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遠い日。 私の希望の光。大切な人。 同じ過ちを繰り返さない為、大切な人を守りたいから、 運命を呪っても、立ち向かった。
それが、自分らしく生きる道。 自分が自分らしく生きたという証。
sidestory1>>別れの中の新たな始まり
静かな闇のような夜。薄気味悪く、風や草木の触れ合う音がかさかさと聞こえる。 空には真ん丸の月があるだけで、星は見当たらず、月の光が明るくても、周りにある木々がさえぎり、地上へ光は遮られていた。 そんな静かな闇夜。何者かが横切る。 ぐしゃっと何かがつぶれるような音が、当たりに気味悪く響く。 『おのれ…。こざかしい、月の守人め…。』 木々の間から現れた黒いソレはうめきながら今時分の前に現れた男に言う。 男は、何事もなかったかのように、コツコツと静かに歩き、その黒いモノの前に姿を見せた。 黒いモノの正体は、姿形がはっきりとしない、黒い闇のような影だった。 男は、何も感情がないようなその瞳で見下し、持っていた細長いが、月のような輝きを放つソレで影を突き刺した。 一思いに、グサッといく。 影は耳に響くような悲鳴をあげて、その場所から“始めから何も無かったかのように”消えた。 「…クソッ…。」 まるで闇に溶け込めるような、そして空気にも軽そうな足取りで現れたその男は、突如左胸を抑えて苦しみだした。 そんな男の背後に、別の若い男が現れた。 心配そうに、左胸を抑えて必死に苦しみを押しとどめようとする男を見て、何か言おうとして口を噤む。 そんな様子を苦しみつつも横目で見る男。 しばらく、そのまま荒い息と動かない気配があるだけの、静寂の中に身を潜める二人。 苦しみが大分治まり、話は出来るようになったと判断したのか、若い男が話しかけた。 「…無理、ならさないで下さい。もう、身も心も、ボロボロで限界でしょう?」 そんな若い男の問いに、鼻で笑う男。その様子を見て、ため息をもらす若い男。 若い男は、どれだけ言葉を続けても、必ずこの男がどう返すかも行動するかも、この短い間の中に知り尽くしていた。 それほどまでに、仲の良い友人というものになっていたのだった。 「…足掻けるだけ、足掻くのさ。ワシはこの運命というものに縛られるつもりはないからな。」 男らしい答えに、若い男も私もそうだと答える。 「人間というものは弱いが強くもある。不思議なものさ。」 「それは、私が一番よくわかっていますよ。貴方のようなどんなに突き落としても這い上がってくるものをたくさん見てきましたからね。」 「人間は一番、諦めが悪いんだよ。」 「そうですね…。私もここへ来て、貴方方と出会って、そう思いましたよ。」 もう、残りは少ない。それは、お互いが解っている事。 人間というものには、生はあまりにも短い。 若い男は、自分のこのいらないほどある長い命の少しを男へ分け与えたいと思ったが、それは神を裏切る行為でもあるし、この男への信頼の絆を切る事でもあるからしない。 定められた時の中で生きるしかない全ての生物は、流れに逆らえば罰があたえられる。 その事を、男も若い男も充分に理解していた。 だからこそ、今夜この激しい中の、いつ戦闘となってもおかしくないこの場所だとしても、のんびりと話を交わすのだ。 きっと、これが二人にとって最後となるから。 「…残りがあとわずかだという事ぐらい、ワシ自身がよく理解している。お前以上にな、鏡衣智。」 「…。」 「これが、流れに逆らった代償でもあるし、この戦いへの代償でもあるのだからな。ま、簡単には死なないがな。」 クククと笑う男の顔ははじめて出会った時と同じもの。そして、その顔を見て、鏡衣智と呼ばれた若い男が眉を寄せるのも、同じ。 まるで、出会いの再現のような今。しかし、確実にあの日と違い、時は流れている。 男は、少しずつしわれていく手を見ながら、限界だなとつぶやき背後を振り返り、その木の根元に大事に置かれている布でつつまれたモノを抱き上げた。 「ワシはもう時間がない。だから、この子を頼みたい。」 男が差し出すその布の中にいるのは、小さな赤子。まだ、親を必要とする、何も知らない子。 彼こそ、この男の大事な子。 戸惑いながらもその子を受け取る鏡衣智。 受け取った腕の中には、布でくるまれて温かい体温を感じさせ、生きている事を主張する小さな子。 今は夜なので、大人しく眠っている。 「この子を頼みたい。ワシの後を継ぐ者。それも、完全な使い手となる者だ。」 男が言う。 ソレが意味する事は、嫌でもわかる。 この戦いには、二つの大きな力が必要だ。そして、鍵となる二つの石。それと、運命の歯車を動かす三つの星。 男は、大きな力の一つ、闇の中の輝きである『月』の力を授かった者。 だが、彼はその強大な力を完全に使いこなせる事はなかった。 つまり、その為に彼は力で全てがボロボロに破壊されていったのだ。 「若返りを使わなければ、もう少し長く生きられたのかもしれんが…。それでは力が使えぬ。」 「わかってますが…。貴方は無茶をしすぎたのですよ、茨城。」 茨城と呼ばれた者は苦笑して、一歩、後ろへと下がった。 その行動の意味は、嫌でも鏡衣智には理解できた。理解したくない事だったが、理解せざる得ない事だった。 「…一つ、いいか?」 「お前から聞いてくるなど、珍しいな。」 「いいでしょう。最後ぐらいは…。」 「まぁな。最後だしな。」 お互いが相手を見やる。まるで、その場所だけが時を止まったかのように何かが包み込んでいる感じがした。 「…架月も、今夜なのか?」 その問いははじめから相手は知っていたかのように、苦笑して一言だけ。 「ああ。今夜だ。あいつもワシと同じ、馬鹿者なんだよ。」 「…。」 「こんな戦いの中だが、ただ、この子が生きていればいいと願う、一人の親にすぎんからな。」 「そうだな。親というものは、そういうものだな。」 この男ならと納得できる答え。 最後だというのに、こうも笑いあえるとはなんだか可笑しいのかもしれない。 だが、これはこれでいいのかもしれない。 自分たちの行く末は神だけのものではない。 鏡衣智がここへ来てわかった答えだった。 「この子はワシと同じ月の守人…、守護者と言うべきなんだろうかな。月の輝きを持って生まれた運命に定められてしまった我子。だが、完全に力を使いこなして、目覚めるだろう。」 「そうでしょうね。この子は底知れぬ力を持っていますから。」 「そうだろうな。…ワシには現れなかった、先祖の血を濃く受け継いだようだからな。」 かつて、この地に住んでいた幻想人と呼ばれる者達の子孫が、茨城や架月、そしてこの子。 「月の輝きが現れると同時に、太陽の輝きを持つ守護者が現れる。奴のところの子だそうだ。しかも、この子と同い年らしいな。」 「そうですか…。じゃぁ、あちらも…?」 「いや、あっちは問題ない。全て、ワシと架乃さんが引き受けたからな。」 「…。」 「奴等はもう、見失っている事だろう。」 最後の月をしっかりと眼に焼き付けるかのように、じっと空に浮かぶ丸い月を見る茨城。 同時に、鏡衣智もまた、何百年も前にそこへいっているので、何があったかは知っている。だが、いう事はなかった。言う必要はなかったからだ。 「…そろそろ、時間のようだ。」 「そうですね…。」 「いつか、時代の流れの中で、会えたらいいな…。」 「会えますよ。私はいつまでも、貴方の近くにいるでしょうから。」 辺りを何か別の空間へと導くかのように、切り離された感覚の中、最後まで笑みを見せたまま、男は、茨城はまるではじめから存在しない夢のようにさらさらと流れて消えていく。 「…後の事は、頼んだぞ。悪いな、鏡衣智。」 それが彼の姿を見る、言葉を聞く、最後のもの。 まるで砂のように、その場に銀色に月の光を受けて反射する粉が、あった。 鏡衣智は布でくるまれて眠っている赤子を抱いたまま、鏡衣智はその人が消えていく姿を見ていた。 足元にあるその砂を見下ろすように見るその瞳には、光がないように見える。 だが、すぐに光を取り戻す。 鏡衣智は、自分のすべき事をする為に、こんな所でとまってはいられないのだ。 「…まったく、愚かだよ。お前やあいつらはな。」 人の弱さをたくさん知った。それと同時に、自分たちのようなものにはない、人の強さも知った。 そしれ、自分もまた、弱いのだと彼等との出会いの中で知った。 「愚かだよ、本当に。そしれ、私もな…。」 誰が始めたかも知らないこの愚かな遊戯の為に犠牲となった者達。 本当に、些細なきっかけだった。 それから、ずるずるとやり返しの繰り返しで今にまでいたった。 せめてもの救いは、まだあの『魔王』が復活しきれていない事と、関係のない者達を結界外に出していたために被害が無かった事だろう。 だからといっても、何の気休めにもならない。 戦友ともいう者達が多く、命を失ったのだから。 「しかし、よくあの呪いを受けた後、自ら受け入れて戦い続けたものだ。」 今は銀の砂と成り果てた友人が受けたもの。それは、力を安定して使うために時の流れに逆らい、若返った代償と、使いこなせない強大な力を使い続けてきた代償だった。 それを、自分が変わる事も、和らげてやる事も出来なかった。 「この力がありながら、どうして何も出来ないのでしょうね。私こそ、ただの役立たずですよ。」 神から授かった強大な力と長い命。今の自分にとっては疑問だらけのモノ。 自分は神の傍にあり、神のためにつくしてきた。それだけが存在理由だった。 あの日、あの魔王の封印の為に使った力と受けた呪いの代償でこの地に縛られさえしなければ。 だからこそ、分かった事もある。だが、余計に分からなくなった事もあった。 だが、それも悪くはないと思う。 「…必ず守って見せますよ…。そして、次こそ必ず、終わらせますよ。貴方や死んだ戦友達が残した希望を、必ず守り抜いて見せますよ。」 銀色の砂の上に、かつて彼が使い続けてきた剣を、墓石代わりにぐさりと地面にまで届くようにしっかりと差し込んだ。 「時が来たら、ここへ来ますよ。また、会うためにね。」 鏡衣智は一度も振り返る事なく、その場所から立ち去った。 腕にしっかりと、子を抱きかかえて、生きる為に闇の中に紛れた。 その後の足取りを、他の仲間たちは知る事はなかった。彼は完璧に姿をくらましたのだった。あの子を連れて。
そして、時が来る。 この地に再び集まる、仲間達。 あの日誓った事を必ず守ると、たった一つ残った、初めて出会った日にもらった細身の約三十センチぐらいの細いが切れ味は抜群によい、持ち手を選ぶ魔剣に話しかけた。
「日が大分昇って…って、えっー?!」 視界に黒い影が入った。その影は神社へと続く階段の上から落ちてきた。 「ちょ、人?!」
太陽の輝きを秘めた少女
「じゃ、私は急ぐからこれでばいばい。気をつけないと駄目だよ。」 そう言い、少年を残して少女は急いで走っていった。 少年ははて?と自分の状況を理解できていなかったようだが、やっと理解でき、どこかに歩いていった。
太陽の輝きと同時に現れた、月の輝きを秘めた少年
偶然の中の必然という運命の流れの中、出会う。
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