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見えないままでよかったのかもしれないとりおは思った。 そしてはっと天狗のことを思い出した。 目を見えるようにしてくれた天狗なら兄の目もどうにかしてくれるかもしれない。 りおは山に向かって走り出した。 気付いた兄はめいの名を呼んだ。しかし、りおは止まらない。 山に入り、りおは天狗の名を呼んだ。 「神無月ー、天狗の神無月ー。」 何度か呼ぶとあの祠に着き、天狗が姿を見せた。 |
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「どうしたんじゃ?」 「お兄ちゃんが!」 「りおの兄か・・・。で、お前はどうしたいんじゃ?」 「お兄ちゃんの目を戻して。私は見えなくていいから。」 少し考えて、天狗は本当にいいのかと聞いた。 りおはそれに頷いた。 天狗はりおの目蓋に軽く手に触れ離した。 すると、右目はまた闇の世界に戻ったのだった。 |
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その時、村で診察を受けていた兄の右目が見えるようになり、両親は大喜びした。 しかし、兄は喜べなかった。 |
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「それで・・・これからどうするつもりなんじゃ?」 「帰れない。私、いらない子。」 「そうか。」 困ったのうと言いながら天狗はここにいるかと聞く。 りおはぱあっと笑顔を見せて喜んで頷いた。 「なら、お前・・・いや、りおの寝床をつくらねばいかんな。」 「ありがとう。」 天狗はりおを肩に担ぎ、奥へと姿を消した。 その頃村では両親も村人も兄が見えるようになり喜んだ。 誰もりおのことは気にかける様子も無かった。 |
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今日は大事をとって休もうという両親は兄に言った。 「りおはどこへ行った?」 そこではたといない事に気付く両親。 「後で探しましょう。それにあの子なら大丈夫よ。」 「そうそう。あの子は神隠しから帰った子なんじゃから。」 そんな両親の言い方に兄は怒った。 「父さんも母さんもりおが生まれて一度も僕や二人の顔を見る事もできない不安と闇の中にいたのにどうして素直に見えるようになったと喜ばないんだ!!」 その言葉に両親は何も言い返せない。 「僕は一度でもいいから、僕達が見えるようにと天狗に願った!きっと、天狗はそれを叶えてくれたんだ。」 だから、あれは自分の願いの代償だったはず。 しかし、今はもう見えるし、りおはいない。 「りおもきっと、僕の目のことを願った。きっともう暗闇の世界に戻っただろう。」 その言葉が静かに響き、誰一人として言葉を発しなかった。 兄は今、両親や村人よりもりおのことが心配だった。 |
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その日を堺にりおは帰ってこなかった。 さすがの両親もりおを連れて行かれたと思わざるえない。 その日から兄は毎日山の麓へ行き、天狗に話しかける。 今日も兄はやって着ました。 「りおを返して下さい。お願いします。」 毎日こんな兄の姿を見て、申し訳なさそうに村人達は離れていく。 今日も兄はやって来ました。 「りお・・・。もう一度会いたい。」 願ってもりおは帰ってこない。でも、本当は毎日りおはそばにいたのでした。 しかし、『目』を取り戻した兄には『見る事が出来ない』のでした。 りおを煙たがる両親や村人達にも決して見る事は出来ませんでした。 今日も寂しそうな背を見送り、りおは天狗を見ました。 「無理じゃ・・・。見えんよ。・・・ただ、そのリボンは・・・。」 天狗がりおの髪につけられた赤いリボンを指しました。 |
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次の日、兄は赤いリボンを見つけ、それを手に取りました。 「ごめんよ、りお。」 ちゃんとここにいるんだね。でももう僕は見えないんだね。 リボンを握り、兄は涙を流しました。 |
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さすがに一斉に言われても聞き取れません。だから、一人ずつ名前を指名して子ども達の声に耳を傾けるのだった。 「この子は天狗と一緒で幸せになれたの?」 「どうだろうね。でも、幸せであると同時に不幸せも持っていたかもしれないね。」 「お兄さんとはもう会えないの?」 「この子とこの兄次第だよ。見えないと人が思っているだけで、何時も側にいるのだから。『見える』ことがわかれば会えるだろうね。」 子ども達の純粋な言葉に一つ一つ言葉を返すネファンス。次第に親達に呼ばれて散っていく子ども達の背を見送り、彼女は空を見上げた。 「お前達はどう思う?」 「側にいつもいるとわかっているなら・・・また会えると信じて先に進みます。」 「難しいことはわかんねぇけど、こいつだってこの子どもと同じ側に行ければ会えるんじゃねーの?」 「そうか。お前達もある意味この子どもと境遇は似ているからの。」 魔堕ちし、身体を失ったが、常に側に兄がいるということで、いつかまた会えると信じる少女と獣交じりであるために迫害を受けながらも、人と同じように歩もうとする少年。 「そろそろ戻らなくてよいのか?」 「あ、そうですね。そろそろ戻らないとリアンが夕食の材料がなくて困るわね。」 「そうだよな。夕食ないと俺も困る!」 「フェウスは本当に食べることが好きよね。」 「いいだろ、別にー。」 森を抜けた先に自分達の帰る家がある。だから途中まで一緒にと通りを歩いた。
赤いりんごを一つネファンスに渡し、森の中を進んでいく二人を見送る。 「望みどおりにはいかないのが歯がゆいの・・・なぁ、リシェルタよ。」 出会った頃はまだ見かけは立派な女であったが、中身はまだまだ子どもだったこの森のどこかにある泉の主を思い浮かべる。 「お前も、はやく会えるとよいな。慕う天狗と大事な兄に。」 ネファンスは目を閉じて、昨日のように思い出すあの子どもの語った物語を聞く。 突然降りかかる大きな物語の動き。耐えられない者はどんどん堕ちていく。 それでも物語はどこまでも続いていく。登場人物が行動する度に、進んでいくものである。 子どもは人ではないものとなり、死なぬ身体となりえた後、天狗と共に山で暮らし、大事な兄を思い続けた。 兄が堕ちるその時も、ずっと側にいて助けられぬ自分に腹を立てながら長い時間の中で生き続けて言った。 兄と再会した際に、子どもは自分の恩人の天狗も大事な守りたかった兄をも失った。 それでも物語は終わらない。物語の登場人物が死ぬまで終わりはない。 もしかしたら、人物が死んでもさらなる人物によって終わりはないのかもしれないけれど。 いったい誰が、こんな物語を書き始めたのだろうか。
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