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五 二人の約束と番人
ずざざっとよくわからない場所に落ちた三人。 「痛い・・・。」 どうやら、可笑しな世界へと落ちたみたいだ。 「うわ、なんかへんなのが浮いてる?」 「わー、すごーい。」 「ちょっとは危機感覚えたらどう?お二人さん。」 目の前にたくさん浮いているシャボン玉のような丸いふにゃふにゃした得体の知れない物体が浮いているので、ここは学校ではないと理解できる。そして、地球上なのかも怪しいところ。 背後ではあきれたかのように、ため息が一つ。風妃が二人の肩をとんっとたたいて振り向かせた。 「それより、どうやって戻るか考えないといけないでしょ?」 さっきから得体の知れない物体をつっついている幸里を引き離して、目の前に座らせた。 「だって、どうしようもなさそうだし・・・。」 「諦めたらそれで終わりでしょ?」 「だって〜。下手な事して、このへんなのに襲われたらどうするのですか、部長!」 「その時は諦めろ。」 「えー、言ってる事が違いますよ〜。」 目の前で繰り広げられる会話に入ることは出来ずに、ただ呆然と見ていた雅美。 話の決着がついたのか、冷たいといじける幸里のことはほおっておいて、風妃が雅美の方を向いた。 「ここから、戻れる方法って、何かないの?」 「えっと、それはわからないけど、過去に経験した事から言えば、この事態を引き起こした相手をどうにかしないといけないと思います。」 「引き起こした相手?もしかして、あの話の?」 「そうです。約束の相手がいなくなって、一方的に待っているだけだとしても、何らかの方法で相手を納得させないと無理だと思います。」 そこで、いまだにいじけている幸里を見る。 「・・・本当に、今回の件の鍵を握る人物はこの子ですか?」 「・・・たぶん。あれがなんらかの力を持っているか、彼女自身が引き寄せたのか・・・。」 風妃ははぁとため息をついた。それを見て、どうしようかとおろおろしていた雅美は再び起こる異変に気付いた。 人影の姿がはっきりとわかる頃、三人は動けずに驚いていた。なんと、その相手はここにいない双葉にそっくりだったのだ。 ただ違うのは髪の長さが違うだけ。目の前の相手は肩を越えている。それでも、顔はそっくりだった。 「嘘、でしょ?」 風妃がぽろりと漏らした言葉にも納得できるほど似ていた。 『いきなり、悪かったわ。』 頭に響くが透き通るようにはっきりとして綺麗な声。 『お願い。それを返して。私の大切な人、返して・・・。』 幸里の方を指差して哀しそうに頼む相手。 『お願い・・・。』 そこではっと鞄のキーホルダーを思い出して、鞄からはずしてそっと相手に近づいた。 「えっと、これ、ですか?」 そういって、キーホルダーを渡した。 『そう、これ。やっと、やっと見つけた。・・・やっと会えた。』 その言葉と同時に、彼女の手からはそのキーホルダーはなく、目の前に知らない男が立っていた。今度は何処となく惟智に似た男。もう、なんだか嫌だと言い出す風妃。 確かに、自分も同じ立場に立てば、目の前の現実を見たくないと思うかもしれないなと、雅美はのんきに考えていた。 「・・・ねぇ、巻き込むんだったら、簡単にそっちのこと教えて?」 何かあっけなく終わりつつある今回、もう帰れるのかなと思ったが、意外ともうしばらくここにいそうだ。 「教えて。貴方達二人がずっと一緒にいられるように、形に残してあげるから。」 雅美もあの日の再現みたいだなと、懐かしく思っていた。 『・・・じゃぁ、時間が許す間、ね・・・。』 少し考えた相手はそう答えた。そして、自分の名前は紅彼生だと名乗った。
そして、紅彼生は話す。自分の歩んできたあの日の事を。そして、出会った唯一愛する人の事。そして、なくなった村と寺。 雅美が聞いたあの話は実話だったのだ。この目の前にいる精霊が経験した、実話。 聞いていて、一つの話として出来上がりそうだが、今回はこの話は書かない。ただ、胸の奥にしまっておこうと思った。 そういうことでは、涙が流れる事はめったにない自分。それとは反対に感情に流される彼女。足して割ればちょうどいいかもしれないなと思いながら、別れが近づくこの空間をもう一度しっかりと一通り見渡した。
話が終わり、戻ってくれば、のん気に過ごすメンバーがいた。
「うわ?!本当に戻ってきた。」 この言葉に、戻ってきたのだなと実感できた。 「でも、すごいですね。早夜さん。三人が本当に帰ってきたし。」 そういいながら、未玖が三人に渡したカップに惟智がカルピスでいいよねといって、それぞれ注いだ。 「で、なんで君たちはのんきにお菓子を食べながらジュースを飲んでいるのかなぁ?」 怒っているのだよというオーラを出している風妃に、心配ないし、ゆっくりしていたら戻ってくるといわれたからと言われれば、ひどい!と叫ぶ声が廊下にまで響く。 本当に仲がいい人達だなと思う。 こうして、長いようで短い、奇妙な文化祭は幕を閉じた。 きっと今頃、彼岸花は仲良く紅葉と一緒にいることだろう。
そんな賑やかな声を盗み聞きするものが一人。彼女達のいる部室に何らかのものを仕掛けたのだろう。 上から下まで黒い服を着て、大きなマントを羽織っているいかにも怪しげな男。その男がいるのは、部室のある校舎の一番上。そう、出入り口がない、空の下。 「来たのなら、出てきたらどうですか?」 「・・・やはり、ばれてましたか。」 男の背後から現れたのは早夜だった。 「で、私の領域内でいったいどうされたのですか?私達のような、結界を守る番人はお互いを干渉しないということが暗黙のルールだったでしょう?」 男は立ち上がり、早夜の方を見た。深く帽子をかぶり、めがねをかけているので、あまり表情は伺えないが、何か企むような笑みを浮かべているのが、唯一はっきりと見える口元でわかる。 「ま、ここの招待券用意してくれたことには感謝するけどね。」 「こちらとしては、面倒な役を引き受けてくれる五人への敬意のつもりなんですけどね。」 ククク・・・と男は笑いながら、すっと場所を移動した。建物のぎりぎりの端で、バランスを崩せば落ちる危険な場所。 「それより。私としては聞いておきたい事があるのだけど?」 「何ですか?答えられる範囲ででしたら答えますけど?」 早夜は少し前から気になっていた事を、思い切って聴くことにした。聞くことはタブーかもしれないが、知っておく必要がある気がしたのだ。 「ここは以前、別の者が番人だったよね?お互い干渉しない割には、貴方はどうなの?ここはもともと貴方の定められている領域ではないはず。どうなの、・・・黒桜乱・・・。」 番人といった彼等にとって、名前は契約や束縛に使われるもの。わかっていながら、あえて使う。 「・・・そうですね、ここにいた彼はとても邪魔でした。ですから、私は私の目的を果たすために堕としました。」 「私としては、貴方の力が強すぎるから、干渉する気はないけれど、危険だと思うわ。」 「ククク・・・。それはそちらの事情。目的の為に、私と同じよう私を堕としてみては如何ですか?」 嫌味のように笑う声が当たりに響きながら、男は消えた。 「・・・まったく、嫌な男ね・・・。」 まったく手札を見せない男。考えている事も、目的もわからない、男。出来れば、今すぐ行動して堕としておきたいと思う男。 それでも、五人が無事なので今はよしとしておこう。今のままで、勝てる自信はない。相手の方が、上だとわかるから。 それでももし、あの男が何か動き出すのなら、自分の領域やあの五人に手を出すようなら、堕とす気でいる。死を覚悟して、立ち向かうつもりだ。 何よりあの男が番人から堕とす事が、最後に母が心残りで出来なかった事でもあるのだから。 |