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嫌な夢を見た 恐ろしくて、気味の悪い、嫌な夢 目を覚ましたら覚えていなかったけれど 震えがとまらなかった ただ、覚えているのは闇とその中を舞う桜の花びらだけ そして、桜に混じって闇を舞う蝶 ・・・嫌に眼につく紅い月 一章 闇からの導き 「やだな・・・。」 今日は、春休み中に一日だけあるクラブで集まる日。 つい先日卒業式をし、先輩を見送った。 その時にはまだ咲いていなかった桜は現在、満開に咲き乱れて散っている見ごろのころ。 そもそも、はじまりは桜だった。 夢幻のような桜からはじまった。現を忘れ、その中に迷い込めば二度と戻れぬような場所へ入りそうになったこの頃。 今日この日までに、本当にいろいろなことがあった。 でも、それによって出会う事ができた人もいたし、知ることが出来た事もあるから、全て悪い事ではないと思う。 だけど、今回のこの夢は、なんだか嫌な気がする。内容はほとんど覚えていなかったけれど、何かの暗示かのように。 今までのことが全てただの前触れで、これが本当の悪夢であるかのように。 そう、あの日、皆がいなくなったあの日の予感と似たような感じ。 「雅美―、起きた?」 「起きた起きた。すぐ降りるー。」 「早く降りてこないと朝食片付けちゃうわよ。」 「待って。」 今はその考えを振り払い、母親に片付けられる前に朝食を食べなければと、パジャマを脱いで制服に着替えた。 考えても、雅美にはわからないことだから、今は忘れておこう。こんな状態で彼女達に会っても、楽しくはないし、進めない。 だけど、もう少し気に留めておくべきだったのだ。 あれは、仕組まれた愚かな道化が描く物語の始まりを告げる開幕ベルのようなものだったのだから。 そして、この朝までが、私達がいつもと変わらぬ日常の最後だった。 「雨・・・?」 席に着き、朝食を食べようとした際にふと見た窓の外。 振り出した雨。 空はまだ雲に隠れず青さが残っていたが、遠くの方からこちらへ向かってくるであろう黒い雲が何だか嫌なものを運んできそうだった。 学校に着く少し前に、酷くなり出した雨。ゴロゴロと、雲行きが怪しい空を見上げ、急いで部室へと走る。 「遅かったじゃん。」 「ちょっと寝坊しちゃって・・・。」 ごめんなさいと謝りながら、中に入った雅美を出迎えたのは部長の要だった。 「別にいいよ。みんな、まだ来てないから。」 「え?」 自分でも完全に遅れたなと思っていたなだけに、落ち着いて鞄を置いて部室内を見ると、要以外に誰もきていないことに気付いた。 京古は遅れてくることはあるが、夢や芳までもがまだ来ていないという事実には驚いた。彼女達はよっぽどな理由がない限り遅れないし、遅れるとしたら要に事前に連絡を入れるからだ。 ちなみに、京古は遅れるとしても連絡をいれず、よく要に怒られているが。 「珍しいね。」 「この前から、いろいろあったでしょ?だから、雅美まで遅いから、心配になったよ。」 ふぅっと、部活日誌を閉じ、雅美の方を見て言う要。少しだけ、朝の不安が現実に何か起ころうとしているのではないかと、不安が過ぎる。 もう、失いたくない。あの日、彼女達は帰ってきたが、再び同じように希望が繋がるとも限らない。 それだけ、私たちはすでに私たちでどうにかできるようなレベルを超えるものを、相手にしすぎている。そして、それだけ知らない領域を知りかけている。 それは、もう昔のようには戻れないということを意味している。 それでも、皆と一緒に、ただ毎日騒げたらいい。そう思っている。けれど、どこかで何かが変わり始め、この日常が壊れていくのを感じている。 どうしてか、何てわからないけれど、選択を間違えた瞬間に足元が崩れ、何もかも闇の中に落ちるようなそんな予感がするのだ。 確かに、出会いは偶然で、再会も偶然だ。そして、再開後の日常も短いとしてもあっという間に過ぎていき、いつか社会人になればそれぞれ違う道を進むだろうともわかっている。 それでも、私たちは変わらず一緒にいられる。友達だと思える。 なのに、何故かそれ以外の未来を考えさせるような、不安定な何かがある。その正体がわからないことが、今の自分をより一層不安にさせているのかもしれない。 何より、夢で視たあの黒い蝶がどうしてもひっかかるのだ。 最近あった、何かと重なりそうで重ならない。ただわかるのは、もう時間がないという焦り。 どうしてそう思うのかはわからない。 「私は一度教室に行くけど、ここに一人でいる?」 いつもなら、誰かが一緒。いつもなら、人でいっても不安なんてない。 あの日々から、お互い何かに警戒するようになった。何かあるんじゃないかと、一人になる危険をどこかで考えてしまう。それでも、雅美は他の皆が来るかもしれないから待ってると答えた。それに対し、要もそうだねと答え、部室を後にした。 一気に静かになった部屋の中で、そこから、全ての始まりである窓を見た。 この先に非日常があって、それでも大事な仲間のような存在と出逢えた。非日常は怖いこともあるが、彼女のことを嫌ってはいない。 最初こそ戸惑いや不安があったけれど、今は同時に違う何かも感じている。それが何なのかはわからないけれど、どこかで自分はこういったことを知っていたのではないかと感じることもあるのだ。 あまりにも忙しい日々でそんなことを考える暇がなかったけれど、こうやって一人になると、考えてしまうのだ。かつての何も知らない日々のこと、最近起こった日々のこと、そして、何かが変わり、何かがおかしくなっていきそうな不安、暗い何かに追いかけられるような恐怖、いろんなことが頭を過る。 「『誰かを失うぐらいなら、消えることを願う。』……ん?なに?」 ぼんやりと考えていたら、自分の口から飛び出した言葉に困惑する。これは、雅美の言葉ではない。 けれど、知っている。別の誰かでありながら、自分でもある違和感。 「どういうこと?」 その問いに答えてくれる存在も、相談する相手もいない。 その時だった。 窓が鈍く光り、暗い靄が外から溢れ、中へと入ってくる。 「何?どういうこと?!」 全ての始まりは、この窓から。 『おかえりなさい』 声が、聞こえる。その先に何があるのかわからないが、雅美は何故かいかなければいけないと思った。 無意識にその声に手を伸ばし、そのまま黒い靄のなかへと足を踏み入れた。 雅美を飲み込んだ後、次第に靄は薄くなり、消えて行った。 そこには、誰もいない部室があるだけ。 |