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一 文化祭の用意
慌ただしく生徒達が走り抜ける。 ここ、桜華高等学校では二日後に文化祭を控えていた。 つい最近、文化祭用にテーマを決めてそれぞれ話を書く際に、テーマの七不思議のひとつに巻き込まれたことが、はるか昔に思えるほど忙しかった。 「要―、パネルが一枚足りないよー?」 「えー?じゃぁ、今すぐ生徒会室いってきて、一枚もらってきなさい。」 「なんでよー?!あ、クラスの方にもいかないといけないよ。」 「ちょっと、クラスの方はパネルを持ってきてからにしなさい。」 「そんなことをいうなら、夢が行けー!」 「ちょっと、けんかしている場合じゃないですよ。」 「そうですよ。わぁ?!」 「夢、雅美を手伝ってあげて。」 「うまるよ〜。」 そんな感じで、文芸部員は忙しく動き回っていた。 まだ二年なので、もちろんクラス出展もある。 「だって、もう行かないと・・・。」 行かなければ、嫌だと拒否し続けているパフォーマンスをやらされると言おうとしたが、最後まで言う前に要は「諦めてクラブ最優先でやれ」という今の京古にとっては残酷な命令を下す。 「ひどいっ。そんなの部長って名前だけの権力のくせにー!」 「じゃぁ、私の変わりに部長になって、面倒な話し合いや提出物をやれ!」 「それもいやだー。」 「諦めが肝心よ。・・・あら、文化祭当日は貴方の素敵な写真が取れるみたいね。」 「いーやー!」 「頑張ってね、京古。」 「今はこちらを頑張って下さい。」 そうして、芳にひきつられて京古は生徒会室へといった。 実は、全員わかっていてやっていたりもする。そして、もう一つの理由として、全員同じような理由で面倒なことを押し付けられていたりする。 京古だけが抜けるなんてそんなことを許すはずがない。 「あとは、これを運んでこれを仕上げてしまえばひと段落つくわね。」 「でも、間に合いそうで良かったよー。」 「占いでは絶望的な結果が出ていたのだけど、この分だと問題なさそうね・・・。」 外れるなんておかしいけれどといいながら、タロットを片付ける夢。このままおいておけば何処かに落としてしまう可能性があるからだ。 だが、この結果が現実に起こることをまだ誰も知らない。夢の占いは本当によく当たるのだと、実感しても遅かった。 「あ、そうだ。言うのを忘れてたけど、文化祭が終わったらリレー小説の相手のとこいくからね。」 「予定よりはやいんじゃないの?」 「なんか、都合ついたみたいだよ。」 「そうなんだ。楽しみだね。でも、そうなると忙しくなるなぁ。」 「連絡はいちようしたからね。ほら、今はこれを運ぶよ?」 そういって、側においてあるダンボール箱を一つ持ち上げる要。雅美も続くようにもう一つのダンボール箱を持ち上げる。 その中には作った部誌が入っている。用意数は八十部。あと、夏休みに作った五十部の少し薄めのものと二種類。これが今年文化祭に出すもの。 あとは壁に張り巡らせるパネルや机を飾る為のものやハサミにのりなどを入れて、移動を開始する。 夢はもう一つの一回り小さな箱を持った。その中には今年の文芸部の調査内容の書いた模造紙が折りたたんで入っている。 「今日中に張ってセットは終わらせるよ。」 「そうだねぇ。そうしないとクラスの方ができないからねぇ。」 何気に彼女達のクラスは違っていた。 雅美はA組で、京古はB組で、要はD組で、夢と芳はG組だった。 今年、A組は手芸部のクラスメイトがかなり頑張って作っている服を着て喫茶店をする事になっていて、B組はグラウンドで派手なパフォーマンスをすることになっていて、D組は特別教室をパネルやダンボールで区切って迷路上にして所々にクイズをおいてゴールまでにあるそれをいくつ正解できるかによって景品が変わるゲームで、G組は体育館をめいいっぱい使った観客を巻き込んでのパフォーマンスとなっている。 この学校では基本的にクラブ優先をしているが、クラスはクラスで忙しいので両立させることから忙しいのだ。 しかも、クラブで抜けるものに対して、クラスは大抵大役を勝手に押し付けたりするものだから困ったものだ。 文芸部の面々も例外ではなかった。第一に、五人ともがそれぞれ特有の個性を持っていて、その個性を他にも生かせるのだが、どうして文芸部なのか不思議に思われるのぐらいだったのだ。 夢は占いという時点で、しかもよく当たるということで、よく占い研究部などに勧誘されていたりするのだが、さらりと断ったらしい。 京古もあれで運動神経がよく、体育では毎回五段階で五をとるのだ。授業でも、彼女一人によってバスケでも試合が左右されてしまう。だから運動部は彼女を勧誘したが、断られた。 芳は芳で、頭がいいだけではなく機械関係に詳しく、何より暴走した機材を止めたということから、機材暴走に困った演劇部や機械関係クラブが勧誘したが彼女も断った。本来の演劇や放送などにはあまり興味がないと言ってそれ以上は何も言わずに去る。 要は気転と文章の構成、人前にたって話すときの態度や話し方が教師顔負けで、生徒会に入って前でするスピーチやその文章をやってほしいと頼まれたりしたが、断っている。 そして、一番嘘だと思うのが雅美だったりもする。彼女はかなり記憶力が良かった。あんなにおっとりとマイペースでたまにドジを踏む彼女だが、一度覚えたことや見たことはほとんど忘れないのだ。 明らかに、文芸部などにしておくのは勿体無いと思える五人がそろっている。しかも、出身校もクラスも違うはずなのにここまで仲がよいことに、教師達や断られたクラブ部長達は首をかしげていた。 周りにとってはクラブや生徒会にほしい逸材であっても、五人には興味のないことで切り捨てるもの。 そして何より、五人は文芸部で初対面というわけではなかった。 彼女達は昔、ここへ入学して文芸部で顔をあわす前に出会っていた。 正確には出会った後しばらくお互いに連絡が取れずにいたのだが、ここへ入学してやっと再会できた大切な友人同士。 人知れずその日から始まった付き合いなので、しかもずっとあの日の約束を守る為に生きてきたといっても過言ではないので、いくら誘われてもそれをお互いを裏切るつもりはなかった。 どんなに自分に人がうらやましがるようなものがあったとしても、この約束が守れないようでは必要のないものなのだ。 他人が知る必要のない自分達だけが知っていればいい、大切な思い出の中にある絆。 それを壊すものも、離そうとするものも許さない。誰であってもそういうだろう。 まぁ、クラスの出展ぐらいならば、学校行事なのでしょうがないなという感じででる。 なので、ここぞとばかり、優勝を目指そうとするクラスは五人にクラブ優先して出て行っている間に決めてしまう。 いくらクラブ優先でも、クラス出展も大切なコミュニケーションの一つでもあるので、文句は言えないのだ。 去年同様に、今年も五人はうれしくもない忙しい仕事を押し付けられることになったのだった。 去年、五人のクラスは接戦して、同点優勝と同点三位を取ったのだ。その時は要と京古のクラスと雅美のクラスが優勝、夢のクラスと芳のクラスが三位だったのだ。過去異例の結果となったそれには、採点していた教師も驚いていたぐらいだ。 そのときに五人はそれぞれ自分の持つ特技を生かして暴れたため、同学年からは来年同じだったらこれをやらそうという計画がすでに立てられていたりもする。それも、クラスが決まった瞬間からだ。 なので、五人は逃げる事が出来ずにつかまってしまったというわけでもあるのだが・・・。 だからこそ、クラブでも忙しいのにクラスで引っ張られては身が持たない。だが、クラスが逃してくれるはずもなく、しょうがなく今年も引き受けてしまう始末。 「さーて、受付のところにノートとペンを置いておいて・・・。まずある分だけパネルに張ろうか。」 「そうだね。でも、あの二人遅いね。」 「そうね・・・。あら?」 「どうしたの?」 「ちょっとね・・・。どうやら、パネルは見当違いのところに運ばれてしまっていたみたいね。」 クスリと笑みを見せる夢にゾクリとする何かが背筋を走った。 三人がもくもくと張る作業を開始してから数分して、かなりお疲れの芳と対照的にいたって元気な京古がパネルを持って戻ってきた。 「・・・どこにあったの?」 「なんか、美術部の分の数とも間違いで正反対の校舎にあったよ。最初なんて、写真部だとかいってさ、探したよ。まったく、見つけるのにどれだけ苦労した事か・・・。」 「出来れば、しばらく休みたいと思うのですが・・・。」 京古は体育会系なので丈夫だが、完全な文化系で運動が大の苦手でもある芳にはきつい。 権力の横暴だーと叫ぶが、容赦なく無視して切り捨てる。忙しいときにわめかれても迷惑なだけだ。 「ほら、あともう少しだから、さっさとする!」 そういって、模造紙の束を投げつけた。 その後、クラスで呼ばれるのはそれが終わった頃のこと。
グラウンドの舞台が着々と作られていく。 「京古、ほら、はやく。」 「衣装がたりないよ?!どうする!」 「あーもう。その衣装は移動して置いてきたでしょ!」 京古のクラスはリハーサル前でどたばたと動き回っている。 「照明問題なしです。」 「マイクも問題なし。」 「繋ぎのカセットこれ無理そうなので、他のを取ってきます。」 舞台セットで動く生徒会や担当生徒達もあわただしく動く。 それを、側の渡り廊下から夢は見ていた。 「・・・大変そうね。」 せいざい尽くして頑張る事ねと、今は興味ないと言った風に、その場を立ち去った。 「お、やってる〜。」 雅美はグラウンドに近い校舎の三階で喫茶をすることになっているので、窓からその様子が見えていた。 「楽しそうだな。」 そういいながら、手はしっかりと動かしている。 あとで行ってみようかなと思っていたとき、隣にいた子がどうしたと見てくるので、なんでもないと、こちらに集中する事にした。 「もう、ダンボールたりないじゃない。」 要は指示した分より少ないダンボールに、もう一度取りに行かせたが、まだ足りない。 しょうがないので、彼女も行って持ってこようと下駄箱で靴を履き替えていた。 下駄箱から外へ出ると、リハーサルの準備に明け暮れている京古のクラスメイトや本人が慌ただしく走っているのを見て、しっかりやっているなと思いながら、門の守衛に外出届を見せて出て行った。 芳は聞こえてきた音に何事とグラウンドを見ていた。そして、先ほどもあれだけ走り回っていた京古が飛び回っている。 「・・・よくそれだけの体力が持続しますね。」 感心しますよとつぶやきながら、自分の仕事に戻った。 ばらばらの場所にいても、同じ場所にいるような感覚。 五人はそれぞれクラスのために優勝目指して頑張った。 文化祭は目前だ。
そして、
再び可笑しな現象に巻き込まれるのも
あと少し・・・・・ |