|
それは誰かの夢その2 また、ここかと、冷静に考えている自分は、目の前に現れた三つの影を見ても何も思わない。 どう足掻こうとも、過ぎ去ってしまった過去は決して変わらないとわかったから。 今見ている自分はまるで壁か、彼等が映像でスクリーンに映っているかのどちらか。 お互い干渉は決してできない。 兄が、母親に今日出来たことを報告して褒められている。それを自分が見ている。あの時は占いは嫌いであったが、できたら母親がいじめられずにすむのではと、必死に兄に教わっていた頃だ。 兄を尊敬していた。兄だけが、自分達を人としてみてくれたから。あの母親もそうだったが、母親がいたからこそ自分の母親が苦しむ羽目になったから、やはりそこは子ども心からか嫌いで素直になれなかった。 今思えば、もっと素直にしていれば良かったと思う。いなくなってしまうのならば。 ほら、もうすぐしたらここへ来る。狂った女が。 ほら、ここへ来た。呪いのような言葉を発して兄の母親を刺した。 あの時の自分は何もできなかった。動けなかった。次は自分も殺されるのではないかと思うほど、母親が恐ろしかった。 そこへ、伯父が現れた。剣を母親に向けて殺そうとしている。 いくら壊れてしまってもあれは母親だ。やめてと声に出せたらよかったのに。 でも、その声を兄は聞こえたのかもしれない。 『決して人を傷つけるために占いを使ってはいけないよ。』 母親が何度も言い聞かせてきたことを破った兄。 伯父を傷つけて動きを止め、ボクの母親を刺した。兄が持つ剣で。 「・・・っう・・・・・・・・ぃ・・・と・・・。」 やっと、自分が知ってる母親の顔に戻り、こちらを見て笑った。 「あ・・・が・・・と・・・う・・・。」 そして、声にはならず口の動きで最後の言葉を『聴いた』のだった。 きっと、それは兄は知らないだろう。母親の血に濡れた手で頬に触れたその感触から、動揺しているのがわかったからだ。 「お母さん!」 そう呼び、今度こそ近づいた。そして、二人の女が死に、部屋が赤い海になったのをしっかりと見た。 兄は何も言わずに部屋から去ったけれども、ボクはわかっていた。 このままでは兄と離れ離れになることも、いつか兄が責任をとって自分を殺してボクを守ろうとすることも。 数日後、兄が何も言わずに教会へ旅立つ事を知った。最後に会いに来てくれるかと期待したが、それは無駄だった。だから、自分から会いに行ったのだ。 「僕は決して貴方を許さない。だけど、母さんを最後に取り戻してくれたのは感謝している。」 兄が何を考えているかはもうわからない。だけど、素直にお礼をいう事もできない。母親を奪ったのは彼だが、彼の母親を奪ったのはボクの母。そんな母を取り戻してくれたのは兄。 「僕も数日後、教会へ行きます。必ず。始めから占いは信じてませんし、今回のことで嫌いになりましたから。」 母親が使えぬ力から招いた惨劇。自分もまたその力はない。だからこそ、ここにいる理由はまったくない。あの父親は何もしてくれないことぐらいわかっていたから。 占いは嫌いだが、兄は信じる。その気持ちは隠したまま、別の方向で今度は兄を守ろうと思いながら告げる。 「誰でも、どんなものでも治療できる治癒者になります。そして、貴方と同じ教会へ必ず行きます。」 母親を殺した貴方を決して死に逃げるようなことはさせませんとはっきり言うと、兄は苦笑していた。ほら、やはり死に逃げようとしている。それは許さない。 「それは楽しみにしているよ。」 そう言って笑った兄の顔は決して忘れないだろう。 『僕が必ず占いの道で今度こそ守る』 『僕が必ず治癒の道で今度こそ守る』 もう二度と同じことを繰り返さない為に進み続けよう。 占いの未来に囚われぬように、自分を信じて新たな未来を手に入れよう。 ++++++++++ 光を失い闇を手に 「その眼鏡はどうしたのだ?」 「最近悪くなったみたいなので。」 暗いのに気付かずに本を読み更けてるからからそうなるんだぞと、弟に忠告する。その通りだけど、なかなか直らないんだと苦笑する弟。 「で、兄さんは武術自主トレーニングの帰り?」 「いや、まだこれから続きやるつもりだ。ただ、たまにはお前も運動をと思って戻ってきたんだ。」 「だったら・・・ちょっと行こうかな。」 昔らから身体が強くない弟に両親は過保護である。兄である自分はこんなにも結構で元気であるにもかかわらず、少し走れば息を切らして呼吸困難に陥る事すらあるぐらい危ない。 しかし、弟は本が好きで大人しくしていると言っても身体を動かす事は好きだった。 だから、たまに誘って少しだけ外で遊ぶのだ。それが日課。 弟の手を引いて、家の外ではしゃいでいた時だった。母親が二人を見つけ、血相を変えて怒った。兄は悪くないのだと弟が主張するがまったく聞かない母親は、弟の手を引いて中に入ってしまった。 やはり、母親は弟ばかりで自分を見てくれない。どんなに頑張っても、何もみてくれはしない。 弟が恨めしいけれど、自分を見てくれるのが今は弟だけなのも事実。それを奪う母。 「なんなんだよ。」 見難い嫉妬心だとはわかっている。両親に甘えることを物心付く頃から出来ない自分。 もういいやと、まだ夕食まで時間があるので出かけた。林の中へ歩き、進んでいった。 いつも入っているから大丈夫だと思ってた。 だから、数日前に魔物がこの林に逃げ込み、明日、討伐に行くという計画がなされていたことは知らなかった。誰も、林に近づく者がいないから好奇心で来る子どもを避ける為に誰も言わなかったことを知らなかったのだ。 母親は知っていたからこそ、弟を家の中に引き込んだのだ。 全ては自分の軽率さと甘さが招いた結果だった。 「な、なんでっ?!」 運悪く遭遇してしまった。だから、逃げて、逃げて・・・ひたすら逃げた。家に向かって逃げた。 「兄さん?」 家が見えたと、林が切れた光の中から、現れた人影。 「逃げろっ!」 「え?」 ザザーっと嫌な音を立て、自分を追っていたものは自分を追い抜かした。目標を変えたのだろう。 真っ直ぐ弟へと向かっていく。弟は気付いても遅い。 その後のことははっきりと覚えていない。ただ、血を流して倒れる弟と魔物、血ぬれた剣を持って立つ自分がいた。 そう、かけつけた大人が言っていたのを覚えている。 「残念ですが、・・・・の目はもう、光を映さないでしょう。」 「そんなっ!」 母親が泣き崩れる。そして、自分を罵り、責める。それを弟が止める。 その日から、母親は人が変わってしまった。狂ったとでもいうべきだろうか。父に置いていかれた母は、自分達に執着していた。それが今回、こんなことになった。 今まで以上に執着が強くなった。とくに、弟には自由を与えなかった。 だから、とうとう『教会』が動いた。中央が現在この大陸の最高権力を持つ機関でもある。 二つの大国が領地を争い合っているが、それ以上の権力を持っていた。 僕ら兄弟はこうして教会に引き取られた。 光を失い、闇を手に入れ、迷子になりながらも生きる為に。 噂で母親が病気で死んだことを聞いたが、確かめてはいない。弟もまた、確かめようとはしなかった。だから、余計に確かめようとしなかったのかもしれない。 「あ、グラッサですか。珍しいですね。」 「ちょっと立ち寄っただけだ。グラバンの回収もかねてな。」 「ああ。彼ならこの奥にいますよ。」 「そうか。」 知り合いが作った眼鏡によって、左目だけがかすかにだが、ぼやけた視界が戻った。 いつか必ず光を取り戻そうと決意し、その場を立ち去った。 ++++++++++ 素敵な服を作りましょう ルンルンと鼻歌を歌いながら一定の機械音が聞こえてくる。 「今度は何作ってるんですか?」 たまたま通りかかったバルスターがご機嫌のティセマに尋ねる。それが悪かった。きっと、タイミングが悪かった。後悔しても遅い。 「ちょうど良かったわ。ちょっと、これ着てみて〜。」 と、かなりご機嫌で有無を言わさずに服を手渡して奥の部屋に押し込まれた。 そして、いったい何の服だろうかと、無駄にボリュームのあるそれを広げて見て動きが止まる。 「・・・なんですか、これは・・・。」 着る前にそぉーっと扉を開けてティセマにお伺いをたてると、見たとおりよと言って、扉をバタンと閉められた。 どうやら、着ないといけないようである。着にくいそれを必死に着て、またそぉーと扉を少しだけ開けてお伺いをたてると、出てきてと引っ張り出された。 できれば、こんな格好したくもないし見られたくなかったのだけども・・・。」 「貴方が着ると、いまいち可愛さが足りないわね。」 「・・・それはすいません。」 こんな格好さらされたあげくそんな事を言われてさすがに凹む。バルスター。ちなみに、今回ティセマが作ったのはクマの気ぐるみである。 大道芸人が着ているような着膨れた動きづらいものでないのが唯一の救いかもしれない。 彼女曰く、可愛くて動きやすいものを作るのがモットーらしい。たまに趣味がわからないときもあるけれども、これは内緒だ。 そこへ、新たな犠牲者が姿を見せた。 「すいません。以前頼んでおいたグラバン神父の白衣治し終わってます?」 「あ、あるよー。あ、そうそう。マリーちゃんにはこれを着てもらおうっと、はいっ!」 と、白衣と一緒に黄色い服を渡された。 「これは何ですか?」 とりあえず着てみてとまたあの奥の部屋へと押し込まれた。今度は何だろうとバルスターが見ていたら、あっさり彼女は出てきた。 今度はヒヨコだった。・・・たぶん、ヒヨコだろう。顔にあたるフードを被ってないからはっきりとはわからないけれど。 そこへ、さらなる犠牲者もとい、マリーを迎えに来たグラバンが姿を見せた。 「マリー、まだですかー?」 「あ、ちょうど良かった。」 ティセマにぐいっと腕をつかまれ、マリーと入れ違いに奥に服と一緒に押し込まれた。 「何なんですか?!」 「その服着てちょうだい。」 「・・・本気でいってます?」 「ええ、本気ですわ。」 着ないとグラバンの薬品だな倒しますよと脅されたら大人しくするしかない。 で、出来上がったのは鶏。 「親子の出来上がりね。」 「あの、子持ちになった覚えはありませんけど・・・。」 「いいのよ、そんな細かい事はね。」 後少しで全員分できるのよと、かなり迷惑な発言をしているティセマを無視して、マイペースに上だけがばっとかぶっただけだったらしく、グラバンはすぐに白い服を脱ぎ捨てた。 マリーが冷静にはいっとシャツを渡し、そこで着替えるグラバン。白衣に袖を通し、ポケットに手を突っ込んでふらふらっとしながらマリーに引っ張られて部屋を出て行った。 たぶん、また徹夜でもしたのだろう。ごゆっくりお休み下さいと思いながら、自分をこれを着替えて仕事に戻ろうと思ったが、逃げ遅れたのだった。 次はこれねと、ティセマに服を渡されてしまった。 まだしばらくここからは抜け出せないようだ。
|