、契約の証。それが覆ることはない。あるとすれば、悪魔と相手が契約を破棄した時だけ。・・・契約中のものへの手出しは私達と敵対するという意志の現われという事でいいのよね?」 「そんな馬鹿な・・・あの人間はっ!」 「ディー様はね、私達が見つけたお気に入り。その意味がわからないのよね。可愛そうに。」 「あの人間は血の匂いはなかった!契約をしたのなら、契約相手の魔族の血の匂いがするはずだ!」 そう。魔族の血の匂いがすれば、それはすでに誰かの獲物だとわかる。倒した際に浴びた血の匂いと契約した際に血の匂いは違う。倒した際には恨みの念により、まとわりつく禍々しい匂いがし、復習相手がわかる。しかし、契約した場合は甘い香りがするのだ。甘いといっても、『餌』が持つ血の匂いとはまた違のだが、契約の場合は近づくとはじかれるのだ。契約した悪魔による加護で、契約の邪魔をされないようにするためだ。 しかし、グレンディスにはそれがなかった。 だから、あっさりと部屋を出た時点で連れ去ることができた。 「ディー様は神具を扱うエクソシスト。私達の守りも契約の証も打ち消す力を持つ者。だから、あんたごときが適う相手じゃないのよ。わかった?」 皮膚が破ける複数の鈍い音が響く。老人の身体を内から突き刺して外へ出たいくつもの刃。 「永遠の眠りの旅に行ってらっしゃい。・・・もう二度とここへは戻らせるつもりはないけどね。」 さらさらと、老人の身体が砂となり、風に吹かれて崩れていく。 「私は・・・家で待ってようかな。」 相棒の飛竜を呼び、乗り込んだ窓から外へ、竜の背に飛び乗った。 「帰るわよ。」 鳴き声を上げ、空へと舞い上がる。 ガサガサと音がする。 うっと、浮上する意識の中で、ゆっくりと目をあける。 身体は動かない。どうやら縛られているようだ。なら、何故こうなった?考えながら、グレンディスは状況を思い出すのだった。 そうだと、扉を開けた時に感じたゾワリとした影のような何かを思い出し、ここがそれの中だとわかった。 どうしたものかと考えていると、突然光が指したと思えば吐き出すかのように外へ追い出された。床から少し距離があったらしく、思い切り肩や腰を打ちつけ、痛む。 「っ・・・誰なんだよ、まったく・・・。」 感じた警告のようなあのゾワリとした感覚。黒い影のようなものに飲み込まれ、意識を持っていかれるなんて、殺されてもおかしくない状況。 それでも、まだ生かされたままここへ連れてこられたということは何か意味があるのだろう。 そんなことを考えながら、周囲を見渡す。 ここには、いくつもの、嫌な気配があった。寝起きも最悪だったが、さらに最悪になったと思いながら、醜い悪魔達を睨みつけて様子を伺う。 「まったく、愚かな人間だな。自ら結界の外へ出るなど・・・だから、連れ出すことは楽だったがな。」 くくくと笑う、リーダー格らしき悪魔。周囲に囲うようにいるのは明らかに雑魚だが、こいつだけは上級魔族だった。本当、魔族は腐った奴しかいないなと思う。 その時、部屋の中にもう一つ気配が増えた。 「まさか、あいつらが人間を飼うなんて思いもしなかったが・・・。」 「私もだ。だが、こいつならわかるかもしれぬ。男だが、顔は綺麗だしな。」 嫌な、気持ちの悪い笑みを見て、気分はどんどん下がる。何が悲しくてこんな馬鹿共に付き合わなければいけないのだ。アルシファやエルディーのことだろうが、自分は『飼われた』つもりはまったくない。 「殺すのか?喰うのか?」 周囲にいる下級悪魔たちが口々に声をあげる。それを面白そうにしながら、そいつは宥める。まだ、殺さないと。 「あの双子の悪魔をこやつを餌におびき出し、殺すまでは生かしておくのだ。」 どうやら、聞いていると後継者争いに自分は巻き込まれたのだと理解した。 「第一子のイルドゥカは王になる意志はない。第二子と第三子は、特に第二子のアルシファが次の王だと言われているから危険だ。第四子と第五子もアルシファと継がないと言ってもエルディーがおるからあの二人はすでに後継の権利を破棄しているも同然。」 今更、あいつらにはさらに上に兄弟がいて、二人とフェンの間にもいたんだということを知ったグレンディス。確かに、これだけいたら他に奴が次の魔王として王座につくことはできないだろう。 自分がただの悪魔に飼われている人間としか認識されていないようなので、それに関しては良かったかもしれないと思った。非常に不本意で腹立たしいことこの上ないが。 気付かれていないのなら、いくらでもやり方を考えられる。それに、自分を使ってあの馬鹿だと言っても最近少しだけいい奴だなと思えてきたけど、いつか自分が封印してやると思っている獲物に手出しされるなんて腹立たしい。 と、長々と感情を心の中で叫んで暴れ周りながら、考え続ける。 脱出するには、やはりこの悪魔達を全員始末しなくてはいけない。始末といっても、消滅とは違うけれど。 さて、どうしたものか。 その時、考えに没頭していて、気付くのが遅れた。すぐ目の前にあの悪魔がいたのだ。 「怖い?そりゃそうだよな。お前は悪魔に連れ出されて、その悪魔に守られていたひ弱な人間。でも、大丈夫。あんたを悪魔から解放してあげるよ。その代わり、命はいただくけどね。」 くくくと笑う悪魔に虫唾が走る。やっぱりあの馬鹿の方が断然ましだと思える。 ぐいっと顎をつかむ手。無理やり上を向かせるその力に抵抗する。 「綺麗なこの顔には傷つけないように、殺してあげないとね。」 「殺す前に犯したたら駄目なのか?」 「ん?そうだね。アルシファとエルディーの始末が終われば、彼にも消えてもらうつもりだから、問題ないよ。」 それまでは滅茶苦茶にして壊れてしまっては話にならないから駄目だと止めておくと、わかったとそいつは嫌な目でこちらを見ながら舌なめずりをする。ああ、最悪だ。 自分は女ではない。男だとわかってるのにお前等は何だ?!悪魔は男色家ばっかりなのか?!と叫びたいが、必死に声にはせずに耐えた。そんな自分を褒めたい。 ここにこれ以上いたら、頭がおかしくなる。断言できる。 グレンディスは側にいくつも散らばっている、何かの破片のような尖ったものを気付かれないように手にとった。それを使って思い切り左手のひらを切り、流れ出る血で自分の身体で隠しながら後ろに模様を描いた。 こちらに来て、たくさんの書物を読んだ。その中で、自分が行なう魔術と似ているが違うやり方のものがあった。内容は、教会に置く書物では載せられない禁忌を含むもので、やはり魔族の持つ物だなと思った。 自分には召還して共に戦う友がいる。お互い契約を交わした『彼等』を呼び出すにはあの十字架を取り出し、決められた一定時間だけ。それ以上はどうあっても自分の前に姿を現せさせることはできなかった。 今思えば、それ以上は心臓に負担がかかりすぎて死に至る危険があったからだろう。 あれは、心臓から血が抜き出されて扱われるもの。常にそういった力あるものは代償を必要とする。それに加えて召還を行なえば、さらなる負担が増える。 それを無意識に制御しているのだろう。 だが、召還にわざわざあの十字架がなくてもできることはわかっていた。その為のやり方を知らなかったのだが、あの城の書庫には召還に関する書物は多くあった。 あとでわかったが、アルシファが召還魔術を扱うが故に、趣味で集めたものだった。 そして、自分は契約を交わした者達をこの地へと呼び出す『扉』となる魔術を見つけた。 その印はすでにわかっていた。それでも何かが足りなかった。足りないのは印ともう一つ、契約の証と血の契約を交わした代償。 名と血による契約に必要なのは、契約者の血と名前。相手の印だけでは扉は不完全で開かれない。 それを知り、成る程と納得したが、実践する機会もなく今にいたる。だから、今回この機会はちょうどいい。 エクソシストと知られていれば、もう少し待遇が違ったのかもしれないが、今は両手両足、何の拘束もないので簡単だ。 口ずさむは契約と彼の者の名。音が消えた一瞬に、膨大な力の流れが吹き上がる。 「な、何だ?!」 「お前っ!何をした!」 厄介なのはあの二人の悪魔。あれさえ押さえればあとは雑魚。 こいつなら、きっと問題ないだろう。グレンディスの頭上に現れた大きな巨体。蒼く輝く鱗を持った美しき竜。 「悪しきモノの企みを打ち砕き、拘束せよ!全てを洗い流せっ、ソファン!」 悪魔達に襲い掛かる水の渦。身動きが取れないように、まるで生き物のような水が絡みつく。 蝙蝠を介して話をしている悪魔を見つけ、グレンディスはそいつを止めるように指示を出す。 「ぎゃぁああああああ!」 それは水に飲み込まれて消えた。 「・・・これで全部終わったか。」 水が悪魔を全て飲み込み、グレンディスがその全ての悪魔を具現化させた十字架によって強制転送した。 「くそ〜最悪だ。」 あの二人に朝まで付き合わされたあげくに、これだ。思い切り床に落ちて腰や肩やら打ち付けるし、始末するのに力まで使って。 「ありがとうな、ソファン。」 そばによってきて、顔を近づける蒼い竜の頬を撫でてお礼を言う。くすぐったそうにしながら、うれしいのか鳴き声をあげる。 すっと、消えた十字架と、ひいていく水。そこへ、足跡が近づいてきた。 誰のものかわかったために、はっきりいって嫌だが、敵ではないので気にしないことに決めたグレンディス。 「ディー!」 「無事ですかっ?!」 「無事だから今俺がここにいるんじゃねぇか。」 何馬鹿なことを言ってるんだと首をかしげる。しかし、二人はグレンディスの顔を見るなり、がばりと飛びついてきた。さすがに自分より大きな男に飛びつかれてうれしくないし、踏みとどまれるほど力が残っていない。 ベシャっと押しつぶされるように床の上に転がる羽目になった。 「何しやがる!この馬鹿ども!どけー!」 暴れるグレンディスから、とりあえず、怪我はないかとチェックされる。さすがに服を脱がされそうになったのには思い切り殴っておいたが。 「で、何故ここに蒼竜がいるんですか?」 「俺が呼び出したからだ。」 「・・・ディーはいったいどこまでやれるんですか?」 普通の人間が竜の召還などできるはずがない。できる人間もいるが、ここ滅多に現れていないと報告されていたはずだ。 出会いから確かに驚かされるようなことが多かったが、竜の召還までやってのけるなんて、やはり只者ではない。 「あと、ここに悪魔達がいたと思うのですが・・・。」 「始末した。・・・で、お前等こそ何しに来たんだ?」 グレンディスが連れ攫われたと知って、場所を突き止めて飛んできました。と、言いかけて言うのをやめた。 どこかで見てやがったな?とか文句をつけられてはまた喧嘩だからだ。もちろん、グレンディスが一方的にだ。 グレンディスからすれば、今朝から姿を見せなかった二人が突然現れてさすがに足音と気配でわかっていたものの、何故だと思うのだ。 こいつらだって、魔王の後継者。毎日暇なわけでもないだろうから、忙しいのだろうと思っていたのだが、こんなにふらりと現れては、本当に暇人なのかと思ってしまう。 「何か言いたそうですね。」 「別に何もない。」 「しかし・・・。」 「ただ、人の前にすぐ現れる暇人だと思っただけだ。」 「暇人って・・・ディーが連れ攫われたから慌ててきたんじゃん。」 暇人じゃないと講義するエルディー。 それを聞き、一応心配できてくれたのかとわかった。しかし、あいつらの言うように、人間を心配する魔王候補なんて聞いたこともない。本当にこいつらは馬鹿だと思い、馬鹿とだけいってやる。 「ディー・・・。」 「俺のことは放っておけばいいだろ?お前等に得なこともないし。」 「そんなわけにはいきません!お気に入りを横取りされるのは嫌いなんです。」 「横取りされるのが嫌いって・・・お前は子供か?」 「子どもでもいいです。」 ぎゅうっと抱きつくアルシファとエルディー。やはりこいつらは馬鹿だ。それがグレンディスの事故解決させる結論だった。 「あーもう。鬱陶しい!まとわりつくな!」 二人を引き剥がして、とりあえず踏みつける。痛いと思い切り叫んだので、ちょっと可愛そうかなと思ったが、あの二人のせいで余計なことに巻き込まれたのも事実。 とりあえず憂さ晴らしということで諦めてもらおう。 「俺はもう帰って寝る。寝るの邪魔したらお前等殺す。」 いいなと言って、蒼竜の名を呼び、背に飛び乗る。すると、竜は答えるように声をあげ、飛び上がる。 竜とグレンディスを見送ってポツリとアルシファは零す。 「・・・ディーって、本当に何ものなんでしょうね?」 「さぁ?只者じゃないのはわかりきってることだが・・・。とりあえず、俺達の契約施した人間ってのは確かだな。」 「そうですね・・・。とにかく、帰りましょうか。」 お互い顔を見てうなずき、翼を広げて飛び立った。 城に戻ると、グレンディスの部屋は鍵がかかっていた。 「入ったら、まずいですかね?」 「きっとディー様すごく怒るわよ?」 「そうですか・・・。」 もう一度、ちゃんと無事かどうかを確認したかったが、これでは仕方ない。 「起きたら夕食食べれるように夕食用意頼んでおいたぜ。」 「エル。」 三人それぞれ顔を見て、部屋の前に居座って彼が部屋から出てくるまで待つことにした。 朝、光が差す。魔界でも光は届き、朝がくる。 グレンディスは目を開け、身体を起こす。 朝食も昼食も、眠っていたので夕食すら昨日は食べていないことを思い出し、お腹が減ったなと思い、ベッドから出る。 「・・・あいつら。」 部屋の扉の前にある魔力の気配。部屋に無理やり入ってこないのはいいが、扉の前にずっといられるのも何だか嫌である。それでも、扉を出なければ朝食にありつけない。 彼等のように、空を自由に飛びまわることなどできないため、窓から窓への移動は不可能。やはり扉をでなければいけない。 しょうがないと一息つきながら、ドアノブをまわす。 扉を開くと、なんとそこで壁を背にして眠りこけている三人がいた。 「・・・正真正銘の馬鹿だ。」 こんなのが次の魔王候補でいいのかよ。そんなことを暢気に思ってしまった。 「フェン。起きて。フェンー。」 ゆさゆさとフェンの肩を揺らして起こす。 ついでに、大人しく待っていたのであろう二人も起こす。目を覚ました瞬間、名前を呼んで飛びついてきたのはもちろん蹴り落とす。ちなみに、すでに飛びついてきたフェンは背中にくっついている。 「お前等は毎回毎回、人に飛びついてくるな!鬱陶しい!」 「鬱陶しいってひどいっ!」 「そうですよ。心配してたのですから。」 「それはわかった。だが、飛びついてくる意味はないだろうがっ!」 「ならなんでフェンはいいんだよ!」 「フェンは別だ。お前等は却下。」 「何ですかそれは!」 不公平ですと講義されても、聞ける筈がない。 「だいたい、俺は男に押し倒される趣味はないっ!」 「女だったらいいのかよ。」 「そんな趣味事態ない!」 鬱陶しいー!と引き剥がすもしっかりと左右に立って腕をとられる。この力の差が余計に腹立たしいというのに、むかつくやつらだと思いながら、講義しても聞きはしない二人に諦めてキッチンへと向かう。 「ディー、朝食を作るのですか?」 「じゃあ、俺の分も!」 「私はハムエッグっていう奴がいい!」 口々に言ってくる。さすがにグレンディスもきれた。 「自分で作りやがれー!!」 三人をキッチンから追い出し、背後から何かを召還しそうな勢いで朝食を作るグレンディス。 何だかんだいいながら、リクエストのハムエッグとサラダを用意し、それも四人分用意してしまうのだから、救いようがないかもしれない。 とりあえず、今日も魔界は平和である。
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