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会いたくて、会いたいと願い続けても、貴方には会えなくて。 手を伸ばせば届く距離なのに、通り過ぎて触れられないこの遠い距離。 「父さんが死んだ時、あの人の愛情は僕だけのものだった。なのに、あの人は病で・・・しかも、どこかの馬鹿が持ち込んだ不二の病と呼ばれるウィルスのせいでなっ!」 あの人が苦しみ、死に絶えた時、時間が止まった。色ついた世界は全て、白と黒だけの寂しい世界になりかわってしまったんだ。 5章 絆 気にしないでおこうとしていたのかもしれない。今更ながらそんなことをふと考える。 魔堕ちは愚かな欲望からなる人間もいるが、周囲の冷たい目や批判、自尊心を傷つけられたり、彼のように心に大きな衝撃を与えるようなことにより、絶望と恨み、復習や憎しみなどの思いからなるものもいる。 ギンやナルも、性格からしてただ楽しんでいるようにも思えるが、どこか近く感じるのは、きっとそのせいだろう。 苦しみを抱え、その結果にいたる道が彼等はあちら側で自分はこちら側。ただそれだけの違い。どちらが正しいかなんては誰もわからないし知らないだろう。何より知ろうともしないだろう。 だから、人は迷い苦しみ、考え嘆き悲しみ、時には笑い喜びながらも、ふとした瞬間に堕ちる。 そうやって、気がついたときには全て手遅れになるのだ。 「・・・お前の事情はだいたいわかった。だが、俺はお前を野放しには出来ない。こちらもこれが仕事、だからな。」 「・・・。」 「俺も、過去にはお前に近いことがあった。・・・お前のように肉親に恋をするようなことではないがな。」 苦しまず、そろそろあの世で求める人の元へ行けと、鎌を振り上げる。そして・・・。 反応が遅れながらも咄嗟に避ける彼は左肩を負傷する。ボタッと紅い血が地面を汚す。まるで、地面に血が吸い取られるかのように、どんどん流れ出ていく。 「逃げたければ逃げればいい。ただ、関係のないものを巻き込むのはやめろ。・・・俺のようにはなるな。」 一瞬だけ見せたキールの表情に気を取られた相手は、気がついた時には背後を取られ、グサッとナイフが刺さり、血が流れていた。 生暖かい血が背中をつたりながら零れ出て行く。 「・・・あ、・・・ギン・・・さ・・・ま・・・・・・・・・ナディ・・・。」 「・・・お前、名前は?」 静かに倒れる体はとても軽く、人でも魔物でもない、ただの抜け殻のようであった。 だが、確かに生きていたとわかるように、じんわりと背中が赤い色に染まっていった。 まだ、息があるうちに、キールは話しかけた。 それに、最後にどうしてかはもうわからないが、笑みを浮かべてかすかに動く口がキールに伝えた。 そして、彼は動かなくなった。今度こそ、もうこの世に生きて戻ってくることはないだろう。 「これじゃあ、どっちが『悪』かわかんねーな・・・。」 別に神様とやらを信じているわけでもないし、正義の味方のつもりもない。だが、何かやるせない思いでいっぱいだった。 だけど、彼は死ねて幸せだと思う自分は、すでにこちら側にいていいのかと考えてしまう。 「滅びぬこの身に受ける罰はいつまで続くのか・・・。」 ぎゅっと、服の上から首にかけているペンダントの石を握った。 「戻らないとな・・・。」 キールは動かなくなった彼を見て、一度だけ手を合わせて背を向けた。 そして、クウ達の気配がする方へと向かうのだった。 しばらく歩くと、嘘のように霧が晴れ、そこに大きな薄暗い屋敷が姿を見せた。 「ここだねぇ〜?」 「ああ。ここに辛うじて生きているが目的の人物がいる。」 「・・・行きましょう。」 入り口の大きな扉を押し開け、中に入る。そこは外とは違って、まるで豪邸のように内装された玄関であった。 だが、人に忘れられたように静まり返り、灯りがほとんどない。 「昔のカロリュベヌス教会みたいな暗さだねぇ。」 「そうなんですか?」 すでに皆がいる時期しかしらないマリアネアには信じられないことだった。 「ああ。確かにな。」 「まぁ、当時集まってたメンバーが俺とミカゲとギベルドとクロス神父だったのは知ってるでしょ?」 「はい。」 クウと一緒にいるキールとクロスと一緒にいるベルドリトとギベルドと一緒にいるバルとベルという人数でいたことは聞いている。 だが、今の彼等を見てもこの暗い屋敷の中のイメージがなく、想像がつかなかった。 「皆いろいろ抱えてたからねぇ。キールも戦闘の時以外はしゃべんなかったからねぇ。」 今はよくしゃべるけどねといいながら、笑う。なんだか、本当に笑っているのかわからない笑みを浮かべて。 「ま、そんな話は置いておいて。探さないとね。」 うーん、どうやって探そうかと考えるように顎に手をあてて首を傾けるクウに、ミカゲが影を探って探すと言う。 「そうだね。」 それが一番手っ取り早いやと、ぽんっと手を叩いてミカゲが見つけるのを大人しく待つのだった。 しばらくして、閉じられたミカゲの眼が開く。 「わかった?」 「ああ。この先にある階段をあがり、左に曲がった奥の部屋だ。」 「さすが〜。」 「心配ですし、急ぎましょう。」 「だね〜。で、やっぱ俺が担いで帰宅になるわけ?」 と聞いてみるが、無視されるクウ。つまり、その通りだという肯定である。ふぅっと息をつきながらも、しょうがないと呟いて予備の布で両目を覆う。 見えすぎるのは居心地が悪い。何より、この色の違う両目が嫌いであるから消したいぐらいだ。 そんなことをしては、いくら戦闘能力があってもあの教会では闘いに赴く事はできないとわかっているから手を出さないけれど。 「ここだ。」 ついたその扉を開けば、虫の息の男が倒れていた。 「急がないとまずいね。」 クウは男を担ぎ上げると、ミカゲが言う。 「どうやら、クロス達も戦闘に入ってるようだ・・・。教会でも・・・。」 「え〜。教会ってアヤとフェウスだけじゃん?」 「・・・いや。フィルド神父とグラバン神父がいる。」 「なんであの二人が?フィルドならわからなくはないけどさ。」 占いで先を見るフィルドならば、事前に阻止するために大陸中を旅しているのを知っているからわかる。しかし、グラバンは滅多に中央から来る事はない。 「さぁな。とにかく急ぐぞ。」 「・・・私の仕事がもう終わりなら、これが今日最後の仕事です。」 船を待っていたら間に合わないでしょう?と、マリアネアが言い、本当は頼みたくないが、他の混ざる得なかった。 「ただし、無茶だけはしないでよね。」 「大丈夫です。私より、その人の方が重症でしょう?」 でも、動けなくなった後はお願いしてもいいですかと言い、マリアネアは言葉を紡ぐ。 大きく広がる純白の翼が輝きを持ち、マリアネアの呼吸、言葉に従い、光が包み、四人の足元に大きな陣が描かれる。 「運べ、運びたまえ、我等を仮の地へ。応えよ、応えたまえ、我の声に応えて運べ。」 強い光が視界を奪う一瞬で、景色は屋敷から教会へと映った。 そこには、クロスが帰ってきたら静かに怒ると思われる程、荒れていた。 「生きてる〜?」 「まだ生きてるわ!」 「てめぇ、何いいやがる!」 「あはは〜元気そうだねぇ。」 こんな時に見たくない顔を見てげんなりするアヤとフェウス。 そして、お帰りと言うフェウスとこちらを見ないグラバン。 「で、何があったわけ?」 「何でもないよ。挨拶代わりに来た迷惑なお客さんに帰ってもらってたところだよ。」 と、笑顔でさらりというフィルドは間違いなくクロス属性と言えるだろう。 パンパンと保つけた白衣の裾の汚れを叩くグラバンを見ると、本当珍しいなとつい言葉に出してしまった。 もちろん、自分でもどうしてこんなところに来たのか不思議でしょうがないですよと嫌味な笑み付きで返してくれた。 「でさ、とりあえずこの人の治療頼める?」 「あと、彼女の事もお願いしたい。」 ミカゲが支えているマリアネアも顔色は良くなかった。 「・・・教会に運びなさい。今回は無料で治療してあげますよ。」 「いつもとらないくせに。」 「・・・次から有料にしますよ?」 中に入ろうと進めた足を止め、振り返るグラバンの顔は、眼鏡が反射してはっきりとわからなかったが、口元に浮かべる笑みからだいたい想像できる。 「まったく。どうしてこんなにひねくれた子に育っちゃったんだろうねぇ?」 どう思う?とミカゲにわざとらしくといかけるフィルドを無視して全員教会内へと入る。 一人残されたフィルドは相変わらずだと肩をすくめ、タロットの一枚を睨みつける。 「もうすぐ・・・か・・・。」 カードを閉まったとき、ちょうどキャルローが風の渦の中から姿を現した。 ひらりとキャルローから出てきたカードを取り、束に重ねるフィルド。 「新しく裂け目が出来始めていました。」 「そうですか・・・。」 「神父様・・・。」 捨てられた子どものように不安げに見上げるキャルローの頭を撫でる。 「大丈夫だよ。・・・大丈夫。」 キャルローに言うように、自分にいい聞かせるように。 「治療が終わったら、行きましょう。」 キャルローの怪我も心配だからねと言う彼の笑顔は笑っていない。やはりばれてしまったかと、あたふたするキャルローは悪戯がばれた子どものようであった。 「まったく。君はいつまで経っても、困った手のかかる子どもだね。」 「フィルド神父と歳は変わらないはずです。」 「確かにそうだね。」 僕も結婚した覚えも子どもを持った覚えもないなぁと笑いながら、グラバンが治療しているであろう部屋へと向かうのだった。 「お前。マリーに手を出してねーだろうな?」 「馬鹿言わないでくれ。部下に手を出すような馬鹿になった覚えはない。」 「・・・。」 テキパキと依頼主の弟の治療を施し、外傷の傷にも丁寧に薬を塗って包帯を巻いていく。 そんなグラバンの姿を見ると、一応治癒者なんだなと納得する。しかし、普段が普段なだけに、やはり変人にしか見えないのが事実である。 しかも、この変人にアヤの大切な妹のマリーが見習いとして勤めているのだ。 まだ会ってはいないが、心配になるのが不器用な兄心である。 「そんなに心配なら会いにきたらどうですか?喜びますよ。」 「うっせぇ。」 そっぽ向いてふてくされるアヤ。まったく、ここにも困った子どもがいますねとぶつぶつ言いながら、治療が終わったグラバンは片づけを始める。 そこへ、依頼主のリアスが入ってきた。 「・・・ラウ。」 そっと近づいて、頬に触れようとする。しかし、手は通り抜けてしまう。 しゅんっとなりながら、目覚めるのを待つ。 その間に、グラバンもフィルドとキャルローと共に教会を去って行った。 「そう言えば、なんであの人達いたわけ〜?」 「知らん。いきなりあいつが出てきたから相手してたら乱入してきた。」 「そうなの〜?あ、マリアネア目覚めた?」 話の途中ではっと気付いたクウが尋ねると、マリアネアは神父様のお陰で動けますよと笑みを返した。 「お礼を言いたかったのですが・・・。」 「また会えるよ。・・・グラバン神父にならね。」 クウはあの三人を見たときに見えた、死という負のどろどろした塊がまとわりついているのが見えた。だから、気になったのだが、黙っていた。 今は動けない仲間と負傷した仲間と依頼人とその弟が優先だったからだ。 何より、あの三人に何かあっても簡単にやられるような人達ではないとわかっていたからだ。 だが、そういう思い込みからたまに気付かないままで失う事もある。それが、自分の『悪い癖』だというのに、また気付かないふりをしてしまうのだった。 しばらくして、弟の指がピクッと動き、目蓋をあけた。 「ラウッ!」 「姉・・・さん・・・?」 「そうよ。良かった、本当に、良かった・・・。」 「夢・・・?何でもいいや。会えて良かったよ、姉さん。」 笑みを見せるラウがそうだと、ポケットから何かを取り出した。そして、それを姉へと差し出した。 今回の原因である、耳飾であった。 「姉さん、誕生日、おめでと・・・。あの日、言えなくて・・・ごめんね。」 差し出されたそれを手に取るリアス。それは不思議と取る事ができた。だが、そんなこと、どうでもいい。 弟が言った意味を理解して、涙を流すリアス。 「私こそ、ごめん、ごめんね、ラウ。姉さんも、約束守れなかった。」 誕生日をお祝いしてあげると弟は言い、楽しみにしてると姉は言う。そして、来月の弟の誕生日を祝ってくれる以上に祝い返してあげると約束した。指切りをして、楽しい思い出になるようにと願いを込めて。 だが、当日姉は事故で命を落とした。弟は姉が喜ぶ顔を見るために必死にお金をためて選んだプレゼント。結局渡せなかった。姉もまた、弟の為に考えていたプレゼントは用意できなかったし、当日祝う事すらできなかった。 「ありがとう。うれしいな。・・・二人で作った秘密基地。あそこか五歩下がったところを掘って。」 そう言って、リアスはすうっと姿を消した。 待ってと手を伸ばしても、もうリアスの姿はなかった。 「五歩下がって、掘ればいいんだね。」 わかったよ、姉さんと言って、コツンと床の上に落ちた耳飾を拾い上げ、ぎゅっと握り締めた。 これでとりあえずは依頼人の願いは達成されたねぇと呟きながら、クウは窓の外を眺める。 「神父様無茶してないといいけどね。」 「そのままくたばればいいのにな。」 「アヤ〜、クロス神父が死んじゃったら、俺達住む場所なくなるってわかってて言ってる〜?」 「・・・。」 「やっぱり何も考えてないでしょ?」 駄目でしょ〜っとめっと注意をする。 「ま、考えてもしょうがないし、シアンいないし、俺達で夕食作りする〜?」 「待て、お前はするなっ!」 ミカゲが必死に止める。それにえ〜っと文句を言うが、大人しくなるクウ。 どういうことだとアヤとフェウスはお互いの顔を見合わせて首をかしげていると、マリアネアがそっと教えてくれた。 「何でも昔、作らせたらロシアンルーレットと称して、致死量以上の毒入り、致死量ピッタリの毒入り、致死量以下の毒入り、毒なしというスープを作ったらしいの。」 「・・・クウ、お前絶対作るな。」 「そうだ。お前は絶対作るな。」 でないと、こちら側が死ぬ。 まだ納得していないようだが、落ち着いたクウを調理場には入れないようにして、マリアネアが夕食準備をするのだった。 クロス達の帰りを待ちながら・・・。 |