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この世には聖なるものと魔なるものと人が存在する。 交じり合えば、争いが起きる種族達。 だから世界を三つに分けた。 しかし、争いを好み、人を貶める魔は魔界にだけ留まることはなかった。 常に人や聖なるものでさえも、囁きかけて誘惑し、魔へと落とす。 時には、残酷な事件となって人々に影響を与えることもある。 そして人は同じ人でありながら、神の使者とされる教会の者に助けを求めたのだった。 悪魔に懐かれた神父 都心部から外れた小さな町。その町外れにも小さいが教会があった。 優しく、笑顔でいつも無理を頼んでもいいですよと受けてくれる神父がそこに住んでいた。 悪魔が出たとなれば、彼がいつも退治していた。だから人柄もよいし町の人々は彼を信頼していた。 しかし、彼は身体が丈夫ではなく、悪魔を退治した際はふらふらして危うい時があった。だから、彼等は心配するのだが、大丈夫ですと神父がいう言葉にそれ以上しつこく言うのはやめ、ただ大人しくしていた。 実際、悪魔を退治する際に自分の気を使うために、神父は感覚がすぐに取り戻せずにふらふらしているのだが、実際辛いのでそういって放っておいてくれるのならそれにこしたことはない。 だから、よっぽどのことがない限りはゆっくり休みたいと言う神父の意思を尊重し、教会に足を踏み入れないように町の人々はしていた。 ただ、朝と夕方の祈りを捧げる時間だけは神父の様子も気になるのか、訪れる人がいるけれど、それ以外は教会はまったく人気がなく静かであった。 その日も、助けてとやってくる町の人の声に応え、悪魔を数匹退治した。一匹逃したが、現れたらすぐに退治するつもりで、町の人と別れて教会に戻った。 もう日が暮れてしまい、魔の者達の時間がはじまる。よっぽどなことがない限り夜の外を歩く馬鹿はいない。神父もまた、疲れもあって休もうと寝室へと向かうのだった。 蝋燭の明りがゆらゆらと教会の廊下を照らす。その明りだけを頼りにし、神父は寝室の扉を開けた。 この時、いつもなら気付くというのに、疲れていたからか下級悪魔ばかりで油断がどこかにあったのか、神父は気付かなかったのだ。 昼間の悪魔騒動は故意に起こされたもので、自分があれぐらい倒せるか否かを見られていて、今この部屋に戻ってきた自分を待ち構えている高位悪魔の存在に。 以前から、この町で騒動を起こす悪魔がたくさん消えていくことを知ったある二人の悪魔が、噂の神父を見ようとやってきていたのだ。邪魔ならば、今晩消そうと思いながら。 入ってきたのを確認し、神父の姿をずっと見る目に気付かないまま、ベッド横にあるテーブルに蝋燭台ごと起き、ふっと火を消す。 そのまま、ベッドの上に寝転がろうとした時だった。 ガタリッ 「・・・っ?!」 音に反応し、即座に音がした窓際から離れようとしたが、背後に現れた気配にぶつかり、腕をつかまれる。 そして、目の前にも後ろと同じで顔が見えない何者かがいた。 こんな時に盗賊とか考えて捕らえるなんてこと、考えない。気配がもう、人ではないのだからこの二つの影は悪魔だ。 窓からの月光ではっきりと見えないが口元に浮かんだ笑みが腹立たしい。 「何者だ、とか言ったり、騒いだりしないんですね。」 「男だと聞いていたけど、思ったより綺麗な顔してるな。」 今すぐ黙れとぶん殴ってやりたいが、二人が今まで出会った下級悪魔とは比べ物にならないぐらいの魔力があることに気付き、ぎりっと歯を食いしばる。圧倒的に不利だとわかったからだ。 何せ、こいつらは本来なら入れないこの部屋に入れたのだ。 悪魔には階級が三つある。三つに分けた中から、さらに分けられる。 上級悪魔だとしても、その一番下っ端ぐらいまでならこの部屋に入ることは出来ない。それぐらい自信のある結界の守りだったはずだった。 だが、入ってきても息一つ乱れない二人。さらにこれでも魔力を抑えているのだ、この二人は。 それが余計に腹立たしい。そして、下手なことはできないとわかっていた。 この時、どれだけこいつらがただの盗賊で人間だったら良かっただろう。そう思った。 「・・・お前等は、何者だ?」 その問いに、面白そうに目の前にいた影が動き、近づいた。そこではじめて相手の顔を見た。 「盗賊です・・・なんて応えたら怒りますか?」 「当たり前だろう。私が知りたいのは、悪魔かどうかではなく、位置する場所だ。」 神父の半分はやけになったような問いかけ。それにくすくす笑いながら面白がる悪魔は言う。 「なかなか、最近では見られなくなったまともなエクソシストってわけですか。」 神父は、悪魔を退治するためにエクソシストとも呼ばれる。だが、今は本当に宗教的に神に対する教えを語ったり、教会で巣くう権力者のような愚か者ばかり。本当に退治する力を持つ者は少なくなっていた。 何より、悪魔の位置をしっかりとわかることができる者はもうほとんどいない。それはつまり、相手の実力がわかるほどの者はいないに等しいということだ。 下級悪魔を退治しただけでうるさく騒ぐ奴等ばかりなのだ。今まで下級悪魔だから彼等にも対処できたのだろうけれども。上級に近くなるほど、下級のように馬鹿騒ぎをして人に見つかることも退治されるというヘマもしないのだけれども。 今、神父の目の前にいる悪魔はそんな可愛らしいものじゃない。悪戯程度ですませて少し退治の仕方を知れば倒せるような相手ではないのだ。 つまり、言いたいことは彼等は上級以上の悪魔なのだ。 悪魔の中には特殊なものもいる。退治できない悪魔だ。 何故退治できないかというと、強大すぎる力のせいで、こちらもあちらも滅ぼすのだ。それでもやろうと思う者はいない。下手すれば町が一つ吹っ飛ぶぐらいの力のぶつかり合いになるからだ。 そんなことになれば、多くの命が奪われる。 だから、悪魔を退治するのではなく封じるのだ。人の世へと出て来れないようにする道しか人には残されていない。 その対象となる悪魔は、魔界の王と王位を継ぐ位置にいる後継者達だ。 そう、上級以上の悪魔。目印は彼らが身につける、ものの中に必ずある。 目の前の奴はペンダントで後ろの奴は自分の腕をつかんでいる指にはめられた指輪といったところだろう。 魔界の王たる者を証明する模様がそこに彫られている。 「このペンダントの意味がわかるのですか・・・。成る程。」 自分達の正体に気付いた神父に気付く。これは本当に面白い。もういないと思っていた。見分けがつき、わかる人間などいないと思っていたのに、こんなところにまだ残っていた。 彼だからこそ、悪魔達はことごとく退治されていったのだろう。確かに下級悪魔ではこの神父には数で向かっても勝てないだろう。 人が自分達のような存在を恐れると同時に、悪魔はこの神父のように強大な封じる聖の力を持つ者を欲すると同時に恐れる。 「キレイな蒼い目だ。まるで宝石のようだな。・・・名は何という?」 「誰が、教えるかよっ!」 女なら、速攻応えてしまうかもしれない、誘惑の笑み。だが、神父はそんなことで動じるはずもなく、何より名前が意味することをわかっているからこそ、教えるわけにはいかない。 殺される気配が今はないにしろ、どのみち状況はよくない。 離せと、腕を振り払って背後の悪魔を肘でわき腹を思い切り押す。だが、上手く避けられ、背後の悪魔の両手が神父の喉を掴み、ギリリと絞められる。 「・・・っく・・・ぅ・・・。」 両手で悪魔の手を掴み、酸素を求め、妨害となる手を引き離そうと引っ掻くが酸素が手に入ることはなかった。 だんだんと、意識が遠くなっていくのを他人事のように感じ出す。抵抗する力ももう入らない。 「殺すなよ?」 「わかってる。せっかくの獲物だからな。勿体無い。」 ふっと、喉を圧迫する力がなくなった。しかし、その場で立っている力も足の感覚もなくなっていた神父の身体は床の上に倒れようとする。 その身体を、床に倒れないように支える腕と頬にあたる胸がある。それが悪魔のものだとわかっても、しばらくはただ酸素を求め、抵抗することさえできなかった。 荒い呼吸も落ち着きだした頃、何とか逃げなければいけないと抵抗しようとした神父を身体をささえていた悪魔が肩に担ぎ上げた。 「ここじゃゆっくりと話ができないですから。少し移動しますよ、神父さん。」 「邪魔がまったくはいらないというわけでもないしな。」 町の人間はこんな夜に非常識にも訪れることはない。悪魔が現れた場合だけ、彼等はここへやってくる。だから、もしもに備えるなら、この場所にいない方がよい。 おろせと、切れ切れながらに言う神父の訴えは無視する。 すっと背中に広げられた黒い翼。それが神父の頬に触れる。 「私の城へ招待するよ。神父さん。」 城。つまりこの悪魔の住処。それはすなわち逃げ道はまったくないということだ。ここで連れて行かれてたまるかと抵抗するががっしりと腰に回った腕で肩に担がれたまま離れることはできなかった。 もう一人の悪魔が神父の顎に手をかけ、左手で背中に触れた。 その瞬間、身体が自分のものでないかのように、動かなくなった。どうしてだと考え、いきついた答え。以前、本で読んだことがあったそれを見て、そして体験する日がくるなんて思いもしなかった。 これは、人では見ることができない鎖。獲物を捕らえるために悪魔がよくつかうものだ。 「今宵は楽しい夜になりそうですね。」 「夜はまだまだこれからだしな。」 今はゆっくりおやすみという声が聞こえた。 すると、だんだん遠くなる意識。だめだと思っても催眠術にかかったのか意識が保てず、ぼんやりした中で二人の会話が聞こえる程度になった。窓枠に足をかけ、外へ飛び出し、翼を広げて舞い上がる。 教会から外に出た。神父の意識はそこまでしかなかった。 殺される。そう確信した神父。だから、目が覚めた時は逃げられない場所で殺されるのだと思っていた。 しかし、悪魔達は殺すつもりはない。 神父からしてみれば、殺されていた方が幸せだったのかもしれない。 今はもうわからないけれど。 すでに選択肢はなくなっているのだから。 どれくらい意識がなかったかわからない。 ふと目を覚ませば、まだぼんやりして今の状況を理解していない。だが、次第にクリアになっていく思考から、今自分の身体が浮いているということに気付いた。 悪魔に担がれているのだから、悪魔が飛んでいたら自分が今空を飛んでいるのなんてすぐに思い出せた。 下を見れば、同じようでまったく違う世界にすでに入り込んでいることがわかった。確かに紙一重な世界。だが、人の世にはない生物が地上を彷徨っている。 そして、とうとう大きな黒い城が見えた。 入り口の門から入らず、上の方のどこかの部屋の空いている窓から中へ入った。 ふっと、背中の翼が消え、動けないようにされたままの神父は部屋の奥にあるベッドへ丁寧におろされた。 ベッドの上で殺されるなんて、どういう趣味してるんだこの悪魔どもはと心の中で文句を並べるが、一向に二人は動かず、さすがに何故だと思うのだった。 その時、ふっと、身体の自由を奪うそれがなくなったのか重くだるい腕が動く。 余計に悪魔が何を考えているのかわからなかった。もしかしたら、逃げる獲物を追いかけて追い詰めて殺すと言う悪趣味な奴等だったのだろうかと思うと、最悪だと自然に声に出ていた。 「最悪かどうかは・・・これから変わるかもしれませんよ。」 上半身を起こした神父の前にいる悪魔。両足をまたいで上にいるため、後ろに逃げようかと思ったが、すでにもう一人の悪魔が背後にいた。 「・・・殺すなら、さっさと殺せっ!」 やけになっている神父の頬をがっちりと悪魔が押さえ、奴の口と己の口が重なった。 「っ?!・・・は・・・せっ・・・。」 抵抗しようとしたが両腕は後ろにいる悪魔にがっちりと掴まれて振りほどけない。 その間にももう片方の手で神父の服のボタンに手をかけ、といていく。 「・・・や・・・めっ・・・。」 普通に比べ、体力がない方でもない。しかし、悪魔を退治した後は普通の人間より劣る。 しかも、それなりにしっかりとした体つきをしている悪魔が二匹。しっかりと押さえつけられたら逃げることは不可能で、ここまでくれば自分がどんな状況に陥っているかぐらい神父にもわかった。 神に背く、背徳の刻印。 背後にいた悪魔が神父の首筋に吸い付いた。噛み付かれたのではないかと思う程の痛さが首筋に走る。 ちょうど口を塞ぐ悪魔の口が離れ、神父は痛みから声をあげていた。 抵抗しても、逃げられない。蜘蛛の糸に絡め取られた蝶。 所有の証に紅い華が首筋に開く。 「綺麗な身体ですね、神父さん。綺麗すぎて眩しいですよ、本当にね。」 「よく、今まで何もなく無事に生きてこれたな。」 「神父さんが『強かった』から手を出す輩がいなかったからですかね?」 悪魔のその笑みが気味が悪い。それでなくても屈辱と羞恥心で今すぐこの場から去りたいのに、それが適わない今、腹立たしくて仕方ない。 「そろそろ・・・名前を言う気になりましたか?」 「・・・なるわけ・・・ないだろっ・・・!」 「結構強情ですね。」 「それも面白いけどな。」 くくくと笑う背後の悪魔がペロリと耳を舐める。その感覚がとてもこそばかしいと同時に気持ち悪い。だが、名前を言うわけにはいかないのだ。 だが、神父はまだ完全に不利というわけではない。やっと、やつらが持つペンダントと指輪に刻まれた印を『読めた』からだ。 この世界では名前が大きく左右する。この悪魔達も神父もよくわかっていることだ。 「・・・加護・・・我に・・・アル・・・シファ・・・リード・・・ベルティ・・・ク・・・っ拘束する!」 小さな呟きが途切れ途切れながらつむがれ、自分の名前だと気付いたときには弾き飛ばされ、背後の十字架にからめとられているのに気付く。そのことに慌てるどころか、面白いと笑う悪魔。 「正体に気付き、名前を知ることができるなんて・・・面白い神父さんだね。」 ますます気に入ったと、拘束を破る呪をかけ、その間に、次の言葉を紡がれる前に背後の悪魔が首を絞める。 強く締めれば、言葉を紡ぐことはできない。 「・・・っく・・・ぁ・・・。」 「それぐらいにしておきなよ、エル。」 「わかってる。」 首を絞める拘束を解いたと同時に、神父の両腕を頭上で絡めとり、動きを封じる。 「もしかして、ペンダントの印、読めるの?」 「・・・う・・・さい・・・読め・・・たら・・・何だって言うんだ。」 「へぇ・・・。」 まだ抵抗する気なのか、瞳の奥に意思の光がしっかりと輝き、二人は興奮する。ここまで、自分達が手を煩わせ、最後まで抵抗する気のただの人間。そんな人間はもういないと思っていた。 出会う人間は聖の者であっても、命乞いをする。それが面白くなかったのだが、この神父は違っていた。 だから、余計に気に入ったのかもしれない。 元から持っている魔が好む綺麗な容姿に甘く誘われるその気。まさしく魔にとっての極上の獲物。これを堕として汚せばどうなるかと興味がそそられる。 聖にすらもういないかもしれない程の神が生み出した芸術品のような人間。 嫌いだが、神様はこの男が自分達の手に堕ちたらどう思うだろうか。そう考えると少し面白くなってくる。 アルシファは神父をうつぶせに倒し、ズボンと共に下着を取り去り、すっと硬く閉ざされたその場所に触れる。 動けないことであせっているのか、この格好が屈辱的なのか。顔を赤く染め、目をつむって指でシーツを掴む神父。 何をされるのかは想像がついても、知識はまったくないのだろう。この後に待つものが何なのかわからず、ただ怯えてじっと蹲る。それが何だかいけないことをしているようで、実際しようとしているのだし、二人にとって神父は獲物なので間違ってはいないが、何だか可愛そうに思えてくる。 こんな趣味ではなかったはずだがと思いつつも、ここで逃すつもりなどない。 つぷっと、アルシファの指先が誰にも暴かれずに硬く閉ざされたその先へと押し入る。 突然の出来事にパニックになりながら、抵抗し始める神父。 「いい眺め。」 「ふざけるなっ!お前等ごときにやられるぐらいなら死んだ方がましだっ!」 「死なせるつもりないから大人しくやられて下さいよ、神父さん?」 暴れないでねと、頬をがっしりと捉えるエルディー。そして、何事と少し開いた神父の口に己のものを無理やり押し込んだ。 「・・・んっ?!」 「おや?何をされるかもうわかっておられると思ったのに。・・・同姓同士の場合ならここを使うのですよ、神父さん。」 わざとらしくいってやれば、かぁっと赤くなる神父の顔。それがまた面白い。抵抗されればされるほど、追い詰めたくなる。 神父は神父で両手首は見えない何かに縛られたまま自由がきかない為、この後どうなるのかわからない見えない恐怖というものから逃れようと必死だった。抵抗しようとしても、抵抗する手は身体を支えるので精一杯で、二人にされるがままとなるのだが、それでも逃れようと必死だったのだ。 「口を塞いでしまっては、声が聞こえないじゃないですか。」 「いくらでもこれから聞けるだろ?」 「・・・それもそうですね。」 「で、神父さん。銜えてるだけじゃ終わらないよ?」 本当に何も知らないんだねと言い、エルディーは要求をするが、神父が受け入れることはない。 「上の口も経験まったくないみたいだ。・・・躾するのが大変そう。」 「こっちも、切れるかもしれませんね。」 物騒な会話をしている二人。だが、神父は聞いている余裕がなくなりつつあった。 「ん・・・っ・・・。」 「人魚の涙が真珠なら神父さんは天使の涙かな?」 すっと、目尻にたまった涙を指で拭い取るエル。 「経験なくても、神父さんも人間だったのですね。身体は快楽に正直ですよ。」 くすくすと笑うアルの言葉に羞恥心を煽られ、その反応を見て二人は楽しむ。 「・・・ふ・・・ざ・・・け・・・なっ!」 完全に快楽に堕ちず自我が残る神父は抵抗し、言葉を投げつける。しかし、すぐに咳き込む羽目になる。顔を押さえつけられ、喉につっかえる程押し込まれるそれによって。 「口が悪いですね。それが本性ですか?神父さん?」 先程からすでに口調は町で慕われる神父の優しいものではない。分かっていながら今更言ってくるのが余計に腹立たしいが、抵抗しようにも何も出来ない自分がもっと腹立たしい。 「でも、そんなところも好きですよ。ただし、減点対象ではありますけどね。」 自分達に悪意を向けられるのは別になれている。だが、面白くないのは誰でもが感じる感情だ。 「無駄口・・・叩く余裕あるなら・・・もっと上手くやればいい・・・だろ。」 「へぇ・・・。まだ余裕があるのですか。」 「てめぇ・・・ら・・・お・・・と・・しく・・・封じられ・・・ろっ!」 「封じられるのは退屈なのでお断りですよ。代わりに、神父さんの行動範囲を作ってあげますよ。」 この城と支配下にある『庭』だけが、彼の行動できる範囲にする。そのために名前が必要だ。 すっと、指を引き抜く。突然の損失感に少し戸惑いを見せる神父を背後から抱きしめるように覆いかぶさり、右腕に触れる。 「ここに、貴方が誰の物かわかるように名前を刻んでおきましょうね。」 すっと撫でられたところが急に熱を持ったように熱く、焼けるように痛い。 「っ・・・くっ・・・あぁっ!」 形をみせたそれは、黒い輪。そこにぼんやりと浮かび上がる、悪魔と同じ印。目の前の奴と背後にいる奴の二つ分。 「そろそろ、名前を言う気になりましたか?」 「誰が言うかっ!」 「そうですか・・・。まぁ、時間はたくさんありますからね。夜もまだこれからですから。」 楽しみましょうと、指の圧迫感がなくなったそこへ、指よりも大きなものが入り込む。 裂けてしまいそうな痛みに歯を食いしばりそうになるが、それを目の前にいる悪魔が許すはずもなく、あがりそうになった悲鳴も声にならず消えた。 「・・・切れてしまいましたね。痛いですか?」 「・・・黙れっ。」 挙句に自分ですら触れることのない己のものに触れる手。悪魔の思い通りになるかと思っても身体の自由はきかず、次第に快楽を追うようになっていく浅ましい身体。 今まで、いきつくことなどなかった絶頂。行為の意味を知っていたとしても自分とかかわりのないものだと思っていたもの。 熱い欲望の熱が己の中に吐き出されるのを感じると同時に、己自身もまた解放感と快楽が身体を支配する。 そして、抜かれたと同時に吐き出しそうになった口を無理やり閉じられ、それを飲み込まされる。 結局全てが喉を通ることはなく、こぼれてしまったけれど。 「処女損失の感想はあります?」 「・・・お前等・・・死ね。」 「物騒なこというね。で、名前言う気になった?」 「んなわけ・・・ねぇだろっ!」 いつの間にか右腕には黒い腕輪はついているものの動けることで、殴りかかる。 しっかりとよけられて腕は掴まれるが、負けじと睨み返す。 「ならば・・・素直に名前を言えるぐらい、快楽の中に堕としてあげますよ。」 ある意味死を宣告されたようなもの。 アルシファの欲望の熱でぐちゃぐちゃにかき乱されたその場所。交代することから、次のことが想像でき、真っ青になる神父。 悪魔達の夜の宴はまだはじまったばかり。 外が少しずつ明るくなり、日差しが窓から部屋の中へと届く。 明るくなり始めるまで散々行為を強いり、ぐったりと意識を失った神父を二人は身を清め、ベッドの上に寝かせた。 自分達と体格が違うため、着せる服がなく、彼は何も身につけてはいない。薄手の黒いアルシファの上着をかけられているだけ。 自分の趣味ではないが、彼等の地位となると媚を売る馬鹿が少なからずいる。好意を持ってただそれだけのために持ってきて何も言わず去る者もいる。この上着も置いていった物の一つだ。それなりに使える物もあるため、彼等は使う。もちろん、本来の使い方をされているものはほとんどないけれどもだ。 「目を覚ます気配なしだね。」 「そりゃ、今朝方まで無理を強いりましたからね。」 とりあえず、寝顔を堪能する二人。 そこへ、窓からひらひらと黒い蝶が舞い込んだ。黒地に蒼い模様の線が入った綺麗な蝶。 それに気付いたアルとエルがお帰りと声をかければ、ぐにゃりとまるで水に映った像が波紋を作ったかのように蝶の形が歪んだ。すると、それはだんだんと人の形を作り、少女の姿へと変わった。 「ちょっとー!二人とも何してるのー!」 「「フェン?」」 最近ずっと城に帰ってこなかった妹が、珍しくやってきていきなり怒るのでどうしたんだと首をかしげる二人。 彼等の妹なのだから、立派な後継者の一人なのだが、この二人がいるので彼女は一切王座に興味がなかった。 「神父様さらうなんて何考えてるのよ!」 「知り合いなの?」 「知ってるも何も、神父様会う為に私は気に入らない人世に行ってたんだから!」 二人の馬鹿と怒鳴り散らす少女。 「え?」 それは初耳だった。というより、いつ出会ったというのだろうという疑問の方がわいてでた。 「神父様は他の馬鹿神父と違うんだからねっ!」 「あ、それはわかってる。手懐けるの大変そうだよね。」 「無駄に強いですしね。」 「当たり前でしょ。私の恩人なんだから。」 「え?」 また疑問がわいた。恩人ということは、何かあったのだろう。しかし、彼女がそこらの馬鹿にやられるほど可愛い性格はしてない。 理由を尋ねると、後継者だと知らない馬鹿に囲まれて退治していた際、雨が降っていたので足場が悪く、その日ヒールのある靴だったのであやまってすべった。 あやうく命はとられなくとも怪我しそうだったところを神父に助けられたのだという。 しかも、馬鹿どもが街で悪さした後だったらしく、人間がうじゃうじゃと集まりだしていたところで、教会に匿ってくれたというのだ。 「神父でエクソシストやってるくせに悪魔助けたわけ?」 「無闇に退治しないのよ。ただ、魔界に強制送還するか、罰として天界の監獄に強制送還するどちらかをいつもやってるのよ。消滅させることは一度もしなかったわ。」 「へぇ。神父さんならできそうなのにね。」 「出来るからこそ、無闇に使わないんじゃない。バランスを崩してしまうから。」 「わかってるんだ。」 ますます面白い人間だなと思った。 それに、フェンにはもう一つ恩人に至る話があった。 それは魔獣を捕らえ、見世物やその皮や角を狙うハンターに狙われた日のことで、二人も怪我してないかと心配していたあの日だった。 ハンターごときフェンにならどうにでもできた。しかし、ハンターに対抗できない魔獣達を逃がした後で、逃げ切っていないうちは下手に行動するのはよくなかった。 もし、全員仕留めようにも一人逃げたとし、そいつが逃げ遅れた魔獣を見つけて狩ってしまったら・・・そう考え、ただ的になるように感覚をあけて逃げていた。 その際に運が悪いのかエクソシストまで現れたのだ。ハンターの中に知り合いがいたのか、偶然だったのか。魔族の自分を狙いはじめた。 さすがにそろそろ奴等を殺すかと思い、物陰に隠れていた時だった。 あの神父が突如背後からフェンの腕を掴み、さらに置くの茂みまで連れて行った。そして、毛糸で出来た帽子を深くかぶらせ、上に来ていた白い毛皮のコートを黒いコートに変えさせ、手を引いて教会まで歩いたのだ。 もちろん、途中でハンターとエクソシストに会った。 彼等は神父のことは知っているようであったが、お互い好いている様子はなかった。 しかも、神父のことを腰抜けと言ったエクソシストは殺してやろうかと怒りがこみ上げたが、神父が目線でやめとけと言うので大人しくこらえた。 外はまた雨が降り出し、教会で雨宿りをして、彼が作る夕食を口にして、夜中帰宅した。 その後、あのむかつくエクソシストをこっそり後をつけた。はっきりいって、口で言うほど強くはない。口だけに近いような奴だ。 こんな奴のために、仲間が傷つけられた。その事実がフェンの怒りにふれる。 背後に忍び寄り、魔界に連れ去った。もちろん神父には気付かれないようにしてだ。 そして、命乞いして逃げ惑うのを見学していたが、すぐに飽きた。こんな奴の悲鳴を聞いても虫唾が走るだけ。 森に放置してフェンは神父のいる教会へと向かった。その後どうなったかは知らないが、たぶん生きてはいないだろう。 「相変わらず、えげつないことしてますね。でも、フェンも気をつけないといけませんよ?」 「あんまし外の奴つれてくるなよ?調子にのる馬鹿が増えるから。」 「わかってるわよ。とにかく、神父様は恩人でお茶のみ仲間なの。」 「はぁ?」 一応補足しておけば、この二人はシスコンである。といっても可愛い度合いのものであるけれども。 怪我すれば心配するし、帰ってこないと探しに出かける。 あの日も、もう少し待って帰ってくる気配がなければ探しに行こうと思っていたのだ。 最近はどこにいっているのかわかっていたので干渉せず放っておいたので、帰宅が珍しいというが、結構出たきり戻ってこないのは気になっていたりする。 「これで神父様が自殺を考えたら二人のせいだからねっ!」 「あ、それはさせない。」 「問題ありませんよ。気に入ってますから。」 そんな勿体無いことするわけがないと言う。だが、フェンはそれが問題ではなかった。 「ちょっとっ!私が先に目をつけてたんだからね。」 「早い者勝ちです。」 「そうそう。それに、四人でこの城に住めばいいじゃん。」 「それもそうだけど・・・。」 哀れにも、魔王後継者の三人に気に入られた神父は一生逃げられないかもしれない。 ちらりと神父の右腕を見る。そこには二人の名の印が刻まれた黒い腕輪がある。 むくれながら、フェンは左手をその腕輪ふれ、己の左手にある指輪と同じ印を神父の腕輪に刻み込む。 「まだ、己の所有の印をつけてなかったのですか?」 「つけてるか否かなんて、二人ならわかってたでしょ。」 「確かにね。」 その時だった。 「・・・っ・・・ん。」 神父が身じろぎ、瞼が開かれる。ぼんやりとした蒼い瞳が天井を見上げる。 「神父様。」 「・・・フェン・・・ですか?」 「はい〜。」 身体を起こし、何故フェンが目の前にいるんだろうと考える神父の視界に、思い出したくもない現実を思い出す原因が目に入った。 「はようございます。」 「やっと起きたね。」 ピシッと石になったかのように一瞬固まる神父。 「・・・っ?!テメェ等!! 状況を思い出して殴りかかろうとしたが、急に昨夜二人に付き合ったせいでずきっと痛む身体のせいで再びベッドの上に戻るはめになる。 それを心配そうに呼びながら覗き込むフェン。 「って、何で服着てない?あ、フェン離れてっ!」 とりあえず自分の身体の上にかけられている薄手のコートをつかんで見られないように隠すものの、あまり意味がない。 しかも、フェンは離れない。悪魔とわかっていても一応は女の子だ。そして神父は男だ。かなり男女関係に関してはうるさい中で過ごしてきた神父はただあたふたするだけ。 その間にいつの間にか近づいてきた二人に左右の頬それぞれにキスをされ、離れろと殴りつけてやるつもりがあっさり避けられて余計に腹が立つ。 この二人と会ってから腹の立つことばかりだと考えていると、目の前に一着の服が差し出された。 「はい、神父様。」 それは明らかに神父が着ていた仕事着ではなかった。つまり、この悪魔達のものということだが、ないよりもましだ。 それを受け取り、袖を通そうとしてはたと気付いてフェンに後ろを向いていてと頼む。でもって、二人には部屋から出て行けと言う。 まぁ、出て行くことはないので、とりあえず後ろを向かせてその間に身体は痛むものの必死に着込む。 自分の趣味ではない、何だか男物ではなさそうなその服。 あの二人の昔のものだろうかと考えるがすぐに違うだろうなと頭を横にふる。 そして、袖を通したそれ。中はズボンではなくスカートだったのに気付いた時は二人を怒鳴りそうになったがどうにかこらえ、とりあえず着て訴えることにした。 「着替えおわりました?」 「ああ・・・だけどこれ・・・。」 「神父様似あいます〜。」 キャーっと騒いでフェンがまた飛びついてきた。危うくベッドに押し倒されそうになるのに耐えたところで二人が戻ってきた。 「おいっ!俺の仕事着どこやりやがったっ!」 「だから、ありませんよ。魔界において、貴方の仕事着は神父ですと名乗ってるようなものですから、処分しました。」 「勝手に人のもの処分してんじゃねーよ!」 「ソレ似あってるからいいじゃん。」 「よくねー!」 誰がスカートなんて穿くか文句を言い、仕事着である上着の下に着ていたシャツやズボンを要求する。 「それなら・・・。」 と、渡されたそれを速攻奪い取る。それは間違いなく自分がここへ連れてこられる前に着ていたものだった。 「でも、今日一日はそれでいて下さいね。」 「はぁ?」 「それとも、私たちの前でストリップショーでもされるんですか?」 「・・・。」 それは絶対に嫌だった。服をぎゅっと腕に抱きしめて、歯を食いしばる。 「・・・お前等が殺す気ないなら俺は帰る。」 こんなところにいたら身体に害しかない。フェンは相変わらずくっついたままだが神父は立ち上がって部屋から出ようと足を出す。 それを止めるのはアルの声。 「帰るとは・・・どちらに帰るおつもりですか?ねぇ、グレンディス・カルタルト神父。」 「・・・っ?!」 「私達が帰さないと、帰れませんよ?」 口にした覚えがないというのに、彼は自分の名前を知っている。 「な・・・っんで?!」 「今朝方やっと名乗ってくれまして・・・この城と支配する庭の範囲からは出られないようにその名前で封じさせていただきました。」 にっこりと笑顔でそんなことを言われても絶望的な思いだ。帰ろうとしても、その名前が刻まれた術を壊さない限りはこの城から出ようとしてもループするように戻されると言うことだ。 「神父さんだって俺達の名前知ってるからおあいこでしょ?」 「んなわけあるかっ!」 「フェンの前では大人しいのに・・・そんなに私達が嫌いですか?」 「当たり前だろうが!誰が好き好んで馬鹿悪魔好きにならなきゃいけねーんだよ。」 「神父様・・・。私も?」 「あ、フェンは別だから。」 しゅんとしたフェンにそうやって気配りできる神父。すぐにぱぁっと花が咲いたように喜んだフェンがぎゅっと神父に抱きつく。 「フェンだけずるい。」 「ひどいですね。」 「何がひどいんだよ!テメェ等の方がひどいだろうが。人を誘拐しといて何言ってやがる。」 「悪魔は人の気を食べるものだからいいんですよ。」 「よくねぇつ!」 「嫌われてしまいましたね。」 「だね。」 「お前等に反省するっていう言葉はねぇのかよ。」 全てにおいて最悪だ。これならさっさと殺してくれた方がましだ。 「神父様と今日から一緒だね。」 「そうだな。」 「仲良くしましょうね。」 「俺達がずっと可愛がってやるから。」 その発言にぷちっと何かがきれる。 「俺はテメェ等の玩具じゃねぇー!!」 彼の苦悩はまだはじまったばかりである。
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