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◆後悔するあの日の言葉 「いやっ、やめてっ!!」 少女の叫びは虚しく、兄が最後に何かを伝えようとしていたそれも聞こえず、姿を消した。 零れ落ちる涙。がくんとひざをつく。 「どうして・・・どうしてなのよ。」 兄は何も悪くない。悪い事など何もしていない。なのに何故?何故、消されなければいけないのか。 少女には理解ができなかった。 そして、兄を『消した原因』を振り返って睨み付けた。 憎い敵を見るように、そして言った。 「この、人殺しっ!」 まだ何もわかっていなかい幼い心が嘆き悲しみ、あたるしかなかった。
「・・・っ・・・夢・・・。」 何度も見る、あの日の夢。悪夢という名の、忘れたいけれど忘れたくない夢。 「また・・・か・・・。昨日あったからだね・・・。」 昨日の仕事。自分と同じように、幼い少女は兄を失い、クロスとクウに言葉という刃を向けた。 ふわ〜っとマリアネアの側へ翼が生えた球体が近づいてきた。それを手に取り、話しかける。 いつも、答えは返ってこないけれど、理解はしてくれている気がするから。 「必ず、戻すから。そうしたら、戻ってくるよね、お兄ちゃん。」 もう、姿も顔もはっきり覚えていない。ぼんやりとした輪郭だけ。 「本当、私は馬鹿だよね。」 誰も責めなかった故に、後悔という思いがいつまでも残る。 どうやっても取り消せない言葉。もし、責めてくれれば、何か違ったかもしれない。 それでも、クロス達は一度も責める事はなかった。 だからこそ、余計に反発した事もあった。 「もう、守るモノは何もないんだから・・・。」 そう言い聞かせ、自分を保ってきた。そのはずだった。 「大切なモノ、守りたいモノ。いくらでも増えていくなんてね。」 反則だと思う。 あの日の言葉はどう足掻いても取り消す事はできない。 あれだけ憎んでいた、あたっていたのに。受け入れてくれた彼等をいつの間にか大切なモノにしてしまっていた自分。 「・・・ごめんなさい。本当に、ごめ・・・なさい・・・。」 素直に言えなかったあの時の自分、この言葉。 今は言えても、今はこの言葉は似合わない。わかっているから言わない。けれど、やはり謝りたかった。 そして今日も、あの日を謝る言葉は出ないまま終わる。 代わりに、今日もありがとうという言葉を紡ぐ。 ++++++++++ ◆メイドは今日も来る 「こんにちはぁ〜。」 昨日問題ごとを持ってきたメイドこと、ヤヨイが今日も姿を見せた。 「昨日中に解決してくれてありがとう。助かったわ。」 すぐに応接室へ通されたヤヨイはクロスが入れた紅茶を一口飲んでから、お礼の言葉を述べた。 「いえいえ。それが私達の仕事ですから。」 クウの怪我の事は伏せておくつもりらしく、一切出さない。それ故に、ヤヨイは知らない。 「で、これは主人からお礼の品として・・・どうぞ〜。」 差し出されたのは焼きお菓子の詰め合わせと紅茶の茶葉。 「別にお礼はよかったのに・・・。」 「主人の内に関わる問題ですから。これぐらいはね。」 「そうですか。では頂いておきますよ。」 受け取り、マリアネアに棚にしまっておくように頼んだ。 一応これが、彼女の屋敷の情報を外へ出さないという契約のようなもので、いつもの事ながら賄賂みたいだなと思うマリアネアだった。 「で、本当の用件は何ですか?」 いつもは聞かない話の続き。 「さすが神父様。話が早い。」 と、ヤヨイの表情も変わった。 「はい、これ。」 数枚の紙をクリップで留めて束ねられたモノをクロスに手渡すヤヨイ。 「じゃあ、確かに渡したからね。」 そろそろ屋敷へ戻らないといけないと、ヤヨイは席を立って教会をあとにした。 「神父様、それは何なんですか?」 「あぁ、これですか。周辺の勢力図と、ちょっとした情報ですよ。」 そういつもの害がないような笑顔を見せられたが、何かあるとすぐにわかる。 なので、ちらっと紙を見たが、すぐに見ていないことにするマリアネアだった。 「ヤヨイさんって何者なんだろう?」 あの後、クウにとりんごを剥いて届けた時に呟いた言葉。 「ヤヨイ殿?裏情報屋だよ。結構正確にいろいろ持ってて助かるんだよね。」 「・・・。」 やはり聞かなかった事にした方がいいのかもしれない。 ++++++++++ ◆神父に語る シアンがクロスの部屋を出てから数分後のこと。 バンッ ノックもなく突然開く扉。しかし、それも予想済みだったのか、クロスは慌てることもなく、待ってましたという相変わらずの笑みのままだった。 「連日ニュースで騒がしかった連続殺人犯。シアンが捕まえる・・・倒すというので良かったんだろ。」 「はい。気付いてくれて、行動を起こしてくれて、私はとても感謝してるんですよ。」 「・・・何かむかつくな。」 「素直な感想をありがとうございます。」 「・・・やっぱりむかつく。」 「ですから、それでいいんですよ。私は恨まれ役でね。」 フェウスは何か言おうとして口を閉ざし、何かを考えているのか尾をぱたぱたと動かしていた。 「フェウスも、シアンの事を気にしていたからこそ、私の考えにのって下さったのでしょう?」 「・・・そうだな。全て神父の思い通りに動かされてるのは気に喰わないけどな。」 「私も、誰かに動かされるのは嫌なので、それが正しい感情でしょうね。」 やはり、口では勝てないと思うフェウスだった。 だからこそ、本心をうまく隠して悟らせないところが嫌な男だとつくづく思う。 「もし、神が全てを操って運命すらも逃れられないとあざ笑ってたらどうするつもりだ?」 「それなら、その神を消しますよ。そんなもの、神ではありませんから。」 神父らしからぬ答え。だけど、これがクロスだと思えるのでその意見には賛成だった。 「もしそうだったら、俺も協力するぜ。そんな世界はお断りだしな。」 「それは頼もしいですね。」 飲み干して空になったカップ。中身が空になれば先程まで映っていた自分はない。 迷って考えていた自分の姿も消えた。 「じゃあなっ!マリアネアにも呼ばれてるから行ってくる。」 「はい。」 去って行った後、魔人が問う。 『いいのか?』 「何がですか?」 『・・・別に。』 「神が逃れられぬ運命に縛ってあざ笑っているということですか?」 『・・・。』 「大丈夫ですよ。彼もまた、その縛られた運命から逃れ外へ出たモノですから。」 どう転がるかは、もう神の手の届く範囲にあらず。 「彼等は大丈夫ですよ。強いですから。心がね。」 『・・・そうか。』 それ以上は魔人は何も言わなかった。 「今日もいい天気でしたね。」 そう言えばいつもの窓にミカゲがいなかったなと思いながら、紅茶を飲みほした。 |