|
まるで足りないピースのようだね。 何も欠点のない人間なんていない。だから、常に足りないピースを探して生きている。 そんな話をしていた過去を思い出す。 もし、ピースが見つかったら? その時は希望を失う時? その問いに違うよと貴方は答える。 その時は、新しいパズルを探す旅に出て、決して常に完成したパズルを持つことはないんだよ。 なら、一度もピースが揃わずパズルが完成しなかったら・・・。 死んでも最後のピースを探すために彷徨うかもしれないね。 そう、貴方は言った。 4章 欠けたもの 海から流れる風が潮の香を運ぶ。 ヨルデカートに一つだけある飛翔門を使い、ダルラ街の飛翔門まで飛んだ。 領主が住む屋敷、つまり街の中央あたりにあるため、そこからは歩きで港まで向かう三人。 「ヨルデカートとはまた違う賑やかさですよね、ダルラは。」 「だね〜。帰ったらすぐにお風呂だね。塩の匂いが染み付くし。」 「・・・。」 潮の香がするだけでも違うが、賑わい方もまた違うこの街に、これからのことを考えると、この街は生き生きとした笑顔であふれ、何かいいなと思う。 かつて自分達もこの中にいたというのに、もう戻れない場所に来ているのかもしれない。 「お、これいいな。」 と、クウが店先に並べられている巨大魚を見て指さす。 「用事が終わってからでないと、生物は駄目になっちゃいますよ?」 「そもそも、油を売ってる暇はないだろう。」 「う〜ん。確かにそうだけど・・・。おいしそうじゃん!丸焼きにしたら。」 シアンならきっと手の込んだ料理を作るだろうが、この男の中では焼くか煮るしかないのだろう。 さっさと行くぞとミカゲに服を攫まれて引っ張られながら、港に向かう。 そこには数隻の船が停泊していて、バッシェルド島行きの船はどこか聞いてきた、マリアネアがこっちですと二人を呼ぶ。 出発した船の上で、船長の手伝いをしている乗組員が問いかける。 若い三人の組み合わせで、行き先が行き先なので不思議だったのだろう。 「それにしても、まだ若いというのに、三人であの島に何しに行くんじゃ?」 あの島には何も無い霧で覆われているだけのところで、化け物の巣窟だぞと心配する男に、人探しなんですと、マリアネアがにっこり返す。 そうすると、そうかそうかと、何も聞かずに勝手に想像して会話は完結した。 あの島に行って生きて戻れる人などいないからだ。それでも見つけたいと思い足を運ぶ者は多い。そういう奴等は今まで戻ってきたことはなかった。 だが、止めても無駄だということは、過去の経験から男は知っていたからだ。 理由はどうであれ、決意した目の者には止めることどころか、止める権利すらないこともわかっていたから、それ以上何も言わなかったのだ。 船の中へ入っていった男を見送り、島を見るマリアネア。その隣に立つミカゲが眉をひそめる。 「・・・ギンとナルもいる。」 「そっかぁ。」 静かに影を探っていたミカゲがクウに伝える。 「何か言いたげだねぇ、ミカゲ。」 「別に。」 「ま、いっか。そういうことにしておいてあげるよ。」 「・・・。」 「でも、君も言いたい時にはちゃんと言わないと駄目だよ?」 と、ははは〜っと笑うクウ。だが、それはお前も同じ事だろうと言い返そうとして、突然手をぱんっとたたき、そうだと何か思い出したように言うクウに驚き、言えなかった。どうしたのかと思えば、預けていたカバンを頂戴ということだった。ああ、っとミカゲもクウ同様に今更思い出したかのように、預かっていたカバンを手渡した。 クウはボタンを外してがばりっと開けた。すると、いきなり小さな手が真上へ勢い欲飛び出した。 「おいっ!絶対に忘れてただろ!!」 一発殴ってやろうとして、クウに避けられて失敗しながらも、キールは叫ぶ。 「あはは、ごめ〜ん。」 「ごめんじゃねー。」 相棒である人形のキールは、人を何だと思ってやがるんだと、クウの両目を覆い隠す布の結び目の先をつかんで引っ張る。 「本当、ごめんってば。だから、それ引っ張らないで〜。結び目が固くなったら頭締め付けられるからさ。」 「ならもっと締め付けてやる!」 「いや〜。」 と、ふざけた声を出せば、何をしているとミカゲに頭を小突かれる。 「ミカゲも結構ひどいよね。」 「お前が暴走しだすからだ。」 「ま、確かにそうだね。」 そう言いながら、足元のキールを拾い上げる。そして、再びカバンをミカゲに預けるのだった。 なぜなら、邪魔だと思えばどこかに置いてくるのだ。それ故にミカゲはしょうがなく管理することになるのだ。 そもそも、キールがカバンの中に入っていたのは、ちょろちょろと人形が動いているのを目撃されれば、不審な目で見られるし、何より飛翔門の検査で引っかかるかもしれない。何より、街の人間を驚かせたり、混乱させるような事は避けたい。 よって、今回はカバンの中にキールを押し込んで来たのだった。 だが、船を出してからすぐに出すつもりがすっかり忘れていたということなのだが。 「ったく、相棒!ひどいじゃねーか。」 持ち上げられて肩に上ったキールは、彼の頭によじ登ってぼかぼかと叩く。 「姿が見えないと思っていたけど、キールも来てたんですね。」 くすくすと笑いながら、この場所を離れていたマリアネアが戻ってきた。船室の調理場を借りて作った簡単な食事を持ってきたのだった。珍しく彼の肩に乗っていないなと思っていたけれど、やはり来ていたんだと少し安心するのだった。 「おう。当たり前だろ。俺はこいつの相棒で一緒にいるに決まってるだろ。」 へんっと威張るようにクウの肩に立ち、マリアネアがくれた団子を受け取って食べる。 人形の身体であっても、必要の無い行為であるが、食べるという行為が出来るために食べる。 「シアン程、手の込んだ料理は出来ませんけど、どうぞ。」 もうすぐ着きますから急がないといけませんけどと、二人にも渡す。 それを二人は受け取り、ありがとうとお礼を言って食べるのだった。 薄っすらと光が零れる暗がりの部屋の中に人影が二つ。一つはぐったりとして意識の無い青年で、もう一つはそれを面白くなさそうに見下ろす少女だった。 そこへ二つの大きさに差のある影が入った。ギンとナルである。 「どうだ?」 「これも失敗みたいだわ。」 ギンが少女に問いかける。 「そっかぁ。どうする?」 「ギンが作っていた薬の実験台ぐらいになら使えるんじゃないかしら?」 「それもそっか。」 また、仲間を作り損ねたかと舌打ちするギンに、ナルが普段から作る怪しい変な発明や薬品の実験台にするように勧める。 「・・・どうやら、狩り人が来たようね。」 ふっと、窓から外を見るナルが呟く。 「へぇ。」 面白くなりそうじゃんとギンはずれたサングラスをあげる。 「私があんな奴等、片付けるわ。」 「お前には無理だよ。」 ギンが間も開けずに即答したことが気に入らなかったのか、少女は意地になってこの屋敷に近づけさせないわよと言って姿を消した。 「まったく・・・。」 「怒るなよ。あれもあれなりに一生懸命なんだからさ。」 落ち着けよとギンがナルに言うが、まったく相手にされない。 「まぁ、いいわ。・・・不良品は邪魔だから始末しないとね。」 「別に後ででもいいだろ。」 「・・・。」 「まずは、邪魔なあいつらの排除だろ?」 にやりと不気味な笑みを浮かべるギンに、ため息をつき、しょうがないから付き合うわよと答えて二人ともその部屋から姿を消した。 残るのは、命の灯火が消えかけたリアスの弟だけ。 ガーンッ―― 霧が立ち込める森の中に響く鈍い音。それと同時に、木々が倒れていく。 「まったく。相手はやる気充分だね〜。」 「その方が面白いってもんだろ、相棒!行くぜっ!」 島に到着し、船と別れた後、森に足を踏み入れた三人。しばらく歩けば、突如木々の刃が三人目掛けて飛んできた。 そこから戦闘が開始されたのだった。 キールは背丈以上の大きな鎌を取り出し、追いかける獲物にそれを振り下ろす。しかし、それを素早く交わす少女。その動きを止めるように絡みつく細長く柔軟に曲がりくねる影。 「・・・晴らせ、晴らし給え、我の声を聞き、立ちはだかる壁よ。闇を失くせ、光よここに。」 マリアネアが両手で渦のようなものを作り出し、立ち込める霧の靄とどろどろとした闇の流れに光が差し込む。 「くっ・・・。」 「逃がさないよ〜。」 「カゲ野郎!さっさと捕らえろよ!」 「・・・うるさい。」 少しずつ逃げ道を奪われていく少女が、苦戦の末にとった策は入れ替えだった。 だが、狩り人を名乗る彼等はそう易々と騙されはしない。 「だから、言っただろう?お前にはこいつらの相手は不向きだろうが。」 突如現れた風の渦が目の前に居た少女を消した。そして、現れたギンが少女を肩に担いでいた。 「それに、そんなビラビラした女の服着てるから、余計に動けないんだよ。」 「ギンのスーツもどうかと思うの。」 「そんな口喧嘩は後回しよ。」 暗黒四王の風使いのギンと炎使いのナルが現れたことにより、こちら側不利になる。 「こりゃ、まいったねぇ。」 「・・・あの二人は後回しだ。」 まずは仕留め損ねた奴と依頼人の弟の確保だと言うと同時にミカゲは影を伸ばして三人をばらけさせる。 「キールっ、あのチビの事は任すね〜。ミカゲとマリアネアはあの嬢ちゃんね。」 キールなら先程の戦闘でもはっきりしているが、『踊子』の始末は出来るだろう。そして、ミカゲとマリアネアの二人なら炎使いの少女の足止めなら出来るだろう。 厄介なのはギンとナルがお互いの魔術を混合させた時だ。クウはギンがナルの元へ行けないようにと足止めをするのが今回の役割だと判断したのだ。 「だから、こっちの片づけが終わるまで遊んでもらうよ〜?」 「けっ、誰がてめぇみたいなのの相手をするかよっ!」 「おっと。甘いねぇ。」 あはは〜と相変わらず人を馬鹿にしたような言い方でありながらも、確実に相手に攻め込む。その姿勢が言動を裏切っている。 「てめぇから、まずはさばいてやるよっ!」 「それは無理だね〜。こっちがそっちを裁くからねっ!」 お互いの蹴りが交差し、片方が手を出せばもう片方が避けて手を出す。そして距離を取ったかと思えば一気に近づく。それの繰り返し。 「おっと・・・俺のスーツの裾がほつけたじゃねーか。」 オーダーメイドで高いんだぞとぶつくさ言うギンに、クウはそんな動き難い格好で来るからでしょ?と止めを刺すように言う。 「それに、髪型も昔の方が似合ってたよ〜?今は爆発頭〜?」 何度か戦闘になることが多かったのだが、その際にギンの髪型は爆発によってアフロに変わっていた。あの時はかなり髪を大事にしていたギンは怒っていたので、わざと怒らせるように言ったが、相手もそこで落ち込むような可愛い性格をしていない。反対に視覚封じた挙句に、だぼだぼの袖で動き鈍いぜとお互い悪口の言い合いをする。 「ちょっと!何馬鹿なことやってるの?!」 少し離れたところからナルに怒鳴られ、謝る姿は浮気の誤解を解く旦那のようである。 「・・・行かせない。」 「戦闘中に余所見はいけませんよ?」 「そっちこそ、余所見しないで欲しいわね。」 と、すぐにナルの思考の中からギンは消える。お互い一歩も譲ることなく、その場所、空間を見渡し利用し、最善と思われる方法で仕掛ける。 だが、どこか手を抜いているように感じるのは気のせいではないだろう。何故かわからないが、こちらが戦闘不能になるようなことはさせず、時間を稼いでいるように思えてしょうがないのだ。 その考え事に隙が生じたのか、ギンが作り出す風の圧縮された弾が直撃した。 「クウっ!」 「あいつなら大丈夫だ。余所見をするな。」 気を取られたマリアネアを庇うミカゲの影。案の定、クウは木にぶつかったが、よろりと身体を起こした。 「これで終わりだぜっ!」 と、確実に止めを刺しにきたと思った一撃が襲い掛かることはなかった。 「馬鹿なことしないで頂戴!」 ギンの風の刃を縛る、紅い糸。ナルの手に持っている鞠から流れるそれは、形の無いものまでもを拘束することができる。 「わりぃ。つい興奮しちまった。」 「まったく・・・。」 この二人のやり取りに、クウは一つの情報のピースを繋ぎ合わせ、確信したのだった。 「やっぱり、そっちは特定の人間を殺せない状況にあるってわけだねぇ。」 「・・・ええ、隠していても気付かれるのがおちだから教えてあげるわよ。」 全てを見透かす、不敵な笑みの暗殺者さんと言われて、二人を振り切ってこちらの間合いに入る。 「でも、よーく覚えておいて。」 ジュッと焦げる音と匂いがしたと思えば、視界を覆う布がはらりと足元に落ちる。 「今は殺せなくても、最後には殺すわよ。・・・だって、生贄なんだもの。そう、その目を持つ人間や妖精に好かれる人間とか特にね。」 その言葉でさらなる確信を得る。まだ、『魔王』は表にでていないということに。やはり、ヤヨイが言っていたことには間違いがなさそうだと、自然と口元に笑みが浮かぶ。 「だから、あっちの二人は今殺しても構わないのよ。」 だから、行動を考えないと、今すぐ消すわよという脅しを出されても、動じない。そこまで、身を守れない仲間だとは思っていないし、技量は信用しているつもりだ。 「・・・そうそう。一線越えた時って、もう止まらないって知ってるよねぇ?」 ギンが繰り出す風の刃の間をすり抜けるようにピンッと伸びた紙切れが飛ぶ。 ギンとナルの影に貼りつき、影を縫いつける。ちっと言う二人の舌打ちの時には、二人の動かぬ影が本体を飲み込もうと動く。 しかし、ナルが炎で影を一瞬だけ消し、逃がしてしまう。 だが、想定していたかのように、クウは細長い針を何十本と投げ、反撃をする二人の攻撃をマリアネアが光の加護魔術で防ぐ。 「さすがは、道化の暗殺者ね。いえ、魔眼の格闘家というべきかしら?」 「どっちも嫌だなぁ。」 そんな会話の間にも繰り広げられる攻防。お互い、隙を見せることなく常に攻撃と防御が繰り返される。 「ちっ。」 掠った針によって頬に紅い線が走るギン。 「・・・馬鹿。」 「悪ぃが、ちょっと視界揺れてるわ。」 致死量を超えた毒が針には塗られていた。だから、血に混ざり、血管を通して今頃身体の中を廻っているのだろう。 「まったく、やってくれるぜっ!」 「それはどうも。俺はこれが仕事だからねぇ。そもそも、あの時爆発でそのまま死んでくれてた方が俺としては良かったけどねぇ。」 「けっ。そう簡単には死なねーよ。」 両サイドから速度をあげて飛んでくる鳥の形をした風を上に飛んで避け、宙で一回転をしてすぐさまぴんっと張った紙を投げつける。 長いようで短い両者の戦闘は突如終わりを告げる事になる。 ぴくっとナルの肩が揺れ、戦意を消したのだ。 「・・・やられたようね・・・。」 「ああ。・・・まずは引き上げるか。」 闇の中に消えた二人を捕まえ損ねた三人は、こちらへ来た小さな人影に視線を向ける。 「お帰り、キール。」 「・・・ああ。」 下を向いたままのキールをクウは攫み揚げて片腕で持って二人と歩き出す。 この先にある屋敷を目指して。 何も聞かない相棒の優しさを感じながら、キールはただ黙ったままだった。 一対一の、人の命とは違う、人形のような存在の二つが争う。 「あんたみたいな、お気楽な奴なんかには、絶対邪魔させないんだからっ!」 「・・・ふざけんなよっ!俺がお気楽なら、お前みたいなやつはただの阿呆だ!」 その言葉に、だんだんと相手は感情をはっきり出すようになった。 「あんたなんかにはわかんないわ、わかんないわよ!」 「ああ、知らないね。お前だって俺の事何もしらないくせによく言うぜ!」 サッと、二人は向かい合うようにその場に立ち、睨みあう。 「じゃあ、貴方は恋をしたことがある?血は繋がらない、親の再婚相手を好きになったことあるの?」 「んなもんねーよ。」 だが、すでに本来人であった時の心理状態に戻りつつある相手に、キールは寂しさのような何かが足りないような何か悲しいものを感じた。 そして、はっと自分のかつての過ちを思いだすのだった。 「わた・・・し・・・・僕は、父さんの再婚相手だとしても、あの人のことが好きだったんだっ!」 言えずにしまいこまなければいけない思い。それが爆発したら、止まらなくなってしまう。 それは、キールもかつて経験したことだった。 そして、欠けてしまって完成しなくなったパズル。そのパズルの最後のピースを求め、『彼』も彷徨い続けているのだろう。 「そうだとしても、どうしてこの選択をしたんだっ!」 かつて自分も選択を間違えた。それ故に大切なものを失い、この身体となった。 「お前は、魔堕ちであっても、まだ人の時のままで、囚われたままじゃないか!」 そんな不安定なままでいて、選べるものも選べなくなるだろうがといえば、相手は動きを止めた。 「じゃあ、どうしたら良かったのよ・・・どうしたら、私の心は、どうしたらよかったんだよ!」 森の中で迷う者の叫びが響く。 どこで、自分達は選び間違ったのだろうか? |