|
三 消えてしまった人
二件ほど回って、教師達が呼んだ人達のフライドポテトの店で買い、つまみつつ校舎内の廊下を歩いていた。 「いろいろ食べたけど、あまりおなかふくれないね。」 「食べ過ぎて太るだろ。だから、駄目。」 「太らないもーん。」 まだ食べるという勢いできょろきょろ周りを見ている京古にストップをかける要。 そんな様子をずっと見ていた夢が一言言う。 「…なら、太るおまじないでも…?」 「いりません!!」 速攻で京古は返事を返したのだった。
まだ少しある休憩時間を有意義に過ごす五人。向かう先は要のクラス主催の迷路クイズ。 聞くところによると、まだ完全回答者で最終クイズまで到達した者はいないらしい。 それに、京古がむきになってやるぞという事で、五人は向かっていた。 出来れば自分は客として回るつもりはないのだけどと困る要。 何せ、彼女が考え出した問題なのだからしょうがないかもしれない。 行ってみれば、何故か歓迎された。 要も彼女以外が作った問題もあるからどうかと誘われたが、遠慮しておくと断り、出口で中に入った四人が何問正解してどの景品をもらえるかだけ、見る事にした。 待つ事数十分、四人はそろって出てきた。それぞれ答えを書いた問題カードを渡して採点を待つ。 「はいどうぞ。景品はこれです。」 四人はそれぞれ受け付けの子に採点されたカードと答え、そしてそれぞれ点数に合った景品を受け取って教室から離れた。 また後で来てねと笑顔で見送られたが、来れるかどうかは不明なので曖昧に返しておいた。 「で、京古はやっぱりというか、低いね。」 「うるさーい!だいたいあんな専門用語とか知らないし!」 「何言ってるの?技術の授業があるでしょう?それに、この前習ったわよ。」 「芳、京古は技術の授業は実技だけで、中身は聞いていないのよ。」 「まぁまぁ、いいじゃない。もらえたんだし。」 そういいながら、ちゃっかり満点をとって一番良い景品をもらっている雅美が言うと、ぶうっと京古はふくれた。 実は、京古は今、雅美が持っている景品、5000円分の音楽ギフト券であった。 図書券と商品券との三種類だったが、くじで音楽ギフト券となったのだ。別に、どれがあたってもよかった雅美にとっては何も問題はない。 まぁ、だいたいはあそこにある問題を満点とる人なんて限られているので、そんなにたくさんは用意していないという代物。 それをあっさり手に入れてしまった雅美。 それに比べ、京古は手作りのストラップだ。それも、点数が低いのでかなり自分としてはうれしいと思えないものだったりする。 もう少し点数があれば、京古も気に入るような可愛いものがあったのだが、残念ながら点数は足りなかった。 ちなみに、芳と夢はだいたい似たり寄ったりの点数で、もらった景品は1000円分の図書券だったりする。 二人はそれぞれ、買いたい本がちょうどあるのでその足しにしようと喜んではいた。 そんな二人とうらやましく思う一人を隣に見て、問題をつくったであろう要を睨む。 「…絶対、要が悪い。」 「ただの問題でゲームでしょ?諦めなさい。」 「やだー!」 駄々をこねる子供みたいになるが、それはそれで京古らしい気もするので気にしないで放っておく事にした要に、さらに不満を隠さず面に見せる京古。 次は何処行こうかと言いながら、文化祭を楽しんで回るはずだった。
『…て…、…が……くる…。』
何処からか聞こえてくる自分たちが知っている声。 あの関わった日から聞く事がなかった、澄み切った綺麗な声。 「…今の、桜さんだよね?」 雅美が隣にいる要に問いかけると、無言でうなずく。 間違えるはずがない。あれだけ関わり、彼女が心の奥に持つ思いを聞いたりして、また話が出来たらいいなと思っていたぐらいなのだから。 だが、今聞こえるのはなんだかうれしいのかうれしくないのかよくわからない気がする。 『…お…、…を…けて…。アレが…。』 少し切羽詰っているのか、焦っているような声。声を聞いているだけで、どんな顔をしているのか少し想像できたりするぐらい、声に慌てている様子を見せていた。 「とにかく、部室に行ってみる?」 「そうね。そこで、何か重大な事を知るみたいだし?」 いつの間にか持っていた一枚のカード。それは、夢の占いの結果で予言。 「あの時みたいに、可笑しな事に巻き込まれるのはごめんなんだけどね。」 「楽しい事じゃなさそうだし?」 要と京古はそれぞれ意見を述べ、足は部室へと向かう。正確には、部室の傍に立っている桜の木を目指す。 その二人に残りの三人も続く。 部室へ入り、窓を開ければ、そこには以前見た時となんら変わらない姿の桜の精霊、桜妖華の姿があった。 そして、にっこりと笑顔で迎えてくれた、早夜の姿も、そこにはあった。 その二人の登場に、何かがあるのだと、五人はすぐに考えられた。
話はとても長くなる。 と思っていたが、とても簡単な内容で、反対に困る内容でもあった。 早夜が言うには、この学校で桜妖華の時のような異変が起こっているのだという。それが何なのかはまだわからないが、五人の身に何か起こるのは間違いないから気をつけてほしいのだと言う。 「前回はこの学校の昔の姿によって実際にあった話が引き金となった。今回は、場所は少し違うけれど、なんらかの話が引き金になっている。そして、前回と今回にも言えることは、何らかの花とその言葉が関係してくるということ。それ以上は、私にはまだわからないの。」 少し申し訳なさそうにいう早夜だが、そこまで事前に知る事が出来る事自体が凄いと思うので、どうしてそこで謝るような姿勢になるのか不思議でならなかった。 だから、どうしてそんなに申し訳なさそうにしているのか聞いてみた。何せ、その事で自分達に何かあったとしても、それはそれで、早夜にそこまで関係する事だとは思わないからだ。 「前回のことで、五人は彼女のようなものを引き付けるようになってしまったの。分かりやすく言えば、今まで眠っていた私が持つような霊感、第六感ともいうのかな?それが鋭くなったの。」 「どういうことですか?」 「もともと、五人だけではなく、誰もが力を持っていた。だけど、それを無意識の内に奥深く封印してしまうの。だけど、それが解放されてしまって、野放しにされてしまっているの。」 放っておけば、相手に取り込まれて死ぬ事もある。そんな事に巻き込んでしまった事と、今回はまだ何も分からない事だらけで手助けが出来るかどうかわからないから悪いと思っているのだと、早夜は答えた。 どうやら、自分達が知らない間に、少しずつ深刻な問題へと発展していっているようだ。自分達としては、あれから何も変わる事なく、日常が流れるし支障もないので何も感じない。 それでも、何かが変わっているのだと、早夜がいう事で理解できた。 もしかしたら、元には戻れないかもしれないという事も、思った。だが、これはすぐに心の奥底へと閉まった。必要のないこととして。自分ということは変わりえないから。 「だから、気をつけて。アレはとても力が強い。わかっているキーワードはヒヤシンスと鬼灯と笛の三つ。」 「わかりました。引っかかるような事があったら、気をつけます。」 「そうして。」 今はこれ以上話す事がないからと、五人は部室から追い出された。 これから、早夜は急いで必要な情報を手に入れるのだろう。どんな方法かは知らないが、自分達では理解できないような集め方をしている事は予想がつく。 こんな事、一般上では出回っていない情報なのだから。
文化祭初日は大変盛り上がり、今日はもう終わりだと言うのに、活気は絶えない。 五人はそれぞれのクラスへ戻って片付けに行った。明日もあるので、その用意もかねている。 雅美は明日作るメニューの最終確認と、足りない材料の確認をしていた。 その時にふと、何かが聞こえた気がした。 以前、空耳だと思いながらも聞こえたものと同じ。 「…?」 今回も誰かが何かを言ったような気がしたのだが、また空耳なのかもしれない。 雅美の傍には誰もいないからだ。 だが、この感じこそ、あの時と同じように始まりを告げるものだった。 下校時刻だと放送が入り、予定通り門の前で待っていたのだが、あの四人が姿を見せる事はなかった。 他にも、もう帰ったのかなぁ?とぼやきながら帰る生徒の姿があり、雅美も同じように考えて家に帰ったのだった。 だが本当は、まだ学校に多くの生徒が残っていた。 誰にも気づかれる事なく、そこに残っていたのだ。 ひらひらと、日の暮れた闇が包む校舎内に舞い散る花びら。 そしれ、ぽつりぽつりと、明りを灯すオレンジ色のもの。
それは、早夜が言っていたキーワード。
ヒヤシンスと鬼灯だった。
|