これは、小さな国の女王と騎士の物語。

自然に囲まれ、隔離されたその国への唯一の道は、検問も何もないただの入口。

だが、悪意を持って入るなかれ。その国の女王の騎士は死神だ。

そう、周辺諸国では噂されている。

女王にとっても、騎士達にとっても、そんな噂はどうでもいいことだった。

ただ、国を守る為に剣を取り、向けただけ。だが、絶対的な力の差から、誰もその国を侵略することはできなかった。

 

さて、今日も今日とて、争いもなく、国は平和だった。

そして、国の主である女王が、お付きのものもつけず、出歩いていた。

また脱走したと気づいた従者達が、慌てて町へ繰り出す頃…平和な時間は崩される。

 

 

 

バンっと、開いた扉。

「また、逃げられた。」

今日はあれだけ、近隣諸国の一つであり、友好関係にあるとある国の王子の訪問があり、お会いいただくことになっているので、お召し替えをした上でお待ちくださいと念を押したというのに。

「仕方ねーだろ。」

「ジュリ…わかってて逃がしたのか?」

「いや、さすがに私でも、職務怠慢する気はないぞ。まぁ、あのお転婆女王陛下を監視していても隙をついて逃げる腕は向こうが上だから無理だがな。」

笑っている同僚が恨めしい。

「でも、着飾って食事会なんて、あの女王陛下が嫌いなこと上位に入ってるから、逃げることぐらい予想できただろ?」

「わかってますよ。」

だからこそ、こまめに部屋に滞在していることを確認していたのだ。あの女王の脱走癖をなめているつもりはない。

「ですが、本日来るのがリュウエン様であるのなら、おとなしくしていただけると思っていたのですが…。」

「あー…幼馴染だしな。旦那候補第一位だが、そもそも、あの女王陛下様が恋することはなさそうだしな。」

幼馴染は幼馴染でしかない。そうすっぱり言いきって終わりそうだ。そういう彼女に、確かにそうなので、ヴィレッドも反論できなかった。

「でも、来るのがリュウエンの奴だったら、確かに迎えにいかないとまずいかもな。」

普段そうは見えないが、彼は体が弱い。呼吸器官が弱いせいで、よく息を切らしたり、酷い時には発作を起こす。騎士団には優秀な医者である仲間がいるが、見つけるのが間に合わなければ意味がない。

「しゃーないな。」

ジュリは持っていた上着を羽織り、ちょっといってくるわとそこから歩いて行った。

「王子のことは彼女がいたら大丈夫だとして…こういう時程面倒な客がくるものですから…私もはやく女王陛下を見つけないといけませんね。」

城を出ようとしたヴィレッドに、同じ騎士団で料理長のソルティが声をかけてきた。

「おや、また女王陛下に逃げられたんですか?」

「ああ。まったく、少し目を離すとこれだ。」

「まぁ、いいじゃないですか。平和なんですから。」

確かにそうではあるが、王族が、それも国の主がほいほいとそのあたりを出歩くことが普通ではないはずなのだ。

「でも、大丈夫ですよ。」

笑顔で、言う。そんな彼のアンバランスな言葉。

「この国に害成すのは敵。敵は全て抹殺すればいいだけですから。」

だから、結果平和。そうあれば、この先も平和。そして、その平和を維持する為に動くのが騎士団でヴィレッドもソルティもジュリもいる。

情けは無用。そうしてきたし、女王だってそのことを知っている。

だが、こんな日常の中で言ってほしくないのも事実だ。何せ、国民は何も知らないのだから。

「誰かが聴いていたらどうするつもりだ。」

「大丈夫ですよ。…そもそも、知っても文句を言う連中はいません。」

それだけ、女王の人柄で慕われてますからという彼の笑顔は、やはり苦手だ。

「そうだ。王子が今日来られるということだったので、シチューにしますね。女王陛下にそうお伝えください。」

彼等が幼馴染としてかつてこの国の町に出歩いていた頃、よく一緒に食べていたメニューだ。いつも彼が来た初日はシチューになる。

別にそれが嫌というわけではない。ただ、本当にシチューだけになるのが問題なだけだ。

でも、二人で民の中に紛れ、一緒に笑って食べたたくさんはないけれど、温かい気持ちになったそのシチューのことを、女王陛下も気に入っているようで、普段は結構好き嫌いを言うが、文句を言わず食べる。

まぁ、お姉さん気質が発動しておとなしいのだろうが、王子が帰還したあとの、一時的に悪化する我儘に付き合うことを考えると、シチューと言うメニューは後々の苦労を思い出して、あまり歓迎したくないものである。

「複雑だ。」

本当に、どうして自分はこんな国の騎士をしているんだろう。そう、何度自問自答したことか。それでも、結局ここにいることを選んでしまう。それをあの女王陛下はわかっているから意地が悪い。

「さて、今度こそ本気で探すか。」

城を出て、街へ繰り出す。









あとがき
前振りもなく突然始まる物語。
とある国の女王と国を守る騎士のお話のつもりです。
どっちかというと、騎士の一人、ヴィレッドの苦労物語な感じです。