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相変わらず脱走を繰り返しながらも、それなりに政務も進め、平穏な日常が続いていた。 「ミュリー、どうかしましたか?」 『ええ、少々状況が変わったようですので一応耳に入れておいていただこうと思いまして。』 そう言って、呼び出されたヴィレッドはいつも彼がいる部屋へと向かった。 そこにはジュリとウーリアもいて、何事だと思ったが、すぐに状況を理解することになった。 「すいません、時間をとらせてしまいました。」 「気にしない。結局目的が同じなら、その為に使う時間は必要経費だと思えばいいんだから。」 それに、そんなことで文句を言う連中はそもそもこの城にいないと、ジュリにしてはまともなことを言った。 「それで、この面々を呼び出した本題は何だ?そっちの二人だけならまだしも、私までとは…。」 「はい。外の監視で一番最初に異変を見つけるから、ですね。」 ミュリーがいうには、誰もが知っているあの時期が近付いていること。しかし、その時期がどうも少しはやまりそうだということ。 「何か問題でもあったのか?」 「いえ。ただ、いつものような異変が起こりだしたので、今までの経緯から言って、本来の予定よりも早くなりそうだと思ったので。」 「確かに、そうなると玉座奥に引っ込むための準備がズレるわよね。」 「政務の予定も変わってしまいますね。」 「はい。それに、たまにいるので警戒しなくてもいけませんからね。いつもの馬鹿の対策について。」 「そうでした。本当の意味でこの国の宝と呼ばれる二体の聖獣のこと、知らない連中が多すぎたんですよね。」 過去の歴史においても、今の女王に代替わりした当初にしても。 先代では無理だとあきらめた連中が、代替わりで、まだ若い娘だと知って仕掛けてくることが多くあった。 今でこそ、絶対的な要塞のようだと噂されることで、他国からの侵略もないし、そういった連中も来なくなって平和になったといえども、油断は禁物だ。そして、その為に自分たち騎士がいる。 「何より、アレが暴れたら、この国の修理どころじゃないですし。」 「そうだな。」 騎士は皆、アレを知っているし、対面したこともある。そして、その力も知っている。だからこそ、何事もなく終わらせる為に仕事をする。 「それで、今回は何の要求もないのか?」 「ええ。珍しく。だから、後が怖いんですけどね。」 「そうだな。」 そんな話をしている時だった。突然、周囲に冷気が漂い始め、誰かが立っている姿が見えた。 「…確かに、想像以上に予定が早いみたいだな。」 『久しいな。どうもあの馬鹿者が不安定になってしまったようでな。』 「成程。安定させるために、強制的に『眠らせた』為に女王にも影響が出た、と。」 『そうじゃ。』 「その不安定の原因はわかっているんですか?」 『ただの時期的なものよ。この土地に縛られた我等にとって、土地の力が弱まるとそうなる。』 正確に言うと、また力を蓄えて、反映させるために土地を休める為に力を取られているということらしい。 『ぬしとて、同じであろう?』 「どういうことだ?」 ミュリーはどうせ何となく気づいているのだろうが、知らないジュリは首をかしげるだけ。そして、俺に何のことだとしつこく言い寄ってくるのも、彼女の性格上日常のことで、それをわざとやって楽しんでいるこの聖獣様には苛立ちを覚える。 「何でもない。ただ、俺もあいつ等みたいに、力を使いすぎたら一時的に数時間単位だが、力が使えなくなるってことを言ってるだけだ。お前だって知ってるだろ?」 「ああ、確かにあったな。まったく水の力が使えず無能になる日。」 「…。」 「あ、もちろん、無能といっても異質が使えないだけで、剣術はすごいと思うぞ。」 だから、胸を張って普通の騎士になっていればいいよと言う女にまたイラっとするが、今はそれより聖獣様のことが問題だ。 『まぁ、なってしまったものは仕方なかろう。我は先に休むことにする。』 「では、もう聖獣の間へ行かれるんですか?」 『そうなるの。…ああ、忘れるところじゃった。』 そういって、聖獣様は言う。 『そこの騎士はまだ話があるから共に参れ。』 今度は何だと思うが、以前にも一度呼ばれたし、どうして呼ばれたのかという内容を嫌と言う程自身で理解していた為、大人しくついていくことにした。 毎度ではないにしろ、何度か呼ばれる俺のことにいったい何の為に呼ばれているのか気になるらしいジュリは、間違いなく戻れば質問付きで襲撃してくるに違いない。 まぁ、俺の能力と聖獣の一体の能力が近いからこそ、それに関することだとは思っているようだが、面白いことに対して興味を持ち、それを知りたがるのは好奇心の強い彼女らしいが、時々困る。 特に、この聖獣様のお相手をした後なんて、精神的に疲れているところへ精神と体力共に止めをさすような彼女の襲撃は、はっきりいって迷惑以前の問題である。 「明日が無事にすめばいいが…。」 『何ぞ言ったか?』 「いえ。」 こうしてたどり着いたのは、城の中心部にして、女王が普段人と対面する場、謁見の間であり、この奥に用意された部屋こそ、王族が引き継いできた聖獣が表に出た際に静かに過ごす部屋である。 ここに引き篭もっている間は、何人たりとも外部の者を城にいれないということが城中の使用人や騎士の暗黙の了解であり、近い側近や世役などの騎士以外はこの謁見の間にすら近づくことが許されない期間となる。 なので、時期がくると連絡が通るのだが、生憎今回は予想以上に早かったので、知らない者も多い。今頃、ミュリーやジュリが城中に伝達していることだろう。そして、外にいる城の関係者も情報を集めて不審な者が国そのものに近づかないように対処する。 国の連中は毎度のことなであり、平和を維持する措置だと思っているのでそれに対してどうにもしないし思いもしないが、外の連中が問題である。 対象がどんなものかわかりもしないのに、先日のように聖獣を狙う連中がこの時期になると現れたという噂に踊らされて増える。 「ジュリが暴走しなければいいが…。」 『何、そうなる前に我とて主を開放してやるわ。安心せい。』 部屋に入り、いつもの眠る為の寝台の上に腰かけたソレはこちらを視て、言う。 俺にとって、あまり触れてほしくないことを。 『それで、少し魂が歪んできているが、アヤツはどうしておる?』 「相変わらずだ。」 『そうか。それにしても、本当にお主は難儀よの。ここの王族よりも。』 意味ありげに意地悪そうに笑うその顔が、腹立たしい。どうせ自分が何者でどういう状況なのかわかっていて、暇つぶしで遊んでいるのがとてつもなく性格が悪いと思う。 |