女王が引き篭もってから三日。

今日も、女王というより聖獣の為になる、朝食を作るソルティ。できあがったそれを持っていこうとしたところへ、ジュリがやってきて、身の回り支度のついでと言って持って行ってくれた。

その為、やる予定が少し変わったので仕込みをしようとしたのだが、夜の警備をして、交代した連中が食堂へやってきた。

「お疲れ様。」

そう言って、ヴィレッドとカルテスに食事を出す。

「ミュリーはまだなのか?」

「もうすぐしたら来ます。…今日もおいしそうですね、いただきます。」

「いただきます。」

そう言って食べ始める二人。めしあがれと一言つけて、先に片づけの方をしようとキッチンの奥へと引っ込んだ。

「料理長、今お時間よろしいでしょうか?」

片づけをしていると、ここで働く部下の一人が声をかけてきた。

どうしたのかと思ったら、いくつか食材の在庫が、予定以上に減っているという異変についてだった。

だが、その減った在庫の内容を聞いて、すぐに犯人がわかり、反対に納得した自分にどういうことだとわからずに困る部下に、苦笑しながら伝えた。

また減ったら報告が欲しいが、問題のないものだから、保留にしておいてくれというと、不思議そうにしていたが了解したと仕事に戻っていった。

「さて、こっちは犯人に使った分の食材の買い出しを頼まないといけないな。」

キッチンの奥の扉から、外へ出ると、中庭の端に出る。そこから進むと、彼の部屋があり、その扉を開ける。

「まだ寝てるのか?」

呆れた。しかも、持ち出した食材の残骸も散らかしたままだ。本当に困った奴だと思いながら、叩き起こす。

「な、何するのさひどい。」

「勝手に城の食材に手を付けて何を言ってるんだ。」

これリストだから、夕方までに買ってくるようにいうと、滅茶苦茶不満そうに言うが、おまけで彼女が好きなものを追加して書いてあるリストを見て、いってくると聞き分けよくいって、飛んで出て行った。

「悪い奴じゃないけど…もうちょっと気を付ける必要があるな。」

好きなモノが入っているから、予定より早く買い物を終わらせて戻ってくるかもしれない。

だから、いつもよりはやめに仕込みを始めて仕事を終わらせないと、また部屋が散らかってしまう。

「今日ははやめにしないとな。」

それはそれで好きな事だから苦にはならないが、他の連中にはまた言われそうだなと思いながら、キッチンへと戻った。

 

 

 

 

空は明るく、風も穏やか。静かな昼ごろ、人が滅多に訪れないそこへ、訪問者がやってきた。

「珍しい。」

「たまには、自分で移動しないとね。」

いつもなら、直接伝達する方法で仲間との連絡係りをするミュリーが、珍しく本人がここへやってきた。

「それで、何か用でもあったのか?」

「いえ。ただ、久しぶりに高い空を自分の目で見たいと思っただけです。」

お邪魔でなければ、しばらくここにいてもいいですかと聞いてくるミュリーに構わないというと、嬉しそうにそこに腰掛け、青い空を見上げた。

「水鏡で見るようになってから、空の青をあまりみなくなったんですが、やっぱりこの方が本物の青って感じがします。」

視界が、常に青みがかった世界から過去や未来、現在を見ているが、本物には勝てない美しさが確かにあると思う。

「それで、珍しく本物の青を見たくなった理由は聞いた方がいいのか?」

「そう、ですね。ちょっとだけ、昔話に付き合ってもらいましょうか。」

普段は自分が何でも見透かすのに、こうやって見透かされるような言動をとられると、なんだか変な気もすると苦笑しながら、一人で勝手に語る昔話を始める。

別に、誰かに聞いて欲しいわけではなかったけれど、本当は知ってほしいと思っていたのかもしれない。それは、自分のことなのにわからないけど。

「まだ、何も知らなかった頃の話です。そう、何も知らない、それこそ、何もないただの子どもだった頃の…。」

まだ、力がなかったころ。出逢った物語。今自分が生きている理由と、力を得た理由。そして、その代償の物語。

女王が籠る度に夢みを悪くして、思い出す、優しく温かい思い出と共に存在する悪夢。

「国に仕える星読みで、強い力を持った母から生まれ、力を持たない自分がお荷物だと思っていたあの頃、出逢ったたった一人に他のやり方でもいいからここにいる理由を見つけようと思いました。」

そう、あの日、あの人に出逢ったことで、お荷物であることに耐えられず国を出ようとした自分は、国にそのままいることを決め、選んだ。

「失ったと思いました。国と共に。母は未来を見て、警告をしたものの、まさか力を知るからこその防御魔術を利用した身内がスパイにいるとは思いませんでした。」

それこそ、ここへきてからも、力がある故に疑い、誰かと関わることを避ける原因があの事件だ。

「少しだけ、疑いました。王族や関係者の多くが殺される中、生き残った亡霊がいることを視たから。」

それまでなかった力が覚醒した際に視たもの。それは何より自分の生きる光だった彼の姿。国が事実上滅びたことになった後も、視える未来から、彼が生き残ったことを知った。

その瞬間、あの裏切り者同様、彼もまた裏切りの関係者ではないのか、と。

疑ってはいけない人を疑った。

「だから、今少しだけ後悔してるんです。」

本当は何もなかった。それにほっとしたけれど、疑った自分の心が憎らしい。

「本当の姿を見ずに、何かを通して視た世界では、全てを見れない。だから、時々空をみたくなる。」

あの日と同じ変わらない青い空。そして、彼と同じ、あの青を。

「すいません。ありがとうございました。懺悔のようなことを…。」

「気にしなくていい。この前ジュリも一人で騒いで叫んで『ソイツ』に文句を言いに言ったみたいだしな。」

「そうですか。…先を越されちゃったわけですね。」

くすくすと笑い、彼はそろそろ戻るとそこから出て行った。

残った後、先ほどまで彼が見上げていた空を眺めた。

「確かに、『アイツ』と同じ青だな。」

思ったより、誰も知らない。始まりは、神話に纏わる聖獣の強奪を狙う組織による悲劇だということを。

そして、旧リュクゼルク王国を知る関係者が思ったよりも生き残り、また集まりつつあることを。

「何か、動きがありそうだな。」

女王の引き篭もりもその予兆のようだと苦笑する。今はただ、この平和が続けばいいと願いながら。