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いたって平凡な日々を過ごしてきた。それこそ、目立ったこともなければ、良いことも悪いこともとくになく、本当に平和な日々だった。 ちなみに、もてたことすらない。 なんだかドキドキするような出会いがあったわけでも、何かやりたいことがあったわけでもない。 ただ、なんとなく小学校、中学校、高校ときて、大学へ進んだ。 そんな日々が、突如として崩れた。 隣の空き家…といっても、不気味なぐらい、この場所では古い洋館で不釣り合いな、存在感だけあったその家に、新しい住人が越してきたことから始まった。 都会かと言われると、それほど発達はしていないし、田舎かと言われるとそれ程過疎化もしていない。 だが、それほど近くに家が密集しているわけではないので、久しぶりに増えた近隣の、それもお隣さんということもあって、会うことが会えば挨拶をすればいいやと思っていた。 元々、両親も仕事先で寝泊まりすることが増え、ほとんど家にいないのだから、付き合いという付き合いもないだろう。そう思っていた。 「あ、たけにぃ!」 思ったより、お隣との遭遇は早かったようだ。だが、それよりも気になる単語があった。 自分は相手を知らないはずだ。だが、相手はこちらを知っているようで、すごく嬉しそうにこちらへ駆け寄ってきた。 「たけにぃ!会いたかった!」 そういって抱きついてきたのは、金髪美少女だった。どうしてこういう状況なのかまったくわからず混乱していると、どうしたの?とこちらを見上げて首をかしげた。 「たけにぃ?」 「あ、えっと、君は…誰、だろう?」 そう言うと、少し驚き、少しむっとし、酷いっと彼女は言った。 「私のこと、忘れちゃったの?昔一緒に遊んでくれたのに!」 今もこれを大事にして忘れたことなかったのに!そう言って見せられたのは、遠い記憶の中に確かにあった。 取り出された携帯につけられたシンプルなストラップ。 元々、手先が器用だったので、こういったことが得意だった。あまり役に立ったことはなかったけれど。 そこでやっと、俺は思い出した。 「もしかして、アサちゃん?」 遠い記憶の中で、確かにあった名前を引っ張り出す。 「たけにぃ!ちゃんと覚えてくれてるじゃん。」 また、嬉しそうに抱きついてきた。とりあえず、そんなことより俺は混乱していた。 過去の記憶と彼女がどうしても一致しないのだ。 記憶では、もう一人少女の姿があったし、もう少しこう…。 そうやって考え込んでいると、別の声が聞こえ、隣の家から誰かが出てきた。 「アサちゃん、外で何して…あ、たけにぃ…?」 戻ってこない片割れを呼びに来た、アサちゃんより俺にとって記憶の中と一致する女、ツキちゃんがそこにいた。 その瞬間、やっぱりこの二人を自分が知っていると言う確信がついた。 「たけにぃ、会いたかった。」 アサちゃんと違い、飛びついては来なかったが、嬉しそうにこちらに近づいて、そういうツキちゃんは、そう言えば人見知りなところがあったなと思い出した。 「ね、ね、たけにぃ。私達やっと魔法使い見習いから魔法使いに昇進したんだ!」 「うん。だから、一人前になったから、戻ってきた。」 その言葉の瞬間、どうしてあの日々を平凡だと思ったのか。どうして彼女達のことをすっかり忘れていたのか。 やっと思い出した。 どうして忘れていたのかはわからない。けれど、自称魔法使いの二人になにかされたのかもしれないが、それこそ不明なことが多いので今は横においておく。 この洋館に、元々彼女達と保護者のような女性が確かに昔住んでいたのだ。 いつからいなくなったのか、はっきりと思い出せない。 けれど、自称魔法使いだという、この現代において夢物語のような、非現実的なことを言い、実際におかしなことを起こしてトラブルに巻き込まれてきた自分にとって、可愛くて放っておけない幼馴染ではあるが、同時にいつか殺されるんじゃないかと身の危険すら感じる存在でもあった。 だから、何も変わらない平凡をあの頃は何度も望んだ。その結果、思い出すことがなくなって記憶の片隅に忘れていたのかもしれない。 だが、その騒がしい幼馴染が戻ってきたとなると、これからまた平凡とは無縁の日常に変わるのだろう。 見習いはそんなに魔法が使えないんだ。そう昔に言っていた気がするが、魔法が本当にあるとは思っていないので、マジシャンがするような錯覚の問題なのだと思っていた。それがさらにパワーアップしたものなのだろう。 この時はそう思っていた。それが甘かったことは、後日知ることになる。 だが、今はそれどころではない。 「これで、私はたけにぃのお嫁さんになれるよ!」 「…はぁ?!」 感動?の再会の後の、アサちゃんの突然の発言。いったいなんだと思うと、アサちゃんの発言の後に、ツキちゃんがむっとした顔で違うと否定する。 「私が、たけにぃのお嫁さん。見習いは伴侶つくれない。だから、がんばった。アサちゃんでも譲らない。」 さらに爆弾発言がきた。 「何よ、私だってマザーがいうからやったんだもん。私がたけにぃのお嫁さん!譲らないもん。」 そう言って、目の前で言い争いを始める二人。とにかく、今は誰も人が通らないとはいえ、恥ずかしすぎる。 「とにかく、俺自身も状況が…ね。家、入ろう。立ち話もあれだしね。」 そう言って二人をなだめ、家に入った。 |