『現在も一向に手がかりはなく・・・。』

 

黒い機械の箱が街の様子を写し、声が伝える。

その音がプツンと消えた。

 

「世の中はいつでも物騒なままですね。」

『それはしょうがないだろう。人が人である限り。』

「確かにそうですね。」

 

カチャンと手に持っていたカップを受け皿の上に乗せ、神父は立ち上がった。

 

 

死神と殺人鬼

 

 

「あれ?おかしいなぁ。」

がさごそと、調理場の棚に頭を入れて何かを探している黒服の青年がいた。

普通、調理場なら清潔なように白が多いが、彼はいつでも黒い服を纏っていた。

「うーん、買出しにいかないといけないかな。」

一応している紺のエプロンをはずして台の上に置き、ある意味相棒のクロを手に取った鞄の中押し込んだ。

その際に何か文句を言われた気がしたけれど、聞かなかった事にしておこう。

「どこか行かれるのですか?」

「あ、クロス神父様。」

帰ってきた後にすぐ調理が出来るように邪魔な物を片付けていると、声を掛けられて顔をあげた。

「えっと、たりないものがあって・・・。」

「そうですか。では、フェウスを一緒に連れて行った方がいいですよ。」

「でも・・・。」

「大丈夫ですよ。夕食の為なら、彼は快く着いてきてくれますよ。もちろん、貴方のためにもね。」

迷惑に思われないだろうかとおろおろするシアンにフェウスを必ず連れて行くように行った。

「今は、街では賑やかな事件が起こっていますからね。念の為です。」

帰りには、頼んでおいた書物や書類を取りに出かけているマリアネアと合流して下さいと頼み、シアンはうなずいた。

弱くはないとしても、女性なのだ。帰りに何かあってはいけないという心配をしている。だからこそ、もう一人フェウスもと言うのだろうとシアンは思った。

「いってきます。」

小さな声でそう言い、クロスの側と通り、外へ出た。

その背中を見送り、何だか言いたそうな魔人にクロスは離しかけた。

「彼一人でも本当は大丈夫なのですが、やはりまだまだ心が弱いですからね。」

『だから、あの獣を連れて行かせたのか。』

「そうですよ。心を取り乱さなければ、彼は本当に強いですよ。世間を騒がす愚かな死神を名乗るモノよりも、彼は正真正銘、本物の『死神』なんですから。」

たとえ、そう呼ばれることを本人が嫌だと思っていても。そして、世間が認識する死神とはまた違うモノであるからこそ、クロスは彼の側にいる。

「そろそろ、彼は『死神』であることを自覚しないといけないのですよ。」

たとえ死神だとしても、今のこの世界ではその「力」が必要なこと。

そして、決して一人ではないと。出会う前のように、彼だけではないということ。

「どこかで、まだ自分の殻に篭ってるからね。」

いいように変わればいいのだけどと、帰りまでの心配をする。

『心配するなら、わざわざ外へ出さなくてもいいのにな。』

「いつまでも立ち止まってられないんですよ、私達はね。」

ついでに、ティーポッドに茶の葉を入れて、お湯を注いでカップをお盆にいくつか乗せて、部屋へと戻った。

きっと、帰ってきた彼等は部屋に来るだろうから。

『持とうか?』

「いえ、いいですよ。」

調理場から人の気配はなくなり、静まり返った。

 

 

 

人の声が飛び交い、賑やかな街の中央通。今日もたくさんの店が客を呼び込みながら、商売をしている。

「あ、あった。」

きらしていて足りなかった調味料を見つけ、これを下さいと店主に言うと、はいよと紙袋に入れてくれた。

「あれ、どうしたんですか、フェウス。」

「なぁ、あれ駄目か?」

彼が見る先にはおいしそうな林檎があった。見せの隣にある果物屋だ。

「今日のお礼だから、一つならいいよ。」

「やった。」

シアンはフェウスがこれと攫んだおいしそうな林檎の代金を店主に渡し、マリアネアが最後に寄る予定だと言う図書館へと向かった。

数分歩けば、すでに林檎は芯だけになっていた。

本当に食べるのが好きなんだなぁと思いながらくすっと笑みが零れる。

「ん?どうかしたか?」

「いえ、別に何でもないです。」

「そうか?あ、あれあだな。」

と、フェウスは見えてきた図書館を指さした。

その時だった。

 

バサバサ――――ッ

 

図書館の周辺に集まっていた鳥達が一斉に空へと飛び上がった。

そして、図書館という建物の上から玄関へと、何かが落ちてきた。

それは、生前はとても美しかったある酒場の歌姫だった。

しかし、変わり果て、血の気が引いて青い顔をし、髪がぐちゃぐちゃに乱れて絡まり、片方の目はなかった。

そして、白い服は深紅に色を変えていた。

 

「きゃ――――っ!」

 

辺りは騒々しくなり、人々の叫びが広がっていく。

「臭うぜ、血の匂い・・・そして、薄汚い愚かな馬鹿の匂いもな。」

あっちだと、フェウスが走り出し、一瞬目の前の光景に固まっていたシアンは少し遅れて追いかけた。

「ま、待って、マリアネアさんと合流しないとっ!」

「後でも大丈夫さ。あいつが最近町を騒がす死神だろうからな。俺たちが捕まえたら何も問題はない。」

と、ひょいっとどんどん走っていく。

死神という言葉に一瞬胸が痛む思いを感じたが、今はそれどころではないと、必死に足の早いフェウスの後を追った。

彼は人とは違い、外れた能力で聴覚や嗅覚、そして走る能力も異常に発達していた。

「いたっ!」

ひょいっと走る人影の前へ回り込んで、止める。

ちょうど、後ろからはシアンが来ていて挟み撃ちという状態である。

「もう、逃げられないぜ?」

にや〜っと楽しそうな笑みを見せるフェウスにちっと相手は舌打ちし、見るからに弱そうなシアンに腕をあげ、持っていた刃で仕留めようとした。

しかし、シアンはそう簡単に殺されるような人間ではない。

ひょいっと辛うじてだが交わすと、相手を刺激してしまった。

危ない刃をどうにかしようとフェウスが飛び掛って刃をどこかへ飛ばした。

その間にも二人はもみ合い、殴り合いを続けた。

フェウスが投げ飛ばした後、なんとか体制を整えて上手く地に下りた相手、は今度はフェウスを蹴り飛ばした。

「まったく、今日はとんだ邪魔が入ったものだ・・・。」

目撃者は消さないとなと、まだ隠し持っていた刃物を取り出した。

「どっちから先にあの世へ行くか?まぁ、どちらも送ってやるがな、この死神である私がな。」

くくくと、不気味な笑みを零す相手に、目の前の戦闘でおろおろしていたシアンは落ち着きを取り戻し、すっと相手を見据えた。

「『死神』という言葉は、貴方には相応しくない。」

「ほう、まだ若い兄ちゃんは死を急いでるみたいだなっ!」

すぐに仕留めるられるだろうと思ったのだろう。だが、相手は狙う獲物を間違えたのだ。

何せ、ちまたで騒がれる馬鹿な死神とは違い、正真正銘の死神なのだから。

鞄からクロを取り出し、ぼそっと一言呟けば、大きな黒い鎌が現れた。それも、刃の周囲に不気味な蒼黒い何かが撒きつくように漂いながら。

「・・・っ?!」

「残念だったね。生憎、貴方とは違い、僕は『死神』何だよ。」

すっと手に持っていたクロを宙にまるで台があるかのようにそこへ置いた。そしてクロは開けた口から魂のような白い煙を吐き出した。

『・・・どうして、どうしてなの・・・?』

ぼんやりと輪郭が曖昧な線で姿を見せた血塗られた女。

『何もしてないのに。明日、約束があったのに・・・。』

ふうっと女に続いて同じように曖昧な輪郭の線で涙なのか血なのかわからないものを流す男。

すぅっとクロが吐き出した白い煙の数だけ、人の輪郭を形どったモノが現れた。

それを見て、相手が慌て、そして手ががたがたと振るえ、しまいには冷や汗をかいていた。

『どうして、渡しを殺したの。まだ、歌っていたかったのに。』

すっと、先程図書館の上から落ちてきた歌姫が相手に問いかけた。

そう、全てこの連続殺人犯が手にかけてきた者達がここに集まっていたのだ。

「確かに、これだけの命を奪うのなら、死神の名に相応しいかもしれない。」

シアンが犯人に近づいた。

「だけど、貴方はまだまだ甘い。本当の死神を知らないから。」

左手の甲に刻まれた印を見て、シアンは決意する。

「もし、ただの殺人犯なら、このまま警察に渡していた。だけど・・・。」

 

ザ―――――ッ

 

風がふっと吹く。鎌が相手の身体を真っ二つにした。

「さようなら。死人傭兵さん。」

自分達が戦うべき敵が生み出した、生前悪事を働いていた犯罪者を再び蘇らせて人を堕とすための兵器。

長くこの世に留まれば、死人傭兵であっても、人と同じように感情を持ち始める。

だけど、一度失われたモノがこの世の理を無視して戻ってはいけないのだ。

「やっぱり、僕は死神だね・・・。」

思い出す、過去に何度も自分をそう呼ぶ者達の声。

「そんなこと無いぞ。シアンはシアンだろ。死神だとしても『死神』じゃないだろ。」

お疲れさんと手をぱんっと叩くフェウス。

「そうだぞ、気に病むことはないぞ、シアン。」

カチカチと歯を鳴らしながらクロはシアンに話しかける。

「お前が一番何もしてないだろ!偉そうだな。」

「何を言うか。お前こそ役に立たぬだろうが!」

「言ったな!!」

「事実だろうが!」

「俺はその場所までいって押さえるのが仕事!シアンが仕留める担当!」

「勝手に決める出ない、犬め!」

「犬じゃね〜!!」

言い合いをする二人に、自然と笑みが零れた。

それを見て、止まった二人はうーんと考えて、シアンがマリアネアを迎えに行かないとということで思い出し、図書館へと戻るのだった。

ちょうど出てきたマリアネアはお疲れ様と言って二人と一匹と合流した。

理由は知らないけれど、知っている様子だった。

まぁ、殺人犯が現れたと知れば、フェウスは追いかけるだろうとわかっていたのかもしれない。

結果がどうだったとしても、無事な二人がいるということは片付いたと思ったのだろう。

 

 

 

コンコンとノックが響く。

どうぞと声をかければ、控えめに扉がひらき、シアンが顔を見せた。

「あの・・・。」

「お帰りなさい。お待ちしてましたよ。」

立ち話もあれですから座って下さいなと言われ、その通りにするシアン。

「誰も、貴方のことを貴方が思い込む『死神』とは呼ばなかったでしょう?」

「・・・はい。」

あの力は見た者は誰もが死神と呼び、避けていった。

「一応、皆あれですが仲間なのですから、頼って下さいね。」

そうじゃないと、私達の方が寂しいですよと、紅茶を出された。

その紅茶はとてもおいしかった。

「貴方が納得しないというのなら、化け物集まりの中にいるのだと思えばいいですよ。」

「そんなことは・・・っ!」

「でも、実際そうでしょう?貴方の力が異質だと言うのなら、私達の力だって、「人」には脅威なものでしかないのも事実。内容が違うだけで、結局は同じなんですよ。」

「・・・。」

「私としては、貴方が死神である方がいいのですよ。」

「えっ・・・。」

「だって、貴方が死神なら、私達をわざわざ迎えに来る『死神』は来ないでしょ?」

死神が目の前にいて、その死神が迎えに来る事がないのなら、まだ自分達は生き続ける。

何か言おうとして口を閉ざしたシアン。

「そろそろ、夕食用意の再開しなくて大丈夫ですか?」

「あ、そうだったっ。」

危うくカップを落としそうになりながらテーブルに置き、立ち上がって頭を下げてシアンは部屋を出て行った。

『フェウスが追いかけるとわかってたのか?』

「彼もそこまで馬鹿じゃありませんからね。」

フェウスは確かに無駄に元気である意味お馬鹿な子だ。だが、獣という点で第六感というか、鋭い時もある。

今回だって、彼がクロスの考えに気付いていたから追いかけたのだ。そうでなければ、面倒な事に首を突っ込まない。何せ、夕食が遅れるからだ。(ここは重要)

「どこかで、人と関わる際に『死神』という言葉に縛られていましたからね。それに、フェウスはもちろん気付いています。他の皆ものえ。」

『気付かぬのは本人だけ、とういことか。』

「はい。そして、誰もそれには触れないのですよ。彼にとって『外』の者達がどうであったか知りながらも、私達はそうは思わず『仲間』としてみていますからね。」

死神であろうが悪魔であろうが、それは関係ない。ただ、仲間がいるというだけ。仲間が死神だとしても、受け入れる。お互い、違う意味で異端同士であることもあるだろうが、何であろうとも仲間は仲間だということには変わりないからだ。

「でも、死神が側についている限り、この教会では他に死神は来ませんね。」

『主・・・、そのうち身内に刺されても知らぬぞ?』

「その時はその時だよ。それに、最強の魔人様がついているでしょう?」

『うむ・・・。』

向けられた悪魔のような笑顔。自分がいなくとも、この笑顔で相手の動きを止めてしまいそうだと、つい思ってしまう魔人だった。

 

その日の夕食も、とてもおいしい料理であった。

そして、前より少しだけシアンは下を向く数が減ったのだった。

 





あとがき
何だか、確信犯が多いな・・・。
自分を理解した上で仲間がいるということを理解して、前に進むというお話。
とりあえず、神父様策略者。
その点、アヤとフェウスは素直なお馬鹿さん。
それ以外はどこかつかめない、それでいて確信犯な人のような気がします。
ギベルドさんもぼけーっとしてるようでしっかり見てるからね。
とにかくあれだ。敵はいつでも近くにいるということ。
この話、終わりが来るのか今から心配になってきた・・・。
(ぱっと半年程で書き上げて完結させる予定だったのに・・・)