魔界に来て一ヶ月が経った。

仕事着である上着はないが、下着とズボンの替えを要求したら教会から持ってきてくれた。

しかも、ご丁寧に教会を荒らして連れさらわれたというのがわかるようにしてきてくれたらしい。

後の人間が掃除するのが大変そうだとどこか他人事のように思いながら、そんなことよりも素直に要求に応じてくれると、何だか裏がありそうで嫌だが、スカートはご遠慮したいので受け取った。

もちろん、自分がこの城の庭より先に行くことはできないけれど。

あの後、三人は改めて神父に自己紹介をした。

自分から名前をちゃんと名乗るなんて馬鹿な悪魔だと思った。

「私は魔王第二後継者候補のアルシファ・リード・ベルティックです。」

「俺は第三後継候補のエルディー・リード・ベルティックだ。」

「私は第五後継者候補のフェンレス・アルド・ベルティックだよ。二人は兄で、双子。私は母親違いの妹なの。」

こいつらフェンの身内だったのか。今更そんなことを知ったが、もう遅い気がした。

まぁ、印がある限り、自分は読めるのだが、わざわざしなくてもいいのではないかと思った。

だが、つられて自分もばれているとはいえ、わざわざ名乗ってしまうところが、馬鹿なことしたと思ったけれど。

「ディー様って呼んでいい?」

「ああ、もう何でもいいよ。」

「やったー。」

と喜ぶ少女。側にいた二人もそう呼んでいいかとお伺いをたてると、彼は却下した。

「私の事は今まで通りフェンでいいからね。」

「私の事はアルでいいですよ。」

「俺はエルな。」

「フェンはいいとして・・・お前等は馬鹿その1とその2で十分だ。」

「何でですか?!」

「差別だ!」

「お前等こそ俺の人権無視して連れてきておいてよく言えるな!」

ある意味、魔界は平和であった。

 

 

 

 

悪魔に好かれた神父2

 

 

 

 

先日の土砂降りが嘘のように、今日はからりと晴れていた。

「ディー様。」

ご機嫌な少女の声が聞こえてきた。しかも、それはだんだんと近づいてきた。

「フェン?!って、飛び降りるなっ!ちょっとー!」

空から飛び降りてきたフェンはグレンディスを見つけて飛び降りてきた。この一ヶ月で彼も慣れた日常の一つであるが、何回かに一回は情けないかな、押し倒されている。

そのたびに腰を打って痛い思いをしているのだが、フェンにはわざわざ言わない。そもそも、飛びつかないでと言っても、聞いてもらえたためしもない。

今回は何とか転ばなかったが、手首をひねりかけて一応念のために湿布を張るべきかと考えていると、視界にフェンの顔がすぐそばにあって慌てる。

この城は事実上は魔王第二候補のアルシファのものであり、弟のエルディーとフェンレスが一緒に暮らしている。城を管理する上で使用人である悪魔が数匹いる程度で人に見られることはないといっても、こういうことに慣れない彼にとっては一大事だった。

いくら部外者が入れないようになっているといっても、彼は人間であり悪魔の敵である。普通に悪魔達が用意した服を着て馴染んでいるのもおかしいのだが、この一ヶ月でそういった感覚はすでになくなっていた。

「もう、女の子がそんな危ないことしてはいけませんっ!」

「ごめんなさ〜い。あ、今日も一緒に遊びましょ。」

すでに話を聞いていないのがわかる。はぁとため息をつくグレンディスは、フェンに断りを入れる。今日は、読み終わった書庫の本を返し、また違うものを読もうと思っていたからだ。

この城と支配下にある庭から出なければ三人とも自由にさせてくれていたので、彼は真っ先に書庫を見つけ、本を読む生活をしていた。

「じゃあ、一緒についていってもいい?」

「邪魔しないのならどうぞ。」

「ありがとう。」

にっこり見せる笑みは普通の女の子のように可愛い。だから、ついつい彼も彼女を甘やかしてしまうのだが、それがいけないと思いつつももう直らないだろう。

何だかんだといっても、甘いのだ。だから、こんな状況になっても馴染んでしまっているのだろうけれど。

それに、毎回遊ぼうとやってきても、だいたい断っている。それでも邪魔せずに自分を見ているだけで、最初は気になったが、悪意や殺意がないので気にならなくなった。

そんなことをしていると油断して隙ができると、自分の師に言われたことを思い出す。しかし、自然と彼女は何もしないと言う信頼があったのかもしれない。

それで殺されたとしても、それでもいいと思っている。もしかしたら、死にたいとどこかで望んでいるのかもしれないけれど。

もう、自分には大切な人が誰もいないから。全て魔族に奪われてしまったから。別に敵討ちをしたいわけでもないし、同じ魔族に殺されるのなら、それはそれで諦めがつくかもしれないとどこかで思っているのかもしれない。

今も昔も魔と人は争い続け、お互いを理解せず傷つけあう。その中で自分の大切な人達も奪われた。

だが、自分はまだ生きている。明らかにこの城で生活するのに不自然な種族であるとしても、いつ殺されるか分からない状況であってもだ。

結局、待遇は結構いいし、夜の時間以外は基本的に自由だ。まとわりついてくる馬鹿共と呼ぶ二人は鬱陶しいが、殺意はまったくなく、反対に最近は拍子抜けして馴染んでしまっている。

「ディー様は本を読んでるのは楽しいの?」

「ああ。あっちでは見られない本もあるし、閲覧禁止で外野がうるさい扱いの本もこっちでは気にせず読めるからな。」

「ふ〜ん。」

カサっと、次のページをめくる。

「それに、家への帰り方があるかなと思ってな。魔族が作った結界なら魔族の本を読んだ方が詳しいだろうしな。」

「ディー様、教会に帰っちゃうの?」

せっかく一緒にいられるのに、嫌われてしまったのだろうか。会えなくなるというのがフェンを悲しませる。

「俺は閉じ込められたままっていうのが嫌いなだけだよ。フェンはいつでも教会に来てたんだから、前に戻るだけだよ。」

「そっか。」

嫌われたわけではない。また来てもいい。直接には言われていない言葉がフェンにはうれしかった。

今一緒にいるのは場所が変わっただけ。前と何ら変わらない。まぁ、一緒にいる時間が長くなったとは思うが、グレンディスを見てるのが楽しいフェンにとっては別にどっちでも良かった。

「本は終わり?」

「ああ。部屋に戻って読む。」

ちょうどきりがいいところだからと、立ち上がるグレンディスの側に近づいて腕に飛びつく。

危うく本を落としそうになりながら、しょうがないなと呟くグレンディスと戯れながら図書館をあとにした。

そのやり取りを見ていた影があるとは気付かずに。

 

 

 

 

グレンディスの部屋の前まできて、また夕食の時にねとフェンと別れた。

カチャリと扉を開け、中に入ろうとした時。そこにいた二人の姿を見てフェンといた時にはあった笑顔が消える。

「また来てたのか。バカその1その2。」

こちらを見た二人の様子が少し違うと感じながらも、グレンディスはベッドの横にある台のランプの前に持っていた本を置く。

「アル。そう呼ぶように言いましたよね?」

「うるさい。バカその1で十分だ。」

「フェンとの扱いの差が激しすぎだよ、ディー。」

「当たり前だろうが。バカその2。」

がばりっと背後から羽交い絞めにされ、動けなくなる。こうなると抵抗しても無意味なのはすでにこの一ヶ月で学習済みであるため、大人しく二人の様子をみるのだった。

大人しくするといっても、気に入らないことに関しては全身で威嚇するのは相変わらずで、そんなグレンディスを面白がってわざと怒らせることもあった。

だが、今回二人は笑えなかった。

「・・・お前等、何怒ってやがる?」

「それは、貴方がよくわかっていることでしょう?」

ベッドの上に放り投げられたグレンディスはすぐに身体を起こせず、その間にアルシファはしっかりと両腕を押さえつけて見下ろすように身体をまたいでそこにいた。

このままでは、明日一日・・・明後日にまでひびいて動けなくなるかもしれない。

「何なんだよ。理由言え。俺が納得できないことで何かやられるのは気に食わん。」

「・・・そんなに、貴方は『帰りたい』のですか?」

その言葉に一瞬何を言われたのかわからなかったが、昼間の会話を聞いていたのかとわかった。悪魔は神出鬼没だ。人間の常識にとらわれていたら毎日驚くことばかりなのだ。

だから、城の中にいる限り、自分の行動はほとんどこいつらに筒抜けだということはこの一ヶ月で学んだことだ。

軽率に会話できないなと心の中でげんなりする。

「あのな・・・俺はいきなりこっちに連れて来られたんだぞ?帰りたいのかなんて愚問だ。帰れるのなら帰りたいよ。ここは俺の家じゃないんだからな。それに、こっちにいると暇なんだよ。本があるのはいいがな、本だけだとさすがに暇なんだよ。魔界って言うだけあって空気悪いしな。あっちも空気悪いからどっちもどっちかもしれんけどな。」

「常にベッドのお相手したらいいってことですか?

「阿呆か。余計に悪いわ!お前等は俺を殺す気か!」

叫んで、あ、悪魔だから殺すってのは間違ってないか、と自分で突っ込みを入れるグレンディス。

「何よりここにはカボチャねーだろうがっ!」

「カボチャ?」

思っても見ない言葉がでてきて、今までの雰囲気全部吹っ飛んだ。

「カボチャパイを久しぶりに食べたいと思ったんだよ。だがな、ここにはねーだろうがっ!」

まばたきをして、アルシファは首をかしげた。

「カボチャなら、庭にたくさんあるでしょう?」

「誰がカボチャオバケなんぞ食うか!俺は普通のカボチャが欲しいんだよ。」

グレンディスの答えに、少し考え、アルシファとエルディーは家に帰る理由を理解したのだった。

「つまり、ここの食事が口に会わないということですか?」

「ああ、そうだよ。だいたいな、見た目があんなのとか知ったら、いくら料理されて原型留めてないといってもな・・・それに、思い出したらまずくなるだろうが。」

この一ヶ月の間に、すでに何度か事は起きていた。

見た目は確かに教会にいた時と何ら変わらない。味も悪くない。だが、材料がまったく人の常識で考えられるものではなかった。

そもそも、オバケを料理して食べるとはいったい何だというのだというのがグレンディスの言い分である。

確かに、メルヘン思考で行けば、動植物全部に何らかの精霊とかついてるだろうし、それが魔界になったらオバケになってるのかもしれないけれども。

オバケを食べたいと思う人間がいてたまるか。そもそも、オバケを食べる習慣のある人間はすでに人間ではないと思う。

まぁ、すでに彼は知らない間に何度も口にしてしまっているのだけれどもだ。

最近、人が作る普通の食事が食べたいのだ。

その為には、魔界にいては食材は手に入れるのは無理だ。だから、帰ろうと思っていたのだ。

「そうでしたか。」

「言ってくれたら、あっちから持ってくるのに。」

二人にしてみれば、今まで人間を城に連れ込んで生かしたままということがなかったし、この食事で育ったから何ら違和感はない。それに、人の命や気を喰らってお腹が膨れるので、あまり食事にこだわったことはなかった。

だから、人間である彼の考えなど思いもつかなかったのだ。

「よし。今すぐ『カボチャ』を用意しよう。」

城に住まう部下に持ってくるように指示を出そうとするアルシファを止める。

「お前等、人の話聞いてないだろう?」

「聞いていたとも。カボチャが欲しいのでしょう?」

「ああ。だがな、俺は家でゆっくり食べたいんだよ。邪魔されずにな。」

「それは無理な相談ですね。ここで作ってここで食べて下さい。私もディーの作るパイに興味があります。」

可愛い妹であるフェンが作るお菓子。その現場を目的したことがある二人は、料理は使用人に任せるのが一番いいと判断した。自分達もできる自信はなかったからである。

なので、できるのなら彼が作るパイを見てみたかったのだ。

「誰がバカ共の分を作るかっ!」

しかし、彼が素直に自分達の要求に応じることはこの一ヶ月ほとんどなかった。

さすがにフェンは大切な妹で大事だが、違う位置で大事なグレンディスが毎回フェンには甘いのに自分達のことは適当なことに怒りを覚える。

現在、自分はグレンディスを押し倒した状態である。にぃっと口元に笑みを浮かべる。

その顔を見て、手首を掴む力が強くなったことで、さすがのグレンディスも状況が悪化したことに気付く。

「ならば・・・ディーをおいしくいただきましょうか。」

「あーもう!わかったよ、作ればいいんだろっ!」

もう、やけだった。身の安全のためならパイを作って与えておけばいい。

「その代わりだが、俺が自分で調理するカボチャは選ぶ。オバケみたいな変なの持ってこられても困るしな。だから、連れて行け。」

それはつまり、一緒にお買い物しましょうというものだ。デートということだ。と、勝手に二人は解釈。

それに気付かないグレンディスはアルシファに上からのけと、要求する。今度は素直に応じて、身体を起こされた。

「さぁ、行くよ。」

「デートです。」

「・・・はぁ?!何だそれは!誰がいつそんなこと言った。」

「もう、照れなくていいですよ。さぁ、カボチャ探しに行きますよ。」

右手をアルシファがとり、左手をエルディーがとり、窓から空へと飛び上がった。

「いやー?!あぶねーだろーがー!!」

手を持たれてるだけで、支えはなし。足場のない空の旅。叫ぶグレンディスの声を聞き、あっと気付いたエルーが抱き上げる。

「お前等、最悪だっ!」

息切れ切れになりながら、がっしりとエルディーの服にしがみつくグレンディス。

殺されはしないし、ある程度自由もあり平和だが、そのうち死ぬかもしれないという危機を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

久しぶりにきた、自分が過ごしていた教会の裏。エルディーが降り立つと、グレンディスを降ろしてくれた。それに素直にお礼を言うと、喜んでまとわり疲れて怒鳴る。やはり、こいつらにお礼を言うのは勿体無いと言う結論に至る。

「その容姿は目立ちますから、これを。」

アルシファの烏のような黒い翼の羽を三枚とり、それは一瞬で帽子とコートへと変わった。

「・・・便利な羽だな。」

「魔族は魔法の塊みたいなものですからね。」

ポフッと、グレンディスの頭に帽子をかぶせ、コートを着せる。深く被れば相手から目は影となって見えなくなるだろうし、わからないだろう。

さて、カボチャを見に行こうと街へと歩き出す。

しかし、教会の前を通る際にグレンディスはそこにいる人影に「あ。」と音をはすする。何だと、二人もそちらを見る。

そこには、フェンと同じくらいの・・・といってもフェンは見た目より年をとっているのだが、女の子がいた。

せっかく街へ行ってこれからカボチャを選んでパイを食べるという予定だったのに、グレンディスは二人を振り切って少女の元へ行ってしまったのだった。

「・・・リルム。」

名を呼ぶ声に、はっと少女は顔をあげてグレンディスを見た。それはもう、どうしてというような驚きで目を見開いてだ。

それもそうだろう。彼を連れ去ってすでに一ヶ月。教会は荒らされて、彼はもう生きていないと思われるように二人が仕向けたのだ。

「神父、様・・・。」

グレンディスが生きていて、目の前にいる。それを認識できたと同時に彼女は目にたくさんの涙を浮かべて泣き出した。

トントンと抱きしめて背にまわした手で優しくあやすグレンディス。それをやはり邪魔されて面白くない二人がじぃーっと見る。

そう言えばこいつらがいるんだったと思い出して、どうしたものかと考える。魔族とばれたら後々厄介だ。さてどうしたものかと考えるグレンディスは、少女が落ち着きと取り戻し始めたのに気付いた。

「すいません、神父様。」

腕の中から出て、顔を赤くして消えそうになる小さな声で謝る。それに、悪いことはしてないでしょと言い聞かす。

「神父様が生きていてくれて、良かったです。悪魔に殺されたのだと思ってました。」

「私も殺されると思いましたが・・・何とかなりましたね。でも、私が生きていることは黙っておいて下さい。ここに戻ったと知られると、また悪魔がきてしまうかもしれませんから。」

「わかりました。・・・もう、戻ってこられないのですね。」

「戻れないというのが正確かもしれませんね。」

複雑だと思いながら見せる笑みは、彼女に何かを伝えたようで、目を伏せて自分を納得させようとしていた。

そんな二人のやり取りを見て、ここで彼が好かれていた事実を改めて目の当たりにして、彼らもまた複雑だった。

「それで、ここで何をしていたのですか?リルム。」

「・・・母のことは覚えていますか?」

「ええ。もちろんですよ。彼女は・・・。」

事情を知っていたから、彼女のことは気にかけていた。母親の面影を残す彼女を父親は母親と間違えて認識するようになった。

彼は彼女の母をとても愛していた。それを失った時、彼は壊れてしまった。

そして、彼女を愛した女だと認識し、彼女を外に出さないようになった。

食事の材料の買出しと、生前も母が祈りを神へ捧げるために訪れたこの教会へのみが外へ出ることを許された時間だった。

そんな日常を繰りかえす中で、街の人間はもちろん気付く。そして、引き離そうとした。

気付いた父親は暴れて取り押さえた村人を傷つけた。

その結果、悪魔が取り付いたと言われ、家の奥の部屋に閉じ込められることになってしまった。

グレンディスが連れ去れてていた一ヶ月の間にあった出来事。

やはり、もっと早くどうにかしておけば良かったかと後悔する。

「ギルドゥラは?」

「父が悪魔が取り付いてると言われてから・・・会わせてもらえません。」

「そうか・・・。」

二人は幼馴染でとても仲が良かった。お互いの両親がいつか二人の結婚式を見られたらいいのにと言うぐらいにだ。

「ギルドゥラのところに行こう。」

「でも・・・。」

「私が話しがあるから。ね、行こう。」

差し出された手を戸惑いながらとるリルム。

振り返り、二人に行くぞと声をかけるグレンディス。忘れられていたわけではないのかと、少しだけうれしくなる二人はグレンディスのあとを追いかけるのだった。

着いた一軒の屋敷。前は何度か足を運び、慣れた場所。

チャイムを鳴らし、出てきた使用人に彼の両親と話がしたいと頼むと、リルムの姿を見て中へ通すのをためらっていたが、奥から声が聞こえ、相手が出てきた。

「どちら様?」

一ヶ月と言う月日は短い。だけど、リルムと会って長いのかもしれないと思った。それでも、人はそう簡単に変わらないものだと思った。

目の前に立つ男は、あの頃と何も変わっていない。

「お久しぶりです。ギルバストさん。」

深く被った帽子をとり、相手の目を見る。

「・・・グレンディス・・・神父・・・?」

使用人も男も、グレンディスということを認識すると驚いてた。

「玄関口では目立ちますので、中へ入れてもらえませんか?」

先程とは違った意味で戸惑いながら、グレンディスとリルム、そして連れですと言った二人を中へ通す。

「話は、きっとわかっておられると思いますが、リルムのことと、彼の父親のことです。」

「私は・・・。」

「あの日、貴方が私に話してくれたことは嘘でしたか?」

「違う。しかし、私は・・・私は怖いんだ。彼の妻の死は、神父様もご存知のはず。」

「ええ。彼女の遺体を見つけ、看取ったのは私ですからね。」

しばらく静かな時間が過ぎる。

「実は、彼女の死の前日。私は彼女に会っていました。」

まるで、懺悔のように語られる彼の言葉。

「次の日、彼女が死ぬとわかっていたら、きっと帰るのを止めていた。・・・最後の一言がどうしても気になって、次の日また聞けばいい。そう思っていたんです。」

変わりなく、ただいつものようにお茶を飲み、お菓子を口にして、息子と娘の話を交わしていた。

しかし、帰り際に彼女は言った言葉が、彼女の死と同時に恐怖へと変わった。

「彼女は言ったんです。『娘のことをよろしくお願いします。花嫁衣裳は、真っ白のドレスがいいわ。あと、夫がもし壊れたら、助けてあげて下さい。』と。」

結婚なんてまだはやい。そんなことを言いながらどんな服でもきっと似合うという結論に至り、笑いあっていた。

それが、あの日はこれがいいとはっきり言い、いつもならまた明日ねと言う彼女の口からさようあんらという言葉を聞いた。

「彼女の言うように、彼女の夫は壊れた。彼女は死をまるでわかっていたようだった。夫がこうなることも。なら、私の息子と結婚し、彼女が白いドレスを見に纏った時。何が起こるかと考えると怖くて仕方がなかったんだっ!」

頭を抱え、後悔ばかりで誰にも言うことはできず叫ぶ男。だから、なるべくリルムと息子を近づけないようにした。リルムは悪くないと思っていても、いつか彼女の母に成り代わってしまうかもしれない。

「そうでしたか・・・。では、貴方には真実を伝えたいと思います。貴方と同じように、彼女が誰にも言えなかった言葉を。」

「え・・・?」

「彼女は魔族です。」

はっきりと言い切ったグレンディスに嘘だと男もリルムも、どういうことだとアルシファとエルディーも見る。

「彼女は元々は人間でした。しかし、魔族によって魔族に返られた哀れな人間です。」

「バカな・・・。」

「だから、彼女は魔族の住む町で一人寂しく暮らしていました。そんなある日、こちらの世界への穴に落ちてしまい、帰れなくなってしまったのです。その時助けてくれたのか彼女の夫。」

一人心細く、ここがどこかわからない。魔界に連れて行かれた後、落とされて一人迷子になった。

そんな彼女に久しぶりに手を差し出してくれたのが一人の人間。その時はじめて、ここが自分がかつて暮らしていた人間の住む世界なのだとわかった。

しかし、月日は流れすぎて、自分の故郷は失われていた。そう、あちらにいる間に、時の流れを考えることなく、ただ何もやる気がなく過ごしていた時間は変化がなかった。魔族は人より寿命が長かったからだ。

だから、人間の世界では二百年も経っていたことに気付かなかった。

最初は戸惑いながらも、愛してくれる男に、駄目だと思っても惹かれていった。

「しかし、とうとう時がきてしまったのです。」

「時・・・?」

「彼女を落とした魔族が、彼女を見つけたのです。・・・自分の屋敷に連れ帰るため、現れたのです。」

それはつまり、この世界からいなくなるということ。

「しかし、突然いなくなって騒ぎにしたくないと願う彼女の言い分を聞き入れ、十日の期限をもらったのです。そして、別れを告げ、あの場所に。彼女は片方の翼を差し出し、自分と同じ顔をした『遺体』を作って、去りました。」

「そんな・・・。」

「彼女は常に、家族の幸せを望み、自分の幸せを望まなかった。それを、貴方も知っていたはずです。」

「・・・。」

「私からもお願いです。リルムをこの屋敷に引き取っていただきたい。父親を戻して見せますから。・・・彼は心に隙ができ、貴方達が言うように魔族にとりつかれた。それをどうにかします。ですから、彼女を預かっていただけませんか?」

頭を下げるグレンディスに、少し考えて男はわかったと答えた。

「悪魔は嫌いだが、彼女は私達にとって大切な友人だった。それに、彼女と会えない日々の中で息子もうるさいしね。」

困ったように言う。

その時、窓ガラスが盛大に割れた。

「・・・来たか。」

驚く男とリルム。だが、グレンディスは冷静だった。思ったよりも来るのがはやかったとは思ったけれども。

「前の貴方に戻ってもらわないと・・・ランディアさんも心配してますよ?」

彼女の名前に、動きをとめたそれ。

左手を前にかざし、グレンディスはそれを何もない場所からつかみ、とりだした。

彼が手に取り、始めて人の目につくそれ。アルシファとエルディーもそれを見たのは久々だった。

神が人に授けた力。その力を扱える道具をいくつか世界にばらまいた。

使い手の血を代償に力を発揮する、魔道具と同じ代物。これを使い、彼は何度己の命を危険にさらしたことだろう。

町の人間はきっと気付いていないのだろうと思いながら、やり取りをただ見守っていた。

邪魔をすることをきっと彼は許さないだろうから。

「悪いですが、その人から離れていただきますよ。」

悪魔の名を呼び、拘束する。手に持つ細く長い銀色の十字架はグレンディスに従うように白い風に包まれて剣へと姿を変える。

「あるべき場所へ帰れっ!」

胸を貫く剣。しかし、実際男を貫いているように見えるが違っていた。

『おのれ・・・愚かな人間風情に・・・。その腕の印は餌の印・・・どうせお前はすぐに殺されるっ!そこにも悪魔を連れて、汚れ堕ちたエクソシストめっ!』

笑い叫び、悪魔は消えた。あとは、横たわって眠ったままの男が残っただけ。

「どういうこと、ですか?神父様。」

「まさかっ!貴方も悪魔?!そして、彼女を殺したのも・・・神父様、貴方ですか?!」

グレンディスから距離を取り、ただ見守っていただけの悪魔の二人を睨みつける男。

やはり、戻れないのだ。グレンディスはそう再認識した。もしかしたら戻れるかもしれないと思っていた。だが、現実はそう甘くできていないということだろう。

「私は・・・魔族にはなっていません。しかし、魔族の『餌』であることは事実ですよ。だから、教会へ帰れなくなってしまったんですよ。」

二人を振り返ることなく、そう語る。神に仕える聖職者が悪魔の餌として標的になることは何も珍しいことではない。ただ、誰のものだと刻印を受ければもう教会へは戻れない。

「出て行け・・・出て行ってくれ!その悪魔をつれて、この屋敷から・・・この街から出て行けっ!」

ズキリと痛む胸。見かねたアルシファがグレンディスの肩をつかみ、振り返らせた時に催眠術で眠らせた。

糸が切れた人形のように、重力に従って床の上に倒れる身体を支え、抱き上げる。

そして、睨みつけるように男を見て、その背に黒い魔族の象徴たる翼を広げた。

「愚かな人間よ。私は彼がお前達を守ると言うのなら手出しはするつもりはない。だが、お前等が彼に手出しするというのなら、容赦はしない。」

「俺達がただ、気に入っただけだからね。彼は関係ない。傷つけるつもりなら、あんたを今ここで殺す。」

殺意の篭ったピリピリとした空気が部屋を包み込む。悪魔を前にして、人は無力だ。

「・・・覚えておいて。彼がその身を俺達に差し出している間はこの街に来れるのは魔族の中でも魔王の血族に会うことができない雑魚以下ぐらいだよ。多少なりと頭がいい魔族は絶対にこないよ。俺達は魔王の息子だからね。魔王の息子に歯向かう行為は、魔族にとっては死に等しい。」

「毎日、雑魚を倒して喜んでる人間がいるだろう?ここには、そんな雑魚しかもう立ち入ることができなくなった。その意味、もうわかっているだろう?それに、上級魔族であるのなら、彼ぐらいの力がある者しか対応できないよ。」

神父一人の命と引き換えに、魔族が無闇に近づけなくなった街。

「魔族を汚らわしいと言うが・・・お前達人間の方がよほど汚らわしい。彼ほど、澄んだ気を持つ者がどれだけ減ったことか。その意味、お前等に理解ができるか?」

「それが、何だというんだっ!さっさと消えろ、悪魔め!」

「おじさんっ!神父様が連れて行かれちゃうじゃないっ!」

「ふふふ・・・愚かですね。せいぜい祈っておきなさい。彼が生きている間は彼が私達の生贄として身を差し出す間はこの街は平和でしょうからね。」

行くぞと、エルディーに声をかけ、アルシファは眠り、ぐったりとしたグレンディスを優しく抱き、空へと舞い上がった。

完全に消えてなくなるまで空を見上げ、視界から消えたと同時に、男は床の上に力が抜けたのか座りこんだ。

「おじさん・・・。」

「わかっている。神父様は何も悪くない・・・。だけど、怖いのだ。」

「・・・。」

「君の母親が魔族であっても私はお前が娘のように大事なのだ。神父様にも何度も助けていただいた。しかし、怖いのだ。いつ、あの方が魔に堕ちて襲い掛かってくるか。」

そして、彼の命を代償に守られるこの街に暮らす自分達を思うと、怖い。嵐の前の静けさのように。

 

 

 

 

気がついた時、最近慣れてしまった天井があった。その瞬間、今どこにいるのかが嫌でも理解できた。

身体は重い。十字架を取り出し、『力』を使ったあとはいつもこうだ。

今は目でとられることは出来なくなった模様のある左腕にふれる。ピリピリと引き裂かれるような痛みが時折走る。

そう言えば、あの二人に連れ出された日もこんな身体がだるい夜だった。

「目を覚ましましたか。」

カチャリと扉が開き、こちらへ近づいてくる声の主。アルシファかと呟き、あの後どうなったのかは気になったが聞かず、沈黙から逃れるために話をふった。

「明日、あそこの隣町連れてけ。そっちの方が、作物の種類が豊富だ。」

「わかりました。・・・ただし、今日はゆっくり休んで下さい。」

額にそえるように乗せられた手は優しかった。

「ディーのこと、気に入っているからあの街は手出しさせないようにしてます。ディーはすぐに気にしてしまいますから。」

「変な悪魔だな。」

人間を悲しませたくないから、その人間が守るものを守るなんて、普通悪魔がすることではない。

「ディーを悲しませたくないと思いましたから。あと、貴方が言っていた女の所在わかりましたよ。」

「本当か?」

話に食いつくグレンディス。身体を起こそうとするのを押さえ、アルシファは教えた。

彼女は今、悪魔の街で仕事をしていること。そして、魔族にした者は上級魔族で多少面識があること。

「そうか・・・彼女が元気ならそれでいい。」

あの二つの家族は壊れてしまったかもしれない。だけど、まだ修復が可能なところだってある。

「あいつらが、一緒にいられるならいいのだがな。」

「それはあの馬鹿次第でしょう?」

「くく・・・お前に馬鹿と言われたらあの人は相当哀れだな。何せ、お前は馬鹿だからな。」

馬鹿にしながら笑うグレンディス。しかし、少し悲しげだった。

「ディーが願うのなら私は何でも叶えましょう。しかし、私達から離れることは許しません。その腕輪の証がある限り、貴方は私達のものです。」

「俺はお前等のモノになった覚えはねぇよ。馬鹿野郎。」

もう寝るから邪魔するなよと言うグレンディスの呟きにおやすみと答えるアルシファ。

すぐに小さな寝息が聞こえ始め、ふぅっと息をはく。

さて、どうしたものかと考え始めるアルシファの背後にエルディーとフェンが立った。

「あの女とディー様を会わせる?それとも、人間に忠告しに行く?」

いっそのこと、どちらも消す?と選択肢をつけたすフェンにやめておきなさいと止めるアルシファ。

そんなことをすれば、さらにこの神父は落ち込むだろう。

「でも、忠告は必要かもしれないね。」

「なら、私がいってきてあげる。私は、あの人嫌いだもの。」

ふっと、その場所から姿を消すフェン。すぐに飛んでいってしまう妹に困ったものだと苦笑する。

「人間を手放せなくなるなんてね。」

「元々は、人も魔族も神族も全て同じだったのだから、問題ないだろ?」

「まぁ、そうですけどね。」

立ち上がり、エルディーを振り返る。

「明日は、あの街ではなく隣にある街に出向いてカボチャ探しみたいですよ。」

「そういえば、いろいろあって、カボチャのことを忘れてたね。」

パイ食べ損ねるところだったと呟くエルディーに、くすくす笑うアルシファ。

「ディー。貴方も哀れな人間ですね。」

「確かに。俺達に好かれてしまったからな。」

夢の中だけは幸せをかみ締めていればいい。目が覚めれば、魔界にいるという現実をつきつけられてしまうだろうから。

だけど、自分達と共にいて少しでも楽しいと思ってもらえたらいいなと願ってしまう。

最初はただ、多くの魔族が消されていった情報を聞いてどんな人間かと出向いただけだった。

その後はもういないと思っていた魔術や名前を読める人間として興味を持った。

一緒に過ごすうちに、フェンが気に入ったのがわかる気がした。

自分達でも不思議なくらい、彼を大切にしたいと思うようになった。そして、側にいたいと思うようになった。

それが、彼の幸せを逃がしている原因だとしても。

 

 

 

 

チャイムが鳴り、扉を開けると男も何度か見たことがある少女がそこに立っていた。

「こんにちは、おじさん。」

「いらっしゃい。どうしたんだい?神父様が・・・いや、何でもない。」

「あのね、お話があるの。入ってもいい?」

「あ、ああ。」

何か前あった時と違和感を感じながらも、男は少女を家の中へと招いた。

そこには、リルムとギルドゥラ、すっかり大人しくなったリルムの父がいた。

「リルムの家に行ってもいなかったけど・・・こっちにいたんだね。」

そう言うと、教会で顔見知りであったリルムは申し訳なさそうにして、ごめんねフェンと言葉を返した。

「おじさん。元に戻ったんだって?」

「ええ。神父様が・・・助けて下さったんです。」

取り付かれている間のことは一切記憶がなく、いったいどうなっているのかわからず、事情を全て聞いて顔色を真っ青にしている男をちらりと見て、フェンは言葉を続けた。

「リルムは神父様が好きよね?」

「ええ。お父さんの恩人だもの。」

「おじさんは神父様好き?」

「私は・・・。」

何か言おうとして口を閉ざす。昨日のことを思い出し、整理ができていない心が戸惑うのだ。

「私は今日ね、手紙を届けにきたの。夫と娘と友人宛の手紙をね。」

そういって、三通の封筒を取り出した。

「ランディアさん、ずっと心配してたよ?でも、皆無事で良かったって言ってたよ?」

そう言って、三人にそれぞれ手紙を差し出した。

そこには、ランディアと直筆で名前が記されていた。

「何故、これを・・・?」

「何故?・・・そうね、私も彼女と同じ魔族だからよ。」

くすくすと、それは彼等にとって不気味な笑みを浮かべ、背には黒い蝶に似た羽が広がる。

「・・・っ?!」

部屋にいた四人が皆、驚き、あとずさる。その様子を見て、悪戯が成功した子どものように笑い、忠告を言うのだった。

「昨日、ディー様がここを訪れたこと、他言はしないでくれる?」

「ど、どういうことだっ?!」

「ディー様が生きているとすると、どうなるかわかる?雑魚共が彼を狙うようになるわ。悪魔にとって、ディー様のような澄んだ気を纏う人間って、ご馳走なのよね。あんた達みたいな汚れた人間と違ってね。」

貴方達の知らないところで、どれだけ彼が影の中で戦ってきたからきっと知らない。

「それに、教会も動くでしょうね。下級魔族を倒せるエクソシストはそれなりにたくさんいるわ。そして中級魔族を倒せるエクソシストは何人かいる。でも、上級魔族は指で数えるほどじゃないかしら?しかも、上級魔族といってもその中で階級はさらにわかれるから、中より上はもう倒せないといっても過言じゃないわ。」

「そんな・・・では、人は・・・。」

「上級魔族が本気で人間を相手に支配しにこれば、国なんて滅ぶわ。だって、侵略を止められる人間はほとんどいないんだもの。でも、魔族も愚かではないわ。人が考える事柄に興味を持つ者もいる。だから、不干渉なのよ。」

ぶつかり合うことが、全て解決するとは限らない。力があるからこそ、扱いには気をつけないといけない。人間のように確かに欲はあるが、無闇に行なわない。世界がバランスを崩したらどうなるかを理解しているからだ。

「それにね、ディー様は神が世界にばらまいた数個の神具を扱える人間。つまり、魔族の大半をどうにかできる力を持ってるの。それこそ、神族に劣らない力を持ってるわよ。」

それに、私も昨日あんた達があった二人の妹だから魔王の子息なのよと言えば、恐怖が部屋の中に満ち溢れる。そもそも、魔王を前にして生きていられる人間はほぼ皆無だ。魔王の血族であっても同じこと。

「この街の人間はね、ハンターと一緒になって私のトモダチをいじめたのよね。だから、消してやろうと思った。」

彼女ならこの街一瞬で消せるほどの力はあった。その現実を目の当たりにして怯えるしかない者達。

「でもね、ディー様に止められたのよ。確かに、言葉でやめろとは言われていないけどね。ディー様が悲しむのならって私はやめた。だからあんた達が今生きてるわけだけど。次、ディー様悲しませたら、即殺すから。」

覚悟しておいてねと笑顔で言われても、ただガクガクと身体を震わせて頷くしかなかった。

「じゃあ、忠告もしたし、届ける手紙も渡したし、私は帰るね。」

教会で会った時と同じ、陽だまりのような笑顔。魔族だと言われてもその笑顔は人と同じ。

「あのっ!」

「ん?何?」

「神父様にお伝え下さい。父のこと、本当にありがとうございましたと。」

「わかったよ。」

リルムのことはフェンも結構気に入っていた。素直だし、グレンディスが可愛がるのもわかる。

「それと、また帰ってきて下さいと。来られるとわかったら、パイを用意して待ってますと。」

必死な訴えだが、フェンはそれを伝えることはできないなと思った。グレンディスをこの街へ帰すつもりがないからだ。

「それはできないよ。ディー様は私達のもの。もう、この街には帰さない。・・・その男が言ったもの。『出て行け』とね。」

ばいばいと言った後、ふっとフェンの姿が消えた。ペタンと床の上に座り込み、涙を流すリルム。

「神父様・・・ごめんなさい。」

今はもう、会えなくなったグレンディスの安否を祈ることしかできなくなった。

手紙には、今度、会ってくれるというのなら、扉を五回叩くから開けてと母からのメッセージ。

ぎゅっと抱きしめて、会いたいと願うのだった。

 

 

 

 

二日、寝込んだグレンディス。その間はアルシファとエルディーがかわるがわる介抱をしていた。

「それにしても、半信半疑でしたが、ディーは神具を持っていたのですね。」

「あ、ああ。使うと後がしんどいから使わないで終わらせる方がいいけどな。」

別に、話さなくてもこの二人なら知っているだろうからグレンディスも黙り込むことはない。

これについての書物がいくつか書庫にあったのだ。彼等が知らないわけがない。

「これって、全部でいくつあるんだ?」

「さぁ?正確にはわかっていませんが、十個もないと言われていますよ。指で数えるぐらい。それだけ、強大な力を持つが故に代償として血が奪われる。神具も魔道具も大して変わりませんけどね。」

「そうか。」

「確か、母が言っていましたが、神具はかつての魔王が一つ二つ、すでに壊しているみたいですよ。」

「・・・。」

「もう、数限られたレア物ですよ。それはね。扱える人間もまた、レアですけどね。」

「・・・お前、絶対全部わかってただろ。」

「いえ。そんなことありませんよ。ただ、納得ができただけです。その澄んだ気・・・汚れなき魂を持つ人間しか扱えないのですよ。」

「やっぱりわかってたんじゃねーかよ。」

「違いますってば。困った人ですね。汚れなき魂を持つ者は数少なくなった世界の中で、その者が必ずしも神具を持っているとは限らないのですよ。扱えもしないのに教会の人間が持っていることが多いのでね。」

「そうか。」

秘宝のように、徹底的に管理されたものがあるという噂は聞いた。

それが何なのかはわからないが、神が下さった人を救う力の源だと言っていたのは覚えている。

きっと、それがそうなのだろう。

「そろそろ、行きましょうか。フェンも待ってますよ。パンプキンパイ。」

「馬鹿その1も食べるのか?」

「カボチャ探しの日にちゃんと言ったでしょう?」

「聞いてない。」

「・・・なら、パイは我慢しますから、ディーをいただきますよ?」

「・・・それは困る。」

ペシっと触れる左手を叩き落とし、ベッドから出る。

「邪魔したら、お前の分はないと思えよ?」

そう言って、キッチンへと向かう。そこにはカボチャを持って待ち構えていたフェンとエルディーがいた。

昨日、無理やり連れて行かせて選んできたカボチャ。

作るぞと白いエプロンをつけて、カボチャを調理しはじめる。

その間にエルディーはつまみ食いする。フェンは何を作っているのか聞いてきて、答えたらすごいとはしゃぐ。帰れなくなったとしても、今はここにいて楽しいかもしれない。

「っておい。つまみ食いはやめろと言っただろうがっ!このバカその2!」

「何でフェンと扱いが違うのさ?」

「当たり前だ!お前等など、バカその1とその2で十分だ!」

うがーっと吼えるように威嚇するグレンディスの腕をつかみ、抱きしめるアルシファ。

「お前、何がしたいんだ?」

「いい加減、アルと呼んでくれませんか?」

「はぁ?そんなこと言ってくる間はお前はバカその1だ。さっさと離れろ!やらんぞ。」

自分達の分はしっかりと数にいれてくれている。もしかしたらすっかり忘れてなくなっているかもしれないと思っていただけに、少しうれしくなる。なので、即座に離した。

とりあえず、今日もグレンディスは平和な日々を過ごしながら、悪魔達と言い合いをするのであった。

 





あとがき
悪魔はどうも神父に甘いらしい。