第三章 戦争の代償

 


 


 朝を知らせる鐘の音が鳴り響く。

 それと同時に、街の中で放送の音楽が流れた。

 普段は鐘の音だけで、放送の音楽なんてそうそう流れない。それが、今日は流れた。

 それが何を意味するか。ローラにはよくわかる。これは、戦を始める合図。戦争開始の合図だ。

 この街も、戦場となる。もっと多くの犠牲者が出る。

「とうとう。この日が来たか・・・。」

 救世主はいまだいない。救世主と思ったミイネはただの旅人。なら、この戦いを止める事は出来ない。

「あ、おはよう。良く眠れた?ミイネ。」

「ええ、よく眠れたよ。ありがとうね、昨日は。」

すぐさまローラは朝食を用意し、ミイネとすぐに食べた。放送が鳴ったので、内容を聞いていれば、ミイネだって事態がどうなっているかわかるはず。

「ちょっと、彼の様子を見に行って来る。」

「じゃぁ、昨日ので目立つから、大人しくお留守番しているよ。」

「ありがと。留守は頼んだ!」

「何それ。」

じゃぁと元気よく出かけていった彼女。

 きっと、そんな彼女の背中を見る事が出来たのは、これが最後だったかもしれない。

 


 


 外がだんだんと騒がしくなっていく。それに伴い、なかなか帰ってこないローラが少し心配になってきた。

「・・・お迎えに行ってみようか・・・。」

気配で、この町のどこにいるかぐらいわかる。力を使えば。

 そして、感じ取った彼女の気配。それと、側にいる別の気配。

「・・・なんだか、厄介な事になっているみたいね・・・。」

その場所には、ローラと大切な人という二人の気配の他に、この街を造った王と異邦人の気配もあったのだ。

「・・・まさに、戦争の開始、みたいね・・・。」

急いで向かうが、きっと間に合わないだろう。すでに、事ははじめられた。

 何人たりとも、いとも簡単に解決してこの件を片付ける事なんて出来ないだろう。

 もとから、何かと胡散臭い王と街。それに、巻き込まれた被害者の二人。

気配は一向にその場所から動く事はなかった。

 


 

 


 ミイネは姿と気配を消して、王城の庭へと侵入した。

 そして、見つけたローラの姿。紅い血で服を汚し、一人の少年の腕の中でぐったりとしていた。

 二人を真ん中にして、左右に少し距離を取って立っているのは、王と数人の異邦人。

 両者ともに動く気配はなく、ただ、目の前の状況に動きを忘れているのか、それとも何か衝撃的な事があったのか、まったく動く気配はなかった。

ミイネはすっと姿を現して、二人に近づいた。

 王も異邦人も突然の登場に驚きながらも、やはり動く事はなかった。

 そんな中、ただ一人時の流れを許されたのか用に動けるミイネ。

「やっぱり・・・。争いの結末はこんなものよね・・・。」

 すでに虫の息のローラ。助かる見込みはほとんどない。

 ミイネの顔を見上げて、泣きそうな顔をしている少年。どうやら、本当に感情を亡くしたわけではなさそうだ。

「ねぇ。ローラの事が大切だった?」

こくりと頭を縦にふって頷く。

「ここにいる皆。気付いたの?ローラの事。」

 同じようにうなずく。だけど、こっちの方が深く、そして少年もその事実に驚いているようだった。

「私も、間違いはないと思うよ。ローラは国王の孫であり、異邦人を片親に持つ、両者の間の子供。」

両者が動けないのは、彼女が持っていたペンダントだ。王家の紋章のロケットと、一緒に付けられた異邦人が生まれた子供に授ける名前入りの飾りそれが、動きを止めさせる原因だった。

 両者は驚いて動けずにいたのだろう。彼女を探し、互いが何かをしたのだと思い込み、現在の事態に陥ったのだから。

 まぁ、王家に関しては、昔から異邦人に対して酷い扱いをし、人として扱わず実験対象にしたりもしていたので自業自得だが、最近では結構仲がよくなっていた。

 全てはローラという子供が出来た時に、二つの種族に壁はなくなったが、その後その存在の為にいがみ合ってしまったのだ。

「どちらが悪い何て事は、絶対になかった。彼女はただ、偶然が偶然を呼び、いつしか必然に変わり、起こってしまった事故で彼等の前から姿を消す事になっただけなのだから。」

ミイネは最初に城を見て、感じた光景を全て、彼等に見せた。

その間も彼等は動く事はなかった。やはり、同属を手にかけた、それも愛しい我が子のような孫で、大切な新たなはじまりであった異邦人達をまとめる長となるべき者の存在は彼等には大きく、罪悪感も大きかった。

 ミイネが見せた事実に誰も文句を言わなければ、反対に崩れ落ちた。

 妖精のちょっとしたいたずら。それが全てを引き起こした。

 


 


 ぐったりと、目も閉じて、虫の息も止まるかもしれない状態。

「ローラ・・・まだ、意識はある?」

「・・・・・・ぃ・・・。」

声が聞こえたのか、それとも、生きようとする意志での息が言葉にかわったのか。

「貴方、名前は?」

突如聞いてくるミイネに戸惑うが、彼は『ベルロッタ』と答えた。

「では、ベルロッタ王子。」

「・・・何?」

「私は彼女に恩があります。助けようと思います。しかし、何にしても、代償は必要となります。私は万全で万能な神とは違いますから。ほら。戦には彼女という代償で現在止まった。それと同じ事。」

「・・・代償?ローラ・・・ラーラスは助かるの・・・?」

助かるのなら、自分が払える代償なら払うと答える。

「では、許して頂きたい。彼女が最近見た夢と彼女の右目と右足。」

「・・・えっ?」

「夢は最近見る夢。貴方であって、貴方とは違う。ローラが持つ、前世の記憶。彼女は、前世から貴方をとても愛していた。」

 新事実に、驚きが隠せない様子で、ミイネは苦笑する。きっと、彼は前世の記憶を持ち合わせていないと、よくわかったから。だけど、それでも何かに引かれ、二人はまた出会ったのだろう。

「右目は永遠に光が閉ざされるが、左目が生きている限り、貴方方の姿は見えます。右足は残されますが、動かす事は出来なくなるでしょう。」

 その代償を払ってでも、私に頼みますかと聞かれ、深くうなずくベルロッタ。

 今この場所で、この時に彼女を助けてくれるのはこの人しかいないから。

 神に願って助けてくれるのなら、きっと戦が始まる前に助けてくれていたはず。

 それなら、代償を払ってでも助けてくれるこの人にすがる。

「絶対に助かる?」

「助けますよ。」

「・・・お願い、助けて・・・。」

うなずいて、ミイネはローラの額に手を触れた。

「神よ。今、我に力を貸し与え、この者の命を繋ぎとめ、助けよ。」

 動く気配。この場にいた彼等全員の傷が癒えた。

 そして、目を開けるローラ。傷はすっかり癒えたが、右目はどこかぼんやりとしていて、それが支払った代償だとベルロッタにはよくわかった。

 だけど、ローラが助かってくれてよかった。本当に大切だったから。

 彼は、数年ぶりに涙を流し、そしてローラに笑みを見せたのだった。

 それが、なんだか身体がだるくて、右目がかすんでよく見えないが、良かったと、抱きしめてくれるベルロッタの背中に腕を回すのだった。

 


 


 戦で出た代償は大きい。だが、今回払った代償は大きかったかもしれないが、それ以上に得たものは大きかった。