五人は白い空間から外へ戻って来た。行きと違ったのは、出た場所が部室の中ではなく、部室の窓の外にある植え込み。その中にある一本の咲かなくなった桜の木の前だった。

「これが、貴方・・・?」

雅深はその木に手を当てて後ろにいる櫻妖華に聞いた。彼女は小さくうなずき、そうだと返答する。

 いつからだったか、ぴたりと花を咲かさなくなった桜の木。これがあの櫻妖華が宿る木。不思議と、生きて水が流れている音が聞こえる気がする。ドクンドクンと、脈を打つように奥で水が流れている気がする。

「この下に・・・貴方が失いたくなかった人がいるんだよね?」

「早夜さん、この下の人、今はどうなってるの?」

「大丈夫よ。彼は櫻妖華を傷つけたという悲しみから心を閉ざしているだけで、黒く染まってはいない。」
「じゃぁ、助けられるの?」

京古は目を輝かせたが、よく考えれば何十年も前に生きていた人はこの世に蘇る事はないとわかっているので、すぐに暗くなる。

「すぐに会えるわよ。彼は櫻妖華ともう一度会いなおして、一緒に同じ道を進みたいと願っているのだから。ほら、見てごらん。櫻妖華も気付いていなかったでしょうけどね・・・。」

早夜は桜の木の根元を指差して言う。そこには、ふうせんかずらが生えていた。

『 ・・・これ・・・。 』

「そう、あの人だよ。わかるよね?あの人は、貴方の幸せだけを祈っていたのよ。」

「・・・ふうせんかずら、貴方と共に・・・。愛の告白ね・・・。」

いつの間にか現れた夢が言う。『貴方と共に』はふうせんかずらの花言葉。それが、櫻妖華を愛した人の願い。それがこの世にこの形で戻ってきた。

「・・・二人とも、お帰り、だね。」

『 ただいま・・・。 』

そう言って、櫻妖華は姿を消した。薄っすらと透けていきながら消えたのだ。

 櫻妖華はもう、苦しむ事はない。早夜はそう言った。そして、独り言のように、お母さん、心残りはなくなったよ。そう言った。










 それから月日は流れた。まるで、あの日の事は嘘のように、変わらない日常が戻ってきた。

それでも、現実だと思える雅深には、誰にも言っていない秘密があった。実は、家に未確認のメールがあり、中を読んだのだ。

それは、今はもうこの世にはいないはずの早夜の母、龍華さんのものだった。

内容はもちろん、桜の木の事。彼女はきっと、この先雅深が関わる事を知っていたのだろう。

内容は、早夜が話したのと同じだった。だが、どうやって死後のこの日に送られてきたのかはわからない。

 その後、五人はそれぞれ鏡の話を書いた。雅深はもちろん、あの日の出来事を少し変えて書き上げた。

 タイトルは『 桜とふうせんかずら 』


 文芸部員の五人はそれぞれ作品を仕上げて最終点検を行った。そして、それぞれの話を順番に並べ、印刷作業を開始した。

 出来上がった一冊を手に持って、雅深は部室を出た。つい最近、奇妙な体験をして出会った桜の木の所まで行った。

「私達は、忘れないから。私が書いた話が貴方の経験通りでないかもしれないけど、これがあるから、この先もきっと、忘れられないから。」

雅深は気の根元に持っていた部誌を一冊置いた。

「卒業しても、この地域から離れても、十の数えの年には会いに来るから。」

雅深はにっこりと桜に笑みを向けて、次は十年後かなといいながら、その場を後にした。

桜は返事を返すかのように、木の葉を揺らした。








 雅深は思った。雅深だけではなく、あれを経験した六人ともが思っただろう。





 来年はきっと、あの桜は今までで一番、綺麗な花を咲かすだろうと。愛したふうせんかずらに話し掛けるように・・・。