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二 桜と早夜の話 文化祭前で忙しい文芸部。突然現れたことで結構迷惑だと思った要達は印刷や製本の手伝いをしてから学校へ戻ってきた。 「なんだか、あっちも結構ハードでしたね。こっちもいつもハードだけど。」 「そうね。こっちは長くて冊数が多いとはいえ、年に二冊だものね。」 「あっちは年に三冊でしょ?ホチキスの関係でページ数がだいたい一冊決まってるから多くなったっていってたね。」 「なんだか、こっちも負けてられないよね。年に三冊頑張ってみる?」 京古が言うと、一人でやってなさいと夢は冷たく言う。冗談なのにと文句を言っても聞いてもらえない。そして、京古が一人話し続けるけんかがまた始まった。だが、それは長続きしなかった。 見知った顔が目の前にいた。にっこり微笑んで、五人に近づいてくる。 「お帰り。お疲れ様。」 「早夜さん?」 「嘘、どうして?」 「もしかして、待っていたのですか?」 目の前に立っているのはいるとは思わなかった相手、霊能力を持つ早夜だった。 「実はね、私も異変を感じて来てみたんだ。そしたら、桜妖華が教えてくれて、五人が帰ってくるのを待っていたってわけ。」 詳しく話を聞きたくない?と誘われれば断ることは出来ない。 五人は家に連絡を入れて出来れば普通に客として来たかった早夜の家へとやってきた。文化祭の時と何も変わっていない部屋。だが、確実に何かが変わっていると感じる部屋。 「さ、いつものように適当に座って。」 五人は、今までの二回の話し合い会のようなものでここに集まり、今回も同じような場所に座った。 「実はあまり深く知らないのだけど、わかっていることもあるの。」 「深く知らない?」 「そう。あそこは私の領域でもない。違う者が支配する領域。本来ならば私が手を出すべき場所じゃないところなの。」 そういっても手を出そうとするのは、桜妖華の頼みだからだろう。でなければ、彼女も忙しいので動かなかっただろう。 「今回、雅美ちゃんのように、鍵を握るものがあの学校にいるみたいなの。」 「私みたいに?」 なんだったっけと考え出す雅美に答えをいう。 「前も話したように、こういったものにはだいたい実話というか精霊というか、何かが鍵となってかかわってくるの。桜妖華の時は七不思議で貴方が少なからず力を持ち、七つ目の話に触れた事と、亡くなった私の母のメールを受け取った事から。見ていなくても受け取ったという時点で、完全に関わりを持つ関係者となった。文化祭の時でもそう。なんらかの事情で閉じ込められた彼女は、再び外へ出られた時に、彼女の生きてきたように生きようと動いた。あの時は、彼女が偽りの遊戯、つまり騙されて嘘を教えられ、それを遊びだと思い込んでやり続けた。その結果があれ。」 思い出せば本当にこの短い期間の中で不思議な体験をしているものだなと思う。 「それで、桜妖華が言うには、鍵を握るキーパーソンがいるはずということ。そのキーパーソンが雅美ちゃんと同じようにこことは別の場所へと取り込まれてしまう。その恐れが出てきた。だから、桜妖華は自分が犯しそうになった過ちと同じように未来を進むことを想像して、助けを求めた。私も、私ではきっと無理だと思う。だから、五人にお願いしたいの。」 「それで、いつなのかはわかったんですか?」 「そうだよね。それがわからないと、警戒のしようがないし。」 「・・・近々・・・そうね、二三日後かしら・・・?」 夢がカードの占い結果を見て、気付いた。 「・・・文化祭・・・ね・・・?」 「その通り。文化祭の日がその精霊、彼岸花の何らかのことがあった日。一番力が強くなる日とでもいうのかしらね?精霊の思いが一番強い日。だから、もしかすると危険かもしれない。でも、起こってみないとわからない。」 「難しい問題ですね・・・。今までの経緯からすると、今回のキーワードは哀しい思い出ですか?」 「さすが、芳ちゃん。でも、もう一つキーワードがあるの。」 そういって、側にあった葉を一枚五人に見せた。 「私が桜妖華に会う前に先見で運勢を見ていたら、ふと彼岸花とこれが見えたのよ。」 五人に見せたものは、どこにでもある葉。秋になるとよく見かける紅葉だった。 「辛うじて、見えた言葉は『約束』。きっと哀しい思い出の中に大事な『約束』があったみたいね。」 そういいながら、紅葉を机の上に置く。 「・・・紅葉・・・。大切な思い出。」 「そう、哀しい思い出と大切な思い出。そして約束。これが今回のキーワード。もしかすると、キーパーソンもなんらかの方法で何か情報を持っているかもしれない。」 どうしてそんなことがいえるのかと早夜に聞いてみると、人は知らない内にいろいろな情報を手に入れるものだからと答えた。 確かにそうかもしれないなと雅美は思う。自分も七不思議を題にして話を書くとき、いろいろ調べ、彼女と会って真実を知った。そのような偶然でそのキーパーソンも知っている内容があるかもしれない。 「ただわからないのは、桜妖華がいう『私と同じ哀しみ』と、見えた二つの人影。」 雅美はふとその言葉である事気付いた。 「私と同じ哀しみというのは、間違いなく過去にあった、彼女と同じような事が、その彼岸花の精霊にもあったということ。見えた二つの影は、例えれば桜とフウセンカズラ。でも、私はそこまでしか知らない。だから、彼岸花の哀しい思い出も、紅葉の大切な思い出も約束もわからない。」 力があったとしても、ここまでが限界なんだよねと苦笑する早夜。何より領域が違い、別の何かが力で支配する場所に干渉するのは、母以上に力がなければ無理なんだという。だから、ここまでしか情報を与えられなくて申し訳ないという早夜。 「そんなことないですよ。簡単な内容だけで、ほとんど知らなかったときよりいろいろ知れましたから。」 「そうですよ。それだけキーワードがあれば、何か出来るかもしれませんし。」 「そうそう。早夜さんが気にすることないの。ま、頼りない私達じゃ、桜さんの期待に答えられるかどうか不安だけどね。」 四人がそれぞれ言う中、黙り込んでいる雅美。どうしたのかと、早夜が尋ねると、雅美は今聞いておこうと、口を開いた。 「あの、言い伝えみたいな話なんですが・・・。」 「何か知っていることあるの?」 「私、叶舞高等学校かここか、受験するときにどっちにしようかと考えた時期があって、そっちの見学にいったとき、長年教師をしている人がぽろりと話していたんです。」 そういって、雅美は話した。あの日聞いた忘れられない話を。あそこは昔病院だったとか墓だったとか言われているが、もう一つ少し高い場所で寺があったという話があったと。 「そこには、毎年秋には、夜の闇にも負けず紅く風に揺れる彼岸花が見れたそうです。その地域ではそこだけに華が見られたそうです。でも、何か厄災が起こって、人は寺を燃やしたそうです。しばらく彼岸花はそこから姿を消したそうですが、そこを攻め込む領主か地位の高い人が兵を送り込んで多くの人を捕らえ、そして殺したそうです。その後、一人二人変死を遂げた兵士がいて、その周りには今まで姿を隠していた彼岸花が風にゆれて死者をと貰うかのようにあったそうです。」 でも、これはただの作り話で、あの学校の前はただの病院だとか言っていましたけどと伝える。 「確かに、その話は少し興味深いわね。」 「芳、その話、情報ある?」 「・・・どうやら外には出ていない話みたいですね。きっと知っている人はほとんどいなくなったと考えるべきですね。」 そういって、ノートパソコンの電源を落とす芳。 「なんだか不思議と惹かれて、その話はよく覚えていました。それに、なんだか話が書けそうだと思いまして。でも、結局書こうと思いましたが、中身が足りなすぎて書けませんでした。何より、この話を知る人からすれば辛い話ですしね。まぁ、今日まですっかり忘れてましたけど。」 現実かどうかはわからないが、今回の事に関しては関わりがありそうな話。一度は興味が惹かれた話。 「とにかく、その文化祭に五人は行くのよね?」 「行きますよ。」 「だって、このままおいておくのってなんか嫌じゃない?」 「ここまで知っておきながら、結末を知らないのは損な気もしますしね。」 「それに、雲行きは怪しくても、雲はいつか晴れるものよ。」 「私もこの話の本当のところが知りたいです。」 五人は行く気は充分だった。早夜は少し心配な所もあったが、頼りになる五人に任せますかと、五人にそれぞれお守りを渡した。 「私は行かなくても、近くにいるからね。」 その日、五人はそのまま眠りについた。 真実を求め、知る為に。今はしっかりと休んでおこうと、五人は眠った。
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