第七章 遠いあの日の約束

 

 

 まだ、自分のような存在が表で生きていても不思議じゃなかった時、二人は出会った。桜妖華が出会った時よりは少し前のこと。

 まだ、精霊ではなく、人と呼ばれたもの。毎日寺で生活し、そこで毎日を終えていた。

 ある日、たまたま寺にやってきた少年がいた。母親の死が近づいている彼。最後にこの寺で今はもう、すでに亡くなっている旦那と見た月夜に風で揺れる紅い彼岸花をもう一度見たいというのだ。

 人からは彼岸花は確かに綺麗だが、はかなく哀しい言葉で、縁起の悪いものとされていたが、彼女にとっては大切な優しい思い出のある花だった。

 少年は時間のない母のために、急いでやってきて華を摘んだのだ。

 そして、母が亡くなったと同時に、なんと彼の家は火災に見舞われ、彼は帰る場所をなくしたのだった。

 人は皆、こういった。やはりあの華は不吉な不幸を呼ぶ華なのだと。だから、あの華が唯一咲いているあの寺をなくしてしまおうと、真夜中のうちに火を放った。

 少年は焦った。急いで寺へと向かった。いくら帰る場所がなくなっても、少年はこの場所を、この華を、そしてここで泣けなかった自分になく場所を与えてくれた少女を、なくしたくはなかった。

 少年にはこの華が不幸を呼ぶなんて思えなかった。

 母は最期、あれだけ病で苦しんでいたにもかかわらず、華を見た後ずっと笑っていたのだ。

 母に笑顔をくれた、泣けない自分に泣く場所をくれた、そんな場所をなくされたくはなかった。

 だけど、間に合わなかった。寺は闇夜に揺れる紅い彼岸花と同じように、紅い炎に揺れていた。

「そんな・・・、どうして、どうして!」

少年は泣いた。少女がいなくても、少女の記憶のあるこの場所でなら泣けるようだ。

少女はきっとまだ中にいる。寝ている間に火事が起きてそのままだと思う。

 少年は泣いた。そして、決めた。少しでも可能性があるのならばと、炎の中少女を探しに行った。

 探して探して、一番真ん中の部屋で布団の上に動かずに座っている少女を見つけた。

「見つけた・・・。」

良かったとほっとするが、少女は困ったように苦笑していた。

「ここは危ないから、逃げなさい。」

「でも、君も。逃げようよ。」

だけど、少女は動かない。少女はこれが自分の運命なのならば受け入れるのだといって、動かなかった。

「ここは私の家で帰る場所。貴方の帰る場所は下にある村。さぁ、帰りなさい。皆が心配をしている。」

「逃げない。君が逃げないと僕は逃げない。」

母は大切な人を見つけたら、絶対に手を離してはいけないといつもいっていたから、少女のことを大切だと思ったから手を離してはいけないと思ったのだ。

 少女は困り、これが運命なのかもしれないと少年と一緒に寺を出たのだった。

 ちょうど、村からいなくなっていた少年を探していた村人がきて、少女の存在に驚いていた。誰もが、この寺は無人だと思っていたからだった。

 それから、少女は村へ迎え入れられた。

 だが、少年はその後、村を侵略に来た城の兵士に殺された。少女を守って、殺された。

 一つ、約束をして、少年は少女をこの世においていった。

『きっと戻ってくるから。人は何度もこっちに戻ってくるから。戻ってきたとき、必ずまた君に・・・紅彼に会いに行くから・・・。今は逃げて。きっと生き延びて・・・。』

少年は少女に願った。生き延びてほしいと。

 その後少女は寺のあった場所へと向かった。少女が村から逃げたことを知った兵士は追いかけた。

「お願い、助けて・・・。やっと、やっと私は大切な人を見つけたの。その大切な人、大切な人との約束、守りたいの。」

その言葉を、あの日から姿を見せなくなった彼岸花が願いを叶えた。

 その地に再び彼岸花が戻ってきた。そして、少女は姿を消した。

 追いかけてきた兵士はそこで変死を遂げていたという。

 

 少女は人という姿を捨て、彼岸花の精霊となった。

 

 こうして、少女は長い時間少年を待つことにした。

『残された時間はもうない。だから、君と一緒にいられる時間がもうない。ごめん、ずっと一緒にいたいと願ったのに。』

兵士が攻めてくると知ったとき、そういった。

『きっと戻ってくるから。人は何度もこっちに戻ってくるから。戻ってきたとき、必ずまた君に・・・紅彼に会いに行くから・・・。今は逃げて。きっと生き延びて・・・。』

少女をかばったとき、最後にそう言い残した。

 少女にとって待つことは再び会えるということでうれしいことだった。

 だが、時間は長かった。どれだけ待っても少年が迎えに来てくれる事はなかった。

 この長い命は、だんだんと少女に苦痛を与えた。

 今はもう、あの思い出深い村も寺もない。なくなってしまった。

 だけど、今も彼岸花は残っている。各地に少しずつ残っている。彼が何処にいても見つけてもらえるように、いろいろな水辺や人気のない場所に花を咲かした。

 少年がいう、闇夜に揺れる紅い華だとわかるように。

 

 

 そしてやっと、再会できた。

 少年は会いに行こうとしたとき、なんらかの理由で体を拘束され、この硝子珠に全て閉じ込められたのだ。

 少女の司る紅い彼岸花を詰め込まれた硝子珠。

 少年は長い命を生きる事を選らび、彼岸花と同じように秋に溢れるように存在を示す、紅葉の木の精霊となっていた。

 大切な思い出という花言葉を持つ紅葉に彼はなったのだ。

 

 

 幸里は涙をぼろぼろ流していた。

「ちょ、水茨さん?」

「わぁ?ハンカチ!」

「あう〜、ごめんなさい〜。でも、止まらないんですよ〜。そういった話に弱いんです〜。」

雅美に渡されたハンカチで涙を拭いて、それでも止まらない涙を今は無視して、二人に話してくれてありがとうといった。

『私たちの方こそ、聴いてくれてありがとう。』

「今度はずっと一緒にいられるといいですね?」

その言葉を最後に、三人は屋上ではなく部室に戻っていた。

「うわ?!本当に戻ってきた。」

未玖はもう少しで手に持っていた紙コップをこぼすところだったといいながら、三人にもと後ろに置かれている紙コップを渡した。

「でも、すごいですね。早夜さん。三人が本当に帰ってきたし。」

そういいながら、惟智がカルピスでいいよねといって三人のカップにそれぞれ注いだ。

「で、なんで君たちはのんきにお菓子を食べながらジュースを飲んでいるのかなぁ?」

怒っているのだよというオーラを出している風妃に、心配ないし、ゆっくりしていたら戻ってくるといわれたからと言われれば、ひどい!と叫ぶ声が廊下にまで響く。

「よし、決めた。三年だけでやる予定の部誌の表紙は平宮さんで、裏は山杜さん。そして共同の方での代表は梓月さんだ!」

これは決定と、側に置いてあった部活日誌に勝手に書き込む風妃。

「ちょっと、何で?」

「そんなの勝手じゃない。」

「横暴だー。」

「うるさい。」

そんなことでさわいでいる中、要は雅美に何があったのかと聴くと、後で話すとだけ答えた。

「そういえば、友香達のこと忘れてた。」

今何時だと見れば、もうすぐで閉会式。もう、いっかと、今はこの場でどうなるかを見届ける事にした。

 こうして、なんだか長いようで短い、奇妙な文化祭は幕を閉じた。

 

 その後、誰もが次の共同制作と本来の活動用の二つで忙しくなるのは書かなくてもわかるだろう。

 それにプラスして、幸里と新入生の二人は先輩の卒業祝いとして一冊作ろうと考えているものだから、この上ないほど忙しい。

 そのご学期末試験が終わり、新年を向かえ、年明けて締切日。

 本来の活動用と卒業祝い用の締め切りは決まった。

 力を合わせてその二つ、いや、三年とは活動用が別だったので三つをなんとか五十部ずつ作り上げて、再び彼女達と会う日がやってきた。

製本の仕方は叶舞とは違いテープを使い、ページ数も全員を合わせればすごいことになるだろう。

いったいどれだけの時間がかかるのだろうかと少し怖く思いながら迎えた今日。

あの日と変わりない五人と再会した。

 








        あとがき

 過去物語も終わり、元に戻ってきて相変わらず騒ぐ彼女達。
 今回『横暴だー』周辺の会話が書きたかったのです。というか、結末はこうなると決めて書き始めた話ですし。

 何はともあれ、文化祭もごたごたも終了。部誌制作も順調に事が進んで終わりということで。
 あとは・・・。彼女達のその後の様子だけ・・・・・・?