短いお話あれこれ詰め









幕間-彼女と桜とこれから

事件がひと段落ついて、部活の作業に戻った。
その時ふと、窓の外を見た。
そこには、人の目からすればただの桜の木。けれど、一度関わった雅美達からすれば、桜の精霊がそばで腰かけて、時期を無視して今も咲き乱れる桃色の花が見える。
あれから、ずっと雅美達の視界には桜の花が咲いている。けれど、他の皆からすると、花は咲いていない。
あれは、特殊な力によるものだと、以前早夜さんが言っていた。
本当に、不思議な光景だ。今が秋も過ぎ、葉が散ろうとしている時期だとは思えない。
「どうかした?」
こちらの視線に気づいた彼女が話しかけてきたが、桜を見てたと、少しだけ微妙なごまかしをして、作業の方へ目線を戻した。
最初の事件から、何かが変わろうとしているのか、違和感を感じる。
今という日常を大事にしたいと思うのに、この日常が壊れる光景が時折脳裏に浮かぶのだ。
それがどうしてなのかはわからない。
まるで、これからを暗示するかのようで、何だか嫌だ。
彼女との出会いが不思議な出来事であり、それが私に不安を与えているのも事実。
けれど、それで彼女と出会わずにいたこともまた、後悔するだろう。
確かに何かが変わり始めているのも事実だが、彼女との出会いは私にとっては必要なことだとも思っている。
出会えてよかったと、思っている。
それを否定はしたくない。
それでも、感じる不安がよしとしてくれない。
「あと一年…」
この学校にいられる期限であり、ここから彼女と会話できる期限。会いに来れるだろうけれど、もう卒業したら会えない予感もどこかであった。
「桜妖華。」
「何かしら?」
「私は貴方に会ったことを後悔したくない。」
どういうことだと首をかしげる彼女。
「巻き込まれたけど、私は貴方に会えて良かった。ちゃんと言っておきたかったんだ。」
もしかしたら、もう言えないかもしれない。だから、ちゃんと言っておきたいのだと思って伝えると、少し驚いたように固まった彼女。
「…ありがとう。私を受け入れてくれて。」
うれしそうに笑みを浮かべ、桜も一層花開いて吹雪いて宙を花びらが舞う。
この幻想的な光景を、人の目には映らない。
少し勿体ないと思ったけれど、私達だけの秘密の特権だと思うとなんだかくすぐったく、そして嬉しかった。

そして、この時の予感は的中することになる。
私は、皆は、巻き込まれ、選択することになる。
人として生きるのか、死ぬのか、それとも…人ではない世界に足を踏み入れるのか。





これは桜華高等学校文芸部の第一部のある一コマとして考えたもの。
やっぱり、いろいろ手直ししたいところもあるけど、思い入れもあるのでこのままでもいいと思ってる複雑な作品。



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何気なしに立ち寄った店。
「こんなところに…。」
風が吹いて、ひらりと視界に入った薄い桃色のもの。
視線をあげると、そこには大きな桜の木があった。
「綺麗…。」
まさに桜吹雪。ふわりと舞い上がって散っていく様は美しかった。
けれど、そこで気づいた。
この近くまであまりくることはない。だから気づかなかったのかもしれない。
それでも、これほど見事な桜を今まで知らないなんておかしいのではないか。
その瞬間、事態を理解した。
急いでここを離れないといけない、と。
しかし、すでに時は遅い。
「桜が見えるんだね。」
そういって、目の前に浮いている見知らぬ女の姿がそこにあった。

昔から、この世界には違う存在がいた。
それが幽霊と言われる類のものなのか、それとも違うのか。区別はつかないけれど、関わるとろくなことがないことは理解していた。
だから、気を付けていたのだ。
人の世界で生きていたいから、人と同じものを見て生きていけるようにと、視線を合わせないように気を付けてきたのだ。
そうしないと、戻れないとわかっていたからと、よくないものを引き寄せてしまう可能性も知っていたからだ。
それなのに、今回やらかしてしまった。

「こんにちは。」
女が話しかける。もう、相手はわかっている。私が見えるということを。
仕方なく、私は答えることにした。
あの綺麗な桜にかかわるものなら、とりあえずは害があるものではないだろうと判断したからだ。
けれど、これがやはり間違いだった。
それでも、私はこの出会いをなかったことにはしたくない。
彼女は私にとって、かけがえのない友人となるのだから。





春用にと考えたもの。
やっぱり桜華文芸部の影響強くてどうもしっくりこなくてボツにしたもの。


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チョコレートが食べるのが好きで、そんな君の食べる横顔が好きで、いつの間にかチョコレートを持ち歩くようになった。
君がいなくなった今もそれは変わらない。

世界はある日突然変わる。
そんな物語のフレーズみたいなことに遭遇したのは雪降る冬のことだった。
それが、君との出会いで、君との別れの季節だった。
冬しか生きられない、そんな変わった種族である君は、冬がきても寝坊して、冬がとっくにきてから姿を見せた。
出会ったとき、弱っていた君に最初に渡したのが、ちょうど今朝に妹からもらったチョコレートだった。
おいしそうに食べる君を見て、なんだかうれしくなったのを覚えている。
「冬知らせ?」
「そう。冬を知らせることで冬将軍を呼ぶ精霊なの。」
チョコレートを食べて満足したのか、君は君が何者なのかを教えてくれた。
この世界には、精霊はいるが、人はもう目にすることができないぐらい、その力がないのだと誰かがいっていた。
けれど、今僕の前には精霊が見えていた。これは、本来はもう交わることのなかった出会いだったのかもしれない。
「でも、とっくに冬はきてるよ。」
「また寝坊しちゃったんだ。」
失敗したよと困ったように笑った君は、急いできて、あそこで行き倒れていたのだという。
「じゃあ、仕事が終わったから帰るのか?」
「冬の間はいるよ。」
なんだかなんだと君のことが気になった僕は、それから一緒にいるようになった。
けれど、冬はあっという間に過ぎていく。君は帰ることになった。
「お別れ。また、来年も逢えたらうれしいな。」
そういって、君は帰ろうとする。せっかくできた友達との別れ。
だから、人は見ることをやめたのかもしれない。違う時間の流れを生きる者同士、違う世界の、違う理の中で生きる者同士、何度も別れることが、辛かったのかもしれない。
「また、来年。」
「来年。今度は誰よりもはやく冬を知らせに貴方の元へ来るよ。」
君はそういって、帰って行った。
少しだけ、世界の見方が変わった、短い冬の出来事。

また、来年きっと会えるだろう。
約束をしたのだから。
今度はちゃんと出迎えて渡せるように、チョコレートを鞄に潜ませて。



昔書いた冬の妖精の話の別Ver
ヴァレンタインの季節物として考えてボツにしたもの