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第六章 紅い華描く硝子珠 さらさらと流れるように、その場にいた十人を外界から覆い隠すように現れた花びら。 紅い紅い、哀しみをもたらす花の色が一面に広がった。 「ちょっと、やばいかもしれないわね。このままいくと・・・。」 「桜妖華は他に何かいってなかった?」 「そういえば、誰かが鍵を持ってるって・・・。」 そこまで言って、重大なことに気付いた。 だいたい今まで人目に触れなかった本がどうして今回に限り人目に触れたのか。 もしかしたらそうかもと、五人は同時に納得した。桜妖華との出会いも、巻き込まれたのも、その時に雅美が七不思議でその話を書こうとしたからだ。 つまり、今ここにいる誰かがこの相手が現れる何らかの鍵を持っているのだ。 「えっと・・・。」 「水茨さんよ。いい加減覚えなさい。」 「だって、ややこしいし・・・。」 「今はそれどころじゃないわよ。水茨さん!」 要が幸里のもとへ向かい、夢が名を呼ぶ。気付いた幸里は振り向いて、少々驚いた。血相を変えている二人を見たからだ。 「何か、ここ最近何か身に着けていない?」 「何でもいいの。小さくても、人によっては価値がないものでも!」 そういわれて、何かあったかなぁとここ最近のことを思い出そうとしていたとき、辺りを包む風がきつくなった。 「巻き込まれるわ!」 「京古、郁!そこの四人を早く中に連れて入って!」 言うよりも、二人の行動は早かった。 まだ考えている幸里は周りのことを一切遮断してしまっていて気付かずにいた。 ふと、雅美は見えた鞄についているキーホルダーに目がいった。 「それ、それはどうしたの?」 雅美が近づいてきて、どれという感じで首をかしげている幸里の鞄をつかんで、そこについているキーホルダーを指す。 「これ、何処で?」 それをみて要も夢もこれが原因だと気付く。それは小さめのガラス球の中に紅い華がその中で時間が止まり咲くように花開いているもの。 「あ、これ?えっと・・・そう、図書館で本を見つける前日に店で最後の一つなのかなぁ?一つだけ置いてあって綺麗だったから買ったの。」 「それだ!」 やっともとを見つけたが、時間はもうなかった。 そのことに、幸里も気付いていた。 要達はできる限り巻き込まれないようにと急いで校舎内へと非難しようとした。 「・・・私がもとだったら、巻き込むのは悪いから・・・。」 そういって、思いっきり要と夢の背中を押して中へ追いやった。 「ちょっと、何考えてるの!」 その行動に風里が幸里を引っ張り込もうとして服をつかんだ。 だが、本当に時間がなかったのは事実。まだ外にいた雅美と、幸里、そして幸里の服をつかんだ風妃はその場から消えた。 あたりにたくさんの紅い花びらを残して、消え去った。 「嘘・・・。」 実際人が消える現場を目撃して、呆然とする未玖達と厄介な事にならないといいけどと、厳しい表情を残す要達。 「とにかく、ここから離れましょう。」 「一度、知り合いに連絡を入れてみます。次に何処から現れるか、彼女だったらわかるはずだから。」 そういって、一同は部室へと戻ることにした。あそこなら、誰も立ち入らないし、邪魔も入らない。 「たぶん、今回も相手が相手だから大丈夫よ。」 そう、大丈夫と要は人に言い聞かしながら自分にも言い聞かせた。 ずざざっとよくわからない場所に落ちた三人。 「痛い・・・。」 どうやら夢ではないようだ。できれば、夢と思いたかったところなのだが、夢ではなく現実に間違いないらしい。 「うわ、なんかへんなのが浮いてる?」 「わー、すごーい。」 「ちょっとは危機感覚えたらどう?お二人さん。」 風妃は目の前にたくさん浮いているシャボン玉のような丸いふにゃふにゃした得体の知れない物体を見てさわいでいるのを見て、呆れていた。 そこは学校の屋上でも、たぶん地球上でもないと思われる。 地球上にこんなものがあれば、今回の事にもそうたいして驚かないと思う。 「それより、どうやって戻るか考えないといけないでしょ?」 さっきから得体の知れない物体をつっついている幸里を引き離して、目の前に座らせた。 「だって、どうしようもなさそうだし・・・。」 「諦めたらそれで終わりでしょ?」 「だって〜。下手な事して、このへんなのに襲われたらどうするのですか、部長!」 「その時は諦めろ。」 「えー、言ってる事が違いますよ〜。」 半泣きで訴えるが、あえなく無視された。冷たいといじける幸里のことはほおっておいて、風妃はもう一人に向き直った。 「ここから、戻れる方法って、何かないの?」 「えっと、それはわからないけど、過去に経験した事から言えば、この事態を引き起こした相手をどうにかしないといけないと思います。」 「引き起こした相手?もしかして、あの話の?」 「そうです。約束の相手がいなくなって、一方的に待っているだけだとしても、何らかの方法で相手を納得させないと無理だと思います。」 そこで、いまだにいじけている幸里を見る。 「・・・本当に、今回の件の鍵を握る人物はこの子ですか?」 「・・・たぶん。あれがなんらかの力を持っているか、彼女自身が引き寄せたのか・・・。」 風妃ははぁとため息をついた。なんだか、このまま戻れなくなりそうな気がしてならないのだ。 そんなことをしている間に、再び異変は起こった。 屋上で見たあの花びらがだんだんとこちらに向かってくるのだ。ふわふわと風になびかれながらやってくる。そして、人影もこちらに向かってきた。 人影の姿がはっきりとわかる頃、三人は動けずに驚いていた。なんと、その相手はここにいない双葉にそっくりだったのだ。 ただ違うのは髪の長さが違うだけ。目の前の相手は肩を越えている。それでも、顔はそっくりだった。 「嘘、でしょ?」 まるで、本当に本人が現れたように錯覚してしまう。だが、声は別人だった。 『いきなり、悪かったわ。』 頭に響くが透き通るようにはっきりとして綺麗な声。双葉は今、風邪を引いて喉を少々痛めているので普段以上におかしい声なので、よけいに違うと思えた。 『お願い。それを返して。私の大切な人、返して・・・。』 幸里の方を指差して哀しそうに頼む相手。 『お願い・・・。』 そこではっと鞄のキーホルダーを思い出して、鞄からはずしてそっと相手に近づいた。 「えっと、これ、ですか?」 そういって、キーホルダーを渡した。 『そう、これ。やっと、やっと見つけた。・・・やっと会えた。』 その言葉と同時に、彼女の手からはそのキーホルダーはなく、目の前に知らない男が立っていた。 今度は何処となく惟智に似た男。もう、なんだか嫌だと言い出す風妃。近くにいる二人に似ているので、あの二人にだまされているような気がしてならなかったのだ。もし、そんなことを知れば、外で心配している二人は怒るだろう。それでも、そう思ってしまうのだからしょうがない。 「・・・ねぇ、巻き込むんだったら、簡単にそっちのこと教えて?」 もしかしたらこれで帰れるかと考えていた風妃にとっては、なんということを言うんだという思い。 「教えて。貴方達二人がずっと一緒にいられるように、形に残してあげるから。」 それが意味する事をすぐに理解できた風妃。雅美もあの日の再現みたいだなと、懐かしく思っていた。 『・・・じゃぁ、時間が許す間、ね・・・。』 少し考えた相手はそう答えた。そして、自分の名前は紅彼生だと名乗った。
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