ジュリが用意させたのだろう。食後に着替え終わった二人が稽古場に姿を見せた。

「どちらから先にやられますか?」

「そりゃもちろん私からだと言いたいところだが、今日はリュウエンからだ。」

「承知しました。」

リュウエンも礼を言って、頭を下げてヴィレッドの前に立った。

互いに打ち合う。交わされる際に出る音が響く。それを、面白そうに見聞きする女王陛下も変わり者だと思う。

何度か繰り返された後、カチャンと金属が落ちる音が響く。

「負けました。」

「いつも思いますが、回を重ねるごとに上達する腕があれば、もう習う必要はないですね。」

「これもヴィレッド殿のおかげです。」

はじかれて落ちた己の武器を拾い上げ、鞘にしまうリュウエン。交代ですねと彼女に笑みを向ければ、意地の悪いぐらい楽しそうな顔をしている。ヴィレッドはこれで終わりにしたいぐらい、嫌な予感しかしなかった。

 

 

 

 

見えない敵からの、プレッシャーを感じ、ただ必死に逃げる。

突如吹き荒れる風、視界を奪われ、つい止まる足。

「見つけた。逃がさないけど、追いかけっこは終わりね。」

はっと後ろをみると、いつの間にかいる女。彼等はやっと気づく。

この国に足を運んだ時点で、計画はバレていて、狙われていたということ。そして、狙われたら最後、国から出ることは叶わない。

「何なんだよ。」

抜いた刃。振りかざすそれが女に届くことはなかった。

「さようなら。貴様の起こした罪は貴様自身の命で償え。」

倒れる音。遠くで聞こえる銃声。

『そっちも終わったようですね。』

「ああ。回収ありがとな。」

『ええ。』

『こっちも終わった。』

「じゃあ、さっきのやっぱり。」

あとはどれだけ鼠を残ってるんだろうかと会話をしながら、女はそこから進んでいく。

「とにかく、ヴィレッドがあの天然王子の相手してる間にあらかた片づけないとな。」

あの国関係で戦争起こっても面倒だと、意見が一致した彼等の掃除はまだまだ続く。

 

 

 

繰り返される、刃がぶつかり合う音。どちらの応援もしながら、楽しそうにするたった一人の観客。

「おい、あんまり手加減ばっかしてると足元救われることになるぞ?」

「バカなこと言わないで下さい。怪我をしたらどうされるつもりですか。」

「多少の怪我ぐらいどうってことないだろ。そんなことで文句を言いだしたら、強くはなれん。そうだろ?」

「そうですが。」

わかっているのかそうでないのか。今回水面下で計画されている誘拐事件。もし決行されれば、最悪戦争になりかねない事態。

あくまで幼馴染という関係で、婚約もしてない男女のことを、周辺諸国のお偉いさん達にうるさいぐらいいろいろ言われる状況下での失態は避けたいものだ。

「さすがに立場というものを理解はしている。だが、私は飾りの王でいたくない。そのことを、お前たちは理解してると思っていたが?」

それとも、お飾りだけにしたいのかと問いかける彼女に、違いますという否定はすぐに返す。

「現在、バーバルも城外へ出ています。そんな時に何かあれば、私一人ではどうにもできないのですよ。」

もし、本当に『力』を使った手合せをしたいのなら、客がいない、医者が必ずいる状態でなければできない。そういうと、不満そうだが、おとなしく引いてくれた。

「なら、敵は根こそぎ潰せ。いいな?」

「わかっています。」

ですから、今日はそろそろ終わりです。そう言って、彼女の剣をたたき上げ、勝負をつけた。

「さすが。それでこそ騎士団長様だ。」

「おほめに預かり光栄です。さ、リュウエン様も部屋に戻りましょう。そろそろお茶の時間です。」

時間は明日の昼。それまでに大方の片づけを終わらせれば、最後の仕上げをすればいい。

女王はわかっているようだが、知らないのなら彼は気付かないままでいい。だが、あの眼は間違いなく気づいているのだなと思ってやりにくい。

「すいません。」

片づけるために受け取った剣。それに対する言葉ではないことはわかっていた。

「強くなりたい気持ち。この時期にここへ来た理由も何となく察してはいます。」

「本当、すいません。」

「もう少し、自分が強くなるより、信頼できる仲間をつくられた方がいいですよ。」

「大丈夫です。メフィが、私にとって、一番の親友で、貴方達が大事な家族で仲間ですから。」

そんなことを言われたら、仕方ないなと思ってしまう。

実際、王族に対しては無礼なふるまいをする騎士団であっても、それ必要を彼等が言ってくれる。なら、その為に剣を取り、盾となればいい。

「ミュリー。ソルティに伝えてくれ。お茶の用意をしてくれ、と。」

『了解しました。こちらも、あと少しで大方の片づけは終われます。』

「了解。明日の段取り、夜集まってバーバルとウーリアに伝えておいてくれ。」

『他のモノたちはどうします?』

「それこそ、手薄るにするつもりのない城の守り、だ。」

『わかりました。もうしばらく二人の子守をお願いします。それまでは、城は貴方のソルティだけだと思ってください。』

「ああ。だが、城にお前達が近づけさせないだろ。」

『買い被りすぎですよ。』

連絡手段としてのつながりが切れたのを感じ取った後、ヴィレッドはすぐに用意されているであろうお茶とお菓子を受け取りに厨房へと向かった。