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我は契約の名の元に、汝を召喚せん・・・ 我前に姿を現し具現し、我守る刃となれ 月光の魔獣・ツクヨミ 美しき娘の姿をした青年が呼び出すは、美しき月の使者 「僕もいつだって君たちのように『過去』のままじゃないよ・・・。」 楽しみだと笑う青年は最後に人の名を口にする 「・・・狩りが始まるよ。君たちの狩りが・・・獲物は・・・。」 7章 詩の魔法 カチャリ・・・ センタラフェンス教会の中でも、一番奥に位置した人が立ち寄らないその場所へ足を踏み入れる者がいた。 そして、部屋の中にいた人物と顔を合わせる。 ここは教会内での変わり者で変人、何より危険人物とされるグラバンの研究室と私室がある場所である。 「ランドルはまだ眠っていますよ。」 「そうか・・・。」 一度だけ目線をあわせ、その後は窓際から窓の外を眺めるグラバン。手にはマリーが持ってきた珈琲の入ったカップを持っている。 「礼ならティセマに言ったらどうですか?彼女がいなかったら、彼はここにはいませんでしたから。」 「ああ。それなら昨日戻ってからすぐに行ってきた。」 グラッサは討伐要請で出かけており、知らなかったのだ。知らせを聞き、慌ててこの場所を訪れたのは昨日で、ティセマのことを聞いたのも昨日だった。 この事態になってから、すでに一週間が過ぎてからのことだった。 「あまり、気を落とさないでくださいよ。ここでいじけられても迷惑なだけですから。」 「わかってるつもりだ。」 「わかっていませんよ。わかったと言い聞かせるだけで、貴方はまったく何もわかっていない。」 だから、こんなことになるんですよと言われ、言い返せないグラッサ。 「貴方は仲間を信じ、仲間を護ると誓ったと言った。なら、何故一人で全てを背負い、一人で戦いの中で護ろうとするのですか?そうであるなら、私に一人ではないと言った貴方の言葉をそっくり返してあげますよ。」 だから、わかってないんですよと突き放すように言われる。だが、グラバンなりに人を頼ることを覚えろと言う、優しさの裏返しなのはわかっていた。 「本当にわかっているというのなら、今すぐ仕事に戻りなさい。彼は私が必ず助けてあげますから。」 私の腕を信じないのなら別ですけどと言うグラバンに、そんなことはないと、苦笑して返答を返すグラッサ。 「そうだな・・・。信じると言う私が信じてないのではいけないな。」 しばらく休憩してそのだらしない顔をなんとかしたらいかがですかと、ソファを指差して言う。それにそうすると答えるグラッサ。 「また、お前を失うと思うと、怖いんだ、ランドル。」 いつも、何も護れない自分がいる。それを隠そうとして、護れる自分になろうとして、結局この様である。 コトッ・・・ テーブルの上におかれたカップ。それには暖かいミルクが入っていた。 視線をあげると、そこにはグラバンが立っていた。 「馬鹿な考えなど、捨ててしまいなさい。迷いから隙ができ、そこから命の危険にさらす影響があること、貴方ならわかっているはずでしょう。」 今の貴方なら、背後から一発で心臓狙えそうですよと言い、部屋を立ち去るグラバン。 「本当に、そうかも知れぬな・・・。」 ありがたくミルクをいただき、しばらくしてから部屋を出るグラッサ。そんな彼を分かれ道の物陰から見送ったグラバンは側にいるマリーに言う。 「近いうちに、争いは起こるでしょう。その時、逃げるならさっさと逃げてくださいね。」 「嫌ですよ。たとえ、神父様が言っても。私は神父様と共にいると決めたんですから。」 私も、もう失うのは嫌なんですよ。護れないのも、理不尽な権力も。だからこそ、今度こそ決めたことを守り抜きたいのだ。 「だから、たとえ神父様が怒っても私は負けませんから。」 神父様の怖さなんかに負けないぐらい、一緒にいたからなれましたしねと言われ、勝手にしなさいとグラバンはそれだけ言って部屋に戻るのだった。 ジリリリン・・・と、屋敷内に響くベルの音。ガチャリと受話器をとり、応対するヤヨイ。 「は〜い、ヤヨイちゃんですよぉ。ご用件はなんでしょうか〜?」 いつもの調子で、相手がわかっているからこそ、陽気な返答を返せば、受話器の向こうの相手は笑みをこぼし、伝言を伝えるのだった。 「タカルタ国、たぶんもうすぐしたら大きく変わるよ。・・・人の血もまた、流れるから、覚悟しておいてほしい。」 「おやまぁ・・・私としては、貴方たちには生き残ってほしいですけどね。」 「さぁ?どうだろうな。何が起こるかわからないから、人はあがない続けるものだろう?」 変えることができる未来を夢見てしまう愚かな人間だから。 「そっちも気をつけるといいよ。そろそろ、夢物語も終わりだろうから、アレが動くよ?」 頑張ってねという相手に、ヤヨイが切るのを止める。 「教えてくれたお礼に、いいことをひとつ教えてあげる。・・・必ず、あの男は生き残る術はないわよ。」 今まで犯してきた悪行の数々により、とうとう罰を受ける時がきたのだとヤヨイは伝える。 「へぇ。じゃあ、いろいろ片付くかな。」 「ただ、いつ動くかはわからないわ。でも、あの男・・・ベルポーゼはもう、『死刑執行人』が動き、カウントダウン中よ。」 もう、一刻一刻と近づく最終警告と死刑執行は止まらない。 「カウントダウンは、はじめた人間がそう言葉にして決めたから動くのよ。だから、貴方も死ぬかもしれないなんて思わないことよ。」 言葉には全て力が宿っているのだから。それを人は、力が宿っているなんてことを忘れて使っているけれども。 「じゃあ、またね。」 「次があれば、だな。」 それがネオとの最後のやり取りになるとは、その時ヤヨイは思わなかったのだった。 彼なら、いつものように、悪運強く漂々として現れると思っていたからだ。だから、この胸騒ぎは勘違いだと、思いたかった。だから、言葉に込めたのだ。 彼なら大丈夫、と。 その時、チリンと自分を呼ぶ鈴の音がした。すぐに、一番上にある館主の部屋の前に行き、ノックする。 「只今参りました。何かご用でしょうか、ご主人様。」 「いつもながら、速いな、ヤヨイよ。」 「ええ、ご主人様のお呼び出しのためならば。」 頭を一度だけ下げ、主人の方を向く。 「近々、タカルタ国は国王・・・いや、女王の交代があるかもしれぬ。」 「ええ、そうですね。」 「闇のモノもまた、動くかもしれぬ。」 それはつまり、戦闘態勢に入るということである。 「地下道の入り口の結界を開けた。」 後は彼らがそこで何を手にするかだという主人の言葉に、とうとうきたのかと思うヤヨイ。 この屋敷の主人は、代々セントラルバルスの地下に張り巡らされるように続く道の入り口である門を守る番人の役目を負うこととなっていた。 邪な考えを持つ輩を入れないということもあるが、何よりあそこは呼ばれぬ者が間違って足を踏み入れれば、二度と日を拝めぬ迷宮でもあるため、門は開かれるその時まで閉ざし、守らなければいけないのだ。 「フージェル国の番人には先程連絡を入れた。」 すぐにシアリネと合流するように命じられ、それにわかりましたと答えたヤヨイは部屋を出る。 「地下の道が・・・宝の扉は開かれた・・・。何を持ち帰るかは貴方方次第ですわよ、クロス神父様。」 飛翔門でお待ちですという連絡を受け、主人の命令通り、合流するために向かう。 そしてその日、センタラフェンス教会に地下の扉が開かれたという知らせの手紙が届き、地下へ向かう者たちに伝達された。 部屋に届けられた手紙に目を通し、破り捨てるグラバン。 「開かれた・・・か・・・。」 カチャリと、開かれる扉。そこに立つのはティセマとマリーだった。 「どこに行くつもりですか、神父様。」 「さぁ、どこでしょうね。」 「はぐらかさないで下さい。」 まったくこういうときだけはすぐに気づくから困った人たちですと呟き、マリーを見て言う。 「今回は貴方は留守番していてもらいます。」 「何故ですかっ!」 「ランドルが目を覚ましたと言っても、本調子ではないのです。彼を見張る人間が必要なのですよ。」 と、ランドルを指差して居残りさせようとしたグラバンだったが、白衣をつかむ手があるのに気づく。そして、やれやれと思いながら、その相手の方を向く。 「地下の迷宮へ行くのなら、私も連れて行って下さい。」 体を起こし、よろけながらベッドから降りて立って近づくランドル。 「私も連れて行けと、先程の手紙に書かれていたでしょう?・・・私が取り出す魔法の中のひとつ、鍵を使い、扉を開けと。」 その言葉にグラバンは黙ったままだった。 「お願いです。兄も、行くのでしょう?」 嫌な胸騒ぎがするのだ。あれと遭遇してからずっと。忘れている何か恐ろしいモノが戻ってきたような、そして何かを失ってしまうような損失感がずっとしているのだ。 そんな必死なランドルを見て、何か言おうとして口を閉ざし、グラバンは止めるのを諦めたように言うのだった。 「わかりましたよ。ただし、自分の身は自分で守って下さいね。」 責任はもてませんからと言い、三人にそこへ並ぶように指示を出す。そして、髪で隠れていた左耳につけられた赤い石の耳飾をはずして粉々に砕いた。正確には、グラバンの手の中で勝手に壊れたのだ。だが、お構いなしで、言葉を続けるのだった。 「我契約せしモノよ、グラバン・ライナース・ディストールの名において詩を書き記し書よ我前に具現せよ。」 それは三人にとってはじめて見る光景だった。占い師の一族でありながら、力を持つ父と持たぬ母から生まれ、一族の誰でもが持っているはずの詩魔法ですら彼は使えなかったはずなのだ。 それがどうだ。今、彼が使おうとしているのは、名に刻まれた物語の詩により、契約したものたちを呼び出すもの。 「我願うは物語りの一枚目開く。我らを護る天界の詩唄う光人の翼よ、運びたまえ、望む扉の入り口へ。」 それは一瞬の出来事だった。景色が変わり、そこにはグラッサとカルタッタがいた。 「グラバン、お前・・・。」 「どうかしましたか、グラッサ。それより、貴方は鍵を開く役目として来たのでしょう?ランドル。」 扉は目の前ですよと指差され、すぐにランドルは動く。 「扉を開けよ。我に開く鍵の魔法を与えよ。」 白い糸がランドルの両手の中に集まり、編むように束になったそれらが形を作る。 そして、姿を見せた鍵が、ひとりでに錠をまわして扉を開いた。 役目を果たした鍵はまた糸となって解けていく鍵は全て、ランドルが持つ書の中へと還っていった。 「行きましょうか。」 一歩踏み出したグラバンを止める声がするが、無視する。しかし、肩を思い切りつかんでふりむかさせたグラッサと視線が合い、しょうがないですねと呟く。 「『何を』貴方は聞きたいのですか?」 「何故、力のないと言われたお前が一族が持つとされる、力の元である詩のページを開ける?」 「それですか・・・。」 詩の書とは、占い師の一族が禁忌とされる理由のひとつである、強大な力を持つ魔法をも記されたものである。それも、生まれた者が最初に与えられた名によって書かれる中身も違うため、誰が何を書かれた書を持つかはわからない代物なのだ。 元々、占い師の一族といっても、魔女であり、未来を見る力の強い者達の閉鎖的な集まりがそもそものはじまりであり、未来を占う力以外にも危険な力を持っている者達も一族の中にはいた。かつて一族を治めていた長でさえ、力に飲み込まれた者は出た。だからこそ、余計に外から隠すために閉鎖的に閉じこもった外との関わりを絶つようになってしまったのだ。 しかし、グラバンの母は正妻でありながら、外から来た力のない者で『書』を持たない女であり、グラバンもまた、持たない息子だと言われていた。当初はかなり問題になったが、今では静かになったものである。誰も持っているとは思わなかったのだ。だから、出て行って清々したと思っていることだろう。 「そうですね、もし私が持っているとしたら、正妻がたとえ力のない『まがいもの』であっても、私が後継の一人とされたでしょう。」 しかし、跡継ぎなど、そんなことにはまったく興味がなかった。それに、もし後継としたならばば母だけが力のない者として疎外されることはわかっていたからこそ、黙っていたということもある。だが、それは母を思ってのことではない。 自分以外にもいる、後継者候補との、正確にはその後継者候補の親のいがみ合いに巻き込まれたくなかったからだった。 「それに、『書』は時が来たとき、一定年齢に達した際に書の番人、つまり自分と契約する『相棒』が姿を見せるので、それまでは力があるかないかなんて、自分から見せない限りわからないですし、何よりその後も見せなければ気づかれることはありませんから。」 面倒なことは嫌だったので持ってるとも持ってないとも言っていないだけだったのですよと、グラバンは答えた。 「フィルドは知っているのか?」 「さぁ、どうでしょうね。でも、あの男なら知っててもおかしくはありませんけどね。」 「でも、だからって黙ってる理由はないんじゃないの?」 「そうですよ、神父様。家族は大事にしないといけないんですよ。」 二人の見た目少女のティセマとマリーに言われ、貴方方とは置かれた状況は違うのだがとため息をつきながら答える。 「あの中では、身内は『敵』なんですよ。」 一族として生まれたからには、誰もが長という権限を得ようとする。それにより、一人自分を偽らなければいけない者がいるのを思い出す。 いつ誰が牙をむくか、誰が何の言葉をの力を持つのかわからないあの中では、信用できるのは自分しかいないだろう。あんな、居心地の悪いところ、連れ戻されても戻る気は起こらない。思い出すだけで吐き気がすると切り捨てる。 「やはり、禁忌に触れる一族は禁忌の重さだけ、その身に還るものなんですよ。」 「代償が必要ということか。」 「ええ、そうです。フィルドが持つ詩の言葉を知っていますか?彼が持つ言葉は『破壊』、『再生』、『闇』なんですよ。私とはある意味真逆で、共にあればお互いがお互いの力を食い散らかすかのようにね。」 これ以上の質問は、一族のことを知ってからまだ言う事がある場合のみ聞きますよと言い、今度こそグラバンは歩き出した。 他の者達も、今ここで足止めをしているわけにもいかないため、先に進むことにした。 さっきのグラバンの言葉を考えながら、彼が背負う言葉とは何かと。 地面が盛り上がるように膨れ上がり、次第に人の形を作り、中からキャルローが姿を見せる。 「どうだった?」 「クロス神父達も、グラバン神父達もそれぞれ別の門から地下迷宮へと向かわれました。」 「そうか・・・そろそろ、僕の役目の時がきたかな・・・。そして、彼らもまた、役目を果たすために必要なモノを手にする。」 占い師とは厄介な生き物だよと思いながら、グラバンが地下の入り口で語ったことに耳を傾けながら苦笑する。 「破壊して生み出すことができないこの手は、破壊したものを同じように都合がいいように操れるように戻すだけで、何も生み出せない。」 「そんなことありません、フィルド神父様。」 私の命を助けて下さったこの手は、確かに新たな希望を生み出すことができる手だと訴える。 だが、フィルドは悲しそうな笑みで首を振るだけだった。 「これからは僕なんかじゃなくて、弟のことをよろしく頼むよ。ね、キャルロー。」 頭をなでる優しいその手は、はじめて出会ったあの日と変わらない。 「神父様。」 「ひとつだけ覚えておいて。詩にこめられた思いは一つじゃないってこと。占いの未来も一つじゃないってこと。もう君は一人じゃないってこと。」 人差し指で一つを示して語りかける。 「全ての名前には詩があり、物語があり、そして日々の中で使われる言葉全てに、僕らと同じ『力』が宿っているということ。詩に込められた思いの一つ一つを拾い上げて、意味を知るんだ。」 そうすれば、いつか辿りつける。『禁忌と呼ばれる一族』であるキャルローならば。優しくその腕で包むものを護る漆黒の刃を持つもの。いつも側で護るあれが必要ならば教えてくれるだろう。詩の数々を。 占いなんて、言葉の欠片なのだ。 世界を創ったどこかの誰かが描いた詩の中に込められた物語の欠片。 一つ一つ、込められた思いを拾いあげ、言葉にして外へ出す。物語として幸せへと導くように語るのが占い師。 それを違う方向へ曲げても、新たに言葉の欠片を描いた詩がどんどんできていく。だが、人はその未来を嫌がって変えていく。まるで永遠に続く道の中で迷子になったかのように必死に抵抗して、自分が望む未来を勝ち取る。 だけど、それもまた誰かが描いた詩の中の一つに過ぎないのも事実。 最後にいきつく答えは、結局誰も知らない。己自身にのみ、知ることができる結末。 「そろそろ行こうか。」 「・・・はい。」 それぞれの背負う名の物語が動き出す。 |