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「こんにちは〜。」 町の少しはずれにある教会へやってきた人影があった。 「神父さーん、いますぅ〜?」 その人物は本来人が尋ねる礼拝堂ではなく、横にある住まいの方の戸をあけて呼びかけた。 狩り人―メイドが持ち込む問題事 「おや。その声と気配はヤヨイ嬢ですかな?」 「あ、目隠し!さすがわかるのね。」 「わからないとやってられませんよぉ〜?」 「確かにね。相変わらず変な人ね。だからこそ、楽しいのだけど。」 「で、今日は何の用でこっちに?」 いつまでも本題に入りそうにないため、クウは話を戻して問いかけると、そうそうと手をパンッと叩いて本題に入った。 「あ、そうそう。今日はね頼みがあるのよ。神父さんいる?」 「クロス神父〜?たぶん上にいるんじゃないかな?」 とりあえず、呼んでくるから応接室で待っててねと案内してから、クロスがいるであろう部屋へ向かうクウ。 一応二度ノックをする。だぼだぼで手が出ない袖がノブに触れる。視界も見えないはずなのに、全て見えているかのように普通に戸を開ける。 「ありゃま。寝ちゃってるのかな?」 「・・・10分程前にやっと寝た。」 光景が見えているかのように、クロスが眠りについていることを言い当てる。そして、今日もいつもと同じように窓枠に腰掛けて空を眺めているであろうミカゲの方を向く。 「おや、ミカゲ。成る程、寝不足困ったさんの子守だね。」 クロスは無茶をしだすと誰がとめても笑顔で大丈夫と脅して(ここが重要)、やり通すような人だ。だから、たまに誰かが無理やりに眠りへと落とすのだ。 ちなみに、この笑顔に負けない天然のような確信犯が、この教会唯一の女性、マネアリアである。 「ま、クロス神父の事になると魔人殿も手をかしてくれるからねぇ。」 楽しそうにティーカップを片付けている魔人の手をちらりと見て笑みを浮かべる。 『主の為ならば、協力はする。』 「頼もしいねぇ。でも、どうしようかな?クロス神父に用事があったんだけど・・・。」 神父の事に関しては魔人の協力は必須なので、頼もしい限り。だが、今回は間が悪かった。 普段なら賛成していただろうが、今回は神父に用事を持ってきた客がいるのだ。 出来ればあまり来てほしくないある意味トラブルメーカーであるあのメイドが客なのだ。対応はクロスが一番良かったりする。何せ、問題ごとをもみ消す人だからだ。(やはりここが重要) 「あの屋敷のメイドが来たのだろう?」 「そうそう。クロス神父に用事らしいよ?」 「・・・そうか。わかった。俺が行く。」 「あら?そう??あ、魔人殿、クロス神父のこと頼むね〜。」 『言われるまでもない。』 「ありゃ、そう。」 窓枠から降りてすたすたと歩くミカゲ。それにクウはついていく。理由は、今度はどんな問題を持ってきたか聞くためだ。一応、クウはその問題ごとを片付ける行動する側だから、どのみち内容は聞く事になるからだ。 「別に来なくてもよいが・・?」 「面白そうだから行く〜。」 「そうか。」 まぁ、半分は面白半分だったりする。やはり、人生は楽しまなきゃ損だというのが、彼の意見。 「ぎゃー痛―いー。離せよ、このチビ。」 外から聞こえてくる賑やかな声に、クウはふと窓から外を見た。 「あらまぁ・・・。」 だけど、どこか面白そうに笑ってそのままそこから歩き去った。 ある意味いつもの光景だったからだ。 火を使う際に必要な薪を割る作業をしていたフェウスの頭に生えているふさふさで長い獣耳。 あれをよくワカメと呼び、相棒のキールが引っ張るのだ。今回もまた、何か理由があって仕返しのつもりだろう。 だから、助ける事も止める事もせず、そのままヤヨイが待つ応接室へとついて行くのだった。 それに、何だかんだと言っても、キールも限度を弁えているはずだ。 「・・・大丈夫でしょ。うんうん。」 自分を納得させてみる。いくら殺人人形をいう異名を持っていたとしても、仲間と認識した者を手にかけるような事はしないだろう。 コンコンと二度ノックし、ミカゲは応接室の扉をあけた。 「あらぁ?神父様は??」 「今はお休みになっておられる。用件は私が聞こう。」 「あ、そう?ま、いいや。」 と、ヤヨイは気にせず話し始めた。ヤヨイの目的はクロスにというわけではなく、教会の者達に対処して欲しい何か問題ごとを持ってくるからだ。 ただ、話をする一番重要な人間がクロスなだけ。一応、この教会の神父であり、責任者であるからだ。 「というわけで、ご主人様がアルバイトで募集した一人が無断欠席して、どうやら結論からすると堕ちたっぽいってわけ。」 「そうか。」 前振りがかなり長く、途中で最近一番お気に入りの通販で取り寄せたモップやあまり人前では出せない銃器などの話を入れ、ご主人様の偉大さを語りながら、最終的の結論を述べた。 「で、誰かやられたの〜?」 「同僚と秘書が一人ずつ・・・。尊い犠牲は忘れないわ。」 ほろりと涙をハンカチで拭う仕草をするが、絶対まだその二人は死んでないだろと思うクウ。 毎回犠牲どうのとヤヨイは言うが、本当に亡くなられたことは今まで一度もなかったからだ。 「了解した。すぐに、手配する。」 「ってことで、お願いね〜。あらやだ。もうこんな時間じゃない。」 そう言いながら立ち上がって側にあったバスケットを攫んで、またね〜っと嵐のように彼女は去っていった。 「今すぐ行く〜?」 「そうだな。クウ、お前とキールがいれば充分だろう。」 「そだねぇ。じゃあ、行ってくるよ。」 部屋を出て、窓の外を見て、まだやってる二人に声をかけた。 「キール。仕事だよ〜。下降りるから用意しといてね〜。」 叫ぶと、フェウスの耳をつかんでいた手を離し、ぱっと頭の上から降りて玄関へと走っていくキール。 「おい、気付いてたなら助けろよ!」 「あはは、ごめんね〜。見てて和んでついぃ。」 「ついじゃねー!!」 「ほらほら、薪割らないと終わらないよ?」 「げっ。」 まだ、仕事がほとんど終わっていないのに気付き、クウのことはすぐに頭からどこかへやるフェウス。 「まじめだねぇ。」 物の怪憑きとして忌み嫌われてきたのに、自分なんかのようにひねくれず素直に育った彼がある意味すごいねと思ってしまうクウ。素直すぎて、すぐに顔に出るのがいいところで、ある意味弱点なのだが。 「お前達も充分真面目に働いていると思うが?」 「ミカゲに言われるとは、うれしい限りだねぇ。」 クスクスと笑いながら、はやめに戻るよとミカゲと別れた。 「・・・俺は真面目じゃないよ。」 そんなクウの呟きは誰にも聞かれることはなかった。 「準備はばっちりだぜ、相棒!」 「さて、行きますか、キール。」 「おうよっ!」 ひょいっとクウの頭の上に飛び乗るキール。じゃあねぇと一応お見送りらしいミカゲに手を振って歩き出した。 向かう先は、尊い犠牲となった同僚と秘書が閉じ込めることに成功したという、相手方の家。 「ここだねぇ?おぉ、すごい空気〜。」 やりがいありそうだねぇと塞がれたその視界で家を見上げるクウ。 「血が騒ぐぜ。さぁ、やるぞ、相棒っ!」 「はいはい。あ、気をつけてね、キール。小さいからどこかに落ちたりしないでね?」 「そんなヘマは二度としないぜ。」 というが、実際過去にあったからクウは注意しているのだ。 しかも、二度としないということで、やってしまったことを何気に認めているキール。 そして、二人は玄関を鍵がかかっているにもかかわらず、始めから開いていたかのように意図も簡単に開け、中に入った。 もちろん、中にあるものが外へ出て行かぬよう、内から鍵をかけ、印を施して目的の部屋へと足を進める。 「うじゃうじゃといるぜ。やりがいがあるな、相棒っ!」 「原因が呼び寄せたんだろうねぇ。」 「どうした?元気ないな。」 「うーん、どうも今日は調子悪いみたいだなぁ・・・。」 「それを早く言えよっ!」 「あはは。ま、しょうがないじゃない。」 「・・・。」 とりあえず、片付けようかとクウが言えば、キールがこちらへ向かってきたモノを始末した。 進む先までの邪魔するモノを順に片付けて行き、たどり着いた場所。 そこには、椅子に腰掛け、今にも動きそうなリアルな『人形』を抱いて、ぶつぶつ独り言を言っていた。 そして、首だけがこちらを向いた。 「どうやら、あれは堕ちたモノじゃないね。」 「だな。原因は「人間」より「人形」みたいだしな。」 これなら、あれはまた「元通り」に戻れる。 「うーん、あれだけ近いとやりづらいんだよねぇ。」 「ここはまかせろ。」 ひょいっとクウの肩から止める間もなく向かっていった。そして、人と人形を上手く引き離した。 だが、まだ「力」は残っているのか、「人」は「人形」が指示するままに立ち上がった。 キールは人形を仕留めたら終わりだと、「人」は無視して見事に止めを刺した。 それまでは良かった。 「キールっ!」 気付いたキールは振り返る。クウが名を呼ぶが、動かない。 「人」が倒れる直前、それがキール目掛けて「刃」を投げた。 「・・・っ!」 「キ・・・・グラヴィス!」 一瞬の出来事。 「おい、大丈夫か?」 「うーん、大丈夫だねぇ。」 だが、刃が左腕を刺していた。そして、そこから紅い命の水が滲み出し、どろりと腕を伝って流れる。 「すぐに帰るぞ!」 珍しく慌てるキール。 「大丈夫だって、これぐらい。それより、あれをどうにかしないと。」 キールが分かるように後ろを見て、倒れている「人」を指差す。 「あんなの放置してても問題ない!お前の方が怪我人だろ!」 「これぐらい、すぐ治るってば。だから、「仕事」はちゃんとしないとね。」 「・・・。」 不服そうだったが、うなずいてキールが「人」に近づいた。 少々乱暴に顔を自分の方へ向けさせ、言葉を紡いだ。 そして、少しだけ開かれたその目を睨むように見て、命令をした。 「お前は一切ここ数日の記憶はなくす。その前に聞いておきたい事がある。」 確認の為だ。同じ原因からか、それとも新たな原因からこうなったのか。 「お前はギンという男とナルという少女を知っているか?」 「・・・はい。先日お会いし、姉へのプレゼントに人形を買いました。」 「そうか。もう眠ってもいい。次目覚めたら俺たちの事も全て忘れている。い・い・な!」 パチンとおでこを叩いて催眠術を終了させた。 「さすがだね、相変わらず〜。でも、乱暴にしちゃ駄目でしょ?」 「これぐらいいいいだろ。お前怪我したんだから・・・。」 「はいはい、そうだねぇ。」 「本当に大丈夫なのか?」 「大丈夫だよ〜?」 ひょいっとナイフを目の前で抜いて見せる。その拍子に血がどばっと流れ出た。 それを手早く自分の目を覆っていた細長い布で巻き、血がこれ以上流れないように応急手当を施した。 「・・・久々に見たな。相棒の「目」。」 「そう言えばそうだねぇ。ま、見てもあまり面白くはないでしょ。」 「そんなことないぞ。いつ見ても綺麗だと思うからな。」 光の加減で鮮やかに見えながらも深い蒼の右目と蒼みがかった濃い碧の左目。 「目は大事にしろよな。」 「言われなくてもわかってますよ。」 さて、片付けも終わりましたし帰りましょうかと、キールを持ち上げた。 腕の事が気になるので戸惑いながらも、ひょいっと右肩に乗った。 そして、しっかり戸締りをしてその家を立ち去った。 怪我その日の晩、隠していたがマリアネアに見つかり、文句を言わせず包帯を巻かれ、シアンに何故か夕食を大目にもらったりと(シアンなりに早くよくなるようにという気遣い)、仲間の心配を少しうれしく思いながら就寝した。 そして、二日後にはすっかり傷は治ったのだった。
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