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その日、食事を終えたリュウエンは今日の午後に城へ戻ることを伝えてきた。 「お世話になりました。」 「世話はしてないだろ。また、こい。」 女王がそう言うと嬉しそうにうなずくリュウエン。その時だった。 大きな爆発音と共に、揺れる橋。そして、橋の下から出てくる人影が、王子をとらえ、下へ落ちる。 「ジュリ、追いかけろ。俺は先回りする。」 「はいはい。」 すっと、川に飛び込む二人。言われるまでもなく、残った連中の排除の為に構えるバーバル。そして、女王を守る為に傍にいて周囲を警戒しながら連絡をつけるミュリー。 最後の仕上げの始まり。 「かなり邪魔されたが、上手くいったな。」 「ああ。」 小型の船で下流へと逃げる男達。足止めの連中がどうなるかは、準備期間での他の仲間の惨状を考えると期待をしない方がいいが、元々計画していた合流地点へと彼等も急いだ。 彼等はまだ、追跡してきている二人の存在に気づいていない。 「何だ、あれ…。」 「なっ、嘘だろ。」 流れる川にそって逃走する彼等の目の前に、立ちはだかる『滝』があった。 本来ならそこから流れて下流へとむかうはずのものが、滝とこの川とが合流しているという変な光景がそこにあるのだ。 「どうするんだよ、これ。」 進む先がないのだから、岸にあがるしかない。だが、人質をつれてこの流れるスピードのまま、あがれるとは思えない。 「とにかく、俺たちもまずい。岸へあがるぞ。」 そう言って、川を下ることを諦めた彼等だったが、すでに追撃の手が伸びていた。 「もう、逃げられないから観念してよね。」 いつの間にか船の後ろに立っていた女。どうやってきたのかはわからない。だが、濡れている姿からあの場所から泳いでおいかけてきたと考えるべきだ。だが、この川の流れを泳いでおいかけられるものではない。 やはり、噂通り普通じゃない。その言葉が頭を過った。 「王子。お待たせしてすいませんでした。」 すっともう一人男がいつの間にかいて、しかも水面を道を歩くように歩いているその男は、船に乗っている人質の手をとっていた。 「いえ。こちらこそすいません。助けにきて下さってありがとうございます。」 そう言って手をとると、失礼しますと一言入れたと同時に肩へと担ぎ上げる。 「ちょっと待ってろ。」 「わかってる。それに、こうなってたらもう逃げられないだろ。」 状況がわからずにいた彼等は、先程見たありえない光景のことを思い出した。このままでは滝にぶつかる、と。 だが、それは起こらない。 水面が凍りつき、あの滝もつららとなってこちらへ刃を向けて壁としてそこにあった。 「何、なんだ、これは…何が起きてる。」 「お前等、いったいなんなんだ!」 目の前で、いつの間にか滝どころか凍った水面の氷の上に立ち、人質にしていた王子を連れて距離を取り、話しかける男。こちらに視線を向けずに男に話しかける女。 この異常を視ても冷静なままの隣国の王子の姿。どれもが、今の彼等にとっては異常だった。 「すぐ終わります。…あまりよいものでもありませんし、申し訳ありません。」 そう言って、男が王子の目を手で隠した。それと同時に、女が腕と指を動かすと、男達は動けなくなっていた。どうしてなのかわからずパニックをおこすと、いたるところから血がにじみ出る。 「糸…?!」 「やっと気づいた?とにかく、それ以上動くと輪切りになるからお勧めしない。」 ニヤリと意地悪く浮かべる笑みに、男達は恐怖を覚えた。間違いない。連絡の途絶えた作戦の実行犯たちは、彼等によって始末された。最初から、気づかれていたことを悟る。 いつだったか、作戦を実行する為にとある国の酒場で集まった際に、話しかけてきた胡散臭い顔をフードで隠して視えない男の言葉を思い出す。 『あの国は魔物の巣窟だ。足を踏み入れれば、敵は全て消される。』 いろんな噂は聞いた。だが、ただの噂だとしか思いもしなかった。そもそも、こんな守りがあってないような小国を周囲の大国がどうして手に入れられないのかということも、深く考えなかった。 だが、今ならわかる。簡単に手に入るような国じゃない。落とせる守りじゃない。 国と言うより、国に属しているこの化け物達が異常なのだ。 「最後に言いたいこと、ある?」 一応、酒場で忠告はされたはずなのにね。そう言われた瞬間、考えている以上に早い段階からすでに計画はばれていて、選ばされたのだ。そして、俺たちは悪い結果の未来を選んでしまったのだ。 「おやおや。忠告も無意味だとは。悲しい限り。」 いつの間にか岸に立つ男の姿に見覚えがある。素顔をみたことはないが、あの声とあの上着とフードには嫌と言う程見覚えがある。 あの忠告してきた男だ。最初から、ここの化け物に目をつけられていた。 その思考がそれ以上続くことなく、男達の命は途絶えることになる。 「遅かったですね。」 「思ったより、後始末も面倒だったんだよ。」 嫌になるぐらい、相変わらずあの国の強欲貴族は面倒だと文句を言うのは、この城の騎士の一人にして、常に国を狙う周辺諸国に出歩いて情報を偵察する諜報員のキーツ。 「ま、今回も未然に防げたしいいじゃん。」 「あまりよくありませんよ。」 すいませんでした。そういって、かぶせていた手をどけ、礼をするといえと答えた。 「本当にすいません。僕のせいですよね。」 僕の問題なのに、巻き込んだこちらが悪いのだと言うが、それ以上言いだすときりがないので止め、とにかく橋まで戻ることにした。 戻った後、また何かあったらいけないからとヴィレッドが送って行くことにした。それには女王も快く許可をくれた。もちろん、必要ないと言われたが、友人として心配だというと、それ以上彼も何も言わなかった。 「それで、数日城を開けている間に、どうしてこんなことになってるんですか?」 「確かに世話が仕事のメイド頭ではあるが、基本掃除嫌いだしな。」 今日もまた、仕事がたくさんありそうだ。まずは女王と彼女の部屋の片づけから始めることになる。 まるで先日の出来事が嘘のように、今日も平和な時間が流れる。 |