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蛍を生かす水、命を繋ぐ水 続編>>蛍と雪と別れと再会 名も無い川が流れ、たくさんの木々に囲まれて、何十年、何百年も変わらずそこにあり、そこで過ごしてきた人々がいる村があった。 一時期は、ほとんど地図に記される事は無いのだが、完全に消される話が持ち上がった。しかし、偉い会社の社長の行いで村は助かり、そこに彼の娘がやって来た。 城阪光は社長である柳田和人の娘の蛍を預かる事になり、少しの間だったが、とても仲が良くなり、友達と呼ぶに相応しい関係になった。 蛍は、生まれつき持っていた病気を治す為に、和人が見つけた病院で手術を受ける事になり、村から去っていった。 そして、村では三ヶ月の月日が経った。 光のもとにはまだ何の連絡も来なかった。 毎日、蛍がどうしているかを考えながら、連絡が来るのを待った。 今日、10月31日。10月も終わりとなる日。村を囲む山の木々は紅葉に色を染め、秋風に吹かれて空を舞っていた。もうすぐ来る冬を知らせる為にか、木々の葉はどんどんなくなっていった。 「光、おい、光!」 「何だよ、聞こえてるよ。」 近所に住む、ずっと同じ学校で過ごしてきた、幼馴染の秋山幸地(あきやま こうじ)だ。いわえる腐れ縁と言う奴だ。結構考えもあって、ほとんど一緒にいる。蛍が来ていた、夏休みの一定の日を除いて。 「連絡はあったのか?確か、夏休みに来ていた子。蛍ちゃんだっけ?」 「ん?連絡はないよ。」 「そうか、でも、連絡一本ぐらいくれたっていいのにな。寂しいもんな、蛍ちゃんのこと、好きだったんだろ?」 その言葉に顔を真っ赤にして、飲んでいたお茶をぶっと噴出した。 「な、何馬鹿なことを言っているんだよ?!」 「だって、事実だろ?」 「う…。」 幸治はやっぱりそうだろ。と言って、相手は社長令嬢かぁと青い空を見上げていた。 確かに、光は蛍の事が好きだった。始めは友達としてだと思っていた。しかし、蛍を見送って、何日が経った後、そわそわと落ち着かない自分がいた。一週間もたっていないのに、一年以上もの月日が経ったかのように感じた。 はっきりと気が付いたのは、冗談半分で騒いでいた時、『手の届かないような人を好きになったときどうするか』と言う言葉を女の子の一人が持っていた本にかかれているので皆に尋ねた。 誰もが、諦めるやしばらく考えるなどと答えている間、自分は…と考えた時、蛍の顔を思い出した。そして、蛍がもしいなくなれば、もし別に好きな人がいれば…。そう考えると、苦しくなった。 『どうして、蛍の事がこんなに気になるのか。どうして、蛍が他の人を好きになったら苦しいのか。』 しばらく考えた末、『自分は蛍の事が好きなのか?』と考えたら、思いが繋がり、苦しさは少し軽くなった。 しかし、どうして幸治がそんなことをいきなり言い出し、自分の思いを言い当てるんだろうか。 顔に出てしまっていたのか、幸治は『お前のわかりやすい行動のせいだ。』と言う。どうやら、自分は考えている事、思っている事は顔や行動にすぐに出るらしい。今まで自分は気が付かなかったが、幸治はそんな自分のことをよく理解していた。さすが、腐れ縁の関係だ。 それからまた一月たった。11月は終わり、12月に入った。 12月には軽く雪が降り、蛍と雪が村を囲む気色を楽しむ祭りがあった。 蛍にも是非見せたいと、光は祖母に頼んでレターセットをもらった。蛍に今度の蛍雪祭りのことを教えるために、会うきっかけを作るために、手紙を書いた。今の光には、蛍の事しか頭になかった。この四ヶ月、蛍はどうしていたのだろうかと。 手紙は書いてすぐに出した。配達の余裕と、祭り当日までの日の余裕があるように。 今の光には今までと何一つ変わることの無い汚れなき心と蛍への思いだけだった。 まさか、あんな事になるとは思ってもいなかったのだ。それは光だけではなく、村中の人間全員がそう思っていた。 手紙を出して数日が過ぎた。村では祭りの為に誰もが忙しそうに村中を走り回っていた。光も、光の祖父母も例外ではなかった。村の中で、今の時期に家でじっとしている人など、いない。 「光、これを山下さんの所に持っていっておくれ。その後これを大野さんのところに。わしは広場の方の手伝いにいっているからな。」 「わかった。じゃぁ、行ってくる。」 忙しく、最近ではこれが当たり前のようになっていた日常。その日常の均衡は崩れた。 日が暮れて夜が来る。まだ帰らない祖父を心配しながら夕飯の用意をしていた光と祖母。そこへ一本の電話が入った。光の心の深い傷をえぐる衝撃的なことが待っていた。 「はい、あ、山寺さん。どうし…、え?」 電話を取った光の様子が変わったことに気付く祖母。 「…なに、それ…。どう…いう…こ…と…?」 動揺する光はその後黙って聞いた後、電話を切った。 「どうしたんだい、光?」 少し黙った後、震える口で伝えた。言いたくなくても、伝えなければいけないと思った。 「…貴之さんが、おじいちゃんが…、誤って落ちた如月さんと接触して、一緒に落ちたって。如月さんを助けようとして、下敷きになって、打ち所が悪くて……即死だったって…。」 祖母が持っていた茶碗を落とした。そして、眼から大粒の涙をこぼした。 光は祖母を慰めながら、泣きたい気持ちをこらえた。だが、どうしても思い出してしまう。両親が死んだあの日のことを。両親もまた、祖父と同じように、人を助けようとして死んだのだ。自分と、そばにいた小さな子供をかばって、命を落としたのだ。 時計がカチカチと時間を記していく。電話から20分ぐらいはたっている。だいぶ落ち着いてきた祖母に家にいるように言い、光は家を出た。村人と祖父がいる村の中の小さな病院へ走っていった。その際、蛍がたくさん、祖父の魂を導くかのように飛び交っていた。 光は病院のドアを勢いよく開けて、中に入っていった。 「やっと来たね、待っていたよ…。」 出迎えたのは電話をくれた山寺さんだった。 「本当は、一番君に言いたくなかったし、あいつには死んでほしくなかったのだけど…。」 山寺さんは泣いていた。それを見ると、光は泣けなかった。どうしても思い出してしまう。『泣かない』と両親に誓って、笑顔で今までの生活を過ごしてきたことを。 「また、君に辛い思いを増やしてしまったね。」 「山寺のせいでもない。俺のせいだ。俺が段を踏み外さなかったら…。」 現れたのは如月だった。事故を起こした張本人であり、祖父が助けようとした人だった。 「光君、俺は、俺は…。」 大の大人が子供のように泣きじゃくっている。しかし、光は泣く事が出来なかった。 「光君、あいつは、あっちに…。会ってやってくれ、イヤかもしれないが、会ってやってくれ。今会わないと、この先後悔するだろうから。心の傷が増えるかもしれないけど、会ってやってほしい。その方が、あいつも喜ぶから…。」 流す涙を袖で拭きながら反対の手で光の背中を押して、奥の部屋に連れて行った。 そこには、二度と話すことも動く事も無くなった冷たい祖父が寝ていた。そして、祖父を囲む、広場にいた作業員達がいた。 祭りの3日前の出来事であった。 次の日、葬式が執り行われ、今年の祭りは止めになるかと言われた。 しかし、光が何度も頼み、今までと変わりなくとり行われる事になった。 光が真剣に頼み、中止にするために助けたわけじゃないと何度も言って、彼等は作業を再開させた。遅れている分を取り戻すかのように、必死に走り回って。 12月24日、蛍雪祭り当日の朝。村は白銀に包まれて、太陽の光で輝いていた。前日、毎年変わらず雪が降り、軽く積もったのだ。 「これで、今年も祭りが出来る。」 光は用意を手伝いに行ってくるといい、家を飛び出していった。 今日は手紙を出して、もしかしたら蛍と会えるかもしれない日。光はどうしても、蛍にこの祭りの景色を見せてあげたかった。 祖父が亡くなった事が悲しくないわけではなかったし、蛍と会うためだけに祭の決行を頼んだわけじゃない。祖父が亡くなった事を、自分の目の前で死んだ両親と重ねてしまわないように気遣う村の優しい人たちに、これ以上気を使わないようにする為だ。 忙しいと村の人は普段と変わらない。光は心配させたくなくて、普段と変わらないように振舞ってきたが、どこか無理をしてしまっている。きっと、これからもこのままだろう。だから、忙しい今はいいと感じた。村人達はへんに気を使ったりしないから。 動き回って、笑って、楽しく会話を交わす。今までの均衡が崩れないように―――でも、祭りが終われば村人達は自分の事を気にするだろう。静かになった祭りの後は、毎年寂しい気持ちを抱くのだから、祖父の死を思い出すだろう。 「皆、いい人だから…。」 呟きは誰にも聞かれることはなかったが、ふと、立ち止まった。川の中で何かが暴れているのに気付いたからだ。 「何だ?」 光は川に近付いていった。近付くにつれ、川の中にいたものがよく見えるようになった。 「なんで、こんなところにうさぎ?」 そこにいたのはうさぎだった。雪のように真っ白な毛に、さくらんぼのように真っ赤な眼をした、腕で抱えればすっぽり空間が埋まるようなうさぎだった。 「溺れているなんて、情けないぞ?」 光はうさぎを抱えて持っていたタオルで包んだ。うさぎは震えている。こんな寒い中に川の中へ入れば寒いのは当たり前だろう。 「お前はどじっこか?」 うさぎに話し掛けながら笑う。そして、うさぎに祭りの手伝いに行こうかといって、抱えたまま広場まで行った。 広場では、蛍が活動し出すまでに準備を終えようと、ラストスパートをかけて慌しく動きまわる人がたくさんいた。 「あ、皐月さん。今日は何を手伝ったらいい?」 「あ、光君。後は、見物人用の椅子の設置と、舞台の最終チェックと、これを上にかけていくだけだからいいよ。」 と、四角い樹の枠に和紙を張り、中に小さな豆電球を入れた堤燈のようなものを持っていった。なんていう名前だったっけ?と考えていると、連絡があって、もうすぐ柳田さん達が来ると教えてくれた。 「迎えに行っておいで。光君のお客様でしょう?」 「わかった。教えてくれてありがとう。」 光はその場を去り、村の出入り口の門にあたる場所まで歩いていった。その光の姿を視界から消えても皐月は見ていた。泣く事が出来ずに、我慢をしつづけて…。といい、しばらくその場で目を瞑り、そして作業を再開させた。 迎えに行った時、ちょうど一台の車が走って来て、蛍達が来た。 「久しぶりだね、光君。連絡をしなくてすまなかったね。」 和人は変わりないようだ。一緒に降りて来た良という男も変わらずきっちりとスーツを着ていた。 「…ありがとう、手紙、くれて…。」 小さな、消えるような声で蛍が話した。蛍は7月に会った時より、顔色は良かった。それに、少し元気そうだったので、良かったと光が言うと、にっこり微笑む蛍。あの日々よりよいように変わってきていると思えた。そう、思いたかっただけなのかもしれないけれど。 「でも、良かったよ、来てくれて。また、蛍と会えるとは思っていたけど、今日じゃないと、蛍雪は見れないからね。」 そう言い、中に行こうといって、三人を連れて村に入っていった。向かった先はもちろん広場だ。 広場につけば、全員が一瞬作業を止めて注目した。すぐに元に戻ったが、村をまとめる総責任者である近藤は挨拶に走ってきた。 「あの時は、本当に感謝しています。今私たちがここにいるのも、また蛍雪祭りを迎えられるのも貴方のおかげです。」 村の人間全員が思う感謝の、言い切れないほどの思いを伝えた。今日来てくれて、村の誇るの祭りの一つに来てくれてうれしいといい、それではと言い残して作業に戻っていった。 「私も、この村には言い切れないほどの感謝をしているのだけどね。お互い様なのに、大げさだね。」 「でも、何に大しても真っ直ぐに気持ちを言う人だから、村の人が皆近藤さんを村の村長、つまり総責任者にしたんだよ。」 確かにね、と柳田は笑っていた。 「そうだ、蛍の病気はどうなったの?」 「あ、それは…もう少し様子を見る必要があるけど、ほとんど大丈夫だよ。手術は上手くいったしね。」 和人は本当にうれしそうだった。一時期はもう今ごろには命はないとまで医者に言われていたのだから当たり前かもしれない。 諦めなかったが、諦めざる得なかった状況が一変して今の生活を手に入れたのだから、うれしくない方がおかしいだろう。 「そうだ、お世話になっておきながら、光君のおじいさんとおばあさんには何のお礼も挨拶もしていなかったね。」 今から行けないかい?という和人の言葉に一瞬動きが止まる光だったが、少し小さな声で家に行きましょうといい、案内をした。村人の誰もが止めようとしたが、それよりも先に光が動き、連れて行った。余計な心配はしてほしくなかったから。 何も知らない蛍は、過ごした家に来るのが楽しみだったのか、うれしそうだった。 家に近い為、すぐについた。光は蛍達がきたことを、家の中にいる祖母を呼んだ。 「どうしたんだい、光…。あら、来てくださったんかいな。狭くて汚いボロやけど、上がってくださいな。」 客が誰か気付いた祖母は三人を家に上げ、お茶を用意して出した。大切な人が亡くなったという悲しみを見せず、代わりのない笑顔を向けて。 「お茶ぐらいしか出せなくて、すみませんねぇ。」 祖母はお盆を側において言う。 「いえ、お構いなく。今日は挨拶と、お礼に来たのですから。」 和人はそういい、深々と頭を下げて、あの時は本当にありがとうございましたと言った。良も和人同様頭を下げ、蛍も恥ずかしながら軽く会釈をした。 「頭を上げて下さいよ。困りますよ。」 「いえ、本当に、言葉にも出来ないほど、感謝をしているのですよ。」 で、お爺様はどちらにと和人が話を変えると、その場の空気が凍りついた。 「あ、和人さん。外行こうよ。ね?」 「いいよ、光。ちゃんと話しておいたほうがいいだろう?私は大丈夫だから、せっかくの祭りにいい話ではないが、ともに過ごしたその子に隠し事はいけないだろう?」 「でも…。」 光は今も覚えていた。だから、話すのが怖かった。和人にまで、気を使われるのは嫌だったのだ。 「何か、あったのですか…?」 和人は察しがいい。だから、困る。そう思う光だった。だが、意を決して話し始めた。三日前、事故で祖父が亡くなった事を、ゆっくりと話した。 話し終えた後、想像していた通り、和人は申し訳なさそうな顔になり、良も何かを言おうとしながら言えず、蛍は悲しそうな顔をして下を向いた。 「…大丈夫だから、大丈夫だからさ、今日は楽しんでいってよ?祖父もね、今日を楽しみにしていたから、蛍や和人さんが楽しんでくれたら喜ぶと思うからさ。」 そう言い、奥から用意をしておいたコートを持ってきた。今日と言う日は、毎年寒くなるので、コートが必要なのだ。長時間外に出ているのだから、余計に必要になるのだ。 「さ、行こうよ。もうすぐ始まるよ。」 光は三人を外に呼び出して出かけていった。朝見つけた、溺れていた兔もつれて、広場に向かった。 だが、広場へ行く事はなかった。 「あ、ちょっと…。」 うさぎが急に暴れ、逃げたのだった。ただ、家に帰るのならいいのだが、家に帰る様子は無い。少し先で止まり、座ってこちらを見ていた。 「もう、なんなんだよ。」 文句をいい、うさぎを捕まえる為にその場まで行った。だが、近付けばうさぎは走り出し、離れる。 「何がしたいんだよ?しょうがないなぁ。」 放っておく事も出来なかったので、とりあえず捕獲する事にした。和人と蛍と良には先に広場に行っててくれるように頼み、追いかけた。 昔の自分のように、何か抜けていてどじな兔をほっておくことは、出来なかったのだった。どこか、今の自分と似ているからかもしれない。 蛍と和人と良の三人は、それを深く気に止めずに見送った。すぐに戻ってくると思っていたからだ。だが、光は祭の最終になっても、姿を見せなかった。 蛍達は、近藤の案内で、席をもらい、夜を照らす蛍の光景を楽しんでいた。 「もうすぐ、蛍雪が見れますよ。」 和人はその蛍雪の意味がわからなかった。蛍が飛んでいるときに雪が降るのかという程度にしか思っていなかった。 「シラユメヒ・・・この村にだけ咲く花です。この村以外には咲かないし、この村以外の者は知らないんですよ。」 近藤はシラユメヒの事を簡単に三人に説明してくれた。シラユメヒはこの日に花びらをすべて散らして、胞子を飛ばすのだと。それと蛍が同時に闇夜に飛び交う光景が幻想的で、その場所だけ世界から、時間から切り離されるような感覚になるのだと言う。花を散らして胞子を飛ばし始めたその光景を見て、和人も蛍も納得して、感心していた。まだここにこれだけの大きな自然と言う神秘が残っていると。 三人がその光景を楽しむように見ていたとき、近藤が独り言かのように三人に語った。 「・・・シラユメヒ、この村では別れと再会の意味を持つ花として知られているのですよ。この24日というのは、一年間の間に亡くなった魂をここに集めて、その姿をこの村に見せて再会をさせる。そして、忘れないように心に刻まして、旅立つ。永遠という別れの先へ。」 和人達はすぐに何が言いたいのかわかった。彼は、3日前に亡くなった光の祖父の事を言いたいのだ。そう、もしここに魂を集めて最後の対面として再会出来るのならば、祖父とも会えるかもしれないという思いがあるのだ。 村人達も、もしかしたらという希望を持って、祭をすることを決めた。別れをする時間ぐらいは、もしかしたら神が下さるのではないかと。 「シラユメヒは、光の母親が好きな花でしてね。別れがあるから再会があるのだと言っていましたよ。それと、別れがたとえ永遠だとしても、最後の一番綺麗な姿を見せに再会する事が出来る魔法の花なんだって、言っていたのですよ。どんな別れも、いつか再会があるから、永遠の中ででも、戻ってこれる事があるから、その象徴だから好きなのだと言っていましたよ。」 飛んで行くそれらを見ながら、昔を思い出して話をする。それを和人と蛍は聞いていた。 「貴方方と出会って別れても、このようにこの花の下で再会できたのですから。光の母親も父親と一時期別れ、お互い進みたい方向があってそこに進んだんですよ。で、その後再会して、結婚したのですよ。そして、光が生まれたんですよ。シラユメヒは別れの後再会する為の奇跡を起こしてくれる花として知られる反面、出会いとしても知られるのですよ。意味としては言われていませんが、出会いがあって、それから別れがあって再会する。この胞子が短い命を精一杯生きて、子孫を残す為にお互いが出会い、そして交わる。そして、新しい命、つまり出会いによって生まれたものがその後今日と言う日にその場所から離れる、つまり別れる。だけど、また同じ場所に出会いのものと共に戻って来る。これが再会。この村はこの繰り返し。」 三人は光景を見ながら近藤の話を聞いた。不思議な感じがするけど、なんとなく納得できる話。聞いていて嫌悪感を抱かない話。都会にいるときより、心が休まるこの場所。心地よい空間。 近藤も、この場所がここちいいから、なくならなかった事に本当に感謝しているのだろう。大切な居場所だから。 お互い様だったけど、和人以上に近藤は感謝していたのだろう。本当に、この場所が好きだから。和人も蛍も良も、この場所が好きになっていたから、なくならなくて良かったと、今とても思う。 「そういえば、貴方方は信じるかい?人は近い人のもとで生まれ変わって戻ってくるって。永遠と言われる場所から、大切な人のもとへ戻ってくると。私はここに住んでいて毎年この日に思うんですよ。この蛍が、亡くなった私の両親や光の祖父や両親達、仲間たちなんじゃないかってね。」 和人も近藤の意見に納得し、その通りだなと、思うのだった。 汚れた心を持たない村人は汚れの中では生きられない蛍としてこの場所に戻ってくることが。 「どこまで行くんだよ。」 追いかけても追いかけても、まるでどこかへ連れて行こうとするかのように、止まってこちらを振り返って確認しては走っていく。 大分、木々で溢れる中に足を踏み込み、祭の広場からかけ離れて行った。まるで、迷わすかのようにどんどん進むうさぎに、いったいどうしたんだと頭をかしげる。 「どうしたいんだよ。お前は。」 立ち止まれば、こちらを振り返ってただただ紅い瞳をこちらに向けて見ている。 「あと少ししか付き合わないからな。」 なんだか、このまま放ってはおけなかった。こっちへ来てと、誘うその瞳に負けて、光は進んでいった。 そして、開けたその場所は空がよく見えた。 「すごい。」 たくさんの星が輝く。いつの間にか日が暮れてこんなに暗くなっていたことよりも、広がるその星と月、そして姿を見せた蛍に驚いた。 まるで、時間の流れから切り離された空間であるかのように、ただ光は全て忘れて見上げていた。 だが、すぐに祭と蛍達のことを思い出す。 「あ、やばい。」 これでは心配させてしまう。しかも、自分から呼んでおいて、なんということだ。 ひょこりと姿を見せた別のうさぎを見て、お前の仲間か、良かったなと声をかけて、その場を来た通りに戻る。 あれは、あのうさぎなりのお礼だったのかもしれないなと思いながら、急いで走り抜けた。 だが、急ぎすぎて周囲を見る余裕がなかったのかもしれない。だから、これは自業自得。 ガラララッ―――― 来た道通りにきたつもりが、少し横にずれていたらしい。そこから先は何もない足場のない場所。足を踏み外してその場所から下へと落ちていく。 なんとかして、光は手を伸ばして?まろうとしたが、場所が悪かったのか、ただ宙をつかんだだけだった。 その後の記憶は光にはなかった。 ふっと、蛍は何かに呼ばれたような気がして振り返った。だが、やはり声をかけた者なんていない。 光が遅いから、きっと聞き間違えたのだ。そう思った。だけど、その時に気付いていれば良かったと、蛍は何度も思った。 あれから数時間。後で来ると言っていた光が姿を見せない。さすがに周囲もおかしいと言い出した。 「光でしたら、うさぎを追いかけて・・・あの奥へ行きましたよ。」 和人はそう答えた。すると、周囲は慌て出し、どうしたのかと尋ねる。 「あそこは、奥に入ると、足場の悪い場所がいくつもあるんだ。」 だから、足を踏み外したら落ちてしまう。それを聞いて、蛍と和人も慌て出した。 「まるで、光を迎えに来たみたいで嫌だな。」 誰か一人が言った言葉に、蛍は誰よりも先に走り出していた。和人と良の声が聞こえても、光のことを心配して、ただ走っていく。 「・・・いや。お願い、連れて行かないで。」 光が会いたいと望むのはわかる。そして、先に天へ旅立った三人が会いたがるのも、わからなくはない。だが、今自分がこうしていられるのは彼がいたから。彼だけじゃない、この場所があったからだ。 彼等が会いたがり、会えないことで寂しい思いをしているのもわかっている。だけど、連れて行ってほしくなかった。まだ、ちゃんと話をしていないから。 その時だった。 ふわり――― 光が日の暮れた暗がりの中から浮かび出す。 「蛍・・・?」 ふわりふわり。ゆらり、ゆらりと蛍の光が現れては消え、消えては現れる。 どうして突然暗いこの場所に現れたのかわからない。だが、先ほどのお祭りを思い出し、まさか本当に迎えに来てしまったのではないかと泣きそうになる蛍。だが、連れて行かないでと必死に声を出して叫び、蛍を捕まえようとした時、気付いた。 蛍が、真っ直ぐ一本の道のように光を灯し、奥まで続いている。それに気がついたのだ。 「もしかして・・・。」 『光』を迎えに来たのではなく、『蛍』を迎えに来たのではないかと考えたのだ。その考えに行き着いた途端に、蛍は走り出した。 きっと、この先に光はいる。そこまで導くこの灯りが迎えに来てくれたのだ。三人は、光を連れて行こうとはしてない。きっと、あの場所へ帰るのを望んで、迎えが必要だったから呼んだのだ。そう思った。 身体はまだそんなに強くはない。だけど、蛍は走った。 そして、ゴールを見つけた。たくさんの蛍が集まっているその先にきっと光はいる。 「・・・っ!」 崩れかかったその場所で足を止める。だが、恐る恐るながらも下を覗き込み、光の姿を確認した。 蛍は思い切って、ゆっくりと足をかけられる場所を探しながら、下へ降りる。そこまで深い場所ではないから、大丈夫だと自分に言い聞かせて。 降り立つと、無事な光の姿のほっとする。だが、ところどころ怪我をしているため、一番酷い右足の怪我に持っていたハンカチでしっかりと結びつける。 「光。起きて。眼を開けて。ねぇ。」 必死に起こしにかかる。このまま目を覚まさないのではないかという思いが頭に廻らないこともない。だけど、信じたい。 蛍は光を呼び続けた。 「・・・ほ・・・る・・・。」 目を開けて、自分の名を小さいけれども呼ぶ光にうれしさのあまり、ぎゅっと抱きつく蛍。 もう駄目だと思っていた。だけど、信じて良かった。自分もあの時は駄目だと思ったが、大丈夫ということをここで、光から学んだ。だから、今度は信じた。 信じてよかった。蛍はその安堵から、涙が零れた。 「いてて・・・。どうしてたんだっけ・・・。あ、落ちたんだ。」 少し前の事を思い出し、蛍の涙に心配させてしまったと、後悔する光。心配させるために呼んだわけじゃなかったのに。また会いたい。そして、元気に彼女に、もっと笑っていてほしいと思ったから、今日という日を見せてあげようと思ったのに。 「心配かけて、ごめん。でも、大丈夫。」 蛍が心配しているのなら、他の皆も心配していることだろう。とくに、和人や良は蛍の今回の行動に、きっと見失って慌てていることだろう。 「帰ろう。蛍のことも、きっと皆心配しているだろうからさ。」 そう言って、手を差し出した。その手を蛍はとり、二人は少し高いその壁を登り始めた。 蛍には秘密だけど、あの時、皆に会えるかなと思わなかったことはない。だけど、夢を見たんだ。 そして、怒られた。まだ、やる事があるのに、こちらには来てはいけないと。 彼等は役目を果たして命を落としていった。 その一人一人に与えられた役目を、光はまだ終えていないから、ここで眠ってではいけないと言われた。 だから、彼等のおかげで助かったかもしれない。 打ち所が悪くて、もっと酷い怪我になっていたと思うから。 慌てて探すために灯りの用意をしていた大人たちが、戻ってきた光と蛍を見て驚いていた。 「心配させるんじゃないよ。」 ただ一人、残った家族。光は祖母にごめんと一言謝った。 その日、夜の空高く、白い光が舞い上がっていった。 まるで、今までここに来ていた者達が帰っていったかのように。 |