見つけて、始まる長い追いかけっこ。足に自信があるが、これでも脱走常習犯で同じくらい足に自信を持つ女王陛下を追いかけるのだ。一筋縄ではいかない。

でも、最後にはヴィレッドが勝つ。それがまた、女王陛下がむくれる原因となり、また仕事を増やして地味な嫌がらせをしてくるが、今はこれが仕事なのだ。

それに、今日くるのがリュウエンだから、まだおとなしいだろう。

「帰りますよ。」

「わかったわよ。」

捕まったら、帰る。その代り、つかまえられなければ帰らないし仕事もしない。そう、最初に言いきった通り、つかまえればその日は大人しくしてくれるので、つかまえてしまえば問題ない。

あくまで、その日は、という限定であるが。

今回は王子の滞在期間は大人しくしているだろうから、猶予が長い分ましかもしれない。

「ソルティが、今晩はシチューだといってましたよ。」

「わかったわ。でも、さすがね。本当なら昨日仕込んだものとは違うメニューになったというのに、間に合わせる腕を持ってるんだもの。」

昔は散々だったわと言う女王に、女王の我儘とはいえ、よく怒られて凹んでいた前任のことを知っているだけに苦笑するしかない。

今の騎士団に落ち着いたのは数年前。今目の前にいる女王が就任する前、集まった者達だ。前任のほとんどは、前王の配下の者達で、年も高齢なので引退した者も多い。

その中で、残っていた料理長はまだ若い。ソルティも若いが、この女王に付き合うには、『若い』のだ。

城の門に近づいたとき、反対側からくる人影に気づいた。

「ジュリ。リュウエン王子、ようこそお越しくださいました。」

「こっちこそ、急に悪かったね。ジュリさんに迎えにもきてもらったし。」

そう言う王子は一人だった。つまり、予想通り突然、相変わらず一人できたのだ。

後で到着した旨を彼の国に伝達しておかなければいけないだろう。どっちでも、王族が危機感があるのかないのかわからないぐらい、無防備にふらふらされては、部下が苦労する。

実際、彼の場合は体の弱さから、第二皇子が王位を継ぐと噂されているので、周囲も当人もそこまで問題視してないのかもしれないが。

「久しぶりだな。そっちでは元気にやってたか?」

「はい。おかげ様で。」

とりあえず、門で話をするのもあれなので、客間へと二人を誘導する。そうしないと、このまま出かけると言いだして、それにつき合わされるにきまっている。しかも、この王子ときたら体が弱いわりに体を鍛えたらましになるんじゃないかと、街に出歩くことをわかったと承知してついていってしまうのだ。

「そうだ。今日も夕食はシチューだぞ。」

「嬉しいです。」

本当に、こうしてみる分にはお似合いではあるが、これで互いに恋という感情はなく、幼馴染どまり。よくて姉弟といったところか。

「じゃ、仕事してくるわ。」

そう言って、二人が部屋に入ったのを見届け、ジュリは廊下を進んでいった。

ジュリも自分も騎士団ではあるが、世話役だ。ヴィレッドが執事のように彼等の身の回りのことをするなら、彼女はメイド頭として他の従業員に指示を出して、安全確保優先するべき主である彼等の部屋を整えるのが仕事だ。

「どうぞ。いちごのタルトです。」

二人に紅茶とタルトを出すと、女王陛下は相変わらずだが、リュウエンはきっちりお礼を言う。本当にいい人だなと思う。

そんなほのぼのした時間の中、水面下では、愚かな連中の愚かな計画が進められていた。

 

 

 

国と外を繋ぐ唯一の出入り口。そこは長い橋がある。そこを流れる川から下流へいけば逃走経路となる。

「決行は、王子様が橋を渡り終える前に、だ。」

「どうせ、見送りでも橋を渡ることはないはずだ。」

後継候補として低くても、あの王子の国は大きく、上手くいけば得られるモノが多い。だから、狙う。

けれど、彼等はわかっていない。この国の騎士団が死神と呼ばれる意味を。

そして、こんなにも警戒していない出入口が一つだけの意味も。

「では、生きてまたここで。」

そう言って別れた者達。二度と言葉を交わすことがないということを、今はまだ知らない。

 

 

『橋に集う、影。光を曇らす。』

二重になって聞こえる不思議な声。

「…ウーリア。仕事だと、皆に伝えて下さい。」

すっと、ミュリーは閉じていた目を開く。そんな彼に話しかけるウーリア。

「わかった。ミュリーはどうする?」

「もうしばらく、ここで『視て』います。ウーリアも休みのところすいませんが、持ち場で橋を重点的に『視て』おいてもらえますか?」

「わかった。」

コツコツと響く音。騎士団にすでに気づかれている鼠は、まだ事の重大さに気づいていない。