カタンカタン・・・

その音は止まることなく響き続ける。

カタンカタン・・・

その音にいらいらしだす一人の者がいた。

見るからに怒りに満ち溢れ、今にも手に持っている物を破壊するような勢いだ。

カタンカタン・・・

では、この音の正体は一体何なのか。

もし、これがただ自然に聞こえてくるものなら、彼はここまで怒りを見せないだろう。

普段、怒りを人前で見せない彼が、ここまではっきりとわかるぐらいに怒りを見せている。

もし、音の元が彼の怒りに気付いていたら、即座に止めて逃げ出していた事だろう。

怒らせてはいけない男だと、音の原因もよくわかっていたからだ。

バキッと、何かが破壊された音が響いた。それでも、カタンカタンと音は続く。

「…い…さい…。」

彼は、怒りをふつふつとお湯を沸く勢いで低く声を相手へと向ける。だが、相手は聞こえていないようだ。

「いい加減にやめなさい!」

ドンガラガッシャーンと棚が落ちてきたり、雷が落ちてきたりした時のような衝撃が、音の原因である彼の元へと届く。

「え?何が?って…。」

やっと、事の重大さに気付いたが、もう遅い。

怒りの頂点に達し、冷たい目で背後に激しい吹雪のようなものが見える彼、魅音が背後に立っていた。

「ちょっと、何なんだよ、いきなり!」

流石に大事だと理解した彼だが、自分が何をして起こらせたのかまったく分かっていなかった。

それもそうだろう。まさか、珍しく『片付け』というものをして『片付けろ』と言っていた相手が怒るとは思わない。

そう、彼こと璃音は思いもしなかったのだ。

「貴方は滅多な事に珍しい事をするものではありませんね…。」

魅音は今、待ちに待ったある書物の新刊を読んでいたのだった。それを、璃音の片付けるカタンカタンといった、規則的な音が傍にある事にいらいらしていたのだった。

 

 

まず第一に話しておかなければいけないのが、ここは魅音と璃音を含め、紫音と異音と教育指導といった全てにおいて親代わりになって自分達とともにいる者が一人いるだけの、天界の中で隔離された場所。

人から言えば、一種の楽園とも言われる場所に、彼等はいた。

彼等はこれといって不自由はなくすごすが、璃音は片づけが嫌いで滅多にしない。

何も言わなければ何年もしないまま放っておく。なので、毎日魅音を含め、ここにいる残りの四人が毎日のように言うのだった。

それが珍しく、彼は片づけをしていた。だが、する時間がよくなかった。

魅音はせっかく楽しみにして読み始めた本が、集中しようにも傍で力を使って片づけをする璃音がいれば、嫌でも視界に入り、意識してしまう。

「片付けろと、何度も今までいいましたよね?」

「だろ?だから俺は今してるんだが?」

「どうして今なんですか?私は、ゆっくりと静かに本を読みたかったのですが…?」

そう言われて、やっと理由に行き着く璃音。つまりは、本を読むにあたり、大雑把で力の使い方が荒い璃音が傍にいて片づけをしていると、気になって集中できないので怒っているのだ。

「でもさ、しょうがねーだろ。今日中に片付けなかったら、夕食なしなんだぞ?!」

「そんな事、私は知りません!」

何やら妖しい雲行きで、今にも雷がその場に落ちて着そうな勢いである。

そんな二人のいる場所へ、ひょっこり姿を見せる者がいた。

「あ、二人ともこんなところにいた!」

二人を確認して笑顔で走ってくる異音。

「あ、異音ですか。どうかしたのですか?」

「えっとね、灯音さんがお茶の用意をしてくれてね、呼んできてって言われたから来たの。」

そう言われて、今日は月に一度の彼等の育て親で教育係でもあり、習う全てのものを教えてきた先生と一緒にお茶を飲んでお菓子を食べるお茶会の日だった。

「わかりました、用意してすぐに行きます。」

「わかった。はやく来てね。今日はねぇ、紫音特製の新作のお菓子が食べれるんだよ〜。」

幸せそうに、異音は二人にそういって去っていった。向かう先は、紫音の場所で、お茶会の場所。

「さぁ、本も片付けも喧嘩も、全部後にして行きましょうか?」

「そうだな。」

壊れる事がないと思う日常、大切な守りたいと思う人達。

「急がないと、灯音さんに紫音の特製のお菓子、全部取られてしまいますね。」

「それは何としてでも防がねば…。」

もう、怒りは何処かへ飛んで行き、二人は仲良く笑い会い、部屋を移動した。

 

 

「遅いです。」

着いて早々文句を言われてしまった。確かに、ゆっくり歩いて来たので遅いと言えば遅い。

「今日は、移動より歩く方がいいなと思いまして。」

「まぁ、たまには運動も必要ですから、今回は多めに見ましょう。」

席に着きなさいと指示を出され、二人が席に着けば役者はそろう。

「では、今日もお茶会を始めます。」

五人全員手を合わせ、神に祈る。神への感謝の気持ちを込めて、食す。一種の儀式。

彼等四人の内、誰かが神を支える上に立つ者となる。

だが、それは一人という孤独で争いのある辛い毎日を送る事になる。それが、灯音にとって、辛く悲しい現実だった。

自分の教えていくこの教育が、彼等の未来を変えてしまうのだ。

あの、神の右腕という名誉や名前を貰えても、寂しい場所へと、誰も見方がいないような場所へと行く。それが、心配で、この日常が続けばいいのにと思う。

彼等四人も、いつか一人はその役を持つという事に薄々気付いている事だろう。

この四人は皆、感覚が鋭いから。自分がどんなに隠し事をしていても、見抜いてしまう子達だから。

「ちょっと、璃音。人のものに手をつけないで下さい!」

「いいだろ?残ってるんだし。」

「何馬鹿な事を言っているのですか。」

「まぁまぁ、まだあるしさぁ、喧嘩はやめようよ。」

「そうですよ。また、作りますから。」

相変わらず喧嘩をする二人。仲良く喧嘩を止めに入る二人。

どうか、この四人の今と言う幸せを奪うような事はしないで下さいと、願ってしまう。

「さて、そろそろお茶会はお開きにしますか?」

「あれ?もう、こんな時間か。」

「いつも、時間を忘れますね。」

席を立ち、片づけを始める四人。本当にいい子で、灯音にとって、大切な我子のような存在。

「さぁ、これから少し、勉強をしますか?」

その言葉に、璃音は嫌だと文句をいい、本の読む時間が減っていくとぼやく魅音。そして、今日はどんな事をするんだろうと話す紫音と異音。

灯音の指示に従い、仲良く書庫へと向かう。

これが、彼等のここでの最後となるお茶会だという事に誰も気付かない。

神は気付いていたのかもしれないが、手は出さずに黙っている。

歪んだ運命の輪が、彼等を離す。

そして、灯音の身に危険が及ぶのも、その時。

しかし、長い年月を得て、深い絆を持つ彼等は再会を果たす。

こことは違う、別の場所で。