しばらく歩いた後、すぐに行方知れずだった第二部隊と別れた半数を見つけることが出来た。

怪我人がいないというわけではないが、薬は足りそうだった。

「こんなところまで何しに来た、治癒者を語る死神め。」

ちらりと横目で見て第二部隊隊長のガラドを無視して怪我人の手当てを進める。

シェンルーは大分体力消耗していた危険だったが、治癒で少し精力を与えてやれば動ける程に回復した。本当に、治癒といった綺麗な力は吸収率がよく、循環もいいなと感心する。

今はマリーと共に怪我人の手当てをしている。

「聞いているのか?お前はいつも思っていたがあまりにも・・・。」

「口を慎むように、ガラドよ。」

「しかしっ!・・・わかりました、グラッサ総司令。」

討伐部隊で一番偉いグラッサに刃向かうような馬鹿はしないようだ。一応規律は守るということはわかっているんですねと嫌味を心の中で言いながらグラバンは怪我人の治療を続けた。

「貴方で最後ですね。」

素早く簡単な手当てを施し、薬品や器具を鞄にしまい込んで立ち上がった。

「どちらへ行かれるつもりで?」

「ちゃんと『教会』へ帰りますよ。・・・ただの、『墓参り』です。」

両手を白衣のポケットに入れたまま、森の奥へとグラバンは歩いて行った。マリーは追いかけようとして名を呼ぼうとしたが、呼ばれることを拒否していることがわかったので呼べなかった。

そんなマリーの沈んだ背中を見て、独り言をいうグラッサ。

「相手が望まなくても、何か取り返しの付かない事になる前におせっかいだとしても、止める事はできる。」

「・・・はい。ありがとうございます。」

マリーは飛竜からおりてグラバンが歩いて行った方向へと走った。

「いいんですか?」

「大丈夫だろう。ここには何もないからな。」

何より、あの性格で人が傷つくのを恐れる矛盾した面を持つ男だ。黙っていないだろう。

「我等は立て直して撤退準備及び対象の捕獲に入る。ガラド、お前は外の者と連絡を取れ。」

「了解しました。動ける者は動けんぬ者をサポートしろっ!」

「御意。」

グラバンとマリーが進んだ道を睨むようにしばらく見た後、ガラドは動き出した。

「ガラド・・・・今なら疑問に答えられる範囲で何でも答えるぞ。」

「っ?何が、でしょう?」

「今の貴方は迷いだらけでこの後の任務に支障をきたしそうだからな。今ならば教会に戻るまでの時間もある。」

「・・・。」

しばらく考えて、ガラドは口にした。気に入らない治癒者について。

「あの男は、いったい『何者』なんですか?」

「どこまでなら知ってるのだ?」

「フィルド神父様の弟だということなら。」

「ならば、わかっているだろう。彼も占い師の一族・・・禁忌を犯したフォルチェシー一族の末裔だということを。」

「っ?!しかし、あの男は!」

確かに弟だと聞いている。だが、弟であるなら何故占いの中にいないのか。何より、あの男は占いを信じないばかりか、フィルドの弟であることすら疑わしい人間だ。

「彼とフィルドは母親違いの義兄弟です。」

「それはまさか?!じゃあっ・・・!」

「フィルドの母親は力があり、グラバンの母親には力はまったくなかった。つまり、一族の落ちこぼれ扱いで、母親を見る一族の冷たい目を知っている彼は占いそのものが嫌いになる程酷い有様だったようだ。」

軍人としても、才能がなければ埋もれて行く。何より、犠牲となって死ぬ事が多い職である。占い師も特殊であるが、上に立つ者程権力を持ち、下になれば動けなくなる。

「ある日、事件が起きのだ。内容は彼等の問題だからはっきりとは私からは言えぬが、彼等の母親が二人ともそれがきっかけで死んだ。」

「何故です?」

「それは言えないと言っただろう。私の口から言うことではないからだ。・・・そして、フィルドは占い師の一族の外へ出た。グラバンも占いではなく医学という道で外にでた。どちらも、大切なものを守るためだ。」

「・・・。」

出会った当初、フィルドも今ほど穏やかな笑顔を見せる青年ではなかった。あれは何かに取り付かれ、それに向かう亡者のようだった。

グラバンも追いかけるようにやってきたが、お互いがお互いを恨み、憎み、疎ましく思っていると『思い込んでいる』のだ。しかし、実際はあの状況下でお互い唯一信用できるモノがお互いであった。たとえ、あのことがあったとしてもだ。

だからこそ、彼等はお互い最後の家族を守りたいのだ。父親は決して何もしてくれないからだ。

「彼等の父親は占いで導かれる未来こそが全てで、あの日あのことが起こる事も分かっていたにもかかわらず、いくらでも止める事が出来たにもかかわらず、何もしなかったからこそ、あの二人は父親という存在は消えたのだ。」

「その父親は今・・・。」

「今も生きている。・・・この森の先にな。」

「え?」

グラバンが消えたその先をつい見る。

決して、一族以外を寄せ付けない隔離されたフォルチェシー一族。

元はと言えば、一族の元となったフォルチェシーという人物が親友の人間に裏切られ、人間不信になったことが原因で、引き篭もったという言い伝えがある。

それで何故禁忌の一族となったかははっきりしていないけれども、引きこもった彼を見つけることは不可能に近かった。

だからこそ、中から出た占い師にしか会うことは出来ず、決して一族が住まう屋敷へたどり着けるものはいないという。

彼等がもつ、不思議な力の結界によって遮られて戻されるのだ。今回のように。

ふと、今回のようにということで疑問が浮かんだ。

「今回の件は、ヴァルサガーノだけが原因ではないのですか?」

「少しは考えるようになったようだな、ガラドよ。」

「・・・。」

昔は考えなしに突っ走って、無茶ばかりしていたため、その頃をしるグラッサに言われるとどこかに隠れたい思いだった。

「その通りだ。今回は密漁によって命を落としたヴァルサガーノだけではない。それがわかったからこそ、グラバンが一人離れたのだ。」

「ならばっ!」

「邪魔は駄目だ。・・・いや、邪魔をすれば我等は間違いなくグラバンに殺される。」

「っ?何故ですか?」

「何故彼が人でありながら『悪魔』だと呼ばれるか、考えたことないか?」

「・・・教会の者でありながら、非常なその性格で仲間を持たず常に一人で、同業者を助けず見捨てる。挙句、わざと痛みの伴う治療を施したり、重症人を追い返す仕打ちをしたからだとか。」

確かに、事実であるから否定はしないが、とグラッサはそこで止める。

そして、今の話しに言葉を足してガラドにそっくり言い返した。

『最年少で治療部隊でありながら前線で戦闘に立つ青年に出世組が嫌がらせをした。よって、治癒者でありながら嫌がらせをする元気があるものにつける薬はないということで助けずに蹴り飛ばしたらいらぬ噂がたった。しかし、元々他人を信用しない彼は気にせずにいて、さらに噂が噂を呼び、他人を寄せ付けない冷酷な男となり、元々の性格のせいもあり、ひねくれた彼に近づく者はいない。だがまれに実験に没頭する彼に近づいた者が実験台にされたことで今にいたる』という長い説明を聞いて、ガラドはどう反応を返すべきか困るのだった。

「確かに、グラバンは元々の性格もあるが、周囲も悪いのだ。お前も言われたのだろう。原因の一つであるお前は今後一切治療はしない、と。」

「はい。言われました。」

「お前を責めた。しかし、同時に助かる可能性があった命を助けられなかった自分すら憎いのだ。あの男は自分を追い詰める飢えた獣である。常に血を欲し、欲望のままに血を得るために飛び掛る危険な獣であるから、横取りなんてすれば引っかかれる。・・・あいつの実力なら問題ないだろうから任せた。」

「しかし、彼は我等軍人とはまた違います。」

「だが、大丈夫だ。あれは一人生きる為に術を自然と身に付けた実力者だ。実力的には私と大差ないだろう。」

どうせ、自分のことは後回しにするだろうから、手当てして無理やり教会に送還するのが新たな任務だと言い渡す。

まだ何か納得できていないようだったが、ガラドは敬礼してその場から立ち去った。

「もう、お前は一人ではないことを忘れるな、グラバン。」

どんな噂がたとうとも、知る者も関わった者達も自然と理解し近づくものなのだ。

 

 

 

 

ガサッと立ちはだかる緑を避け、開けた場所に出た。

「やはり、まだいましたか。」

そこに立つのは、すでにこの世にはいないはずの女。

『私の愛しい子。もう、私を馬鹿にする奴はいないわ。貴方も悪口を言われることはないわ。』

さぁ、帰りましょうと伸ばされる手を弾いて拒絶する。

女の背後を見て、問いかける。どうして彼がここにいるのか、と。

『あれのこと?あれは憎きあの女の子どもだし、私もどうしてか存在しているのが嫌なのよ。だから、殺そうと思ってたところなの。』

ということは、ここへ来る直前にでも捉えられたのだろう。

「で、いったいここへ、貴方には何の用があるというのですか?・・・フィルド。」

「占いで導かれるままに来ただけだよ。まさか、まだこんな形で『生きていた』なんて思わなかったけどね。」

タロットを足元に散らばらせ、動けぬように絡みつく蔓で動きを封じられているフィルドは少ししかめた顔をする。もう、人ですらなくなったアレが生気を奪い取っているのだろう。

死の気配しかしない女の側にいれば、狂うのが普通だが、フィルドはそんなことで狂うなんて弱い精神を持ち合わせていない。だが、身体の自由がきかなくなるのは仕方がなかった。

ひらっと白衣を広げ、中に仕込んでいたメスを片手三本、両手で合計六本持ち、構えてすかさず投げた。

投げた事で避けた女へとすかさず薬品の入った試験管を三本投げ、瓶の中の液体をフィルドへとかけた。

「大人しくしていたらすぐに回復する。」

「悪いね。」

「別に。」

女がフィルドから離れたのを確認し、近づけさせぬように間に立つ。それが女には信じられないようだった。

『どうしてなの、私の可愛い子。』

女はグラバンにすがるように手を伸ばす。だが、それを取る事は決してない。

『どうしてなの、どうしてなのよ!貴方まで私を独りにするつもりなの?』

「いえ。決してそんなことはありません。ですが、今の貴方は私の知る『母』ではありません。」

「どうやら、もう声は聞こえていないみたいですよ。」

「それぐらいわかってますよ、フィルド。・・・ですから、覚悟して下さい。」

注射器を数本投げつけ、間合いを詰めて蹴りを入れる。一本、注射針が刺さったらしく、中身が女の中へと吸収されていく。

人のものとは思えぬ叫び声をあげ、その場にのたうちまわる。そこへ、地響きをたて、地面が裂けるように割れた。

「やっと見つけましたよ、神父様。・・・グラバン神父もご一緒でしたか。」

現れたのはサールを憑依させたキャルローだった。

「この男の身が心配なら、今すぐこの場から立ち去らせて下さい。邪魔です。何より、あれがまだ狙ってます。」

安全な場所まで連れて行って下さいと言えば、言うまでもないと答え、フィルドの腕を攫んだ。

「キャルロー、待ちなさい。」

「待てません。私と・・・あの男の望みだからです。グラバン神父。またお会いしましょう。」

急いで立ち去る準備に入るキャルロー。それを動けないくせに止めにかかるフィルド。馬鹿だなと思う。

この状況でなければ二人ともここに残っていただろう。とくにキャルローも大事な人であるフィルドが唯一守ろうとするグラバンを放っておくことなどしない。フィルドを悲しませることだけはしたくないのだ。

禁忌の一族として忌み嫌われ、死に掛けていた自分に希望をくれたのがフィルドであるのだから、彼が望むようにしたいのだ。そして、グラバンにも少なからず恩があるのも事実だからだ。

「あとでゆっくり話しでもしましょう。その馬鹿はすぐに回復すると思いますので、よろしくお願いします。」

「貴方も気をつけなさい。」

ちらりと一度だけこちらを見て、割れた地面に吸い込まれるようにして、二人の姿は消えた。最後に女が殺そうと襲い掛かったが逃げられたようだった。

「残念でしたね。・・・貴方に彼は殺させませんよ。彼が貴方を殺したとしてもね。」

今でもすぐに思いだせる。あの日のこと。

『何を言うか。私の愛しい子はそんなことは言わぬ!お前はいったい何者じゃ!』

「そう思うならそう思ってて下さい。・・・私は貴方の息子だ。だが、今はもう違う。さようなら、哀れな・・・・ヴィオラ。」

子どもを返して母親を解放させて下さいと、女の側で殺気立つ肉体はすでに滅びたはずのヴァルサガーノを見て言う。薄っすらと、まだ未練を残しているそれがじっとこちらを見続ける。

『うるさい、黙れ黙れ!』

女がヴァルサガーノに命令を下す。それがグラバンを襲う。少しの油断と過去に引き戻されかけた感情から判断を誤る。

その結果、鋭い痛みが走り、歯を食いしばることとなった。白衣が少しずつ紅い色に染まる。そんな自分の姿を見て、あざ笑う女の姿がそこにある。

『息子はどこなの?いいなさい、この悪魔め!あんたもどうせあいつらの仲間なんでしょ!』

「いいえ、違いますよ。私も奴等は大嫌いですから。でも、今の貴方は・・・もっと見たくありませんよ。」

ネクタイを解き、傷口を押さえるように撒きつける。

徹夜明けに出血と続くと、しばらく使い物にならない状態になりますねと冷静に考えながら、そうなったらマリーがまた文句を言うだろうなと思うとどうも笑みが浮かぶ。

口元の笑みを見た女は癪に触ったらしくヒステリー気味に叫び声を上げながら襲い掛かる。

「いい加減、ヴァルサガーノの母を縛り付けるのはやめてあげて下さい。」

襲い掛かる女の目の前から姿を消し、どこへいったと騒ぐ女の背後をグラバンはとり、首筋に注射を一本打った。

「これで、安らかに眠れますよ。今度こそね・・・。」

『ぐ・・・あ・・・な、何を・・・し・・・た・・・?ぐ、ああぁぁ!』

痙攣を起したように震えながら、最後には叫びをあげて、まるで日の光を浴びて灰となる吸血鬼のように、風化して消え去った。

女が消えると、ヴァルサガーノから瞳の輝きが戻り、こちらに近寄ってただ眺めていた。

ちゃんと、あの女の呪縛から逃れられたのだろう。

「大丈夫だよ。お前の子どもは、ちゃんと葬ってやるからな。」

それを聞くと、すうっと母親は姿を消した。ちょうどそこへマリーが姿を見せたのだった。

「神父様・・・。」

「大丈夫ですよ。終わりましたから。」

振り向かず、ただ、前に進む。そこには、あのヴァルサガーノより小柄の塊があった。

それに手を合わせると、マリーが手伝いますよと言う。それにただ、ありがとうとグラバンは答えるだけ。

亡骸を埋め終わると、再びグラバンは歩き出したので、慌ててマリーは追いかけた。しばらく沈黙が続く中、グラバンが先に語り始めた。

「聞いているか聞いていないか知りませんが、私はある種禁忌の一族とされながら、教会の保護を受け、現在も姿見せぬ占い師として囁かれるフォルチェシー一族の者です。ですが、知っての通り、私は一切占星術は持ってません。持っているのは人を癒す力だけです。」

「でも、それによって救われる人が・・・。」

「いえ。フォルチェシー一族の者としては、占いの力がない者は必要ではないのです。そもそも、恥なのです。」

「そんな・・・。」

そんな差別はあってはいけないと言おうとしたが、差別など人の弱さからいくらでもこの世界にあることをマリーは知っている。だから言えなかった。

「兄のフィルドと私は母親違いの兄弟です。兄の母親は父が自慢にするほど美しく、占いの力も人一倍強かった人でした。私の母は一切力を持ち合わせていませんでした。わかりますよね?たとえ妻であろうとも、力が持たぬ者よりも持つ者を選ぶ実力主義が、あの一族なのですよ。」

「・・・。」

だからこそ、母親も気が狂いあんなことになってしまったのかもしれない。

もっと普通の家庭だったのなら、もっと違う人生を皆歩めていたかもしれない。全ては『かもしれない』という想像でしかないけれども。

「父は今も生きています。しかし、私の母もフィルドの母も数年前のある日、二人とも亡くなりました。理由は長いのでまたいつか話しますよ。」

本当に、どこから話せばいいのか、どこまで話せばいいのかわからないほど、様々なことが重なり合った最悪の日だったのだろう、あの日は。

「・・・その次の日、フィルドは家を出ました。もちろん、力を持つフィルドが家を出ることを拒むうるさい身内がたくさんいました。それでもふりきって外へ、教会へと旅立ちました。きっと、家に帰ることは二度とないという決意を持っていたのでしょう。私も、彼が家を出たのなら、すでに父親なんて家族と思っていませんでしたから、家族がいないあんな呪われるような場所にいるつもりはなくて教会へと向かいました。」

それっきり、家には一度も帰っていませんし、母親の墓参りすらいってませんと言えば、どうしてという目で見上げるマリー。

グラバンはそれにただこう答えるのだった。会えば、森の奥に一人きりで眠る母が別れた後を寂しがるだろうし、何より身内に会いたくはなかったからだと答えた。

「ですが、今回はそういっていられません。」

魂が彷徨い続ける原因があるのなら、それを排除しなくてはいけない。だからこそ、墓参りに行くのだとグラバンはマリーに告げた。

「マリーは帰っていてもかまいませんよ。」

「・・・いえ。神父様が駄目だとおっしゃっても私はついていきます。」

私は神父様を止めるのが役目としてお側にいるように派遣されたシスターですからと、無邪気な子どもの笑顔で言われれば、こちらの負けだろう。

「また、そのうちちゃんと話すよ。」

「はい。」

ガサガサッと開けたその場所には、二つの墓があった。

だが、片方はかなり荒れていた。身内は、フィルドの母の墓参りにはきても、自分の母の墓参りや手入れは一切しなかったのだろう。

出て行ってからの長い年月の間、忘れられるようにそこにあった墓石。そこにはしっかりと彼女の名が彫られている。しかし、まるで嘆き悲しむように、寂しさしかなかった。

腰をおろして手を合わせる。安らかに眠るようにと祈りを込めて。

そこへ、第三者が現れた。

「そこにいるのは誰だ?」

グラバンは降り迎えず、目を閉じて手を合わせ続けた。

「・・・もしかして、グラバンか?」

「神父様、知り合いですか?」

黙ったままのグラバンに不安げになるマリーが肩を叩く。

「ええ、知り合いですよ。同じ、フォルチェシー一族の予知夢の姫君ガネットを知らない者はいませんからね。」

さすがのマリーも、予知夢の姫君ガネットの存在は知っていた。だが、どうみてもそこに立っているのは『青年』である。

「お前、何しに来たんだよ。それに、その子何なんだよ。」

「貴方には関係ないでしょう?私はセンタラフェンスからの命令でなければ、こんなところまでは来ませんでしたけどね。」

それを言うと、最近異変が起きていた森の気配が変わり、元に戻っていることに気付いたらしい。

「あの女、やっと逝ったのか。」

「ええ。もう二度と出てきませんよ。良かったですね。うなされずにすむでしょう?」

どうせ、夢に度々出てきては脅されてきたのでしょうと言われ、図星だったのかそっぽ向いて青年は黙った。

「私の意思でここへ戻る事はないでしょうから、もう会わないでしょうね。ガネットの占いなんtね興味ありませんしね。」

決して、自分から会いに来る事はないとはっきりと告げる。

「さようなら、ダストル。」

バサッと広げた生命を感じさせない翼。マリーを抱き上げて空へと舞い上がる。

グラッサ達が待つ場所へ戻るために。

その姿が消えるまで、ただ黙って青年は見上げていた。何かを告げようとして告げられなかった、曖昧な表情を浮かべて・・・。

 

 

 

 

戻れば早々、ふらふらして倒れる羽目になるグラバン。治療に来ていた者達の治療を終えて静かになったところだった。

「もう、無茶するからですよっ!」

「ですね。さすがに徹夜に出血での貧血は厳しいです・・・。」

しょうがないなと思いながら、甲斐甲斐しく看病するマリー。

あの後、戻って合流した時、罪人は捕らえられていた。グラッサが見つけ出して捕獲したのだろう。

明日あたり、その罪人に対する判決を下すための裁判が行われるだろう。

怪我人は出ないだろうし、シェンルーもラシェも今は戻っているから当分ここへ治療に来る馬鹿は来ないだろう。

「マリー。きっともうすぐしたらフィルドとキャルローが来ると思います。」

「えっと、神父様のお兄さんと亀を連れたお姉さんですよね?」

「そうです。来たら起して下さい。」

「わかりました。でも、今はもう寝て下さい。」

余程疲れていたのか、すぐにグラバンは眠りについた。

「お疲れ様です、グラバン神父。」

少しだけ、これから共に行動するであろうグラバンのことが知れて満足なマリーは、起きたときに何か食べれる簡単なものを作っておかないといけないなと思いながら、部屋を後にした。

 






あとがき
それは自然と変化するの数日後のお話。
この人達の話を書くと無駄に長くなるのは何故だろうか。なるべく短い短編をと考えているはずなのに。
まぁ、こうやってマリーはグラバンのことをいろいろ知っていくわけで、こうやってどんどんグラバンを上手く扱えるようになるという。
これも全ては彼女の父とアヤの教育のおかげかもしれませんが。