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『なぁ、リュクゼルス最後の王族よ。お主は国を滅ぼした原因のこと、恨んだりはしておらぬのか?』 「それこそ今さらだ。それに、元々王族という柄でもない。」 『そうだとしても、一時期騒がしかったぞ。スノークイーン。あれは、リュクゼルスの王族の姿であり、王族だけが従えられる聖霊として、誰もが知っていた。』 「亡霊が出たと噂にはなってたみたいだな。それは前も言ったが。だが、別にそれもすぐにそんなはずがないということになって、スノークイーンという別の人物が出来上がった。その話は前にしただろう。今度はどんな要件だ?」 『まぁ、そんなに急くな。』 そう言って、あまり興奮すると、表にそれがでるぞと言われ、少しずつ自分の身体の変化をしようとしている動きに気づき、すぐに意識をきりかえる。 『いやの。この契約主が主の国を滅ぼした元を見つけたようでな。』 どうするつもりなのか聞いてみたかっただけじゃと言う。騎士をやめて復讐に走る気なら、危険な対象として今の内に排除しなければいけないということも念頭にあると言われ、反対に呆れる羽目になった。 「あんた、いままで何を聞いていたんですか?俺は王族と言う柄ではないし、王族として継ぐつもりもなかった。それこそ、『姉』が継承するのだと思っていた。そして、その姉を守るのだと。」 そこで、俺は言葉を切った。 「元々、姉は女王と知り合いで、それなりに交流もあった。それこそ、あんたや今の俺の中にいるもののこともあったから、波長があったんだろうけど。あの人だけだ。滅んだあと、足を運んで俺の家族や民への冥福と黙祷を捧げ、頭を下げてくれたのは。」 一人だけ、生き残ったことを後悔した俺は、最初にしたのは彼等への安息の為の墓をつくること。それに来て頭を下げた女王の姿に、かつて姉に言われたことを思い出したのだ。 どんな相手にも礼をつくす。そこに身分はない。平等の命。 それでも、無慈悲にも奪われるこの世界の中で、彼女だけは最後まで姉や両親の味方でいてくれたことを知った。 俺のことを知っていながら、来ることを誘ってくれたし、王族と扱われることをよしとしない自分を騎士として、ただの一人の人間として扱ってくれたことが嬉しくて、このまま彼女に仕えて行こうと思った。 だから、今更仇が現れたといっても、それに飛びつくほど愚かにはなれない。 姉との約束もあったから。 「同じ、この世界の理に縛られる王族の助けになってほしい。一人ではない。そう思えるように。その力に飲み込まれないように。彼女に助けられたように、俺にも誰かを守れるようになってほしい。助けになってほしい。」 だから、その時は姉が女王になってそれを守る騎士になると思っていた。 「叶わない夢になったけど、夢はまだ終わっていない。姉と俺が受けた恩を彼女へ返す。その為に俺の仇が再び立ちはだかるのなら排除する。そうでないのなら、無駄に時間を使うつもりはない。それに、仇を撃っても何も戻らない。そんなこと、望んでもいない。」 元には戻らないものもあることを知った。だから、もういいのだと言うと、相変わらず楽しそうにそいつは笑っている。 『まぁ、そういうと思っておったがの。』 「なら、話はこれで終わりですね?」 『いや、そうはいかないのじゃ。』 「…そいつが何か問題でも?」 『そうじゃ。どうも、そ奴等は一つの目的を持った集団組織だったようでの。』 「…まだ、何か企んで、同じことが繰り返される、と?」 『そうじゃ。』 そういって、手渡されたもの。そこに書かれたのは、自分の亡くなった国に×の印が書かれた地図だった。 自分の国だけではなく、他にも×の印があるが、その統一性がわからない。 「これは?」 『この世界にある国の中で、我等のような力を持つ聖獣や聖霊が守護する国。その中で、すでに回収済みもしくは未発見のまま滅ぼした国は×で記しているようじゃ。』 そう言われて、かつて習った歴史を思い出す。国の始まりの歴史において、関わる聖獣や聖霊の神話。確かに近年戦で滅んだ国がいくつかあり、その一部は『王族』出逢った頃、知識として習わされた神話に登場する国だった。 そして、この国と隣国のクロスフィード他二か所程○の印が記されたそれに、目が留まる。 「まさか…っ!?」 『予想通り。奴らは神話の神を手に入れたいようじゃ。』 「だが、あれは古の契約。王族の血筋にしか現れないはずじゃ…っ、まさか、だから!」 『そう。血筋が途絶えれば、契約もまた、途絶える。その時に無理やり捕える。』 そんな理由で、自分の国は滅んだ。家族を奪われた。たくさんの民が命を落とした。 「ふざけてるっ…!」 『我等は制限されている故、なかなか手を貸せぬ。お前達には苦労をかけてしまうことになる。』 だから今一度問うとそいつは言う。襲撃があった際、今まで通り、今の話を聞いても尚騎士として忠誠を誓えるか?と。 「…ああ。向こうから来るのなら、全て敵として排除するまでだ。」 いつも以上に冷たい刃のように吐き出される言葉。 「今、勝手に動いても、それで仲間や女王を失ったら意味がない。俺はかつて何も守れなかった。繰り返されるというのなら、二度と同じことができないように叩きのめす。ただそれだけだ。」 『なら、止まれと言うときは、仇を目の前にしても、女王が危険であっても、止めることができるか?』 その問いにはすぐに答えられなかった。けど、俺自身のなかで恨みも確かに存在するが、それ以上に同じことが繰り返されることと、失う事が何より恐ろしかった。 あの日はある意味トラウマのように今も悪夢として見ることもある。それだけ、酷い一日だった。 生き残った一番の理由は、ずっと姿を見せなかった国の聖霊、グレイシャンディが俺の身体を乗っ取ったことだ。 王族として、持つはずの秘法が受け継ぐことができない数年。現れたのは俺の魂の中。 水と氷を司る灰銀色の瞳に蒼銀色の髪をした聖霊。 あの後、いろいろ教わり、今がある。その聖霊が自分を乗っ取るかもしれない可能性もあったが、それでもいいと今も思っている。 一度死んだ命を延命されているようなものだからだ。 そして、もう一度守るチャンスをくれたのだ。 だから、仇を撃つことよりも、守る騎士でありたい。 「止まれない。」 『ほう…。』 「俺に命令していいのは女王ただ一人だ。あんたじゃない。」 『成程の。』 「だから、女王が危険なのであれば、止まらず女王を守る。…俺はかつて、止まれと言われ、止まったせいで目の前で人が死んだ。二度とそんなことはしたくない。」 それに、仇を撃ったところで、それよりも他にやることがあるだろうと姉や両親に怒られる。 あれから長い年月が経った。だから、考える時間はたくさんあった。恨む時間もたくさんあった。諦める時間も、そして、もう一度楽しく過ごすことを楽しめるようになる時間も、だ。 「きっと、出逢った当初なら、ここまで大人しくなれなかっただろうな。」 『確かに、ぬしは見た目が我等と同じで対してかわらんから忘れがちではあるが、見た目と年齢が一致しておらんものな。』 「うるさい。」 『契約主も、最近主がいくつであるかを忘れつつある気がするの。』 出逢った頃よりは確かに成長しているが、今は数年前から完全に止まっている。 あくまで、女王が即位してから騎士の大半が入れ替わり、元々を知らない者が多いし、今と変わらなくても、そういうものだと思っている連中が多い。 『あの鏡の者は薄々気づいてはおるようじゃが、二十年も月日が流れたら、誰もが気づくじゃろう。』 「そうだろうな。」 俺自身、想像はつく。二十年経った後も、きっと今と姿形は変わらない。まるで水面に移したかのように、変わらずそこにある。変わらないまま、時を忘れた世界に閉じ込められたかのように。 『だからこそ、理解者がそろそろ必要だと思った。』 今回面倒なことも起こるかもしれぬしなとつけたしたそいつは、どうやら俺を心配してくれていたようだ。 『出逢ってかれこれ十二年か。あの頃はまだちみっこいガキだったが、それは契約主も同じこと。だが、契約主より年上であったろうが、我の想像よりも上であったのかもしれぬ。そうなると、もう三十は超えるのではあいか?』 「そうかもしれない。だが、家族を失ってから、年を数えるのは止めたんだ。…これは俺の未練だろうな。家族と同じ時を生きていたい。だから、家族の年を越えたくないんだ。」 『そうか。では我も聞かなかったことにするかの。』 その後、女王が俺の姉と昔こんな話をしていたという、懐かしい日常会話を語られ、思い出に慕った後に部屋に戻った。 |