暗い闇が迫り、全てを飲み込む。

裏切りという名の、恐ろしい魔物が現れた。

信じていたものが、壊れた日。そして、大切な人が傷つき、そして離れ離れになってしまった日。

あんなに、平和な日々を過ごしてきたというのに、この先もこの平和が変わりないと思っていたのに、あっけなくそれは壊れた。

朱音と言う名の神が一番信頼していた補佐で、灯音の姉であった彼女。

神を裏切り、堕天し、壊していった。

 

 

知らせを神が放った神鳥が届けた文面を見て、灯音は慌てる。

すぐにここから自分の教え子である四人を引き連れないといけない。きっと、時間はもうないだろう。

「紫音、異音、魅音、璃音。今すぐ着なさい」

切羽詰った、彼女にしては珍しく慌てて四人にそれぞれ頭の中へと言葉を吹き込んで呼ぶ。一種の伝心能力。

呼ばれた四人は、彼女を長い間過ごす中で知っていた為に急いで空間移動を使って現れた。彼女が慌てる事は滅多にないので、よっぽどの事があったのだろうと予想がつくからだ。

「急いで、ここから離れます。」

「いったい、何があったのですか?」

「話は、移動しながらします。まずは、聖霊界を目指します。」

四人は灯音の指示に従い、聖霊界があるといわれている場所へ行く為に、異空間の路への扉を開いた。そこから別の世界への扉を使い、行くのだ。

五人がその路へ行き、空間の扉が閉じてしばらくして、今まで彼女達がいたはずの場所は、跡形もなく消えうせた。ただ一人、裏切り者の朱音がいるだけ。

「…一足、遅かったようね。でも、逃がしはしないわよ。」

彼女もまた、その場所から追いかける為に異空間の路への扉を開いた。何処へ行ったかはわからないが、進み続ければいつかあたる。

「必ず、この私が…。」

あの五人を助ける為に、この路を選んだ。誰にどう言われ様とも、この路を進む。それが、私の定められた運命でもあるし、あの五人が生きる条件でもあるから。

少しずつ繰り始める運命の和。咬み違えれば、自分たちの思いは凶器になるが、今回はしょうがないのだ。

「裏切り者だとしても、なんだとしても。必ず成し遂げるから。あの五人には、手出しさせないからね、何もしてくれない神よ。」

彼女も天界から離れて別の場所へと向かう。

 

 

ある程度話を聞き、成る程と納得する四人。どうやら本当に、大変な事態になっているようだ。

「でもまさか、朱音さんがそんな…。」

「私も、信じられないけど、事実なのだからしょうがないのよ。」

「とにかく、今は逃げ切るのが先決という事ですね?」

「そう。ほら、長居はいけないわ。次の場所へと行くわよ。」

朱音が狙っているのは自分たち五人。何のためなのか、どうしてあれだけ神に忠実だった彼女が裏切ったのかは謎のままだが、今は逃げるしか道はない。

五人は次の世界へと飛び立つ。追いかけてくる彼女から逃げる為に。そして、他の世界に迷惑をかけないために。

「いったい、何があったっていうのよ。ねぇ、朱音。」

問いかけには誰も答えてくれない。ここには本人がいないから。それに、灯音のつぶやきが空しく閉じる空間の扉に遮られたからだ。

そして、追いかける者はここへ訪れて気配を感じ、次へと向かうのだった。

その後、いくつかの世界を渡り歩いた後、五人に追いついた朱音。

それぞれ様々な思いを持ちながら、互いに警戒する。特に、灯音達は朱音の真の目的を知らないから余計にだ。

「…やっと見つけた。」

「見つかった事はしょうがないわ。それに、聞きたい事があったから、丁度良かったかもしれないわ。」

懐かしく思い出すのは、昔の喧嘩。今日のように互いを敵視して負けないようにと、意地になってやったが、今回は違う。

「貴方が、あれ程神に忠誠を誓っていた貴方が、どうしてなの。それに、私との約束を、破るつもりなの?」

その問いの答えによっては、自分は相手を倒さなければいけない。封印という形になるが、結局は消滅の路へと進まされ、二度と会うことは出来なくなる。

「…そうね、神が私を裏切るからかしら?でも、私はいつも貴方や彼等の事を大切に思って、約束を破ったつもりはないわよ。」

「なら、どうして!」

泣きそうになりながら問いかけるが、その問いには黙り込んでそれ以上は答えなかった。つまり、答えるつもりはないという事だ。

「とにかく私は、何がなんでも貴方達を天界から外へと連れて行かなければいけないの。だから、逃げてくれて良かったと思うわ。」

そう言いながら、朱音は印を描く。彼女が習得した、高度な魔術の発動の為の印。

「朱音?!」

駄目よと、五人に向かってくるソレの前に出て、四人を守ってソレを受ける灯音。朱音の顔は無表情で、恐ろしく感じる。それに、彼女がそのように行動する事がわかっていて、したように思えた。

彼女が発動させた魔術は、力も魂も意思も全てを眠らして封じるもの。

「おやすみ、私の愛しいたった一人の血の繋がる者。」

石と化した彼女を見て、呆然とそこに立ち尽くす四人。それを好機として、朱音は別の印を描き、四人の足元にそれぞれそれを発動させた。

「どうして!どうしてなの、朱音さん!」

「いったい、何をするつもりなんですか!」

足元から立ち上る光の柱の中に閉じ込められた四人が、光の壁を叩いて必死に訴えるが、彼女は何も答えなかった。

そして、四人はばらばらにどこかへと飛ばされた。そこが彼等にとってどんな場所で試練が待ち構えているかはわからない。

印も彼等の姿も消え、残るのは石と化した灯音と朱音だけ。

「…こうするしかなかったのよ。」

懺悔のように、誰もいなくなってからぽつりとつぶやく。

「そうしないと、一人は孤独に、三人と貴方は、命を落とすのよ。世界の均衡の為という名目で、柱の生贄として…!」

耐えられない真実。偶然知ってしまった恐ろしい話。

「あのまま、あの場所にいたら皆駄目になるのよ。だから、私はこうしたのよ、灯音。」

空しく言葉は風に流される。

「貴方との約束を守る為に。あの四人を、たった一人の繋がりある貴方を守る為に…。」

朱音は石となった灯音をつれてどこかへ消えた。

その後、灯音は彼女だけが知る場所へと連れて行かれたらしく、姿を見る事はなかった。

そして、裏切り者の烙印を押され、地へ行く事も拒んだ彼女が進んだ道。

「…生贄は、私一人でいいのよ。五人分の幸せとは比べられないじゃない。」

自ら柱の生贄となり、四人とこの先再会する事さえ出来なくなった。

「私の幸せは、貴方達の幸せを見守る事なんだから、この死は本望よ…。」

 

長い夜の宴の中で、踊らされた者達の行く末は神のみが知る。

だが、知っていたとしても、神が手を差し伸べることはない。

それが、神となった者への力との代償であった。