先ほどまで誰もいなかったはずのこの部屋に風とともに現れた少年。その少年は、金色がかった茶色の髪と、金色の瞳のこの辺では珍しい容姿である。 少年は、辰季がここにいたとは知らなかったのか、いないはずであるこの場所に人がいる事に驚いているようだ。 辰季も驚いていたが、手に持っているものをみて叫んだ。 「あ、それ。竜神様の蒼い珠!」 少年は捕まるものかと、その場から逃げた。彼が竜神の化身の水玉を盗んだ犯人だったのだ。恵一郎の見たという夢は本当だったのだ。 「あ、待って。」 とにかくあの珠は返してもらわないといけないと思い、遠くなった少年の姿を追う。 走っても、走っても・・・・。辰季は少年には追いつけなかった。距離は縮まるどころか、どんどん差が開いているようである。今、自分がどこを走っているのかさえもわからなくなっていた。 ただ、水玉を返してもらおうと思って、追いかけるだけである。 どれくらい走ったのだろうか。そろそろ辰季も走るのに限界がきている。しかし、少年は足を止め様とはしない。このままでは見失ってしまう。 『全ては己の目で確かめる。全ては時の流れとともに、自然に動く。全ては己の意思で道を切り開くことが出来る。』 急に声が聞こえた。この声は―――夢の中で聞いた竜神の声。 後ろから聞こえたように思い、振り返るがそこには何も無い。空耳かと思った時、追いかけていた少年はもういなかった。 「見失った・・・。で、ここはどこだ?」 見失ったと判断したと同時にここはどこだろうかと考えた。辰季は今どこにいるのか全然わからなかった。 「道に迷った・・・というより、道から外れたっていうのが正しいかな。」 そう考えて、結局は自分の家がどこにあるのかがわからないのだからどうしようもない。下手に動いてさらに迷うのも、疲れるのもよくないと考え、その場にしゃがみこんだ。 どうしてか、こんな時、目をつむって本来聞こえるはずなき声を聞けばいいと考えた。この考えは、あの辰樹という人のだろうか。 「僕はどうすればいいのか。このまま帰るべきなのか、それとも・・・。」 風が優しく辰季を包み込んだ。木々がゆれ、太陽の光を下に差す。木々や草木の水が流れる音が聞こえる。そして、誰かの声が聞こえる。 『全て、己自身で見よ。全て、お前は知っている。全て、お前は見ることが出来る。』 「何を見たらいいの。何を知っているの。何を見ることが出来るの?」 疑問ばかり返してしまう。何も意味がわからないのだ。 『己の力を信じよ。己の持つ運命を思い出せ。己の全て、私の者。私のもの、全て己のもの。思い出せ、己の記憶。』 竜神は何がいいたい。自分が辰樹だと言う人だといいたいのか。その記憶を思い出させたいのか。そんなことをしても、思い出せないし、自分は自分である。 「一つ聞いていい?あの蒼い珠はあなたの涙なの?僕は、あなたが待っていた辰樹という人の魂を持つ者なの?」 先程ほど、返事はすぐに返ってこなかった。声がやんでしまった。もう返事はないのかと思い、立ち上がろうとした時、 『お前は昔、私の友であった辰樹の魂を持ってこの地に戻ってきた器だ。だが、お前はお前だ。だが、お前の持つ清らかな心と持つ力は私の友と同じ。だから言う。今の私ではあのものの願いも叶えられぬ。力を貸してほしい。』 「何がどういうことだよ。」 『よく考えろ。お前はもう知っている。気を集中せよ。この地に住む精霊が全てを教えてくれるだろう。』 そう言って、声の気配全てが消えた。 辰季は一人取り残された。どうしようかと考えたが、何も思いつかない。それもそうだ。自分はただの人間であり、この地に来たのだって、記憶があるうちでは昨日が始めて。こんな場所など知らない。 知らないはずである。だが、どことなく思い当たることがある。それは、辰樹という人の魂を持っているからであろうか。 それならば、言われたとおり何かを感じようと考えた。全てを知っているのなら、全てを見ることが出来るのなら、あの少年が誰なのか、そしてどこにいったのか。全てわかるはずではないのか? 先ほどまでの自分が嘘のようである。少年がどちらに走っていったのかわかるようになっていた。ここをもう少し先にいって、あの少し急なところを下りてそれから・・・。 ついた場所は先ほど見た少年が少し余裕を持って通れるような洞穴。 なぜかわからないが、ここに水玉があるとわかった。ここに必ず少年と水玉があると確信していた。これには自分でも驚く。 恐る恐る、中に入った。中は何があるのかわからない。だが、何も無いとわかった。中には少年ともう一人がいるだけだとわかった。これが、竜神が言っていた、全てを知る、全てを見るという、自分の力なのか。 中には、辰季を見て座っておびえる二人の姿があった。 「君、何者。人ではないよね。」 がたがたと震えて抱き合っている二人に言う。最初に少年を見たときから感じた違和感。それは、彼が人ではなかったから感じたのだった。 「どうして、その水玉を持っていったの。」 腰をおろして、二人と目線の高さをあわせる。敵意はないと示すようににっこりと微笑んで言う。 「おしえて、もらえないかな?君は何者で、どうしてそれを持ち去ったのか。」 少年は、辰季が自分達に害を加えないとわかったのか、口を開いた。 「ぼ、僕は、金時。こっちは僕の母さんの白雪。僕は母さんの病気を直したくて、これ、何でも願いを叶えてくれる竜神の化身だって知ったから。」 話してくれたことがとてもうれしかった。 「金時、でいい?確かに、それは竜神の体の一部かもしれない。けど、それだけを持って願いを言っても叶えてはもらえないよ。」 「わ、わかってる。だから、もう一回あそこに行ってみたんだ。そしたら、君がいたんだ。」 「そうか。あ、言い忘れていたけど、僕は辰季ね。で、君は何者ってことはまだ聞いていないよ。」 言おうとしたが、母親が止める。金時はでもといいながらも、母の言う事を聞いた。 「話せない、でもいいか。なら、うなずくかうなずかないかで答えて。君は人ではない。君は狐だよね?」 目を丸くする二人。いや、二匹。少し間を持って金時はうなずいた。 「そっか。」 これで納得できた。彼は人ではなく狐であって、母の病気を治したいために竜神の化身の蒼い珠をとり、願いをかけようとした。 「で、でも。どうして僕等が狐だってわかったの?」 普通に考えればそう言われてもおかしくないが、どうしてか自分にはそうだとわかった。だから、答え様が無くて困った。 「困らせてはいけませんよ。」 母親が言って、金時はしぶしぶはいと従った。やはり、親の力はすごいと思う。 「で、えっと、白雪さんはどんな病気なの?」 「病気ってほどのものじゃないのよ。この子がそう言うだけ。ちょっと左後足にケガをしちゃってね。」 「でも、とっても痛そうだよ。それに、歩けなくなるかもしれないんでしょ?やっぱり病気だよ。」 お互い、見えないが強い信頼の糸でつながっている。親子はいいなとこの時改めて思った。 「なら、僕が竜神様にお願いしてみるよ。」 そういって、目を瞑った。 『僕の体も意思も全ぶ貸すから、この狐のケガを直してあげて下さい。』 心の中でそう言った。 蒼い珠を手中に収め、辰季は青白い光に包まれる。そのまま、親狐に足の怪我に手を触れる。すると、みるみるケガは直った。跡形もなく、後遺症も残ることなく。 「わぁ、すごい。お兄ちゃんすごいね。」 と喜ぶ金時。ありがとうございますと御礼を言う白雪。だが、すぐに二人は目を疑って固まる。 目の前にいたのは先ほどまでの辰季ではなかった。蒼銀の髪に真っ青の瞳の少年。その髪と瞳はこの地に舞い降りた竜神のものと同じである。 『礼はいりませんよ。私だけでは願いを叶える事は出来ませんからね。それに、辰季が私に願ったのですから、叶えるのは約束ですからね。』 声も先ほどまでとは違っていた。 「竜神、様・・・?」 『そう、私はこの地を守護する者。この者に誓いを立てた者だ。さて、これからどうするつもりだ、狐二人。』 二人はもちろん、ずっとこの山に住むと言った。竜神に助けられて、興味深い人間にも出会えたのだからと言う。 『ならば、辰季を村まで案内してくれるか?』 お安い御用と言った後、まかせといてと言う。竜神は元気がよくていいなといい、気配を消した。 辰季は呼びかける金時の声によって目を覚ました。どうやら眠ってしまっていたらしい。 辰季は水玉を持ち村まで帰ってきた。 すると、村中が良かったやら村はまだまだ続くやら、竜神の認めた祈り人など勝手な事を言っている。だが、何より恵一郎と雪夜の喜んでいる姿を見てそんなことはどうでもよくなった。 「やはり、辰季は竜神に認められたのだろうな。」 「そうね、もしなくなったのなら二度と戻ってこないでしょうにね。」 「僕は何もしていないよ。竜神様が帰る場所はここだから帰ってきてくれたんだよ。」 そういって、水玉をもとのように治め、前で一礼をした。 「これからよろしくお願いします。」 恵一郎と雪夜には聞こえない小さな声で言った。 その言葉に反応してか、水玉はきらりと光った。 あとがき お読みいただきありがとうございました。 改めて復活する際、整理の為大幅に削除する予定の中、蛍の話同様、これも古いといいますか、 サイト開設当初のものなので、今更おいておくには少々恥ずかしいなとおもったりもしました。 しかし、あのころの思い出の作品でもあるので、蛍同様こちらも残すことにしました。 最近書くものが、どうも物騒な感じのが多いので、こういったのほほんとした話をまた書きたいなという思いも込めて |