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十二章 小さな落とし穴 今日でこの町を出る。貴一達は早めに起きて、準備を整えた。 「おい、こら、起きろ!」 海樹はぐっすり眠る三人の子供達を起こす。が、昨日が遅かったのでそう簡単に起きてはくれない。 「しょうがないな、一人一人ずつおぶるか。」 「悪いけど、水の警護は任せるよ、紅乃。」 藍は眠っている菖蒲を担ぎ、貴一は純と奈央を担いだ。そして、海樹は少し大目の荷物と、昨日の事でかなり疲れがでたらしく、眠って起きない青を抱きかかえた。 「何故この男が青を担当する?!」 「一番体力がありあまったいるからよ。」 紅乃も何故か納得してしまった。それが気に入らない海樹。苦笑するしかない貴一。 「とにかく、行こう。」 そう言って、まだ暗い中、子供と青年をそれぞれ抱えて五人は宿を後にした。 それを、今まで大人しくしていたあの男が見ていた。 「・・・どうやら、今日には出るつもりみたいですよ・・・。」 通信機で相手にそう伝え、もうしばらく尾行を続けようと、その影場から貴一達を追った。今度こそ、貴一達を手の内に入れ、『白銀の月』を手中に収め、『月』と『太陽』を手に入れて、神獣をも手に入れる為に。 カリスは、もう一度通信機を取り出し、別の相手にもう一つ別の事を伝えた。 「考えた計画どおり行くわよ・・・。ミスは絶対に許さないからね・・・。」
貴一達は移動してからしばらくして、後ろをつけてくる何者かの存在に気付いた。気付いたのは貴一と海樹と藍と青の四人だけなのだが、間違いなくつけられている。きっと、宿から出てからずっとだろう。 「しっかし、つけてくるって事は、やっぱりこの前の敵だよな?」 「そうでしょうね。俺を手に入れる事も戦力として上がりますけど、やはりやっと知った『白銀の月』が一番魅力的なのでしょうね。」 「だから、あれほどここは瀧靜じゃないって言ったのにさ。」 「だから、悪かったって言ってるだろ?」 「というかさ、それは青の問題だから、紅乃が口を挟む事ないだろ?」 「ですけど、契約として、青の身の安全を第一に考えるのが人としての心が残っている私がやるべき事なんです!」 力を込めて言うが、海樹にはバカかとしか思われない。 「だいたいな、吸血鬼が言うなよ。身の安全を第一に考えるなら、お前が青から手を引いて離れろ!」 確かに、これがまず第一に身の安全を確保する為の一歩だ。だが、相手は引く事はない。 「こら、今は言い争いをしているわけにはいかないだろう?」 藍が止めるが、この二人は犬猿の仲ということらしく、意見もあまりあわないし、行動も合わない。第一に相手の全てを否定しようとする。 「あ、すっげー船だ!」 目を輝かせる純。近くで見ようと走り出す。それに続く奈央と菖蒲。 「子供は元気でいいね。」 「何歳よりくさいことをいっている。俺と同い年だろ?」 「そうね、私とも同い年よね。でも、海樹は十分ふけてるから問題ないわ。」 「ちょっとそれ、かなり傷つくんだけど・・・。」 やはり、三人は長い付き合いで、お互い不利な状況になりながらも、この場所が一番居心地がいい。 「で、どうするの?相手も結構なやり手だろうし。たぶん、この気配はいくら隠していてもあの人だろうし。」 「あの人?」 藍と海樹は首を傾げる。 「藍はともかく、海樹は気付かなかったのか・・・?」 呆れたと言う感じで言う貴一。それで、一瞬だけ顔を赤らめる海樹。 「俺は何も感じないけどな。どっちかっていうと、夜派やからなぁ。」 「確かに、紅乃は中途半端だけど吸血鬼だから、昼は使い物にならないんだよ。夜は絶好調に無駄に動くけど。」 「それ酷いで、青。」 本当に酷いと泣き崩れる真似をする紅乃。しかし、事実なだけに全てを否定する事は出来ない。 貴一達はあの船の上の事を思い出していた。確かに、あの時は夜で、とても凄い力を使っていた事を知っている。戦力になる事は間違いないが、青の言う通り、昼間は使い物にならない。第一に、素の状態が一番ただの足手まとい状態なのだ。 「確かに、夜はすごいよな・・・。」 海樹でも納得できる力の持ち主なのだ。しかし、この素がすべてをぶち壊している。 「とにかく、急ごう。まだ、奴等が尾行だけなら振り切ることもできる。」 「そうね。手を出してきたら、なんとかしないと、こっちは子供がいるからね。」 「そうだよな。女に子供。巻き込むわけにはいかんよな。」 藍は奈央と菖蒲の側に、貴一は純の側に、紅乃は水の側にそれぞれいながら歩く。 「奈央と菖蒲は巫女の守護があるから、ある程度までは大丈夫だろうけど、手の内に治められたら、抵抗できないしな・・・。」 自由に攻撃も抵抗も出来なくなる状態にだけは避けたいものだと言う海樹。彼はやられっぱなしが嫌いなのでしょうがない。まぁ、彼だけではなく、ここにいる全員がやられっぱなしと言うのが気に食わないのだ。だからこそ、組織でトップに上がることが出来たのだろう。 「・・・貴一、風が変わった・・・。」 「そうだな・・・。気をつけろ、青。」 もう少しなごやかな時間が続くと思ったが、どうやら相手が動いたようだ。青が気付いた変わった風を貴一も感じ取っていた。 「たぶん、来るな。上級者は見てるだけだろうけどさ。」 「雑魚の掃除ってとこだよね。」 海樹は水の足元に荷物を置き、藍は紅乃に奈央と菖蒲を預け、それぞれ戦闘体制に入った。貴一も紅乃の所に行くようにと、純に言い、神経を張る。 「・・・いいかげんにして下さい。俺たちには隙はありませんから。どこからでもどうぞ。」 貴一の言葉が戦闘の合図かのように、その一言で、今まで隠れていた藍曰く、雑魚が飛び出てきた。 貴一達三人は、後ろで紅乃と水と子供達に絶対に敵を行かせないように、全て排除した。それも、何十人といるにもかかわらず、五分もかからずに始末したのだ。全員、地面とお友達状態だ。 「・・・貴一、あいつ、まだ近くにいる。」 「藍、海樹、そう言うことだ。まだ手を抜いてはいけない。」 「わかってるわ。」 「わかってるよ。」 二人が返事した時、三人は同時に、今までつけてきた上級者、先日出会ったカリスの居場所を読んだ。
ザッ――――――――――――――――――――
三人は同時に獲物目掛けて攻撃した。手ごたえはあったかのように思われたが、そこにはただ、看板があるだけで、カリスの姿は何処にもなかった。 「何処行きやがった?!」 「海樹、後ろだ!」 貴一の言葉にはっと振り向いて剣を構える。その時、金属の響く音が聞こえた。カリスは素早く、海樹の背後に回り、死角を狙って攻撃してきたのだ。 「・・・なかなかやるようね。反射神経も問題ないみたい。やっぱり、元No.2の位にいたのは嘘じゃないみたいね。」 そう言って、細い剣を振り払って、軽く飛んで後退した。 一対三でお互い睨み合う。一般人がこの中に紛れていたら、きっと恐ろしさ繊維を失い、腰を抜かして動けなくなっているだろう。 カリスは見た目とは違って、貴一達同様にプロと呼ばれるにふさわしい力を持っている。見た目に騙された奴もいるだろう。きっと今ごろは、まともな暮らしをしていないだろうが。 「実はね、貴方達をこの町から外に出すわけにはいかないのよ。」 カリスが先に口を開いて言い出した。それに、貴一は人の都合にあわせていられませんと素っ気無く答えた。カリスも、そう答える事が始めから分かっていたのだろう。笑みを浮かべるだけで、別に引いく事も逆上する事もなかった。 「で、いちよう被害者にあたる俺たちから一つ聞きたいことがあります。」 「そうね。尾行はこの世界での法では、通常犯罪だものね。組織から抜けた貴方達はいちよう一般市民と同じだものね。いいわ、答えられるものなら答えてあげるわよ。」 相手の了承を得たので、貴一は聞いてみる。どうしてこの町からださないのか。どうして、朝から、いや、接触してからずっと見張るようにつけていたのか。 その質問に、さすがといいながら、うれしそうだった。それぐらいの事に気付かないようならば、手に入れても大した価値にはならないとまで言う。海樹は失礼な奴だなと、カリスの印象が更に下がった。 「そうね、尾行はマスターからの命令だからよ。それぐらいは予想範囲よね?何せ、何度も亜岳同等の力を持つ貴方をほしがっていたのだから。白銀の月は、正体がわからなかったから、手に入れたくても、情報も何もない。どんなに調べてもないから、マスターは貴方が白銀の月だと思い込んでいたわ。亜岳と東海林も、貴方の事をライバル視する反面、白銀の月の強と雅、尊敬していたわ。だから、どんなに別人だと思っても、それ以外に誰もいなかったから。まさか、貴方だったとは思わなかったけどね。」 そう言いながら、青に視線の向きを変えるカリス。すぐに貴一達に戻して話を続ける。 「こちらの事情はここまででいいわね。で、マスターから新たに、他の組織に、瀧靜にでさえも、手中に収められる前に、手に入れろとの命令が下ったのよ。」 そう言いながら、向きを青に再び変えて凄い速さで青の元へ移動する。そして、彼が戦闘時、本気の時にだけ使用される細糸を取り出して、相手の動きを封じる為に素早く攻撃の捕獲を行う。青も、相手に合わせて戦闘態勢に入り、扇で糸を切り刻む。それは本当に一瞬だった。 カリスは、自分の技を簡単に破られたのだが、笑みを浮かべて満足そうだった。彼の技と言っても、中級レベルなので、防ごうと思えば防げる。だが、青のように無傷で全てを防ぐの者は滅多にいない。 「さすが、ですね。手に入れたくなる権力者達の気持ちがわかりますよ・・・。」 「俺としては、かなり迷惑な気持ちですけどね・・・。」 チラっとカリスは青の後ろを見て、再び動く。今度は青の側を抜けて。 「しまっ、紅乃!!」 「む、むちゃだって?!」 カリスの思惑に気付く貴一と青だが、一歩出遅れた。彼は、始めから貴一と青を狙っていたが、確実に手に入れるために全員の意識を自分と貴一達の戦闘に向けさせて、わざとおとりになったのだ。彼の本当の目的は、交渉して交換する為の材料を手に入れる事だったのだ。 紅乃は水と子供三人を守るが、一人で四人をカリスのようなプロから守れるわけがない。今のように、日が空に上がっている今は。 「な、奈央!!」 純の叫び声。 「彼女は預かっておくわね・・・。」 カリスは奈央を抱え、貴一達の視界から消え去った。 「くそっ!」 奈央は瀧靜に続き、再び人質の身となってしまったのだった。 貴一は、悔やんだ。どうしてもっと早く、このことに気付かなかったのだろうかと。自分や青を手に入れるための一番よい方法を。奈央達のように、戦力が小さいものを手中に収めて条件交換を行うと言う、相手の策略に、どうして気付かなかったのだろうかと。 貴一達は、亜岳が卑怯な真似をする事を嫌っていた為に、忘れていたのだ。 「見落としていた・・・。」 |