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どうか神様なんて、願う事はない。 だって、何度願っても神様は何もしてくれず、結局失ってしまったのだから。 見ていることしかしない神様なんて、私はいらない。 全ての者は選んで生きていかなくてはいけないのならば、私は神様、貴方ではなく私を信じて生きて行く。 あの日と違い、今は見ているだけしかできない子どもではないのだから。 狩り人3章 選択 ミカゲが探った影の中にギンとナルのものがあり、依頼人が話していた旅芸人が来た日や、自宅を訪れた日と一致した。 ギベルドも、同日に闇が空間を歪ませ、向こう側から何かが出てきたということを伝えた。 「ギンとナルが街に来てましたか・・・。」 これではっきりした。今回の依頼主が言う魔堕ちの原因は魔王率いると言われるダルクトスという集団に間違いないだろう。ギンとナルがいたのが何よりの証拠。 あの二人は、魔王に従う暗黒四王と呼ばれる柱だ。魔王の存在があやふやではっきりしないが、柱と呼ばれる四人がいる限りは、魔堕ちへと導く計画は止まらないだろう。 ミカゲとギベルドとヤヨイの報告を一通り聞き、まとめて紙に書き留める。 「ヨルデカートぐらいなら常に探っているが、タカルタの中までは見ていられないからな。」 影でいくら大陸全土を探れたとしても、自分が知らぬ場所にある影は感じ取れないし、何より意識をしなければ、遠すぎる場所はわからないのだ。 そんなことを常にしていたら、それこそギベルドのように日頃起きていることすらできないだろう。 「ギベルドには頑張ってもらったので寝ておいてもらいましょうか。」 すでに、話し合いに参加する気力はないのか、すやすやと寝息をたてて眠っているギベルド。 マリアネアに何か上からきれる物を持って来てくださいと頼み、書類をまとめる。 「お疲れ、なんですね。」 マリアネアが上から羽織れるものを持ってきた。にょきっとバルが姿を見せる。息苦しかったらしく、ごめんなさいと謝る。そうすれば、すぐにすうっと姿を消した。 「・・・話を戻しますよ、マリアネア。」 「あ、はい。」 カチャっとペンを置き、マリアネアを見る。今まで話さずに任務で動くだけを頼んでいたが、今回からはマリアネアも内容をしっかりと話してから動いてもらうことになったから、連絡ミスは許されない。 けれども、一番最後の後始末だけはまだやらせるわけにはいかないと、そこだけは隠して話した。 今回関わっている踊り子は暗黒四王の風使いギンを慕う、かつて滅びたとされる禁忌の一族の少女が手引きをしているということ。 ヤヨイの情報の正確性は信用しているので、そこから導き出されるのは、その少女だった。 「死んだ母を蘇らせる為、村に住まう大半の者を殺し、生き血を使う禁断の魔術の一つである蘇生を行いました。それ故に、彼女の一族は禁忌の烙印を押されました。」 その村は、村にだけ咲く赤い華の『ヒガルロ』から染織と細かい刺繍で有名であり、数人が商売のため町へ売りに出ていた。 その者達が帰った時、知った事実に驚いたと同時に、禁忌の一族の烙印により、どこへ行っても相手にされず、結局商売していけなくなり、飢えて死んでいった。 その後しばらくして完全なモノではない『母親』は滅び、その後彷徨い、恨み、叫びながら少女も滅んだのだった。 それが、その村に関する情報だった。高値で売買される布地と刺繍を施された着衣などで有名であったため、一時期その話題で盛り上がった。 しかし、時が経つと共に忘れていかれた過去でもあった。 「マリアネアも一度は聞いた事があるでしょう?」 「はい。」 一歩間違えれば、自分もそうなっていたかもしれない可能性があっただけに、あの事件は忘れることが出来なかった。 「ここまでが事実として世間で言われるものです。」 そこで一度区切り、クロスは続けた。彼女は再び、さらなる禁忌を犯したのですと。 「彼女は生きています。自分自身をも蘇生させる魔術を使い、二度も同じ禁忌を犯したのです。」 すでに多くの人の血を浴びた少女は人ではないものになりかけたいた。そして、禁忌を犯して生き返った際にとうとう魔堕ちしたのだった。 「ギンと共にいたという情報がありますから間違いなく彼女はあちら側で闇の手として動いているでしょう。基本的にはギンはナルと共に行動している事が多いですがね。」 「そうなんですか。」 よく考えると、暗黒四王とは初めて聞いたし、ギンとナルと同じ階級にいる敵が他に二人いることにも驚いた。それだけ、知らない事がたくさんあることにも気付くこととなった。 「今回、きっと選ばなくてはいけないと思います。」 独り言のよう言うクロスの言葉に、どういうことだと彼の顔を見る。 「選ぶ?」 「選ばなきゃいけないことっていつものことでしょ〜?」 と、荷物を片付けてきたらしいクウが入ってきて暢気に答えた。相変わらず気配なく入ってくるクウに驚いて振り返ったマリアネアの顔を見て、けたけた笑われ、恥ずかしいと思いながらクロスの方へ視線を戻した。 何か考えているクロスのことはわからないけれど、マリアネアは選択ときいてあの日のことを思い出していた。兄の姿が消えてなくなったあの日のことを。 あの日も選択しなくてはいけなかった。兄を魔堕ちになったと、自分は殺されるか、彼等によって兄は封じられるか。 選ばず何も出来なかったからこそ、悔やんで言葉を投げつけ、またそれによって今悔やむことになった。 選択肢がたとえ一つしかないといわれても、よく見ればいくらでも選択肢は増えるし、考えなければたくさんある選択肢すら消えてなくなってしまう。そもそも、何が真実で何が正しいことで、何が嘘で何が悪いことかなんて本来は誰にもわからないもので、全ては人が作ったものでしかない。 そのことを、少し前に教会を訪れたフィルドから聞き、確かにそうだと考えてまだ日は新しい。 「とにかく、今回はクウとマリアネア、そしてミカゲの三人に踊子の討伐をしてもらいます。」 「わかりました。」 「わかった。」 「いいよ〜。」 三人それぞれ答えたのを確認し、ヤヨイに一枚の手紙を渡した。 「それを、届けてもらえませんか?」 「お安い御用ですよ、神父様。」 そろそろ時間なので帰りますねと、ヤヨイは何故か窓枠に足をかける。 「お気をつけて。」 気にすることなくクロスがそう言えば、またね〜っと窓からお帰りになるのであった。 相変わらず元気な人だねとクウは感心しながら、クロスの方を見てにやりと笑う。 「ギベルドとシアンがギンとナルの行方を追って、クロス神父が後始末って筋書きでいいわけだよね?」 「・・・そうですね。」 「状況によっては、クロス神父だけに後始末はさせないからね?」 「・・・わかってますよ。」 それが何を指すのかはまだマリアネアにはわからなかった。 「お気をつけて・・・。いってらっしゃい。」 それにマリアネアはうなずいてミカゲと共に部屋を出た。 それを確認してから、突然クウはクロスの側に寄って机を思い切り叩く。 ダンッと静かになったその部屋に響く。だが、クロスは反応することはなかった。まるでわかっていたかのようであった。 「・・・言っておくけど、勝手なことしたら怒るからね?」 「わかってますよ。」 いつものクウとは違う。少し低くなる怒りを含んだ言葉をさらりと流すクロス。 「ミカゲもわかっていて黙っているし、嬢ちゃん部屋から外へ誘導したけど、クロス神父も隠したり無茶なことしたら怒るから。」 「・・・。」 「ということで、さっさと片付けてくるな。」 道下を扉のノブに手をかけ、左手でひらひらと手を振るクウの背中に向けてクロスが言う。 「マリアネアのことはミカゲに任せて、貴方はギンとナルの企みを探って下さい。・・・誰が邪魔で誰を今は生かすのか。そして、生かす理由は何か。」 「はいは〜い。じゃね〜。」 パタンと閉じられた扉。 はぁっとクロスはため息をつく。 「まったく。鋭い友を持つと厄介ですね。」 『だが、その方がいいんだろ。お前は。・・・口にはしないのだからな。』 「そうかもね。」 クスクスと笑みを浮かべながら、椅子から立ち上がる。 その日の晩、何故か眠れなかった。 どうしても、昼間にクロスが言っていた『お気をつけて・・・。いってらっしゃい。』と言っていた時の表情が気になった。まるで、自分達にではなく彼自身がいなくなってしまうような気がして・・・。 それに、まだ知らない、足りない何か不安定な感じがしてしょうがなかった。 部屋を出て、月明かりに導かれるままに教会の外へ出た。 「何でいるんだ?」 誰もいないと思っていたそこには、すでに先客がいた。 「アヤこそ、こんなところで何をしているんです?」 「・・・別に。」 ただ、アヤはそこに立っているだけだった。何かをするわけでも、マリアネアを気遣うわけでもなく。 「アヤ。家族には会わない気ですか?いつ死ぬかもわからないこの世界で、大切な人が近くにいるのに。」 「・・・いいだろ、別に。お前はお前の心配だけしておけばいいだろ。」 寝ると言って、アヤの寝床まで飛んで行った。 姿が見えなくなり、一人だけになると静けさが怖く感じた。 ふわりと、自分が持つ浄化の力を使う時にのみ出す白い翼を広げ、教会の屋根まで飛んだ。 そして、自分の気が済むまで、夜空の星と月を眺めるのだった。 自分はどうしたいのかと、何度も心に問いかけながら。 こんな迷いや悩みばかりの状態で、明日を生き延びられるかと考えて、未来なんてわからないなぁと苦笑する。 「せめて、明日は晴れるといいですね・・・。」 雨は嫌だなと思いながら、マリアネアも部屋に戻るのだった。 その同じ頃、ある屋敷の中で、一人のメイドが電話をかけていた。 「この商品ナンバー1094のモップをお願い。」 よく利用する通販雑誌をペラペラと捲っていたヤヨイが気に入ったモップを注文する電話を言えれば、わかりましたという答えが返ってくる。 「そうそう。俺も見かけたぜ。」 これからどうなるか楽しみだと笑う相手にこちらもいろいろと変わっていきそうだと答えて通話を切った。 「そう言えば、フィルド神父の予言を彼に伝えるのを忘れてたなぁ。」 今日もうっかりしてたなと思いながら、手紙を届ける相手の名前を見る。 「・・・ご主人様。」 何があろうとも命をかけてお守りしますと呟き、懐にしまっている写真を取り出す。 「大丈夫。まだ、私は大丈夫。」 部屋の電気が消え、ヤヨイもその部屋から出た。 そんな彼等をあざ笑うかのように、夜の風に吹かれながら、口元に不敵な笑みを浮かべる人影があった。 次の日の朝、リアスがカロリュベヌス教会を訪れた。 「大変なんです、弟がっ!」 「落ち着いて下さい。・・・弟さんの命の危険が迫っているのでしょう?」 「っ、そ、そうなんです。お願いです、助けて下さい。」 魔堕ちしても、ついていけずに内から滅びるモノが後を立たない。そこからギンやナルのようになれるものは実質数を数えるぐらいしかいない。 それでもたくさんの魔堕ちがいる理由は、人を襲って化け物と成り果てるモノが多いからだ。 人としての理性や感情を持たない人形のようなモノに成り果てるモノが多い。 だからこそ、彼女は心配なのだろう。弟もそうなってしまうのではないかと。 「大丈夫ですよ。」 リアスの肩に手を添えて、落ち着けさせる。 「・・・ですから、心残りが無くなったら、安心して天へお帰り下さい。」 「えっ・・・。」 涙を零しながら下を向くリアスがはっと顔をあげてクロスの顔を見た。 「貴方は自覚しているはずですよ。もう、この世に肉体はない魂だけであることを。」 「・・・はい。」 はっきりと見え、人と同じであっても、彼女はすでにこの世にはいない人間である。だからこそ、普通人が知り得ないことも見て知っているし、『弟』が消えていなくなったにもかかわらず、どこにいるか知っているのだ。 そう、始めから彼女は知っていた。それでも、彼女は弟から姿見えないモノであると同時に触れることはできない。だから、ここへ来たのだ。 「今日中には片付けますから。・・・行き場がないのなら、このまま礼拝堂でお待ち下さい。」 そう言い、クロスは礼拝堂を出た。 「天気まで雲行きが怪しいと、気がおかしくなりそうですね・・・。」 すでに出発準備が整ったクウ達に踊子と弟がいるバッシェルド島へ向かうように指示を出す。 バッシェルド島とは大陸の南東に位置する大陸に囲まれた入り江の中にあるそれほど大きくない島である。しかし、人の気配は常にない。 理由は簡単だ。そこは人が住めるような環境が整っていないし、人が住むような場所ではないのだ。常に薄暗く霧が立ち込め、木々に囲まれた島。そのどこかにある幽霊屋敷と呼ばれる無人の屋敷があり、そこに今回彼等はいるのだ。 「ダルラ街から、バッシェルド島への船がもうすぐしたら出ます。」 お願いしますとクウ、マリアネア、ミカゲを見送った。 その後、背後に控えていた二人に声を掛ける。 「シアン、ギベルド。私と一緒にアウラの祠へ行きますよ。」 「闇の歪みを始末するんですね。」 「ええ、そうです。」 だから、お留守番は頼みましたよと、フェウスとアヤに言い、クロスが召喚した風の聖霊の魔法にのって、祠まで飛ぶのだった。
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