女王が帰った後、町を歩いていると、先程まで会話の話題にあがっていた彼が歩いていた。まだ、悩んだままだし、言って軽蔑されることになっても仕方ないとは思っていても、それで友人である彼女と会えなくなるのは寂しくなるなと思っている。

それに、会って何度か言葉を交わしたり、起こる出来事のことを聴いたりすると、結構私は彼のことを気に入っているようだから、できればこのままでいたいという想いもある。

「貴方は確か…。」

「ローズよ。女王様をお探しかしら?」

「いや、今日は好き勝手したら部屋に戻るだろうから気にしていない。」

「意外。毎日追いかけっこしているから、今回もそうかと思っていたのに。確かに、さっききたことを考えると、戻るとは思うけど。」

「ああ、そっちにいたのか。情報提供感謝する。」

そういって、そのまま歩いて行こうとした彼を、さっき彼女に会って話をしたせいか、呼びとめていた。

少し首をかしげながら、彼は私についてきて、店にきてくれた。

「それで、話とは何だ?」

私は意を決して、彼に聞いてみた。その上で私が憎いならそれでもいい。そして、殺したい敵なら、それでもいい。

ただ、こんな中途半端のままでは彼にもそれこそ友人である女王とも付き合う上で失礼というものだ。

私のただの自己満足かもしれないが、けじめをつけないままでいることはこれ以上できない。

彼が、あの時私の過去と交わり、巻き込まれたと知った以上は。

「少しだけ、昔話をすることになる。いいかしら?」

「ああ。」

静かに語り始められる。親がいない、孤児院で育った私の話。それによって選んだ泥棒と言う道、そしてその泥棒がオズだということ。

「私は悪いことだと理解した上で、私は選んだ。だから、この罪を誰かに押し付けるつもりはない。だが、捕まるつもりはない。そうすれば、お金の行方を巡り、何も知らない彼等に迷惑がかかる。それだけは嫌だから、私は逃げ続ける。」

だけど、あの時、私の罪が昇華されようとしていた。

「貴方が巻き込まれたあの日、私も巻き込まれた。結果、私は逃げ切れたけれど、貴方は捕まった。」

あの時は必死で、知らなかった。巻き込まれた別の存在がいることに。

「私は泥棒であったことにやましい想いを持っていないし後悔もしていない。けど、貴方を巻き込んだことを後で知った時は、私は後悔した。」

タイミングが悪くても、無関係の人間が私の罪に問われてしまったことで、別の罪も被さって死刑が決まりそうになっていたからだ。

「だから、謝っても貴方にはもうどうでもいいことかもしれないし、忘れたいことかもしれない。それこそ恨んでいるかもしれない。けど、私はちゃんと話しておく義務があると思った。」

これからも、彼女と友人であり、巻き込まれた貴方と顔を合わせる日々を過ごす気があるのなら、けじめをつけたい。

それに、彼女を守る貴方からすれば、きっと私は警戒すべき存在だろうから、常に何か疑わしいことがあれば、迷わず斬れるように。

「…話はそれだけか?」

「…ええ。もしかしたら懺悔したかっただけなのかもしれないけど。」

そう言うと、はぁとため息をつく。話を聞いて、このまま恨まれるかと思ったが、どうやら様子は違っていた。

「あんたは結構バカなんだな。」

「なっ?!」

予想とは違う返答に間抜けな声がでた。

「生憎俺も親がいない。だが、孤児院では育っていない。それでも、友人がいて、そいつが孤児院にいた。その孤児院では、妖精が食べ物をくれるというんだ。」

何を馬鹿な話だと、現実を視ていた俺たちは思っていた。それこそ、俺を含めた、親のいない、居場所のいない連中の集合の中では。

「けど、一度、アンタは俺たちに盗んだ金を押し付けて、夜に逃げていった。」

「え?嘘っ?!」

「生憎嘘じゃない。だから、わかった。あの孤児院にはあの泥棒がお金を押し付けていってる。そして、その正体を孤児院にきてたシスターは知っていた。」

時々言って食べ物を貰ったり、いろんな話をしてくれた女のことを私に教えてくれた彼は、どこか懐かしそうに眼を細めていた。

「楽しそうに話していた少女の話は、時々、彼女を寂しそうにさせていた。こんなことをさせるのは自分たちのせいだと。」

けど、感謝している。そして、もし彼女に何かあれば自分が味方であり続け守るのだと言っていた。そのことを聞いて、私も彼女のことを思い出していた。

いつも笑って迎えてくれたあの人の顔。

「あの人は間違いなく、何かあったらお前の罪を背負ってでも守るつもりだ。」

大事にされ、大事にしたくて…けど、結局守られていた子どものまま。

「そう、だったんだ。気づかなかった。」

ただ、帰れば迎えてくれるあの場所とあの人がいて、それだけで満足だった。その為に選んだことに後悔もないし、むしろ捕まったら堂々としてやると思うぐらいには、恥だと思ってもいなかった。

「それに、俺はあの事件で腹立たしいのは貴族のお家騒動であって、俺もあんたも巻き込まれただけ。そうだろ?」

別にお前が悪いわけではないし、お互い巻き込まれかけたから逃げたら、お前は逃げ切れて、俺は捕まった。ただそれだけの結果だ。そう言いきって、今度は彼が昔話に補足があると言って話し出した。

「俺は元々、あの国の騎士だった。今はないことはあんたも知ってるだろ?」

「ええ。あの事件を発端に、争いが勃発し、最後には自滅…滅んだわね。」

「そうだ。だから、そもそも切欠が欲しかっただけなんだろ。だから、このことは忘れろ。で、横において補足の昔話だ。」

彼が言うには、元々、騎士という肩書以外に別の通り名があったのだという。

もしあの孤児院の出身なら、聞き覚えがあるはずだと言って、彼が言った通り名は、確かに私が知る名前であり、けれどすぐに信じられるものではなかった。

「でも、『スノークイーン』って、女の人なんじゃ…。」

かつて、有名な傭兵の話は、あの孤児院周辺の国や町では有名だった。結局どこの誰だかわからなかったが、長い、夜の月夜に光る銀色に、姿を覆い隠すマントを羽織ったその人物は、常に冷たく、幽霊だとも言われていた。

だけど、扱う氷の剣や氷の刃を飛ばすことから、魔女だとも言われていた。

「それに、あの国で騎士をしていたら、私だって知ってるし、そんな人、誰もいなかったじゃないですか。」

「今だから言うが、暗殺メインで、表向きでは騎士として出てなかったから知らないだろうしな。だからといって、髪が長いことを知ってる奴はあの城にもいなかったけどな。」

変装をする為の、力を使う際に細く長い氷の糸で髪を長く見せていたのだと彼は教えてくれた。

「城の連中にも、この力のことは黙っていたし、仕事以外でもいろいろやっていたから、力を持つのが俺だとイコールだとバレ内容にするためだったからな。」

だが、それで女だと思われていたのは予想外だったのだと教えてくれた。

「あんたが思う程、俺も巻き込まれた被害者ってわけじゃないし、俺はあんたを恨んだこともない。」

それは、今話した過去があるから、殺したやり方が剣だったから、暗殺を任される騎士として疑われ、体よく切り捨てられただけなのだと言う。

「お互い、ろくでもない過去だってことで。でも、それでも自分の内側へ引き入れるとんでもない女王様もいるけどな。」

それに救われて、だから黙っていたくなくて話してきたのだろうと言われてしまった。

「俺も、何だかんだといって、大変だし迷惑ばかりだが、俺はあの人に助けられたし、恩もある。そして、結局俺自身があの人を気に入っている。あんたもそうなんだろ?だから、ここでこの商売を続けている。」

今はそれが誇りで、今やっている仕事にプライドを持っている。だから、譲れない。その為に、少しでも引っかかることがあるのなら、それがいつか彼女への危険につながるのならと考えたら、行動してしまったのだろうと彼は苦笑しながら言った。

「そうかも。さっき会って、貴方のことで話して…彼女は言ったわ。貴方なら、別に気にしないだろうって。」

「そうだな。実際そうだったが。」

「そうね。けど、私は黙ったままでいたくなかった。これは私のエゴなのだろうけど。」

「そうだな。俺もそうかもしれない。そうやって同じ舞台に立って、そこから始める。」

その為に声をかけたんだろう?そう言って、今の私の通り名を言った。

「知ってたのね。」

「ああ。だから、協力を申し出るつもりだろうと思ったが?」

「ええ。改めてよろしく。『ダーククロウ』よ。」

得意なのは潜入と盗み。そして、ガラス細工や宝石類の偽物を模造すること。

もし何かあれば言ってくれれば協力するわ。勿論ただでねと言うと、人手が足りないからありがたいと言って、彼は今日はそろそろ戻ると言って店を出た。

今日は予想外な人の過去を知って、予想がない過去の噂の正体を知って、私の過去を知られた。

けど、今までよりすっきりしていて、いい気分だ。どうやら、思った以上にあの過去のことが私にはひっかかっていたようだ。