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◆おいしい食事 ことことこと・・・ よい香を漂わせる鍋の蓋が中の蒸気によって動いて音を立てる。 「〜♪」 その音に紛れ、微妙に音が外れた音楽が聞こえてくる。否、そこにいる者の鼻歌だった。 中の空気はその鼻歌とともに、おいしそうな香を周囲に漂わせ、外に流れていった。 「おう、今日はシチューだな。」 「そうだよ。今日は寒いからね。」 側に教会にはある意味あるのだろうけれど似あわないドクロがカチカチと歯を鳴らせて口を聞いた。 普通の人なら驚くだろうが、これはクロと言い、立派なこの教会の住人だった。 だから、ここにいる二人は驚くことなどしないし、そもそもクロはシアンの大事な友人なのだ。 調理しているシチューをオタマで混ぜ、味を確認して再び蓋をした。クロにドレッシング出してと頼み、シアンは側に並べた皿に千切った葉野菜と切った野菜を綺麗に盛りつけた。 そんな変な組み合わせでありながら、なごやかに調理が進められていた。そこへ第三者が現れた。 「今日は何だー!」 ![]() シアンとは正反対に大きく活気のある声が聞こえ、その人物が中に入ってきた。両腕には薪を持っていることから、調理で使う用にと持ってきてくれたのだろう。 「シチューか。」 「そうだよ。今日は寒いから鍋物がいいなと思って。」 「そうだな。」 耳はぴょんと立ち上がり、ふさふさの尾が待ち遠しいのかうれしいのか、ゆらゆらと揺れている。 シアンはわかっていてもまだ成れず、また顔を下に向けたり顔を背けたりしてしまった。しかも、最後の方はぼそぼそと声も小さくなった。 これが嫌われる原因であり、黒いマントのようなものを羽織っている故、死神と呼ばれ忌み嫌われてきた。 実際、死人の声を聞いたり見た光景を見れる事から死神に違いないと自分でも思ってしまうぐらい。 だから、気をつけようと思うのに、どうしてもやってしまう。 「お前は本当何でも料理はうまいよな。」 だけど、目の前の彼は目線をはずしてもそうやって笑顔を向けて言ってくれる。 この教会の住人全員がそうで、彼もまたそうやって自分の料理を素直においしいと言ってくれる。 そんな些細な事だが、シアンにはとてもうれしい言葉だった。 「げっ、もうこんな時間だ。」 今日も夕食楽しみにしてるからなと、またなと手を振ってフェウスは嵐のように去っていった。 ここは本当に、あの町とは違って、自分を見てくれる人がいる。 「良かったな。」 クロはシアンを見上げて話しかける。シアンはただうなずいて、笑った。 後少し手を加え、すでに用意しておいたデザートを皿にとりわけ、台に乗せて食堂へと向かった。 シアンなりのお礼として、気付いてもらえていないだろうが、フェウスの食事の量は少し増やしていた。 ふふっと、クロスはたまに目が合うと笑うのでたぶんばれているだろうが・・・。 フェウスは結構よく食べるので、もしかしたらあれぐらいが普通で丁度いいのかもと思いながら今日も量を増やして満足するシアンなのだった。 ++++++++++ ◆教会での懺悔 静まり返る教会の中で響く声。 「どうか我等に神のご加護をお与え下さい。今日も無事一日が終わりますように・・・」 神に祈る少女。まさに神に使えるシスターの姿だった。 カタッ 静かな教会内に響いた小さな音。 「祈りは終わりました。・・・さぁ、行きましょう」 少女は先程の音で誰か来たのを感じ、またそれが誰であるのかわかっていた。 立ち上がり振り返って相手の目は隠されて見えない為、見えているであろうその先を見据え視線を向ける。先程祈りを捧げていた時のような危うさは一切見せなかった。 「まだ声もかけてなかったのにぃ。」 陽気な口調で何でわかったのさと不満の色を見せる声が聞こえる。 「わかっちゃうなんて、そろそろ俺も役立たずになっちゃうかなぁ?」 冗談交じりで青年はそういいながら、口元は笑っていた。きっと、目も見えていたら笑っていただろう。不敵な笑みという奴で。 「いえ、そんなことありませんよ。」 視界は隠されていながらも、全て「見えている」であろうクウの「目」を見ないように顔を逸らす。 「私は教会の皆さんとそれ以外の方という違いしかわかりませんから。」 だから、何度も思い出して悔やんでしまう。 「私はクウさんのように、「生きているものの気配」しかわからないのですから。」 何度、あの日を後悔しただろう。どうして気付けなかったのだろう。人ではない、人の「生命」ではないものが近づいたことに。 「貴方が日常として『見える』というその『世界』がうらやましいとは思いません。それもまた辛く悲しいものすら映してしまうとわかりましたから。」 そう、何度その「目」が欲しいと願っただろう。そして、一度クウやシアンを通して「見えた」ものはとても辛く悲しく楽しい光景ではなく、「見る」という行為がそして世界にはあってはいけない「間違い」なのかもしれないとも思った。 「でも、縋りたくなるんです。命なきものが見えるのならばっ・・・。」 もし、クウがいなければ、きっとまた泣いていただろう。 だけど、「人」がいるから涙は隠し、言葉を続けようとした。それを、駄目だよとクウは止めた。 ふうっと少し呆れたようなちょっと困ったような微妙な表情でマリアネアを「見た」。 「そんなに自分を責めるような事は言っちゃいけないよ?それに、俺も言い方が悪かったしさ。」 「・・・そんなことは、ありませんよ。」 「ほらほら、またそう言う。言葉の『音』とマリアネアの持つ『空気』がすでにそうなってる。」 そんな事をしていたら、人生楽しくないものになっちゃうでしょと言いながら、にやりと笑みを見せた。 「出会った日やあの日の言った事をまだ後悔してるんでしょ?」 「・・・。」 「やっぱりねぇ。まったく、しょうがない子だね。やはり、今日の仕事内容のせい?」 「そんな事はありません・・・。」 今回の仕事は人ではないモノとなった「兄」から妹を守ること。どうしても、マリアネアには自分とかぶるのだろう。 「そもそも、お互い様さ。あの時はこちらだってしょうがなかった。マリアネアだって、言わずにはいられなかった。」 「でもっ・・・。」 「今やるべきことがあるんだから、今自分が出来る事をしたらいいんだよ。出来ない事は無理にしてやる必要はないし、感情を表に出す事は大事なことだよ?それに、あまり気にされたらこっちも困っちゃうよ。」 わかった?と聞いてくるクウに小さくうなずいた。 「それに、見えなくても別のことで、すでにマリアネアは相手の苦しみを知れるだろ?・・・それも大事なことだよ?見えなくても見える限られた中で動くのもね。」 そろそろ、時間だ。 「さて、行きますか?」 こちらへ足を進めるマリアネアに問いかける。もちろん、いつもと同じあの笑みで迎える。 それにマリアネアも笑顔を見せた。 「本日も頼りにしてますよ、魔女殿?」 どうせ、いつ終わりが来るかもわからない世界の中で、悪あがきがいつまで続くのかさえ、わからない。 立ち止まってばかりいても、何もならない。ならば、出来る事から片付けて前へ進めばいい。 そう、以前クロスからマリアネアは聞いた。そして・・・。 「あ、そうそう。見えなくても側には必ず希望があるってこと。一番わかってるでしょ?」 マリアネアの周囲に浮かぶ翼の生えた球体を指さすクウ。 「・・・はいっ。こちらこそお願いします。」 「いつもそれだねぇ〜。」 「そうでしたか?」 えっと、どう返事を返せばとおろおろしていると、クウがけたけたと笑った。 「さて、クロス待たせると魔人殿がうるさいから行きますか。」 教会の外へ出れば、空がとても青く、手を伸ばしても遠かった。 だけどいつか、この空とは違い、兄に手が届けばいいなと思った。いや、必ず手を届かせて攫んで、二度と離さないと誓った。 兄の姿は見えなくなったが、こうして「側に」いる。 今は言葉を交わせなくとも、いつか元に戻れる日が来る事を信じている。 この教会には、仲間がいるのだから。 あの幼い時の自分とは違い、今は決して一人ではない。
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