序

 

 静かな夜は唐突に騒がしくなる。

 何者かによって、事件が起こったのだ。それも、世界を騒がすような大騒動だ。

 天界と地界の間にある、全ての世界の均衡を保つ柱というべき宝玉が、盗まれたのだ。最大機密にされて隠されているそれは、厳重に保管されていたはずにもかかわらず、いとも簡単に盗まれてしまったのだ。

 気付いた者達は、慌てて正体のわからない犯人を追いかけた。

 彼等とて、通常ではありえないような力を持つような者達である。逃げたと思われる方向を探って追跡するのは、そう難しい事ではない。

 しかし、相手はそんな追っ手を嘲笑うかのように、近づいては姿を消す。彼等と同等、もしくはそれ以上の力を持つ者でしか、ありえないような事。

 彼等にもプライドがあり、その宝玉を守らなければ世界の均衡が崩れるという大惨事になりかねない。だから、そのまま逃がすわけにはいかない。

 追いかけ、やっと犯人に手が届くところまで来た時だった。

 相手がその手を避けようとした際に、その者の懐から宝玉は滑り落ち、呆気なく砕け散ったのだ。そして、粉々に砕けてた欠片は様々な世界へと飛び散ってしまった。







「なんて事をしてくれたんだ!」

 長い追いかけっこの末に捕らえた者に、怒鳴りつける地界の支配者。

「このままでは大変な事が起きる。」

 困りだして頭を抱える天界の支配者。

 このままでは神界や魔界に冥界、精霊界にまでも影響が出てくる。何せ、ここは全ての世界の中心で、均衡を保つ為の柱がある場所。管理は天界と地界の代表者がしていて、間違いは許されないのだ。

 それ故に彼等は今回の事態に慌てた。処罰を受ける覚悟は、盗まれた時にしたが、戻らないとなると、処罰だけではいかない。

 世界の均衡を保つ宝玉がなくなり散り散りになった今、全ての世界が傾き始める。境界線が崩れて交じり合い、崩壊への道を進むだろう。

 今まで積み重ねて得たものは、全てが無に還る。多くの命もまた奪われてしまう。さらに深刻な事態としては、世界が全て混ざり合い、お互いが争いあうような世界になってしまう。

 こんな事態が予測される。

 代表者達は今回の事態を引き起こした者、何処にも所属できない異端児である青年をこの事態の対処をさせる為に使う事にした。

 彼等は表立って動けないからだ。それに、己がしでかした事の重大さを身を持って理解させるのには丁度良かった。

 捕らえられた後、青年は慌てふためく彼等を見ながら大人しくそこにいた。

 その態度がまたたいそう腹の立つものだが、今はそれどころではない。

 二人は青年に命令を下した。散り散りになった宝玉の欠片を一刻も早く集めてくるようにと。

 そして、青年に集める為に一つの瓶を持たせた。見つけた宝玉の欠片を入れる為の瓶。特殊な術が施されている瓶。

 




 こうして、青年の世界を飛び回る長い旅が始まった。

 相棒を一人つれて、青年は己の持つ力を使って行方を追い、宝珠の欠片を探し彷徨い歩く。