一章       静と鈴の進む道

 

 

 あの宴から、十日経っていた。今のところは何事もなく過ごしていた鈴だったが、一通の手紙が事態を急変させた。

 その手紙は、今はもういない母と父からのものだった。

 二人は己の死を感じ取り、兄の静がしようとしていることも知っていた。

 その上で、死を選んだ二人。

 時は来たのだ。もう、理解する事ができる鈴に真実を話すのだ。

 その手紙はあの日兄が消えた真実と、二人や親類達が亡くなった本当の理由。

 



鈴へ

 

勝手な事をして許せとはいいません。

すでに枉げられた間違いを正すために、致し方がないこと。人はいつの世でも、変わらないのだから。

神柳の一族に現世にも残る、他の誰もが忘れてしまった最古の呪。


その者には特別な血が混じり、年を重ねるにつれ、呪の知識や、使用者の記憶を思い出す。

静と鈴の二人はその特別は血を持つとともに、今まで誰にも現れることがなかった、最古の術師の持つ刺青が体にあった。

それはその荷を持ち、間違いを正すものの証であり、同時に逃げられぬ運命という枷を背負う者の証でもある。

もう、その血と証、呪と間違いの言葉で理解できているだろう。昔、何度も話、言い聞かせたのだから。忘れてはいないだろう。

背負う枷とは、奪う多くの命のこと。間違いの道を進み始めた者達を浄化し、無に返す事。

それは、正義とも呼ばれ、悪とも呼ばれる行為。

そして、神柳の家はその者の最後を看取る一族。

静は奪い、無に返す役を持った。

つまり、残ったお前が、静の最後をもらうのだ。

静が私達を含め、鈴以外を世から消す。最期の神柳のお前が、その荷を持つ。私達がお前を残していくのは、静が動き出したときに、決まった。

あとは、お前次第。選ぶのはお前だよ、鈴。

 


 


 信じられないことが書かれていた。いや、信じたくなかった事実がかかれていた。

 幼い頃から聞かされていたあの話でいう、時が来てしまったのだ。

 だから、静は家を去った。そして、鈴以外のものを消し去った。間違い始めた自然の流れも人の流れも逆らう者達を食い止める、時が来てしまった。

 両親も、死を選んだ。静が望んだから、それを選んだ。

 今の静は、審判者。この自然の流れの中で裁きを下す者。止められるのは、同じ位置に立つ創造者。下された裁きの後、新しく創造するものだけ。

 その者だけが唯一、審判者を破壊する事が可能なのだ。

 つまり、その役は神柳で、生き残った只一人の鈴。

 関わりが無くても、同じ道に立っていた者たちを消す事も嫌だが、大切な兄を消す事も、嫌だった。

 だが、この手紙がきたということは、その日が近いと言う証拠というもの。

 手紙を届けた良二も、その時が来てしまったのかと、鈴に言葉をかけられずにいた。

 良二はその話を知っていて、これは鈴とかかわることだからと、忘れずに頭のすみにおいていたこと。

 それが、現実にやってきてしまった。鈴を苦しめる、この時が。

「・・・じゃが、どうして、静殿は神柳の血筋を絶やしたのじゃか。鈴殿以外の者を、関係もないものに手をかけたのじゃろうな?」

まだ、この手紙にはない、謎が残っている。

 静の最期ということになっては、鈴は間違いなく、他の誰かが候補となっていても、自分がするといっていただろう。

 そんな鈴の性格を知っているのだから、鈴にやらせたいのなら、静が審判者となった時点で決まっていただろう。

 一族を残さず消し去った本当の目的は何なのだろうか。

「あくまで、推測じゃが・・・。神柳の家は他の家と違い、審判者と創造者となる者が出る確率は高かったようじゃ。」

今までのほとんどが、神柳がはじめて、神柳が終わらせてきた事実。

「じゃから、神柳の家を継ぐものがいなくなれば、どうなるじゃろうかと、考えれば、一つ出てくるんじゃ。」

「・・・この呪の破壊、ですね・・・。」

「そうじゃ。やりたくもないが、やらざる得ない。それを、終わりにしたいと誰もが願いながらも、終わらせることは出来なかったことじゃ。」

つまり、静はこれを破壊するために、家族や知り合いをそして己までを犠牲にしたのだという結論。

「でも、私が一人残る。」

「じゃが、鈴は子をなそうとは思うてはおらんじゃろ?」

うなずく鈴。鈴は子を産める体ではないのだ。そこまで弱くは無いが、子を産む事を望めば、命は危うい。

何より、巫女としての道を選んだ時から、交わるという考えなどない。

結論的に、神柳の血は絶える。

「じゃからじゃろう。神柳で静を止められる者である鈴殿のみを残し残りを抹消。静が壊そうと行動したのじゃろう。長きにわたり、続いた呪いともいう枷を壊したのじゃ。」

 誰も、それが良い事だとは思えなかった。

 それは、鈴や良二にとって静は大切な家族であり、蒼狐達にとっては、物知りで自分達を迎えてくれた鈴の兄だから。

 彼の犠牲の大きさを知ると、とても胸が痛いのだ。

「きっと、どこかで神柳も間違い始めたのじゃろう。じゃから、本当の間違いを正そうと、静は行動したのじゃろ。本当に、鈴殿を、神柳の家を思うておったのじゃろうからな。」

「何度も、流れからそれた者達――かつて同じ道に立っていた者達を手にかけるのだから。狂わずにはいられないでしょう。狂わない方が、おかしいのかもしれません。」

「・・・静兄様は、私が審判者にはなってほしくなかったのでしょうね。兄様は、私以上に優しい人だったから。私のことを大切にしてくれていたから。私に手をかけることが出来ないから選んだんだろうと思う。」

ずっと我慢していた涙が、頬を伝う。

「静兄様は、私に生きてこの世を見守っていてほしいのかもしれない。」

「そうじゃな。裁きを下した後、枷を壊して解放された世がどのように動くか、見ていてほしいのかも知れぬ。」

「自分の分も見て、そして生きていてほしいのかもしれません。」

鈴以外が知る静の思い。鈴はきっと、知らずに生きていくと思う。

 

 


 昼寝をすると、部屋に戻った鈴。まだ、良二と蒼狐達はここに腰掛けていた。

「・・・鈴様以外は誰もが知っている事実。」

「御二方は、最期まで話しませんでしたからね。」

自分達も、今になって迷いがある。

「・・・誰も、思いもしないこと。」

「どうして、こんなことになったのでしょうね。」

「・・・鈴殿と静殿は本当の兄妹ではないなどと・・・。」

 三人の声はそこにいた他の心配そうに見ている神達に聞こえていた。眠っている鈴にだけ、聞こえていなかったが。