◆隠してしまえ、目と手と心と・・・

 

 

こんな、何でも見える目など欲しくはなかった

こんな、見難いモノも見える目など欲しくはなかった

こんな、何でも触れる手など欲しくはなかった

こんな、魔を潰してしまう手など欲しくはなかった

何もいらない。ただ、普通の人間でいたかっただけ。

何もいらない。出会えた君が側にいてくれるのなら。

君は確かにここにいた。だけど、君は本当は『視えない』違う何かだった。

僕も確かにここにいた。だけど、僕は本当に『視える』範囲を間違えていた。

だから、触れることはできないモノであった。それでも、僕は君に触れることができた。

だから、錯覚していたんだ。君が僕と同じ人で、僕も同じ人だと。

だから、気付くのが全て遅れてしまったんだ。

だから、気付いたときにはもう君は側にはいなかった。

 

「うそ・・・嘘だ・・・返事しろよっ!なぁ、頼むからっ!!」

 

嘆き悲しみ、叫んだ。それでも君はもう戻らない。

時折見せる君の悲しげな顔。そんな顔をするなら、君が消えずに僕を殺せばよかったのに。

だけど、君が選んだのは君が消えることだった。

人々は囁く。世界には昨日隣で話していた人が今日は敵である魔堕ちになっているかもしれないと。

あれに狙われたらもう終わり。決して生きながらえることはできない。

それらから生きながらえることができるのなら、それはもう人ではない。

僕は嘆き悲しみ、叫んだ。僕が触れる力があったために君は戻らない。

大切な親友の君を失って、いったい僕はどうしたらいいの・・・?

 

 

数日後、姿を見せなかった少年が街に顔を出した。

「久しぶりに顔を見たわ。どうしたの?」

「ちょっと、夢中になりすぎて家に篭りっぱなしだったんだ。」

少年は本心を隠しひょうひょうと笑う。

「おや?目隠ししてどうしたんだい?」

「実は、あまりにも熱中しすぎて、光がまぶしすぎて耐えられなくなっちゃったんだ。」

「それは困ったね。また戻るんだろ?」

「それはわかんないよ。」

「そうか。・・・で、どうして袖がそんなに長いんだい?転んだら危ないだろう?」

「これはね、おまじないなんだ。両手におまじないを書き込んで人に見られずに過ごせたら願いが叶うんだ。」

「そうか。叶うといいね。」

笑顔で欺き、本心を隠す。

『目隠しはどうした?それはもちろん見えるものを見ずに、見えないものだけを視るためさ。』

『袖が長いのはどうした?それはもちろん無闇に視えないものに触れないようにするためさ。』

少年は今日も明るく口元だけ笑って街に出る。街の誰も知らない親友のことを決して忘れないように、だけど表に出さないように。

「・・・お前は泣いてるより笑ってる顔の方がいいって言うだろうからな。」

僕の笑顔を好きだと言った君にまた会えるように。笑顔のままで生き続けようではないか。

 

 

++++++++++

 

◆ずっと友達だよ

 

 

親の顔など覚えていない。なぜなら、物心つく時から自分は教会にいて、教会の神父とシスターの手によって育てられたからだ。

だが、名前は顔も知らない親から貰っていたらしい。でも、その名前に該当する者はいなかった。だから、自分には親がいないも同然であった。

物心ついたころから、同じ教会内にいる『友人』とやらと遊ぶよりも本を読む事の方が多かった。

そして、たまたま見つけた本。それは、本来ここにはない『本』であり、その中に描かれていたものを召喚してしまった。

それが、自分にとっての友達となった。

毎日、本を読みながら、姿を見せる人ではない精霊というモノと話しているうちに、魔人の存在を知った。何でも、自分には常にその魔人の加護を受けているらしい。

「何故姿を見せないの?」

『きっと、姿を現せられないのよ。』

精霊はそう答え、一冊の本を開いた。そこには魔人と名前と説明が書かれていた。

『その魔人はとても孤独な日々を過ごしている。』

『どうして貴方に加護があるのかわからないけれど・・・。』

『あれは、生命そのものを操ることができる魔人。生かすことも死を呼ぶ事もできる魔人で、ある時、禁忌を犯して世界の外れと言われる最端の島・・・別名終焉の地と言われるその中央に高く建つ塔に閉じ込められてるの。』

精霊たちが次々と説明してくれるのを聞きながら、考えていた。

あの場所から出られないとしても、姿を見る方法はあるはずじゃないかと。

そこで、ふと思い出した。そもそも、自分はこの本から精霊の名前を呼んでここに召喚したではないかと。

もしかしたら魔人も同じなのかもしれない。そう考え、魔人の名前を呼んだ。

「ベルドリト」

その瞬間、ジャラっという鈍い鉄の音が響くと同時に、ふわりと風が吹きぬけ、すうっと鎖で繋がれた二つの腕が現れた。

「ベルドリト?」

『ああ。そうだ。』

「はじめまして。」

にっこり笑顔を見せると、表情はわからないけれど、照れているような気がした。

『それにしても、お主はすごいな。・・・精霊や私までも、名を呼ぶだけで呼び出すことができるとはな。』

「でも、ベルドリトは腕だけじゃない。」

自分には向いてないよと苦笑しながら言うと、とんでもないと魔人は答えた。

『私が声を伝えることが出来るほど、しっかり召喚できたのはお主がはじめてだ。』

その言葉にさすがに驚いた。

『まぁ、そんな話はどうでもよい。お主、我を呼び出したということは知っているのであろう?その上で我と契約交わすか否か。』

「契約?そんな堅苦しいのは別にいいよ。僕は友達になってほしいだけだから。」

『ふむ・・・ならば、我が勝手に契約をしよう。・・・いや、約束をしよう。』

友達として、必ずお主を守ろう。そう言って腕はすうっと消え、声も聞こえなくなった。

「あれ?」

どこにいったんだろうと思えば、精霊達も姿を消していた。

そして、意識が遠のいていくのを冷静に感じていた。

成る程と納得する。自分の意識が途切れるから、一時的に彼等は強制的に切断されたテレビのように消えたのだ。

バタン――――

必要以上に疲れきった体は休息を求めていた。だから、意思に関係なく眠りについてしまったのだ。

 

 

 

「ベル。やはり、こんな教会じゃ駄目だ。」

『お主が思うなら、我はそれに従う。』

「ありがと。『外』へ出るよ。養父には悪いけどね。」

考えが本のままで、現実を見ない老師達。このままでは、いつかきっと世界は人ではないもので溢れかえり、人は住めなくなる。

「ちゃんと、友達を探すよ。友達というより、仲間かな。」

一緒に立ち向かえる力を持つ仲間を。

立ち上がり、ずっと大切にしてきた本を開いた。そして、そこに描かれた精霊の名を呼び、そのまま姿を消した。

 

 

++++++++++

 

◆契約

 

目が覚めたら・・・独りぼっちだった。

家族が誰なのか、自分が誰なのか。ここがいったいどこなのか。

まったくわからなかった。

『おや、人の子が紛れ込んでるよ。』

『本当だ。人の子だ。おかしいの・・・穴はどれも開いておらぬはずじゃが?』

目の前に現れた、ゆらゆらと揺れる紅い炎と蒼い炎。

それが次第に輪郭を持ち始め、大きな鳥と大きな竜が姿を見せた。

だが、子どもは驚くこともなく、ただぼんやりと見上げていた。

これはまた可笑しな子どもだと二匹は笑った。

『まぁよいわ。お前は何を望むかや?』

「望む?」

『何じゃ?何も望みを持たずここへ来たというのかや?』

「・・・わかんない。」

『・・・わからんじゃと?』

二匹は何事かと、そういえばまだ名前を聞いておらなんだと聞く。しかし、子どもは首を横にふっただけだった。

「わかんない。僕って誰?」

二匹は顔を見合わせて笑った。これは傑作だと。そして、子どもに言った。

名前は聞いてなかったが、外を見ていた自分達は知っている。ただ、確認の為に名を尋ねたつもりが、こちらから教えないといけないとはと、けたけたと笑う。

『お主はギベルド。そう外で呼ばれておったわ。』

「ギベルド?」

『覚えておらんのなら無理に思い出さんでもええわ。』

『じっくり考えたらええ。お主は願いがあったからこそ、ここへ来たのじゃからな。』

子どもはその日からずっとそこでひたすら考えた。それでも思い出せない。そして諦めかけていた時だった。

うとうとと眠った際に見た夢。それが答えのヒントを教えてくれた。

「・・・少しだけ思い出したよ。」

『ほぅ・・・それで願いは決まったのかや?』

子どもはうなずいて一言言った。「契約して」と。

『人の身で我と契約するというのか・・・その対価、何を払うかや?』

「右目じゃ駄目?もうすぐ見えなくなるけど、綺麗だって・・・・・・が言ってくれたの。」

『くくく・・・面白いことを言う子どもよの。』

契約の理由と内容を聞き、興味を覚えた二匹。普段なら、聞くかと無視していたけれど、この子どもはとても面白かった。

『人とは脆いの。あまりにも愚かで・・・』

契約は自分のためではなく人のため。今までそんな奴等はたくさんいたが、この子どもだけは少し違っていた。だから興味を覚えたのかもしれない。

『それでもお前は人の為に主は我と契約を?』

「うん。どうしても、助けたいの。」

『そうか・・・。では契約を交わそうかの・・・両手を前へ出すがいい。』

言われるままに出すと、電気のような痺れや火のような熱さが身体を伝っていく。とても痛くて苦しい。そして、右目が焼けるように熱く、痛く、膝をついた。

しばらくすると、二匹は自分の側にいた。左肩に契約の刻印が現れ、右目はもう『見えなく』なっていた。

その日から、子どもが一人街から消えた。子どもの大切な友達の心臓が通常に動き始め、鼓動を鳴らし、命を繋いでいく。

『ここにいたかったのじゃないのかや?』

「でも、僕はもう『人』には戻れないでしょ?」

『まぁ、そうじゃな・・・。人であるが『人』であらずじゃからな。』

『どこへ行く気だがや?』

「どこか遠くへ。」

大切な大切なあの友達が追いつけないような遠い場所ならどこへでも。

 





あとがき
今回は3作とも誰かさんの過去です。(バレバレだし名前出てるけどあえて伏せてみる)
◆隠してしまえ、目と手と心と・・・
今度ちゃんと書きたいと思っているのですが、目と手を隠すお気楽愉快犯の過去一部です。
最初は人とそうでないものの区別をわかっていなかったのです。
だから、見えるものは全て『人』が見えるものを思っていたけれど、はじめて気付いたって感じです。
目だけならまだ良かったけれど、手はそれを壊す力を持っていた。
だから、『友達』を壊してしまったので隠してしまったというお話。
◆ずっと友達だよ
友達を作ろうとしない子どもの友達は本の世界の住人・・・もとい人が忘れてしまった聖霊達。
そして、持っていた魔人の加護の存在を知り、召喚してしまうすごい人です。
頑丈な結界で封じられてるので声と両腕が限界だったのですが。
そんでもって、しばらくして家出する、結構無茶な性格してます。この子。