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ふっと、目を開け、気がつけば知らない部屋にいた。 だが、すぐに意識を完全に失う前に天使と出合った事と、怪我の手当てをしてある事から、ここは悪い者がいる場所ではなさそうだし、何より縛られているわけでもなく自由に出来るので違うと考える。
闇に隠れた真実 後編
そんな時だ。かすかだが、話し声が耳に届いたのだ。 「・・・で、・・・・・・す。・・・どうしますか?」 彼はそっと声がする部屋の扉の前へと移動する。もちろん、まったく警戒がないというわけではないので、気配を殺して扉へと近づく。 気配の殺し方は、必要な時が来るかもしれないからと、灯音と・・・朱音に習ったのだ。それに、四人の中で一番上手かったのだ。 そう簡単に、相手に覚らせるようなヘマはしない。 そっと、扉から聞こえてくる声に耳を傾ける。そして、衝撃的な事実を知る事になった。 「・・・言われた通り、確認してきました。間違いなく、今朝のあの人柱の光は、朱音です。・・・神が、定めた通りに進んでいます。」 「そうですか・・・。」 辛そうな報告と、辛そうな返し。互いに辛そうだが、それ以上に彼は・・・紫音は辛かった。 だが、人柱という言葉と朱音という言葉に引っかかりを覚えた。人柱とは、あまり知らないが、ここでは生贄とも言われる言葉だからだ。 もしかしたら、この二人は朱音の事を知っているのかもしれない。そして、どうして朱音があのような行動に出たのかも、知っているのかもしれない。 何せ、この二人は確かに言ったのだ。神が定めた通りに進んでいると。 紫音はそのまま耳を済ませて二人の会話を聞いた。 「朱音は本当にかわいそうな事になった。」 「確かに、始めは魅音が灯音の力を飲み込み、そして璃音の力を飲み込む。」 「その後、人柱としてその身を捧げる・・・。」 信じられない言葉を聞いてしまった。息をするのも忘れるほど。 あの二人はなんといった。魅音が灯音と璃音の力を飲み込む。それは二人の死を意味する。そして、人柱ということは、生贄として犠牲になるという事だ。 今すぐにでも、この二人に真実を問いただしたいと思った。だが、まだ、まだ知らないことばかりだと、自分を抑えて、そこに潜み続けた。 「だが、途中から変わってしまった。」 「神でさえ、変える事の出来ない、決定された運命が。」 いったい、何が原因なのかはまだわからない。だが、かなりの確率で紫音が関係していると二人は踏んでいる。 その話を聞いていて、紫音はある程度理解した。 最初は違っていた運命が、何らかの力で、もしかしたら自分の力で書き換えられた。そして、知らない朱音は自分が一柱になっているとも気付かないで自らの意思でと言いながら、本当は書き換えられてしまった運命に翻弄されて命を落とした。 朱音は、裏切ってはいなかった。ただ、守ろうとしてくれた。 あれは、彼女の精一杯の見得で演技だったのだ。守りたいと願うが故に自分を犠牲にして、確かに守ってくれた。 だけど、それが運命だったのだという。 ぐるぐると、二人の会話が頭を巡る。信じられない思いと、裏切られたのではないという思いと、そして悲しみと、気付けなかった愚かさと、悔しさ。 「で、どうするつもりだ?あの子。」 「どうするも、神からの伝達では、しばらく私達と共に行動するみたいですよ。仕事も一緒にしていればよいと。」 どうやら、自分はここにいてもいいみたいだ。 「どうやら、私だけではなく、彼もまた、神の補佐という仕事から抜けるみたいです。」 「へぇ。あんたはこの先この地を離れるが、あの子はその為だというのに自由の翼を持ったまま飛び立ってしまうということか?」 「そういうことです。それに関しては、神も何も言ってきません。」 神も公認しているのだろう。この悲劇のような舞台の幕が下がった後、変わってしまった運命を戻す事は出来ないし、四人がそれぞれ解放されてしまったから、繋ぎとめることができないのだ。 「では、しばらくは三人で仕事ということですか。」 「明日から、少し忙しくなるかもしれませんね。」 彼に仕事を教える為に。
そう言って、二人は部屋を紫音のいる部屋の扉とは違う扉から出て行った。 まさか、紫音が起きていて、ここで聞いていたなんて思いもしないだろうが・・・。 「どうして・・・。どうしてっ!」 信じられないという思い。 憎しみが、一気に深い悲しみに変わってしまった。 自分達を生かすために、わざと悪役になり、死を選んだ人。 今はもう、怒りも憎しみもない。ただ、どうしてという疑問だけだった。 誰も、答えてくれるひとはいない。あの二人にも聞けない。 本当の生贄が魅音で、あとの二人も灯音も消える事になり、自分は鏡衣智の代わりとして、自由のない世界を生きるのだという事。その事実とあの話でわかる事。 「私達が生まれた理由とは、いったい何なんですか。」 いつも、灯音は言っていた。朱音も同じく言っていた。 命は、何らかの使命、意味を持って生まれてくるのだと。 自分達は生贄になったり、神を補佐するためだけに生まれてきたのだろうか。 だから、たまに灯音の様子がおかしかったり、悲しかったりしていたのだろうか。 どうして、もっとはやく気がつけなかった。 反逆だとわかる前日、自分は朱音と話をしていたのだ。 悔やまれるばかり。頭の中でぐるぐるとあの話が回り続ける。
じっとしていられなくなった紫音は、部屋から抜け出し、人柱の方向へと向かう。 まだ、微かに朱音の気配や匂いが漂って残っているから、それを頼りにして空を飛んでいく。 今頃、あの二人も気付いて、自分をお会い掛けているのだろうなと思いながらも、引き返す事はない。 向かった先で、見たのはただ眠っているだけのように見える、光の柱の中にいる人影。 「朱音・・・。」 やっと、見つけた。 朱音はあの日とかわりない姿で、そこにいた。だが、目を開ける事も話しかけてくれる事もない。 紫音は手を伸ばし、触れようと思っても触れる事は叶わない。 「どうして、どうして・・・。」 どうして一人、死を選んだのか。 弱くなったものだと思う。こんなに弱気になったのは、実習で苦手種目をする時以来だなと、つぶやく。 「貴方の望みは、いったい何だったのですか・・・?」 あれが事実なら、間違いなく灯音はどこかで生きているはず。だからこそ、問いかける。 いつものように、答えてくれるような気がしたから。 だが、声が聞こえることはない。きっと、二度とない。 灯音の授業で聞いている。人柱となるものは、二度と還らないと。 眼から溢れ出、零れ落ちる涙。それは、止まる事がなかった。 「私は・・・私達は、貴方も幸せな道を歩んでほしかった・・・っ。」 ドンッとその柱を叩く。涙は零れ落ちては地が吸い込む。 「貴方が願う幸せと、私が願う幸せは同じじゃないですかっ。」 どちらも、幸せでいて欲しいが故に守りたい。そして、自らを犠牲にしてまで守り、その幸せを見守りたいと願う。 紫音はその場に崩れ、座り込んだ。涙は相変わらず、止まることはない。 その時だった。光の柱に触れたままの手から、突如鼓動を感じたのだ。微かだが、間違いなく自分と同じ生き物の鼓動。 まさかという思いで顔をあげ、柱の中の相手を見る。 「朱音・・・?」 朱音の閉じられている眼からは、一滴の涙が零れ、頬をつたっていた。 「まさか・・・っ?!」 まだ、生きているのかもしれない。 という、かすかな希望を持った。鼓動と涙。それが今、紫音を支えている。 「なら、必ず、また六人が一緒にいられるように・・・。」 右の袖で涙を拭き、いつの間にか止まった涙のことなど気にせずに、好きだと言ってくれた笑顔で、この場所から退場したいと思う。 「いつか必ず。またここへ、戻ってきます。」 その時が、六人一緒にいられる時だと、思うようにして、紫音は二人がいる方向へと背中のツバサを広げて空へと舞い上がった。
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