その日、女王の一言で面倒なことになってしまった。

「暇ね。」

最近平和で、毎日変わりない日々をすごしていた。それはいいことなのだが、大半の政務も終え、暇を持て余した女王はあまり機嫌がよくなかった。

退屈すぎて今にも何か騒動を起こそうとしているのが見え見えだ。それに対して、ジュリは面白ければいいじゃないということで、止める気もなし。どうせ、問題が起これば仕事が増えるのは自分だけだ。

どうにかしておとなしくしてもらわなければいけないと思っていたが、行動が少し遅かったようだ。

『旅に出ます。探さないで下さい。』

という書き残しと共に、執務室から彼女の姿は忽然と消えていた。

「逃げられたっ!」

舌打ち一つ。乱暴に扉を開け、廊下を走る。あくまで、走るぐらい急いで歩くという速度で、だ。危ないので廊下は走らないをきちんと守る真面目な彼に、いつも馬鹿な程真面目だと笑うジュリはそこにいない。

「ミュリー、すいませんが、今すぐ女王の居場所を探して下さい。」

ばんっとノックもなく入るが、訪問のことは先読みの彼にはわかっていたことで、快くいいよと答えて探してくれた。

「どうやら、城下にでてるみたいですね。」

どうしますと聞かれ、安全の問題と、町人の状況を確認し、少しだけ冷静になり、後回しにすることにした。

「いいのですか?」

「たまには、町人から直に『声』を聴く方がいいこともある。だから女王陛下なんだ。」

「そうですね。」

クスリと笑い、危なくなりそうだったらまた声をかけますと言われ、頼んだヴィレッドは部屋を出た。

本当はすぐにでも見つけて連れ戻す必要があるのだが、直に声を聴くことで国の運営に生かす女王であるので、全てを駄目だとしたらそれこそ反乱を起こしかねない。

だけど、そんな彼女の無茶苦茶さに救われたのだから、文句も言えない。

「本当、困った人だ。」

もっと、傲慢で自分勝手なだけなら、切り捨てて嫌えるのに。結局あの人は周囲をしっかりみて動かす人だから、こんなに苦労する羽目になって、しかも嫌いな貴族で、それも王族である彼女の元で働くことになったし、それが続いているのだ。

「それにしても、あれから7年…。長いような早いような…微妙な感じだな。」

出会いから7年。それが自分を大きく変えたことは自覚しているし、恩人である女王のことが大事である。だが、あまり無茶をされると困る。

でも、それが彼女のいいところなのだから、困る以外のなにものでもない。

「無実だった。それでも、刑が執行されようとしていた。世の中は、不条理。そう思ってたのに、それをひっくり返す非常識な存在がいたのには驚いた。」

それが、貴族で、次期女王だというのだから、驚きどころではない。

何も言葉がでない。その方が正しいかもしれない。

 

 

 

 

その頃の女王は町人と楽しく会話をしていた。

「おや、久しぶりだね。」

「ああ、私はもっと来たかったが、仕事が押していてな。それに、うるさい奴もいるからな。」

「いつも一緒にいる彼だね。」

「そうだ。」

ここは、彼女が女王と知っていても普通に接する、統一性のない様々な商品を扱う何でも屋『ブラックローズ』だ。

元々、ここの女主人は孤児院出身でお金を手に入れる為に盗みを働いていた、泥棒『オズ』だったりするが、今は引退している。もちろん、女王も彼女の経歴を知っているし、その上でここでの商売を許可している。

「こういう特技があるのなら、わざわざ盗みをしなくても良かったろうに。」

「でも、子どもだといろいろ制約もあるし、大人はだいたいいちゃもんつけて言いたい放題言うだけで客にはならんかったからね。」

親がいない。だから馬鹿にされた。だから、毎日帰るたびに稼ぎのない自分を大丈夫だと優しく迎えてくれる世話をしにやってきていたシスターの優しさが辛くて、無理して倒れたことをきっかけに彼女は選んだのだと言った。

「でも、泥棒したままでも、ここで私の誘いに乗って店作ったじゃない。」

本当は、それでもこうやって店をすることも好きだったんだろうと言われ、そうかもしれないと答える彼女と笑いあう。

「でも、城に乗り込んできた日は驚いたよ。」

「私でも結構あの時の余裕のなさにはびっくりだよ。後から考えるとね。」

私も貴族が嫌いだ。その例外が彼女であり、だからここで商売をしている。

「あれから10年。あの事件から7年。」

「私はいつもの彼があの時のこと知ったら、私の首を取りにきそうで怖いけどね。」

「何言ってるのさ。そもそも、たまたま盗みに入って目撃したし、目撃者として追われていた。そこにあいつがいた。ただそれだけでしょ?」

どっちも無実で全ての現況で、人殺しのアレが悪いのだと私が言うが、彼女はまだ納得していないようだった。

「でも、今も考えてしまう。オズという泥棒の罪は私が背負う罪で、私はそれを選んだことを後悔もしていないし、人に罪を押し付けるつもりもない。」

「わかってる。だから、私は気に入ったし、私はずっとあなたと友人でありたいと思ってる。」

「ありがとう。でも、あの日の殺人で見られた私はオズで、代わりに捕まった彼は殺人とオズだという泥棒のレッテルを張られて、ありもしない罪で刑が執行されようとしていた。」

「そうね。でも、無実で今もぴんぴんしてる。」

「…。」

「そこまで思い込むのなら、いっそのこと言ってみたらいい。意外とあいつは貴方のことを知ってもそのまま受け入れるわ。だって、彼は貴方と同じだもの。」

そういって笑った私に、少しだけ驚いたように目を丸くして、でも笑い返してきた。

「そうね。それもいいかもしれない。」

「なら、この話は終わり。」

そして、私は本来のここへ訪問した理由である話をもちかけた。