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「お兄ちゃんっ!」 幼い少女の叫び声が響いた そして、その部屋は光に包まれ、一瞬全ては無となった 狩り人―失ったものと得られたもの 「何するのよっ!お兄ちゃんを、お兄ちゃんを!やめてー!!」 少女が必死に兄であるものの元へ行こうとするのを引き止める神父の手。 「彼の者に安らぎを与えん・・・あるべき場所へ。」 マリアネアの浄化の詠唱。少女は必死に兄の名を叫ぶが届かない。 光が少女の兄であるものを包み込み、跡形もなくその場から消し去った。 「あ・・・お・・・いちゃ・・・。」 少女ががくっと膝をつく。神父もそれ以上少女の腕を攫む事もなかった。 「・・・が・・・よ。」 少女は下を向いたまま出た聞き取れない言葉。 マリアネアは少女に近づこうとして、顔をあげて神父に向かって少女が投げつけた言葉に動きを止めたしまった。 「何が悪魔よ!お兄ちゃんを殺した貴方が悪魔よっ!」 この人殺しと罵る、大切な人を失った少女の叫び。あっ、とマリアネアは何も言葉がでなかった。神父にかける言葉も少女にかける言葉も何も出なかった。 この光景は、前にも自分は見た。ただ、いる立場が違うだけで・・・前の自分はあの少女の位置にいた。そして、神父・・・クロスとクウを罵ったのだ。何も知らない私はそれしか出来なかったから。 「そうですね。確かに一人の人が消えましたから、私達は人殺しかもしれません。たとえ、あれがすでに人の形を失くしていても、元々は人であったのには違いありませんからね。」 少し悲しそうな笑顔。こんな時でも笑っているクロス。あの時とまったく同じだ。 だから、何を言えばいいのかわからないが、自然と少女を抱きしめていた。 「お願い・・・それ以上言わないで。」 少女と同じように泣くマリアネアの顔を見て、何か言おうとした少女の声は出てこなかった。 「・・・お姉ちゃん?」 「神父様は悪くないわ。悪くないの・・・。だから、お願いだから、それ以上言わないで。」 ぎゅっと抱きしめる腕の力が強まる。 「私と同じように、言わないで。私と同じようにならないで。」 「同じ?」 少女にはわからなかったが、何か辛い事があったのだということは感じ取れていた。 「嬢ちゃん行くよ?」 「行きましょう。まだする事がありますから。」 陽気な声と静かに響く声がマリアネアを呼ぶ。 「貴方の兄も私の兄と同じように、違う形で側に戻ってきてくれるから。」 たとえ、まったく同じにはならないけれど、戻ってくるから探してあげてと伝え、マリアネアは二人のあとを追いかけた。 「辛いなら、抜けますか?」 「いえ・・・。大丈夫です。」 すたすたと先を歩くクロスが後ろからくるマリアネアに問いかける。あの幼い少女に言い聞かせていたことは、自分にも言い聞かせていたあの日のことだとクロスはわかっていた。 彼女にもまた、自分達は同じことばをぶつけられた。痛くないということはないが、慣れてしまっていた。 これが、自分達の仕事であったから。 「神父様。」 「何ですか?」 「私達は間違った行いをしていませんよね?」 「・・・間違いなど、何もないんですよ。誰にも何者にもね。」 「・・・。」 「決めるのはだいたいは人が勝手に決め付けて思い込んでいる事が多いんですよ。」 だから、もしかしたらあの兄であったものも悪ではなかったかもしれない。 「それでも、危険を回避する為には仕方がないのです。それに、人ではないものに変わり果てた者には本当の自由はありませんから。」 自分の意思は侵略され、ただの化け物に成り下がった人。誰もそんな姿になりたいとは望まないだろう。意識があり、理解できているのなら、死を望むものが多い。 「あの兄ちゃん、助けを求めてたからさ。これでよかったんよ?」 見えざるものが見える故、本来の聞こえぬ声も聞こえるクウ。 「私達は助けを求める者に安らかな眠りを与えるのが仕事なんです。」 「そう・・・ですよね。」 「あまり深く考えない方がいいよ〜?」 ねっとぽふぽふと横からマリアネアの頭に手を乗せるクウ。 その優しさ故、自分があの日言った言葉を何度後悔したことか。何度、取り消したいと望んだことか。責めない彼等に、反対に自分が責めた。 どうして、こんなに言った自分に居場所を与え、笑顔を向けられるのかと。 「兄も、救われたんでしょうか?」 「それは嬢ちゃんが一番わかってるでしょ?」 ほれっと、マリアネアの側を漂う翼の生えた球状のものを指差す。 「魂の欠片。はやく見つかるといいですね。」 「・・・はいっ。」 差し出される手に自分の手を伸ばす。 あの日と同じ。 「帰りましょうか。シアンのおいしい夕食がフェウスに全て食べられてしまう前に。」 「そうだなぁ。キールもうるさいだろうし。」 「では、急いで帰りましょう。クウ。神父様。」 並んだ影は、あの日より少しだけ大きくなった。
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