二 文化祭が始まる

 

 

門は華やかに花や文字で飾られ、受付では一通り校舎の案内と展示や出展内容の書かれたパンフを配っていた。

桜華中学高等学校合同文化祭の開幕である。

グラウンドでは、これから行われるグラウンドや体育館の宣伝を兼ねたパフォーマンスが始められていた。

「こんにちはー!高校二年B組のグランドパフォーマンスはこの後すぐ、開始するので、見ていって下さいね。」

そういって、舞台の上で一回転した後、少々高い舞台から飛び降りるのは京古だった。

「次は二年G組にバトンタッチ!」

そういって、したからマイクを上手くほりあげて去っていく京古。何処までもパフォーマンスをする奴だ。

B組にバトンタッチされました、G組です。」

「彼女が騒いだ後、体育館にてパフォーマンスをします。」

「お客様にも参加していただけるものですので、お気軽に来てください。」

そういって、夢と芳は舞台前に集まる客に何処からか取り出した袋の中身を投げた。

中身は紙ふぶき。しかし、その中に紛れる招待券。

実は、これと体育館前で配られているものは同じなのだが、そこに記された番号によって、最後に景品をもらえるのだ。

しかも、紙ふぶきに眼がいっているうちに、舞台の二人は消えていた。

彼女達のクラスメイトに、マジックが好きで、趣味でよくやっている少女が一人いた。

今回の舞台はその少女もメインなのだ。

「では、時間が来ました。校舎内の宣伝はお昼となります。それでは始めましょう。D組のパフォーマンスです!」

司会者が紹介すると同時に、客席の後ろから登場した京古が軽やかに舞台へと飛び乗った。

京古が支配する舞台の始まり。

「皆で楽しんで行こうねー!さぁ、行くよ?ワンダーランドへレッツゴー!」

京古達クラスのグラウンドを使ったパフォーマンスはただの踊りや歌ではなく、物語を持つ演劇に近いもの。

「昔々、一人の若者がおりました。彼の名前はケイル。町一番の金持ちで傲慢な男、バルドンに仕える召使でした。」

そんなナレーターのような言葉から始まる舞台。

「だが、若者はただの召使ではありませんでした。実は、世間を騒がす大泥棒、ペガサス。彼の降りた場所には泉が湧き出るように、貧しい者達に奪ったお金を分け与える、市民の為に動く泥棒でした。」

音と共に、いつの間にか衣装を変えて登場するのは京古だった。

「さぁ、今夜も仕事だ。」

舞台から飛び降りてすぐさま袖に引っ込む京古。

飛び降りるにも動作が派手である。見る人達はその動きに驚かされる。

そのように、舞台ではどんどん物語が展開されていくと同時に警察や貴族との戦闘シーンがあったり、泥棒に感謝する市民達の歌など、様々なものが人々を魅了していく。

側をたまたま通りかかったものは足を止めてみるぐらいだ。

「さぁ、これで終わりだ!コソ泥め!!」

バルドンが剣を振り上げて、ケイルに振りかざそうとした。

「止めてー!!」

一人娘が血相を変えて走ってくる。

彼女はケイルの正体を知り、それでも愛したバルドルの一人娘だった。

「これはこれは、お嬢さん。私のような泥棒をかばうとは、いけませんよ。」

側にあった花瓶から花を一厘与え、バルドルに向き直るケイルの京古。

「私は決して捕まらない。飢えに苦しむものがこの町からいなくなるまではね。」

そういって、きびすを返す。今夜も泥棒は去って行った。

最後に最初から決めていた演技を見せ、舞台上とその下で全員が同時に礼をして、舞台は幕を閉じる。

自然と拍手が毀れ、誰もが満足行くものになり、微笑んだ。

それを、被服部クラスメイトがかなり楽しみながらつくっていた衣装を着て、窓から見ていた雅美は京古らしい舞台に微笑みながら見ていた。

本当ならば、客席から見たかったぐらいだ。だが、哀しい事に午前中から午後もほとんど接客で駄目になったのだ。

だから、ここから見れる事にはうれしかったりもする。

「雅美―。こら、さぼってるとはいい度胸だな?」

「えー、さぼってないよー。さぁーて、仕事しますかねぇ?」

そういいながら、お盆と伝票を持って入ってきた客の接客を始めた。これ以上仕事を増やされては困る。

接客としては、メニューを全て覚えて、頼んだ客の顔も覚えている雅美が使えるといっても、雅美としては、それが普通なので違和感がなかったりもする。

クラスメイトからはわからないのは本人ぐらいよという。

彼女達にとっては、試験に対しても使えるその記憶力がうらやましかったりもする。

「いらっしゃいませ。メニューはお決まりですか?」

雅美は今来たところの客のメニューを聞き出し、裏へといってメニューの品が出てくるのを待った。

調理組がメニューの品を用意できたので、雅美は先ほどの客にそれを出しに行った。すると、京と要がちょうど客として来たところだった。

「やってるねぇ。」

「あ、二人ともいらっしゃい。京古、ちょろっとだけだけど、あそこから見たよ。」

そういって、グラウンド側の窓を指差す。

「へぇ、見てくれたんだ。ここと体育館は絶対無理だと思ったのにな。でも、うれしいな。」

そんな会話をしながら、雅美は二人を席へと案内する。

「で、注文は何がいい?」

「えっと、クレープ。ホイップとカスタードの奴。」

「私は雅美に任せる。」

「京古のはわかったけど、私にまかすって・・・。」

「雅美のお勧めでかまわないってことだけど?」

「じゃぁ、あのセットの奴ね。」

そういって、後ろに書かれているメニューを指差した。

「ちょっと待っててね。すぐに用意するから。」

そういって奥へと引っ込んだ雅美。京古は側にいるここの担当の子に少し雅美を借り出してもいいかと聞くと、快くいいと返事を貰った。

頼まれた品を持ってやってきた雅美はそんなこと事は知らない。なので、食べ終わった後、衣装を着替えるまもなく引っ張られていく姿はなんともいえなかっただろう。

たとえ、京古も衣装の着替えをすんでいなくても、通常では異常な光景だったかもしれない。今日が文化祭であったので、二人がこのような服を着ていても違和感がなかったのだと思われる。

要としては、二人に服ぐらいは着替えてほしかったのだが、聴く耳も持たずに雅美を引っ張っていく姿を見たら、無理だなと諦めた。

三人が向かった先は体育館。そう、夢と芳のクラスの舞台があるのだ。

「今から行けば間に合うはず・・・。」

「なんだかね、結構こったものやるみたいなんだよね。こっちとどっちがいいか見ようと思って。」

京古が言うには、乱入有りだという情報があるらしい。まったく、こういったところの情報を何処から手に入れてくるのかと、感心する。

「ほら急ごうよ。いい席がなくなっちゃうかもしれないでしょ?」

そういって、走っていく京古。今なら着替える為に抜けてもばれないかなと思ったりもするが、隣にはしっかりと要がいるので、逃げられないだろうなと諦める。

それに、夢と芳のクラスが終われば、また仕事をしないといけないので、このままの方が都合がいいと言えばいいので、このままでいる事にした。

体育館に着けば、始まる直前だった。

 




聞こえてくる音楽。暗い闇を鮮やかにする光。この設定をしっかりとやっているのは芳だろうなと思う。

ここまで上手く使いこなすのも、それ以上のものにするのも、それだけ技術が必要になってくる。

通常こういった行事で行われる時に使用される物以上に、芳はいろいろ放送部や自宅から持ち出して昨日いそいそと設定に明け暮れていたのだ。

メインとなるマジシャンを舞台上から見せるために、光が一つとなって集中した。

「ようこそ。私達の不思議な世界へ。」

そういって、マジシャン見習いの少女は華麗に笑って花を何処からともなく出し、その後それが散り散りになり、客席へと降り注ぐ。

「皆様が楽しめる舞台になるように・・・。さぁ、まずはじめは私の舞台。どうぞ、見逃さずにご覧下さい。」

そういっている間に、頭に被っていた帽子を取って一礼して、中から鳩を五羽飛び出させた。

どんどん、舞台では一人で客席全員の目を奪い、華麗にマジックを披露する少女がいた。

「すごいね、葉ちゃん。」

「滅多に見せてくれない物だから、ある意味レアだね。」

「そうなんだよね〜。まだ自分は見習いでひよっ子だから見せられるものじゃないとかいってさ〜。」

そう言いながらも、これだけで充分すごいと思うのに、やはり上を目指すのは大変なんだなと三人は客席に座って次々行われていくマジックを見ていた。

そして、とうとう夢が登場する。

「もしかして、アシスタント?」

「さぁ?どうだろ。」

「見ていたらわかるさ〜。あ、しまった。カメラ持ってくるんだったよ。」

三人は会話を止めて、息を呑んで集中する。この後、いったいどうなるのかと。

「さてお次は!種も仕掛けも無い予言だよ。」

そういって、葉ちゃん事、マジシャン見習いの秋本葉瑚は登場した夢を紹介した。

「実は、私は先程までの間に、ここにいる客席の誰かに、予言を受ける招待客へ、招待状を送っています!」

そういわれて、はじめて気付く観客。そう、知らぬ間に胸ポケットやズボンのポケットに招待状と思われる、見知らぬ白い封筒を見つけたのだ。

「お持ちの方は、すみませんが、こちらまで上ってきて下さい。」

そういうと、まるで予期したかのように、動きだす人の場所へライトがともされ、舞台まで光が追いかけた。

「さぁ、ようこそ。最終演目、予言へ。」

そういって、いつの間にか奥に用意された椅子を勧める。そして、またいつの間にか現れたクラスメイト達が背後にたった。

「まずは、手前のお兄さんから。」

そういうと、背後に立っていたクラスメイトがどうぞと手を差し出して、夢の元へと案内する。

「手を取れば、それが合図。彼女の元まで、絶対に離してはいけませんよ?」

言われたとおりにして、青年が夢の前に立った。

「…貴方、最近大きな事にぶつかっているみたいね…。」

まるで近くで見てきたかのようにどんどん話していく夢。青年は大きな事、好きな人が出来て、その人は別に好きな人がいるという。そして、告白をしようにも、どうしてもタイミングが合わずに言えずにいるという青年。彼が話す前に、全て説明するかのように話す夢に、たいそう驚いていたようだ。

「…どうすれば、どうすれば、出来ると思いますか!」

形振りかまっていられないといった感じで、問いただそうとする青年。それにただ、口元にクスリと微笑を浮かべて、一言言った。

「…よく思い出して、よく考えればいいわ。貴方は勘違いをしている…。」

そういって、夢は残りの二枚のカードをめくった。

「貴方は彼女の事を好きでしょうがない。そして、その彼女には別に好きな人がいる。どうしてそう思ったか。よく思い出して見るのね。貴方は大きな勘違いを起している。彼女は貴方が思い浮かべている人が好きなのではないわ。」

そういって、カードを次の人用に片付け始める。

「彼女が本当に言いたい事。それは、貴方からの言葉。あの電話は間違い。あれは、貴方のことで、貴方の親友へ相談をしたものよ。」

これで、早々に結果を出せるかしら?と青年の目をじっと見て、決意を聞く。

「…はい。今日、この後会う約束をしているんです。その時に、迷わずに伝えます!」

そういって、客席から拍手と共に、青年は席へと戻っていった。一緒にいた仲間たちから囃し立てられながら、ふざけあっている姿を見た要は、つくづく敵にまわしたくない女よねとつぶやいていた。

そして、次のお客が夢の前に着いたとき、青年はふと気付いた。

やはり、あの人はマジシャンだ。知らぬ間に、持ったままだった招待状の代わりに、お礼状が同じポケットに入っていた。抜かりはないようだ。

 




どんどん、夢はタロットで独り言のように語り、相手に伝えてゆく。その間、芳はその場に応じた光の調整や、舞台上で演奏をする三人への周りの音の調整をしていた。

そうやって、最後の客が終わり、再び舞台の真ん中に立つマジシャンが、占い師の手をとり一礼し、白い大きな布を取り出してかぶり、二人は舞台から姿を消した。

これで終わりますというアナウンスをいれ、夢と芳の舞台は終わった。

舞台裏からでれば、しっかりと雅美を含めた三人が待っていた。

お昼を食べに行こうと誘い、五人は休憩時間を使って、店周りをかねて行こうと歩き出した。