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「うぅ〜・・・眠い〜。」 「なら、おとなしく寝て下さい。」 数日間、徹夜して目の下にくまを作ったふらふらしている男に冷たく言う少女。 「って、寝るなら部屋のベッドでっ!・・・っもう!」 すでに枕を抱きかかえたまま眠ってしまった彼に苦笑しながら、少女は冷えないように布団をとってきてかけた。 「良い夢を、神父様。」 少女は部屋の静かに部屋の片づけを続行した。 それは自然と変化する 大陸の中心とも呼ばれるセントラルバレス。その街にある一番の権力を持つセンタラフェンス教会には、変わり者の治癒者がいた。変わり者といっても、ちょっと人とずれているという可愛い部類のものではない。 悪魔だとか、マッドサイエンティストだとか悪口を散々に言われるほど、危険な神父だった。 まぁ、その神父を目の前にして言う愚かな者はいなかったけれど、神父にはばればれで、度々治癒を施してくれなかったり、実験体にされたりすることがあった。 そんなある日のことだった。今日も魔堕ちが出たという知らせを受け、討伐隊の数名が出かけて行った。先日は魔堕ちの原因を作る『闇』が現れたということもあり、現在三部隊ある内の二部隊はほぼ教会にはいない。 「このまま帰ってこなければいいんですがね。」 珈琲を飲みながら、晴れた空を窓から見上げる青年がいた。彼が治癒者のグラバン神父だった。 「・・・帰ってきたら、やっと出来上がった薬に実験体となってもらいましょうかね。」 ニヤリと口元が笑みを浮かべる。 丁度その時だった。タイミングよく訪問者が現れた。だが、グラバンはその相手を見た瞬間、表情を消した。 そして、作られた顔で問いかけるのだった。 「おや?何か用ですか〜?珍しいですね、こんな教会の奥に来るなんてね、ガラド。」 貴方の顔を見ずにすんだ日々が懐かしい程気分最悪ですよと言い切ってやる。 「口には気をつけろ、たかだか治癒者のくせに。」 「はいは〜い、そうですね。貴方はとても偉い教会直属討伐二番隊隊長ですもんね。」 まったくもって、毎日闘いの日々で身体壊しそうな生活して大変ですねぇと、心にもないことを言ってやる。もちろん、ガラド自身もグラバンが敬う気持ちなどこれっぽっちもないことぐらいわかっている。 「で、何の用ですか〜?暇つぶしなら他所でやってもらえません?」 「貴様・・・それ以上言うとっ!」 「それ以上言うと何ですかね?そもそも、そうやってすぐに武力に走るのはやめてくれません?部屋が荒れるじゃないですか。」 片付けるの責任持って元通りに全部やってくれるなら別に構いませんよとちゃかすと、ぷっつりガラドの中で何かが切れたのだろう。 グサッと、動かずにいたグラバンの右頬ぎりぎりに剣があった。というより、背もたれにしていた壁にぐっさりと刺さっていた。 「解毒剤と傷薬をよこせ。」 「・・・ククク・・・それが用件ですかね?」 ぷちっと切れても、ガラドは一応わかってるみたいだなとどこか冷静に考えるグラバン。 何せ、この教会には確かに治癒者はいるが、グラバン以外ははっきりいってある物で手当てをするしかできないのだ。グラバンはその治癒者が使う薬を作る唯一の治癒者なのだ。 「時間が惜しい、さっさとよこせ。」 壁に刺した剣を鞘に収めたガラドが薬を早急にと、要求する。 「生憎ですが、貴方に差し上げる薬は一切ここにありません。ですので、お引取り下さい。」 「何だと、きさ・・・っ?!」 貴様は大人しく上のいう事を聞いていろと命令をするつもりだった。そのはずだった。 しかし、光の加減で眼鏡の奥が見えなかった瞳と目があったとき、ゾクリとした。 そう、戦場を駆け巡る獣である自分よりも、冷たく冷酷な知恵を持った獣がいた。適わないと本能で察知して動けなくなるような、そんな恐怖感が体中を駆け巡る。 だが、ここで負けるわけにはいかない。剣の柄に手をかけ、抜こうとした。 「嫌ですね・・・そうやってすぐに武力に走るのは・・・。つい数分前にも言いましたよね?」 学習能力ないんですねぇと、馬鹿にしたような口調だったが、ふっと口元の笑みすら消えた。 「貴方のような人、ボクは嫌いですよ。ですので、すぐにボクが怒る前に視界から消えてくれませんかね?ガラド隊長?」 真っ直ぐ見据える眼鏡の奥にある瞳。何も言わせないような威圧感があった。声が喉より上にあがらない。 顔を逸らして舌打ちし、部屋から立ち去った。 それを視界から消えるまで見ていたグラバンはふっと笑みを浮かべた。 「ククク・・・馬鹿はやはり嫌いですね。」 カツカツっとグラバンの歩く足音だけが静かな部屋に響く。 音が止まったと同時に、小さな鈍い音がする。 はらり、ぽたり・・・。彼の足元を紅い薔薇の花びらと血で紅く染まっていく。 グラバンは掃除にきた誰かが飾っていったのであろう、薔薇の花を一本ぐしゃっと握りつぶしたのだ。 その為、花びらは散り、薔薇が持つ棘がグラバンの手を傷つけて血を流させた。 ポタリっと流れ落ちるその血をぼんやりと見て、ぐにゃりと生気がなくなった花弁のない茎だけのそれを捨て、腕を流れる血を舐めた。 「まだ、生きてるんですね・・・ククク。」 血は止まったが、彼の目印とも言える白衣に紅い血が所々付いていた。 しばらく考えたが、無視する事にした。 そして、そのまま次の実験に必要な資料を集める為に図書館へと向かうのだった。 一時間ほど図書館で資料漁りをした後、さらに一時間かけて簡単にまとめた手書きの資料を作成した。司書のランドルに必要な書籍の注文をしておいて図書館を後にした。 ふと空を見上げ、蒼い空をぼんやりと見ていたグラバン。戻る教会とはまったく逆方向へと歩き出した。 目立つ格好でありながら、人々はまるで見えていないかのように見ることなく通り過ぎていく。 グラバンは人を気にするような人間ではなかったので、足を止めることなく進んだ。 そして、着いた場所は大きな門がある場所。大陸の各場所に設置されている、門同士を通じて移動する事が可能な飛翔門である。 「あ、グラバン神父じゃないですか。」 こんにちはっと、腰掛けていた少年が立ち上がる。彼は飛翔門を管理する番人の一人、アルベレカである。彼はセントラルバルスにある四箇所の飛翔門の内、図書館に近い東の門の見習い番人である。出会いはもちろん、外へ出かける際に会ったからだが、それ以上にお互いいろいろあったのも事実である。 「今日は運行見合わせ中ですか・・・。」 「あ、そうです。すいません・・・。」 「謝ることではないですよ。」 しっかり、安全運行できるように調整をするのは大事ですからねと言い、別の方法へ目的地へ向かおうと考えるグラバンにアルベレカは声をかけた。 「飛竜ならすぐに呼べますけど?飛竜も飛翔門同様に移動用に利用されてますから。」 この街にはレイアという飛竜使いがいるし、マスメルダという飛竜管理協会で飼育員をしている彼の姉がいる。だから連絡とろうかと言うが、お断りする。 「あ、大丈夫ですよ。自分の翼がありますから。」 「そうでしたね。」 あとで、協会へ返して利用間の状況や走行距離、ルートなどを書かなくてはいけないからいろいろ面倒なのだ。 そのことは彼もわかってるから、神父様らしいとだけ言っていた。そして、たぶんこっちが本題なのだろう。少し言っていいものかと戸惑いながら口を開くアルベレカ。 「あの、今度、そちらへ妹が就任するはずなんです。」 「おや?そうなのですか?」 確か、噂で自我を持ったまま魔堕ちしたという兄を探し出している貴方の妹ですかと言うと、そのとおりですと答えた。 「もし、見かけたら声をかけてやって下さい。」 「私なんかが声かけたら、妹さん、周囲から逃げられちゃいますよ?」 「大丈夫ですよ。神父様は、良い人ですから。」 疑う事のない純粋なまなざしに眩しく思いながら、昔も自分はそうだったらここまでひねくれなかっただろうにと思っても今更だ。 「門の裏なら人気は少ないですよね・・・。」 「あ、はい。運行してない間はほぼ人はいませんよ。」 「なら、ちょっとお邪魔しましょうか。」 「あ、はい。」 国を囲う塀と門の間まで歩く二人。 「・・・たとえ、どんな噂が流れようとも、それが神父様の全てだとは思ってませんから。」 「?」 「僕は、周囲が何と言おうとも、僕を助けてくれた神父様を信じますからね。」 これだけは言っておきたかったんですと言うアルベレカにやられましたねとグラバンは思う。 この子は多くの噂を聞いたのだろう。そして、味方がほとんどいない監視の中にいることもわかっているのだろう。 「別に、私と仲良くしなくていいですよ。貴方が嫌われないようにするのが優先です。それに、貴方の兄のことはちゃんと情報があればお伝えしますよ。」 でなければ、あの時生きていて元気にある教会で暮らしているとは教えませんでしたよと言えば、涙を流して、ごめんと言ってそれを拭いた。 「では、行きますね・・・また、近いうちに『墓参り』に行かせてもらいますよ。」 バサァッ――― 広がる、無機質な生気を感じない人工の翼。それがグラバンの背に現れた。 「はい、ありがとうございます。きっとあいつも喜ぶと思いますっ!」 空へと飛び上がったグラバンへアルベレカは叫んだ。 「神父様も来てくれるって・・・良かったな。今度は皆集まれるかもしれないぞ、エリザ。」 拭っても、拭っても、涙は流れ続けた。数分の間、諦めてアルベレカは泣き続けた。 失ってしまった親友の名を何度も呟いて。 そんな彼の泣く背中をアルベレカの上司であるラスティーは見ていた。結局、昼食にしようと誘う言葉をかけずに中へと戻った。 「まだ、傷は完全に癒えはしないんだな・・・。」 空を飛んでいると、左耳の耳飾がチリンと音を鳴らす。 「アルベレカ・・・泣いてますね。」 彼等には、失うものが多すぎた。手につかんでも、ほとんど零れ落ちて、つかめない程に。 アルベレカの家は父が蒸発していない母と子ども七人の八人家族だった。彼等には言っていないが、父親は魔族であり、正体がばれる前に消えたというところだろう。 父親がいなくても、彼等は幸せだったし、父親は死んだものだと思っていたからだ。 それが、クロックスが魔女裁判という名で彼の妹を殺そうとした。それを次男が助けようとした。その結果、彼が身にひっそりと眠り続けていた力が目覚め、悪魔と変貌してしまった。 そこへ、自分の兄・・・フィルドとキャルローが向かったらしいが、逃がしてしまったらしい。 その後の話を聞くと、次男は村から離れてクロックスを追い続け、とうとう仕留めたらしい。そして魔剣手に入れたらしいが、完全なる魔であるクロックスがそんな簡単にやられるはずはない。 調べた結果、やはりまだ生きている事が分かった。 その矢先だった。 彼等の村カルフェンナがフージェル国に支配された。それにより、彼等はあの場所で住めなくなり、教会を点々としながら、家族一緒に過ごしてきた。 そしてセンタラフェンス教会へ来た彼等に悪夢が襲ったのだ。 彼等の友人で、支配された後行方知れずとなっていた友人と再会した。彼等はもちろん喜んだ。それこそ神様がくれたご褒美という感じで。 しかし、悪夢はしっかりと背後まで迫ってきていたのだ。 魔物が襲ってきたのだ。それも、街を襲わずに真っ直ぐ教会へ向かって、だ。 魔物の中では大人しいメスの狐系の魔物だったが、かなり怒っていた。しかも、そいつはかなりの力を持った魔物で、討伐隊では歯が立たないだろうと思われた。 『返せ、私の子を。』 その言葉を聞いた瞬間、先程食堂で話していた、討伐隊の一人の会話を思い出した。 あれはこの魔物の子どものことだったのかと。 ちっと舌打ちをする。白衣の裏にいろいろ仕掛けをしていたり、薬品を身に付けている。常に戦闘できるようにだ。 選んだ試験管を床の上に投げて割れば、霧状の物が長い縄のようになり、魔物の動きを捉えた。 「大人しくしてくれ。話を聞きたい。子どもとはどういうことだ?」 じっと、しっかり魔物の目を見てやれば、少し暴れるのをやめた魔物が言った。 『寝床へ土足であがりこんだ人間が私の大切な子供を奪った。』 返してくれ、あれは大切な我が子だと言う魔物の訴えを聞き、うなずいた。 「わかった。だから、取り返してくるから待っててくれ。」 暴れられたらこちらも困るし、何より大事な子どもも巻き込まれたら大変だろと、大きな身体の魔物に頼む。すると、しばらく間をあけてわかったと答えた。 「たぶん、その男は騒ぎを聞いてここに来るはずなんだ。」 『そうか・・・。それにしても、お前は変わっているな。』 「変人みたいだしね。」 そんな他愛もない会話をしていた。その時だった。 「くそっ、街中にまで出やがって、化け物めが!」 かちゃっと銃を構えて止める間もなく撃った。魔物の大事な卵を盗んだ愚かな人間が、我が子を取り返しに来た母親を撃った。 『・・・ぐ・・・貴様・・・。』 「落ち着け、俺は治癒者だからなおしてやる。まだ卵を持ってるあいつを攻撃するな。」 そう、あの男が卵を持っている。卵を眼にした瞬間、魔物の目が怒りに燃え上がる。 「何故、撃った?!このばか者めが!」 メスを一本、男の持つ銃を弾き飛ばす。 「なっ、何をする!あの化け物を退治するのが先だろうがっ!治癒者は下がってい・・・。」 「下がるのは貴様の方だ!」 卵を奪い取り、魔物の方へと投げた。 「受け取れ!」 魔物はその卵をしっかりと受けとった。 グラバンはそれを見てほっとした。しかし、背後で尻餅をついていたはずの男が再び銃を構えていたのに気付いたのはすでに遅かった。 魔物の心臓へと向かって弾が放たれる。 悲しい叫びがあがり、魔物は倒れる。頭が真っ白になる。 だが、すぐに何とかしないといけないと動き、治癒者としての仕事を始めた。 治療をしている間にことは何も覚えていない。 だが、規則正しい心臓音と呼吸が聞こえ、ほっとしたら魔物の上に座り込んでいた。 「なんということをするのだ、貴様は!」 男は魔物を助けた自分を怒っている。だが、グラバンにはどうでも良かった。 『礼を言う。人の子よ。』 「こっちも悪かった。」 『・・・。』 「しばらく安静にしてるんだ。」 『どうせ、動けはしない。』 それでも、巣へと戻るために起き上がって歩き出す魔物。 「お前・・・自分がしたことがわかってないのか?」 「お前こそ、今回の原因がお前が卵を持ち去った事だとわかっていて言っているのか?」 「っ・・・それは・・・だが、これだけ荒らして生かして返すなど・・・。」 「あいつは悪くない。子を取り戻しに来た、立派な母親だ。」 納得がいかないらしい男。 そこへ、第三者の声が聞こえてきた。 「神父様・・・?」 こちらへ向かってくる幼い影。ガラっと嫌な音を立てる柱。 一歩、足を踏み出した子どもに襲い掛かるように上にあったものが崩れた。まるで子どもに吸い寄せられるように。 「逃げろっ!」 駆け寄って助けようとしても遅かった。 子どもは声をあげぬまま、生き埋めとなった。 必死になって助けようとしたが、数時間後遺体で見つかった。 その時、アルベレカもいた。もちろん、泣いていた。大事な親友だったらしい。名前は、エリザ。 グラバンは男の顔を見ずに言う。冷たい、低い声で。 「魔物を倒してもいなくても、結局この大惨事を引き起こしたのは、貴方ですよ・・・ガラド殿。」 もうすぐしたら隊長に昇格するという噂の実力者。だが、犠牲を作っていてはいけない。犠牲が出ずに事を運ぶ事は難しいが、明らかに助かる命を助けられない奴などいらない。 「私は何もしていないっ!」 「ええ、してませんね。ですが、やったのですよ。一箇所間違えると全て間違ってしまう計算式や一箇所間違えると完成しないパズルのように。」 些細なことでも、原因を作った人間は貴方であり、私は許しませんと言い放つ。 「覚えておいて下さい。私は貴方にだけは絶対に治療をしません。むしろ、死んで頂きたいですよ。・・・いや、生きて死者に償ってもらわないといけませんね。」 生き地獄の日々だと思って下さいと言い切るグラバンは悪魔のようであった。 この時はじめて、ガラドは教会で有名なたちが悪い白衣の悪魔が彼なのだと知った。 思い出しても、むなしい。今日はいったい何なんでしょうねと思いながら、目的地へと降り立った。 そこは、ヨルデカート。カロリュベヌス教会がある大陸で森で中央と放された西南に街だ。 一件の古い建物に足を踏み入れる。すると、人相の悪い男達に囲まれた。 しかし、ある人物の一声で男達が少し距離を置いた。 グラバンの元へ進み出たのはここら一帯を支配する裏組織という奴だ。 とくに、入手困難な代物を手に入れてくれる店でもある。 「今日は何の用だ?」 「ここに書いたものを集めてほしいと思ってね。」 必要な薬草や部品などが書かれていた。 「へぇ・・・。今回も難しいものを言ってくるな。」 「無理ですか?」 「いや、問題ない。」 「さすがは『ユカ姐さん』ですね。」 「お前にはそう呼ばれたくねーな。」 「そうですか。」 ユカは側に立っている男にそのリストを渡し、グラバンを見た。 料金は先払いと後払いどちらかと聞けば、明日持ってくると答えた。 「ふっ・・・お前だけだよ。そんな意味不明なことを言う奴はな。」 ぺしっと足元でペンギンのジョンがグラバンの足を叩いていた。 たぶん、よく来たなとでも言っているのだろう。 「で、今回わざわざ来訪の目的は?」 普段は電話か手紙のお前が来る理由は何だと問われ、そう言えばそうでしたねと、クスクス笑う。 「ただ、ちょっとある兄弟の次男坊の姿を見ようかと思ってね。」 それに、頭も冷やしたかったのだ。少し前に、あの男の顔を見たから。 「まぁ、いい。あの悪魔なら今日も神父にやられてたぜ。」 「クロスも相変わらずみたいだね。」 「ま、だから見てて飽きねーけどな。」 にやりと笑みを浮かべるユカが煙草の火を消した。 「これから仕事なんでな。用が終わりなら帰ってくれねーか?」 「これはお邪魔しましたね。」 また明日と、言って店を出て行った。 「ったく、どいつもこいつも。」 ぴょんっと犬のチャッピーが側に控えていた男の上に乗って押し倒した。 「チャッピー、何してる。」 クウンと鳴き声を出すと、行くぞと言われワンっと元気よく答えて付いていった。ジョンもペタペタと短い足でユカとチャッピーを追いかけた。 その頃のグラバンは教会前まで来ていた。 「やはり、ミカゲには見つかりましたか。」 できれば、来た事は内緒でねと言えば、わかったと答えた。 「アヤはどう?」 「・・・今日も元気だ。」 「そっか。ならいいや。」 「グラバンもフィルドも。・・・神父は皆心配性なのだな。」 「あれ?そうなんだ。・・・へぇ、兄もね・・・。」 しばらく考えたがすぐに考えを放棄した。どうあっても、自分は兄ではないし、兄の考えはわからないのだ。 「じゃーね。またそのうち皆で会いましょ。」 そう言って、背中の翼を広げ飛び上がった。 教会に戻り、自分の部屋へ続く長い廊下を歩いていた。数人、誰かに用事で入ってきた客や同僚とすれ違いながら、彼等が使用しない奥へと歩く。 人気が少なくなってきたところで、いつもなら聞こえることのない誰かの声が聞こえた。 数人の男達とまだ幼いであろう子ども声だった。 気にする事もなく通り過ぎようとした。しかし、ふっと男達に囲まれている少女の髪色を見て足を止めた。 どうやら、お馬鹿なことを考えているらしい男達は少女を連れて行こうとしているようだった。 どのみち、この先に自分の部屋があるため、うるさいのを置いておくのが嫌なだけだと言い聞かせて声をかけた。だが、相手は無視するようだ。 ゲシッと思い切り背中に足跡をつけてやった。すると、さすがに相手も無視はしないようだ。 「誰だよっ?」 「邪魔す・・・っ?!」 邪魔が入って怒る彼等が振り返ってグラバンの姿を見て顔が真っ青になった。そりゃそうだろう。グラバンにたてつけば、今後一切怪我をしても治療が行えない状況になるに等しいし、死を宣告されたようなものなのだ。 「人が通る廊下で、やめてくれません?邪魔はそっちなんですがね。」 すっと懐から取り出した試験管を相手へ投げた。それを腕で弾いたが、相手の足元と触れた腕がジュゥッと音を立てて焦げた。嫌な焼けるにおいを放ってだ。 「ひぃっ!」 袖の部分が解けて腕が見える。もしあれを直にかかっていれば腕がそうなっていたことだろう。 「す、すいませんっ!」 「行くぞ。」 青くなったまま、もう少女のことなど頭にないだろう。逃げ足は早いらしく、さっさと立ち去った男達の背中を見送って、もう一度ちらりと少女を見る。 少し前に話題にあがった悪魔の少年と同じ髪色で少しアルベレカに似ている容姿の少女。きっと、彼女こそが先ほど話しにでた妹なのだろう。 まぁ、どうでもいいかとそのまま立ち去ろうとした。すると、何かが服の裾を攫んでいるのに気付いた。 それは少女の手だった。
グラバンの顔を見て御礼を言う少女。グラバンはふいっと顔をそらした。 「別に、帰り道の邪魔になるので立ち去ってもらっただけですよ。」 ポンポンっと頭を撫でて今度こそ立ち去った。今度は振り向かずに。 そして、部屋に戻って一時間後、グラバンはあの少女とはやい再会を果たすのだった。 「はじめましてこんにちは。今日からお世話になるマリーです、神父様。」 頭をぺこっとさげてにっこり笑顔を向けた少女。 どうしてこう、身内ばかりが集まるのだろうと思いながら、こちらこそと握手を交わすのだった。 「こちらこそ、よろしくお願いします。マリー。ボク・・・私はグラバンと言います。」 「グラバン神父様。」 「?」 「先ほどは本当にありがとうございました。」 それは何かが変わろうとしていた日の懐かしい思い出。 「どうかしたんですか?」 「ん〜?マリーですか。おなか減りました。」 「当たり前です。数日間飲まず喰わずの挙句、睡眠もとらずにいて、先ほど十時間ぐっすり爆睡して目を覚ましたところなんですから。」 「・・・何だか痛く突き刺さるような言い方ですね。」 「もちろん、わざとそう言っているのです。」 何度言っても聞かない神父様が悪いのですと言いながらも、皮が剥かれたりんごを乗せた皿を手渡した。 「とりあえず、胃に優しい物から順番に食べて下さい。」 「これはどうも。」 フォークでさして一つ口に入れる。甘くておいしいりんごを方張りながら次の実験の為の試料を見ているとマリーが口を挟んだ。 「先ほど、何を考えておられたんですか?」 「何が?」 「ぼーっとして何か考えておられたでしょう?」 「あ、あれね。昔を懐かしんでたんだ。」 「昔ですか?」 「そうだよ。マリーとであった当初とか。」 次の日には本性見ちゃったって感じで驚きだったね、あれはと言うグラバンにマリーも噂と違う面やギャップは貴方の方が上だと言い返す。 「でも、私はあの日、神父様に会えて良かったです。」 だからこそ、今いるのだから。あのまま、出会わなかったら違うことになっていたかもしれない。 そもそも、あれがあったから、たとえ神父だろうが神にとか言って偉そうだろうが、気に入らない奴はしっかりお返しをするということを学んだのだから。 「私は良かったです。」 「・・・なんだか、マリーが素直に言うとちょっと不気味だね。」 「おや、何を言うのかな、神父様〜!」 頬をつねって引っ張る。 「い・・・いだい・・・。」 「当たり前です。痛いようにつねってますから。」 「・・・。」 そんなやり取りをしながら、今日も一日が過ぎていく。 少しずつ、何かが変わりながら・・・。
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