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信じていた光は、ガラスのようにあっけなく壊れて消えうせ、闇へと呑まれていく。 もう、何を信じていいのかわからない。 それだけ、衝撃が大きかった。 そして、生きる意味も希望もわからなくなり、ただ何も考えることなく時間を過ごしているだけだった。
闇に隠れた真実 前編
早朝、まだ日が完全に昇りきる前。 天界に一筋の光がはしった。強烈な、光の柱がそこに現れ、そして消えた。 二つの人影が立派な神が住むと言われている神殿のテラスに立ち、それを眺めていた。 「…どうやら、生贄が決まり、人柱となったようだね。」 片方がそう言う。少し、辛そうに、それを我慢して押し殺すような感じ。それに気付いている隣の相手もまた、同じような思いを抱えていた。 「確かに、当初の予定は変わりました。それが、彼女の目的で、だけど定められた運命の一つ。」 片方がそういった時、ふと気付く。ここへ向かってくる足音。 「報告します!」 自分達、いや、神の部下として忠実に従い、そして働く警備隊だ。 「どうやら、あの反逆堕天使は完全に気をたってしまったようです。」 それによって、今後の対処をどうしたらいいのかと聞きに来たのだ。 そりゃそうだろう。天界から気が消えたという事は、地上へ降りたか、それとも魔界へ下りたか。もしくは、別の次元の世界へと渡ったのか。 一番最悪の答えが、無に帰る。もしくは死。 「やはり、間違いはないようですね…。」 「お二方も気付いておられましたか。」 神の右腕とも呼ばれる男が、一人の天使の気配を、それも顔見知りの天使の気配を間違える事もないだろうし、気がつかないということもないだろう。 「それで、どうしましょうか?」 彼を含めた者達は今、その気配の消えた反逆罪として堕天使の烙印をまだ押せていない天使の捜索を、上から命じられているのだ。 上といっても、この二人よりも下の階級であるが。 「そうですね…。もう、捜索は必要ありませんよ。」 「それはどういう事で?」 「必要がなくなったんですよ。」 「…神が定めたとおりの運命をたどる事となり、神の定めたとおり、彼女は道化として、天界から消えたのですから。」 相手は意味がわからないのか、首をかしげていた。だが、二人がいうのならと、捜索を打ち切って元の仕事に戻りますと言って、元来た道を戻っていった。 「…やはり、そこまでは気付いていないようですね。」 「これは、トップシークレット。あの四人の事も言えますが…。」 哀れな事だと言う。確かに当初の予定とは違う。だが、あの女が知った後に定められた運命が書き換えられたのだ。 そう、神でさえ変える事の出来ない運命が、変わってしまったのだ。 そして、その運命通りの流れが進んでいる。そう、あの人柱の生贄だって同じ。 彼女は二度と戻る事はない。だから、捜索は必要がない。 彼女…朱音は変わりとして、自ら人柱の生贄となって身を投げ出したのだから。 「・・・しかし・・・。・・・後始末、がありますね・・・。」 「彼女が守りたかったもの。・・・どうやら、一人はこちらに落とされたようですね。」 「生きているのか・・・?」 それは、生きる意志があれば。そう答えて、すうっと、片方は一対の少し灰色がかった白の翼を広げ、もう片方は三対の合計六枚の大きな純白の翼を広げた。 「とにかく、行ってみますか?」 それからでも、問題はないはずです。と付け加え、テラスから飛び出した。 丁度、朝日が昇ったところだった。
もう、動けない。・・・動きたくない。みんな、いなくなってしまったから。 それに、動けるほどの力も残っていない。 精神的にも、肉体的にも、今は駄目だった。たった一分がとても長く、過酷だった。 このまま、倒れていれば誰にも知られずに死ぬかもしれない。 そうしたら、この悲しみから、逃れられるのかもしれない。 辛うじて開けていた重い瞼を下ろす。その時だった。 ふわりと、風が吹き、純白の羽が舞い降りた。そして、天使と出合った。 「いました・・・ね。」 「・・・末っ子ですね。かなりあぶない状態ですが。」 声が聞こえたので、その天使が話をしているのだとは、頭が理解した。 相手の顔を確認しようと、もしかしたら灯音や朱音、上の兄弟達かもしれないという希望を持ちながら、無理やり重たい瞼を押し上げる。 「意識は、辛うじてあるようですね。」 「よくも、これだけの状態で・・・。さすが、というべきです。」 これ以上は、彼等の声も届かない。視界も閉ざされる。だから知らない。次に目を覚ますまでの間の事など。 「とにかく、中へ運びましょうか。」 「大事な、者ですからね。」 六枚の純白の翼を持つ男が意識を失った彼を抱きかかえる。 「貴方がこの先ここを離れるであろう私の代わり。それも、私以上に力を持ち、そして自由を失い囚われる者。」 この先、どのような事がおこるかなんて、自分は知らない。だが、確実にこの天界にはいないということがわかっている。 そして、その代わりとして育てられたのが彼である。 そして、本来のあの人柱の生贄となる者は・・・。 「・・・京さん。移動魔法、お願い出来ますか?」 「問題ないです。」 京と呼ばれた少年が男の指示に従って、魔法陣を足元に出現させる。 「我が名の契約の元、契約を交わす使いよ、我等を望むもとへと運べ。」 出現した魔法陣が少年の言葉に反応して光を放ち、光に包まれた三つの人影は、光が収まった頃には跡形もなくその場から消えていた。 まるで、はじめから何も無かったかのように。 ただ、そこでは変わらず、領域を見守るかのように吹き抜ける風があるだけ。 日はかなり昇り、人々が目覚める時間となった。
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